万葉集 巻第七 1156〜1160番
すみのえの 遠里小野の
住吉の遠里小野の榛で摺り染めた衣の色の盛りも、過ぎてしまった。阿胡の海の朝の玉藻、住吉の沖の白波、岸の松の根を洗う波、難波潟から見る淡路島の鶴。摂津国で作った歌二十一首のうち終わりの五首。
場面イラスト(準備中)
題詞攝津にて作れる(4)
- 1すみのえすみのえすみのえののの住吉之1156
- 2遠里遠里とおさと小小お野野ぬののの遠里小野之
- 3眞眞ま榛榛はり以以もちちち眞榛以
- 4摺摺すれれれるるる衣衣ころもののの須禮流衣乃
- 5盛盛さかり過過すぎぎぎぬるぬるぬる盛過去
- 6時時ときつつつ風風かぜ時風1157
- 7吹吹ふかかかまくまくまく知知しらららににに吹麻久不知
- 8阿胡阿胡あごののの海海うみののの阿胡乃海之
- 9朝朝あさ明明けののの潮潮しおににに朝明之鹽爾
- 10玉玉たま藻藻も苅苅かりりりてててななな玉藻苅奈
- 11すみのえすみのえすみのえののの住吉之1158
- 12沖沖おきつつつ白白しら浪浪なみ奧津白浪
- 13風風かぜ吹吹ふけけけばばば風吹者
- 14來來き寄寄よするするする濱濱はまををを來依留濱乎
- 15見見みれれればばば淨淨きよしししももも見者淨霜
- 16すみすみすみののの江江えののの住吉之1159
- 17岸岸きしののの松松まつががが根根ね岸之松根
- 18うちうちうち曝曝さらししし打曝
- 19寄寄よりりり來來くるるる浪浪なみののの緣來浪之
- 20音音おとののの淸淸さやらららににに音之清羅
- 21難波難波なにわ潟潟がた難波方1160
- 22潮潮しお干干ひににに立立たちちちててて鹽干丹立而
- 23見見みわたせわたせわたせばばば見渡者
- 24淡路淡路あわじののの島島しまににに淡路島爾
- 25鶴鶴たず渡渡わたるるる見見みゆゆゆ多豆渡所見
現代語訳
〔1156〕住吉の遠里小野の榛で摺り染めた衣の、色の盛りも過ぎてしまった。
〔1157〕時つ風が吹きだすかもしれないので、阿胡の海の朝の潮で、玉藻を刈ってしまおう。
〔1158〕住吉の沖の白波が、風が吹くと寄せてくる浜を見ると、清らかなことだ。
〔1159〕住吉の岸の松の根を洗って寄せてくる波の、音の清らかなことよ。
〔1160〕難波潟の潮干に立って見わたすと、淡路島の方へ、鶴が渡っていくのが見える。
意訳
摂津で作った歌の終わりの五首である。榛で摺り染めた衣の色があせていくのに旅の長さを思う歌、風の出る前に玉藻を刈ろうという歌、住吉の白波の浜の清らかさ、岸の松の根を洗う波の音、そして難波潟から遠く淡路島へ渡る鶴の群れを見わたす雄大な景で、摂津の歌群は結ばれている。
語釈・文法注
文法・本文
- 眞榛
- 「まはり」。ハンノキの類。樹皮や実で衣を染めた。
- 時つ風
- 潮の満ちるころに吹く風。
- 苅りてな
- 刈ってしまおう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1156〜1160番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「攝津にて作れる」歌二十一首の終わりの五首。作者はわからない。
解説
遠里小野は今の大阪市住吉区から堺市にかけての地。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、266頁(コマ137)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、292頁(コマ152)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日