万葉集 巻第七 1273〜1277番
住吉の 波豆麻の公が
住吉の波豆麻の君の乗馬衣は、渡来の女性に縫わせた衣だ。出見の浜の柴、小田を刈る娘、池の辺の篠、姫菅原の草。柿本人麻呂歌集の旋頭歌の続き五首(旋頭歌の初めの1272番は別のページ)。
場面イラスト(準備中)
題詞旋頭歌(1)
- 1住吉住吉すみのえののの住吉1273
- 2波豆麻波豆麻はづまののの公公きみががが波豆麻君之
- 3馬馬うま乘乘のり衣衣ごろも馬乘衣
- 4さひづらふさひづらふさいずらう雜豆臈
- 5漢女漢女あやめををを坐坐すゑゑえててて漢女乎座而
- 6縫縫ぬへへえるるる衣衣ころもぞぞぞ縫衣叙
- 7住吉住吉すみのえののの住吉1274
- 8出見出見いでみののの濱濱はまののの出見濱
- 9柴柴しばななな刈刈かりりりそそそねねね柴莫苅曾尼
- 10未未お通通と女女め等等らががが未通女等
- 11赤赤あか裳裳もののの裾裾すそののの赤裳下
- 12ぬれぬれぬれてててゆかゆかゆかむむん見見みむむむ閏將往見
- 13住吉住吉すみのえののの住吉1275
- 14小小お田田だををを苅苅からすらすらす子子こ小田苅爲子
- 15奴奴やつこかもかもかも無無なききき賤鴨無
- 16奴奴やつこあれあれあれどどど奴雖在
- 17妹妹いもががが御御み爲爲ためととと妹御爲
- 18私私わたくし田田だ苅苅かるるる私田苅
- 19池池いけののの邊邊べののの池邊1276
- 20小小お槻槻つきががが下下もとののの小槻下
- 21細竹細竹しぬななな苅苅かりりりそそそねねね細竹莫苅嫌
- 22其其それをををだにだにだに其谷
- 23君君きみががが形形かた見見みににに君形見爾
- 24見見みつつつつつつ偲偲しぬばばばむむん監乍將偲
- 25天天あめなるなるなる天在1277
- 26姫姫ひめ菅菅すが原原はらののの日賣菅原
- 27草草くさななな苅苅かりりりそそそねねね草莫苅嫌
- 28蜷蜷みなののの腸腸わた彌那綿
- 29かかか黑黑ぐろききき髮髮かみににに香烏髮
- 30芥芥あくたししし著著つくくくももも飽田志付勿
現代語訳
〔1273〕住吉の波豆麻の君の乗馬衣は、(さひづらふ)漢女を座らせて縫わせた衣だよ。
〔1274〕住吉の出見の浜の柴を刈らないでおくれ。少女たちの赤い裳の裾が濡れて行くのを見よう。
〔1275〕住吉の小田を刈っている子よ、下男はいないのか。下男はいるけれど、いとしい人のためと、自分の田を刈っているのです。
〔1276〕池の辺の槻の木の下の篠を刈らないでおくれ。せめてそれだけでも、あなたの形見として見ながら偲びたい。
〔1277〕天にある姫菅原の草を刈らないでおくれ。(蜷の腸)黒い髪に、ごみがつくではないか。
意訳
五七七・五七七の旋頭歌で、前半と後半で問答や掛け合いの形をとるものが多い。渡来の女性に縫わせた乗馬衣を自慢する歌、少女たちの赤裳の裾が濡れるのを見たいから柴を刈るなという歌、下男がいるのになぜ自分で田を刈るのかと問われて、恋人のためと答える歌、恋人の形見に篠を刈るなと頼む歌などが並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 劍の後
- 剣の後ろ(鞘)の意で「鞘」にかかる。
- 漢女
- 「あやめ」。渡来系の織物・裁縫の技術をもった女性。
- 奴
- 「やつこ」。召し使い。
- 蜷の腸
- 「か黒き」にかかる枕詞。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1273〜1277番
- 歌体
- 旋頭歌(五七七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「旋頭歌」の初めの六首。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 旋頭歌
- 五七七・五七七の六句の形。前半と後半で問答になるものがある。
解説
旋頭歌は古い歌謡の形で、集団でうたわれた民謡的な性格をもつ。人麻呂歌集にまとまって残っている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、275頁(コマ141)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、303頁(コマ157)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日