万葉集 巻第七 1228〜1232番
風早の 三穗の浦廻を
風早の三穂の浦を漕ぐ舟の船人が騒いでいる。波が立つらしい。明石の湖、金の岬と志賀の神、水茎の岡の湊、大海の波。旅で作った歌の続き五首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(14)
- 1風早風早かざはやののの風早之1228
- 2三穗三穗みほののの浦浦うら廻廻みををを三穗乃浦廻乎
- 3こぐこぐこぐ舟舟ふねののの榜舟之
- 4船船ふな人人びと動動とよむむむ船人動
- 5浪浪なみ立立たつつつらしらしらしももも浪立良下
- 6吾吾わががが舟舟ふねははは吾舟者1229
- 7明石明石あかしのののうみうみうみににに明石之湖爾
- 8榜榜こぎぎぎ泊泊はてててむむん榜泊牟
- 9沖沖おきへへへななな放放さかりりり奧方莫放
- 10さささ夜夜よ深深ふけけけにににけりけりけり狹夜深去來
- 11ちはやぶるちはやぶるちはやぶる千磐破1230
- 12金金かねののの岬岬みさきををを金之三崎乎
- 13過過すぎぎぎぬぬぬともともとも過鞆
- 14吾吾われははは忘忘わすれれれじじじ吾者不忘
- 15志珂志珂しかののの皇皇すめ神神かみ牡鹿之須賣神
- 16天天あま霧霧ぎらひひい天霧相1231
- 17日方日方ひかた吹吹ふくくくらしらしらし日方吹羅之
- 18水水みず莖莖くきののの水莖之
- 19岡岡をかののの水水みな門門とににに崗水門爾
- 20波波なみ立立たちちちわたるわたるわたる波立渡
- 21大大おお海海うみののの大海之1232
- 22波波なみはははかしこしかしこしかしこし波者畏
- 23然然しかれれれどもどもども然有十方
- 24神神かみををを齋齋いわひひいててて神乎齊祀而
- 25船船ふな出出でせせせばばばいかにいかにいかに船出爲者如何
現代語訳
〔1228〕風早の三穂の浦辺を漕ぐ舟の船人が、騒いでいる。波が立つらしい。
〔1229〕私の舟は明石の湊に漕ぎ着けて泊まろう。沖へは離れるな。夜がふけてしまった。
〔1230〕(ちはやぶる)金の岬を過ぎてしまっても、私は忘れまい。志賀の神を。
〔1231〕空が曇って、日方の風が吹くらしい。水茎の岡の湊に、波が立ちわたっている。
〔1232〕大海の波は恐ろしい。けれども、神を祭ってから船出をしたらどうだろう。
意訳
旅の歌の続きである。三穂の浦で船人の騒ぐ声に波の高まりを知る歌、夜ふけの明石の湊に船を泊めようとする歌、筑前の金の岬の難所を守る志賀の海の神への感謝を忘れまいという歌、日方の風に波立つ水茎の岡の湊の歌、そして恐ろしい大海の波も神を祭れば船出できようという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 動む
- 騒ぐ、どよめく。
- 日方
- 「ひかた」。東南の風。
- 齋ひて
- 神を祭って。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1228〜1232番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌の続き。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 1230番の「ちはやぶる」が「金(かね)の岬」にかかる。
解説
金の岬は福岡県宗像市の鐘崎、志賀の皇神は志賀島(福岡市)の志賀海神社の神とされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、271頁(コマ139)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、299頁(コマ155)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日