万葉集 巻第七 1196〜1201番
裹もがと 乞はば取らせむ
みやげがほしいとせがまれたら取らせてやろうと、貝を拾う私を濡らすな、沖の白波よ。恋忘れ貝、明け方に妻を呼ぶ鶴、形見の浦、迎えの舟、磯の清らかさ。旅で作った歌の続き六首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(11)
- 1裹裹つともがもがもがととと欲得裹登1196
- 2乞乞こははわばばば取取とらせらせらせむむん乞者令取
- 3貝貝かい拾拾ひりふふう貝拾
- 4吾吾われをををぬらすぬらすぬらすななな吾乎沾莫
- 5沖沖おきつつつ白白しら浪浪なみ奧津白浪
- 6手手てににに取取とるるるががが手取之1197
- 7故故ゆえににに忘忘わするるるととと柄二忘跡
- 8磯磯あ人人まのののいひいひいいししし礒人之曰師
- 9戀戀こい忘忘わすれ貝貝がい戀忘貝
- 10言言ことにににしししありありありけりけりけり言二師有來
- 11あさりあさりあさりすとすとすと求食爲跡1198
- 12磯磯いそににに住住すむむむ鶴鶴たず礒二住鶴
- 13曉曉あけけけゆけゆけゆけばばば曉去者
- 14濱濱はま風風かぜ寒寒さむみみみ濱風寒彌
- 15自自おの妻妻ずま喚喚よぶぶぶももも自妻喚毛
- 16藻藻も苅苅かり舟舟ぶね藻苅舟1199
- 17沖沖おきこぎこぎこぎ來來くらしらしらし奧榜來良之
- 18妹妹いもががが島島しま妹之島
- 19形見形見かたみののの浦浦うらににに形見之浦爾
- 20鶴鶴たず翔翔かけるるる見見みゆゆゆ鶴翔所見
- 21吾吾わががが舟舟ふねははは吾舟者1200
- 22沖沖おきゆゆゆななな離離さかりりり從奧莫離
- 23迎迎むかへへえ舟舟ぶね向舟
- 24片片かた待待まちちちがてりがてりがてり片待香光
- 25浦浦うらゆゆゆ榜榜こぎぎぎ會會あははわむむん從浦榜將會
- 26大大おお海海うみののの大海之1201
- 27水水みな底底そことよみとよみとよみ水底豐三
- 28立立たつつつ浪浪なみののの立浪之
- 29寄寄よせせせむむんととと思思もへへへるるる將依思有
- 30磯磯いそののの淸淸さやけさけさけさ礒之清左
現代語訳
〔1196〕みやげがほしいとせがまれたら取らせてやろうと、貝を拾っている私を濡らすな、沖の白波よ。
〔1197〕手に取ると恋を忘れると海人が言った恋忘れ貝は、言葉だけのことだった。
〔1198〕あさりをしようと磯に住む鶴は、夜が明けていくと浜風が寒いので、自分の妻を呼んでいる。
〔1199〕藻刈りの舟が沖を漕いでくるらしい。妹が島の形見の浦に、鶴が飛びかけるのが見える。
〔1200〕私の舟は沖へ離れないでおくれ。迎えの舟を待ちながら、浦づたいに漕いで出会おう。
〔1201〕大海の水底までとどろかせて立つ波が、寄せようと思っている磯の清らかなことよ。
意訳
旅の歌の続きである。家へのみやげの貝を拾う歌、拾っても恋を忘れさせてくれない恋忘れ貝の歌、明け方の寒さに妻を呼ぶ鶴、藻刈り舟の気配に飛び立つ鶴、迎えの舟と出会おうとする船旅の歌、大波の寄せる磯の清らかさをたたえる歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 裹
- 「つと」。みやげ。
- 片待ちがてり
- ひたすら待ちながら。
- 水底とよみ
- 水底までとどろかせて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1196〜1201番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌の続き。作者はわからない。
解説
妹が島・形見の浦は和歌山県の友ヶ島付近とされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、270頁(コマ139)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、297頁(コマ154)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日