古典ライブラリー

万葉集 巻第七 1270〜1271番

隱口の 泊瀨の山に

作者未詳

泊瀬の山に照る月は満ち欠けをする。人は常ならぬものだ。遠く雲の彼方に見える妻の家に早く着こう、歩め黒駒よ。物に寄せて思いをおこした歌と、道を行く歌。

泊瀬の山の上に欠けた月がかかり、遠い雲の下の家を目指して黒馬に乗った男が道を急いでいる

題詞物に寄せて思を發す・行路

  1. 1隱こもり隱こもりこもり口く口くくののの隱口乃1270 寄物發思
  2. 2泊瀨はつせ泊瀨はつせはつせののの山やま山やまやまににに泊瀨之山丹
  3. 3照て照ててるるる月つき月つきつきははは照月者
  4. 4盈みち盈みちみち昃かけ昃かけかけしししけりけりけり盈昃爲焉
  5. 5人ひと人ひとひとののの常つね常つねつね無な無ななききき人之常無
  6. 6遠とほ遠とほとおくくくありありありててて遠有而1271 行路
  7. 7雲くも雲くもくも居ゐ居ゐいににに見み見みみゆるゆるゆる雲居爾所見
  8. 8妹いも妹いもいもががが家いへ家いへいえににに妹家爾
  9. 9早はや早はやはやくくくいたらいたらいたらむむん早將至
  10. 10歩あゆ歩あゆあゆめめめ黑くろ黑くろくろ駒こま駒こまこま步黑駒

引用の仕方

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現代語訳

〔1270〕(隠口の)泊瀬の山に照る月は、満ちたり欠けたりしたことだ。人も常ではないのだ。

〔1271〕遠く離れて雲の彼方に見える妻の家に、早く着こう。歩め、黒駒よ。

意訳

1270番は、泊瀬の山に照る月が満ちては欠けるのを見て、人の世の無常を思う歌である。1271番は人麻呂歌集の歌で、遠く雲の彼方に見える恋人の家に早く着きたいと、乗っている黒駒を励ましている。

語釈・文法注

文法・本文

盈昃しけり
満ち欠けをした。
雲居
雲のある所。はるか遠く。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第七・雑歌・1270〜1271番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
巻第七の雑歌のうち、「物に寄せて思を發す」歌一首(古歌集)と「行路」の歌一首(柿本人麻呂歌集)。

修辞

枕詞
1270番の「隱口の」が「泊瀨」にかかる。
呼びかけ
1271番で、馬に「歩め黒駒」と呼びかける。

解説

泊瀬は葬送の地でもあり、1270番の無常の感はその土地柄とも結びついている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、275頁(コマ141)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、303頁(コマ157)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日