万葉集 巻第七 1202〜1207番
荒磯よも まして思へや
荒磯よりもいっそう心にかけて思うからか、玉の浦の離れ小島が夢に見える。妻のために潜ってとった白玉、海人と見られる私、遠ざかる故郷の里、君にまさる玉、明石の門の波。旅で作った歌の続き六首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(12)
- 1荒荒あり磯磯そよよよももも自荒礒毛1202
- 2ましてましてまして思思おもへへえややや益而思哉
- 3玉玉たまののの浦浦うら玉之浦
- 4離離はなれ小小こ島島じまののの離小島
- 5夢夢いめにににししし見見みゆるゆるゆる夢石見
- 6磯磯いそののの上上うえににに礒上爾1203
- 7爪爪つま木木ぎ折折おりりり焚焚たききき爪木折燒
- 8汝汝ながががためためためととと爲汝等
- 9吾吾わががが潛潛かずききき來來こししし吾潛來之
- 10沖沖おきつつつ白白しら玉玉たま奧津白玉
- 11濱濱はま淸淸きよみみみ濱清美1204
- 12磯磯いそににに吾吾わががが居居おれれればばば礒爾吾居者
- 13見見みむむむ者者ひとははは見者
- 14白水郎白水郎あまとととかかか見見みらむらむらむ白水郎可將見
- 15釣釣つりもももせせせなくなくなくににに釣不爲爾
- 16沖沖おきつつつ楫楫かじ奧津梶1205
- 17漸漸しわ漸漸しわ澁澁しぶぶぶををを漸々志夫乎
- 18見見みまくまくまく欲欲ほりりり欲見
- 19吾吾わがががするするする里里さとののの吾爲里乃
- 20隱隱かくらくらくらく惜惜をしししももも隱久惜毛
- 21沖沖おきつつつ波波なみ奧津波1206
- 22邊邊へつつつ藻藻も纏纏まき持持もちちち部都藻纒持
- 23寄寄よりりり來來くともともとも依來十方
- 24君君きみにににまされまされまされるるる君爾益有
- 25玉玉たま寄寄よせせせめめめやもやもやも玉將緣八方
- 26粟島粟島あわしまににに粟島爾1207
- 27漕漕こぎぎぎ渡渡わたらららむむんととと許枳將渡等
- 28思思おもへへえどもどもども思鞆
- 29明石明石あかしののの門門と浪浪なみ赤石門浪
- 30いまだいまだいまだ騷騷さわげげげりりり未佐和來
現代語訳
〔1202〕荒磯よりもいっそう心にかけて思うからだろうか、玉の浦の離れ小島が、夢に見える。
〔1203〕磯の上で爪木を折って焚き、お前のためにと私が潜ってとってきた沖の白玉だよ。
〔1204〕浜が清らかなので磯に私がいると、見る人は海人だと思うだろうか。釣もしていないのに。
〔1205〕沖の楫をしばしば渋らせてくれ。見たいと私が思う故郷の里が、隠れていくのが惜しい。
〔1206〕沖の波が岸辺の藻を巻きつけて寄せてきても、あなたにまさる玉を寄せることがあろうか。
〔1207〕粟島に漕ぎ渡ろうと思うけれど、明石の海峡の波はまだ騒いでいる。
意訳
旅の歌の続きである。夢に見るほど心ひかれる玉の浦の小島、妻のために潜ってとった白玉、海人と見まちがえられるかと興じる歌、遠ざかる故郷の里が見えなくなるのを惜しんで漕ぐ手をゆるめてほしいと願う歌、どんな玉もあなたにはまさらないという恋の歌、明石海峡の荒波に船出を待つ歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 爪木
- 「つまぎ」。たきぎにする小枝。
- しはしは澁ぶ
- しばしば渋る。漕ぐ手をゆるめる。
- 寄せめやも
- 寄せることがあろうか、ない。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1202〜1207番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌の続き。作者はわからない。
修辞
- 反語
- 1206番の「玉寄せめやも」。
解説
明石の門は明石海峡。潮の流れが速く、船旅の難所であった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、271頁(コマ139)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、298頁(コマ155)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日