万葉集 巻第七 1171〜1175番
大御舟 泊ててさもらふ
天皇の御船が泊まって風待ちをした高島の三尾の勝野の渚が思われる。香取の浦から漕ぎ出た船、丹生の川、鹿島の崎、箱根を越える鶴。旅で作った歌九十首の三つめの五首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(3)
- 1大大おお御御み舟舟ふね大御舟1171
- 2泊泊はててててててさもらふさもらふさもらう竟而佐守布
- 3高島高島たかしまののの高島之
- 4三尾三尾みおののの勝野勝野かちぬののの三尾勝野之
- 5渚渚なぎさししし思思おもほほおゆゆゆ奈伎左思所念
- 6いづくいづくいずくにににかかか何處可1172
- 7舟舟ふな乘乘のりしししけむけむけん舟乘爲家牟
- 8高島高島たかしまののの高島之
- 9香取香取かとりののの浦浦うらゆゆゆ香取乃浦從
- 10漕漕こぎぎぎ出出で來來くししし船船ふね己藝出來船
- 11斐太斐太ひだ人人びとののの斐太人之1173
- 12眞眞ま木木き流流ながすすすとととふふふ眞木流云
- 13丹生丹生にゅうののの河河かは爾布乃河
- 14言言ことはははかよへかよへかよえどどど事者雖通
- 15船船ふねぞぞぞ通通かよははわぬぬぬ船曾不通
- 16霰霰あられ零零ふりりり霰零1174
- 17鹿島鹿島かしまののの崎崎さきををを鹿島之崎乎
- 18浪浪なみ高高たかみみみ浪高
- 19過過すぎぎぎてててややや行行ゆかかかむむん過而夜將行
- 20戀戀こいしきしきしきものものものををを戀敷物乎
- 21足柄足柄あしがらののの足柄乃1175
- 22筥根筥根はこね飛飛とびびび越越こえええ筥根飛超
- 23行行ゆくくく鶴鶴たずののの行鶴乃
- 24ともしきともしきともしき見見みれれればばば乏見者
- 25大和大和やまとししし念念おもほほおゆゆゆ日本之所念
現代語訳
〔1171〕天皇の御船が泊まって風待ちをした、高島の三尾の勝野の渚が思われることだ。
〔1172〕どこで船に乗ったのだろうか。高島の香取の浦から漕ぎ出てきた船は。
〔1173〕飛騨の人が材木を流すという丹生の川は、言葉は通うけれど、船は通わない。
〔1174〕(霰降り)鹿島の崎を、波が高いので、通り過ぎていくのだろうか。心ひかれるのに。
〔1175〕足柄の箱根を飛び越えていく鶴がうらやましいのを見ると、大和が思われる。
意訳
旅の歌の三つめの五首である。かつての行幸の船が泊まった近江の高島の渚、香取の浦から漕ぎ出た船、飛騨の材木を流す丹生の川、波が高くて寄ることのできない常陸の鹿島の崎、箱根の山を自由に飛び越えていく鶴の姿に大和を思う歌と、近江から東国まで広い地域の旅の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- さもらふ
- 様子をうかがって待つ。風待ちをする。
- 言はかよへど
- 言葉は通じるけれど。
- ともしき
- うらやましい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1171〜1175番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌九十首の三つめの五首。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 1174番の「霰零り」が「鹿島」にかかる。
解説
1175番は、東国へ旅した人が、箱根を越えて西へ飛ぶ鶴を見て故郷の大和を思った歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、267頁(コマ137)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、293頁(コマ152)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日