万葉集 巻第七 1233〜1237番
未通女等が 織る機の上を
少女たちが機織りの糸を櫛でかき上げる、その名の栲島が波の間から見える。海人と見られる旅の私、浮き寝をするかと迷う船旅、夢に見る小竹島、宿の板戸越しに聞く波の音。旅で作った歌の続き五首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(15)
- 1未未お通通と女女め等等らががが未通女等之1233
- 2織織おるるる機機はたののの上上うえををを織機上乎
- 3眞眞ま櫛櫛ぐしもちもちもち眞櫛用
- 4かかげかかげかかげ栲栲たく島島しま搔上栲島
- 5波波なみののの間間まゆゆゆ見見みゆゆゆ波間從所見
- 6潮潮しお早早はやみみみ鹽早三1234
- 7磯磯いそ回回みににに居居おれれればばば礒回荷居者
- 8あさりあさりあさりするするする入潮爲
- 9海人海人あまとととややや見見みらむらむらむ海人鳥屋見濫
- 10旅旅たび行行ゆくくく我我われををを多比由久和禮乎
- 11波波なみ高高たかししし浪高之1235
- 12いかにいかにいかに楫楫かじ取取とり奈何梶取
- 13水水みず鳥鳥とりののの水鳥之
- 14浮浮うき宿宿ねやややすべきすべきすべき浮宿也應爲
- 15なほなほなおややや榜榜こぐぐぐべきべきべき猶哉可榜
- 16夢夢いめのみのみのみににに夢耳1236
- 17繼繼つぎぎぎててて見見みえええつつつつつつ繼而所見
- 18小竹小竹しぬ島島じまののの小竹島之
- 19磯磯いそ越越こすすす波波なみののの越礒波之
- 20しくしくしくしくしくしく念念おもほほおゆゆゆ敷布所念
- 21靜靜しずけくけくけくももも靜母1237
- 22岸岸きしにににははは波波なみははは岸者波者
- 23寄寄よせせせけるけるけるかかか緣家留香
- 24これこれこれののの屋屋や通通どおししし此屋通
- 25聞聞ききききつつつつつつ居居おれれればばば聞乍居者
現代語訳
〔1233〕少女たちが織る機の上の糸を、櫛でかき上げる、その名の栲島が、波の間から見える。
〔1234〕潮の流れが速いので磯辺にいると、あさりをする海人だと見るだろうか。旅をしている私を。
〔1235〕波が高い。どうしようか、楫取よ。水鳥のように浮き寝をするべきか、それともやはり漕ぐべきか。
〔1236〕夢にばかり続けて見えて、小竹島の磯を越す波のように、しきりに思われることだ。
〔1237〕静かにも岸には波が寄せていることだ。この家の壁越しに聞いていると。
意訳
旅の歌の続きである。機織りの所作から栲島の名を導く歌、旅人を海人と見まちがえられるかという歌、波の高さに船を泊めるか漕ぎ進むかを楫取に問う歌、夢にまで見る小竹島の歌、宿の中で静かな波音に耳を傾ける歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- かかげ
- かき上げる。「栲(たく)」を導く。
- 浮宿
- 「うきね」。船の上で寝ること。
- しくしく
- しきりに。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1233〜1237番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌の続き。作者はわからない。
修辞
- 序詞
- 1233番の「未通女等が織る機の上を眞櫛もちかかげ」が「栲島」を、1236番の「小竹島の磯越す波の」が「しくしく」を導く。
解説
1235番は、旅人が船頭に呼びかける形の、臨場感のある歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、272頁(コマ140)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、299頁(コマ155)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日