万葉集 巻第七 1146〜1150番
めづらしき 人を吾家に
いとしい人を家に住まわせるという住吉の、岸の黄土を見るすべがほしい。住吉の恋忘れ貝、岸の黄土、岸辺の家。摂津国で作った歌二十一首のうち二つめの五首。
場面イラスト(準備中)
題詞攝津にて作れる(2)
- 1めづらしきめづらしきめずらしき目頰敷1146
- 2人人ひとををを吾家吾家わぎえににに人乎吾家爾
- 3住吉住吉すみのえののの住吉之
- 4岸岸きしののの黃黃はに土土ふををを岸乃黃土
- 5見見みむむむよしよしよしもがももがももがも將見因毛欲得
- 6暇暇いとまあらあらあらばばば暇有者1147
- 7拾拾ひりひひいににに行行ゆかかかむむん拾爾將徃
- 8住吉住吉すみのえののの住吉之
- 9岸岸きしににに寄寄よるるるとととふふふ岸因云
- 10戀戀こい忘忘わすれ貝貝がい戀忘貝
- 11馬馬うま竝竝なめめめててて馬雙而1148
- 12今今け日日ふ吾吾わががが見見みつるつるつる今日吾見鶴
- 13住吉住吉すみのえののの住吉之
- 14岸岸きしののの黃黃はに土土ふををを岸之黃土
- 15よろづよろづよろず世世よににに見見みむむむ於萬世見
- 16すみのえすみのえすみのえににに住吉爾1149
- 17行行ゆくくくとととふふふ道道みちににに往云道爾
- 18昨日昨日きのう見見みししし昨日見之
- 19戀戀こい忘忘わすれ貝貝がい戀忘貝
- 20言言ことにににしししありありありけりけりけり事二四有家里
- 21すみのえすみのえすみのえののの墨吉之1150
- 22岸岸きしににに家家いえもがもがもが岸爾家欲得
- 23沖沖おきににに邊邊へににに奧爾邊爾
- 24寄寄よするするする白白しら浪浪なみ緣白浪
- 25見見みつつつつつつ思思しぬばばばむむん見乍將思
現代語訳
〔1146〕いとしい人を家に住まわせるという住吉の、岸の黄土を見るすべがあればよいのに。
〔1147〕暇があったら拾いに行こう。住吉の岸に寄るという恋忘れ貝を。
〔1148〕馬を並べて今日私が見た住吉の岸の黄土を、万代までも見よう。
〔1149〕住吉に行くという道で昨日見た恋忘れ貝は、名ばかりのことだった。
〔1150〕住吉の岸に家があればよいのに。沖にも岸辺にも寄せる白波を、見ながら賞美しよう。
意訳
住吉の浜辺を詠んだ歌が続く。いとしい人を「住まわせる」の意から住吉を導く歌、拾えば恋の苦しみを忘れるという恋忘れ貝の歌、衣を染める黄土の岸の歌、岸辺に住んで白波を眺めたいという歌である。1149番は、恋忘れ貝を拾っても恋は忘れられなかったと、名ばかりの貝を嘆いている。
語釈・文法注
文法・本文
- 黃土
- 「はにふ」。黄色い粘土。衣を染めるのに使った。
- 戀忘貝
- 拾うと恋の苦しみを忘れるという貝。
- 言にしありけり
- 言葉だけのことだった。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1146〜1150番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「攝津にて作れる」歌二十一首の二つめの五首。作者はわからない。
修辞
- 序詞
- 1146番の「めづらしき人を吾家に」が「住(すみ)」を導く。
解説
住吉の黄土と恋忘れ貝は、万葉集に何度も詠まれた住吉の名物である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、266頁(コマ137)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、291頁(コマ151)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日