古典ライブラリー

万葉集 巻第七 1130〜1134番

神さぶる 磐根こごしき

作者未詳

神々しく岩のごつごつしたみ吉野の水分山を見ると、心が深く動かされる。誰もが恋い慕う吉野、夢に見ていた滝の淵、神の宮人のようにいつまでも通い続けたいという願い。吉野で作った歌五首。

岩肌の荒々しい吉野の山々の間を、清らかな吉野川が流れ、宮滝の淵が深い色をたたえている

題詞芳野にて作れる

  1. 1神かむ神かむかむさぶるさぶるさぶる神左振1130
  2. 2磐いは磐いはいわ根ね根ねねこごしきこごしきこごしき磐根己凝敷
  3. 3みみみ芳野よしぬ芳野よしぬよしぬののの三芳野之
  4. 4水みく水みくみく分まり分まりまり山やま山やまやまををを水分山乎
  5. 5見み見みみれれればばばかなしかなしかなしももも見者悲毛
  6. 6皆みな皆みなみな人ひと人ひとひとののの皆人之1131
  7. 7戀こ戀ここふるふるうるみみみ吉野よしぬ吉野よしぬよしぬ戀三吉野
  8. 8今け今けけ日ふ日ふふ見み見みみれれればばば今日見者
  9. 9諾うべ諾うべうべももも戀こ戀ここひひいけりけりけり諾母戀來
  10. 10山やま山やまやま川かは川かはかわ淸きよ淸きよきよみみみ山川清見
  11. 11夢いめ夢いめいめののの回わだ回わだわだ夢乃和太1132
  12. 12言こと言ことことにににしししありありありけりけりけり事西在來
  13. 13現うつつ現うつつうつつにににももも寤毛
  14. 14見み見みみててて來こ來ここしししものものものををを見而來物乎
  15. 15念おも念おもおもひひいししし念おも念おもおもへへえばばば念四念者
  16. 16皇祖すめろぎ皇祖すめろぎすめろぎののの皇祖神之1133
  17. 17神かみ神かみかみののの宮みや宮みやみや人ひと人ひとひと神宮人
  18. 18冬薯蕷葛ところづら冬薯蕷葛ところづらところづら冬薯預葛
  19. 19いやいやいや常とこ常とことこ重しく重しくしくににに彌常敷爾
  20. 20吾われ吾われわれかへりかへりかえり見み見みみむむむ吾反將見
  21. 21芳野よしぬ芳野よしぬよしぬ川がは川がはがわ能野川1134
  22. 22石いはと石いはといわと常磐かしは常磐かしはかしはととと石迹柏等
  23. 23常磐ときは常磐ときはときわなすなすなす時齒成
  24. 24吾われ吾われわれははは通かよ通かよかよははわむむん吾者通
  25. 25よろづよろづよろず代よ代よよまでまでまでににに萬世左右二

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔1130〕神々しく岩根のごつごつとしたみ吉野の水分山を見ると、心が深く動かされることだ。

〔1131〕誰もが恋い慕うみ吉野を今日見ると、なるほど恋い慕ったはずだ。山も川も清らかなので。

〔1132〕夢の淵というのは、ただの言葉にすぎなかった。現実にも見てきたのに。思いに思っていたので。

〔1133〕皇祖の神に仕える宮人のように、(冬薯蕷葛)いつまでも絶えることなく、私は帰ってきて見よう。

〔1134〕吉野川の岩と柏とが常磐であるように、変わることなく私は通おう。万代までも。

意訳

吉野で作った歌五首である。水の神をまつる水分山の神々しさ、誰もが恋い慕う吉野の山川の清らかさ、夢にまで見た「夢の淵」を実際に見た喜び、いつまでも吉野に通い続けたいという願いが歌われている。

語釈・文法注

文法・本文

こごしき
ごつごつと険しい。
夢の回
「いめのわだ」。吉野川の淵の名。
冬薯蕷葛
「ところづら」。山芋の類のつる。「常(とこ)」を導く。
常重に
いつまでも重ねて。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第七・雑歌・1130〜1134番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
巻第七の雑歌のうち、「芳野にて作れる」歌五首。作者はわからない。

修辞

序詞
1133番の「冬薯蕷葛」が「とこ」を導く。
比喩
1134番の「常磐なす」。

解説

夢の淵は吉野の宮滝付近の淵で、大伴旅人も「わが行きは久にはあらじ夢のわだ」(巻第三の335番)と詠んでいる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、264頁(コマ136)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、290頁(コマ151)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日