万葉集 巻第七 1238〜1242番
高島の 阿渡の白波は
高島の阿渡川の白波は騒いでいるが、私は家を思っている。仮の宿りが悲しくて。大海の磯をゆする波、見諸戸山、黒髪山の露、山中で宿を借りる歌。旅で作った歌の続き五首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(16)
- 1高島高島たかしまののの竹島乃1238
- 2阿渡阿渡あどののの白白しら波波なみははは阿戶白波者
- 3動動とよめめめどもどもども動友
- 4吾吾われははは家家いえ思思おもふふう吾家思
- 5廬廬いおり悲悲かなしししみみみ五百入鉋染
- 6大大おお海海うみののの大海之1239
- 7磯磯いそもともともとゆすりゆすりゆすり礒本由須理
- 8立立たつつつ波波なみののの立波之
- 9寄寄よらららむむんととと思思おもへへえるるる將依念有
- 10濱濱はまのののさやけくさやけくさやけく濱之淨奚久
- 11珠珠たまくしげくしげくしげ珠匣1240
- 12見見み諸諸もろ戸戸と山山やまををを見諸戶山矣
- 13行行ゆきききしかしかしかばばば行之鹿齒
- 14面面おも白白しろくくくしてしてして面白四手
- 15いにしへいにしへいにしえ念念おもほほおゆゆゆ古昔所念
- 16ぬばたまぬばたまぬばたまののの黑玉之1241
- 17黑黑くろ髮髮かみ山山やまををを玄髮山乎
- 18朝朝あさ越越こえええててて朝越而
- 19山山やま下下した露露つゆににに山下露爾
- 20ぬれぬれぬれにににけるけるけるかもかもかも沾來鴨
- 21あしひきあしひきあしひきののの足引之1242
- 22山山やま行行ゆききき暮暮ぐらしらしらし山行暮
- 23宿宿やど借借からららばばば宿借者
- 24妹妹いも立立たちちち待待まちちちててて妹立待而
- 25宿宿やど借借かさささむむんかもかもかも宿將借鴨
現代語訳
〔1238〕高島の阿渡川の白波は騒いでいるけれど、私は家のことを思っている。仮の宿りが悲しくて。
〔1239〕大海の磯の根もとをゆすって立つ波が、寄せようと思っている浜の清らかなことよ。
〔1240〕(珠くしげ)見諸戸山を行ったところ、趣深くて、昔のことが思われた。
〔1241〕(ぬばたまの)黒髪山を朝越えて、山の木の下露に濡れてしまったことだ。
〔1242〕(あしひきの)山道を行って日を暮らし、宿を借りるなら、妻が立って待っていて、宿を貸してくれるだろうか。
意訳
旅の歌の続きである。近江の阿渡川の白波の騒がしさの中でひたすら家を思う歌、大波の寄せる浜の清らかさ、見諸戸山を越えて昔をしのぶ歌、黒髪山の朝露に濡れた歌、そして山道で日が暮れたら、宿を貸してくれるのが妻であればよいのにという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 動めども
- 騒いでいるけれど。
- 磯もとゆすり
- 磯の根もとをゆさぶって。
- 山下露
- 山の木の下の露。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1238〜1242番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌の続き。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 「珠くしげ」が「見」に、「ぬばたまの」が「黑髮」に、「あしひきの」が「山」にかかる。
解説
1238番は人麻呂の「小竹の葉はみ山もさやに」(巻第二の133番)と同じく、外界の騒がしさと心の中の思いを対比している。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、272頁(コマ140)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、299頁(コマ155)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日