万葉集 巻第七 1127〜1129番
落ちたぎつ 走り井の水の
湧き出る走り井の水が清らかなので、ここを捨てては立ち去りがたい。榮えた君が掘った石井の水。琴を弾くと嘆きが先立つのは、琴の胴に妻が隠れているのか。井を詠んだ歌二首と倭琴を詠んだ歌一首。
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題詞井を詠める・倭琴を詠める
- 1落落おちちちたぎつたぎつたぎつ隕田寸津1127 井
- 2走走はしりりり井井いののの水水みずののの走井水之
- 3淸淸きよくくくあれあれあればばば清有者
- 4癈癈すててててててははは吾吾われははは廢者吾者
- 5去去ゆきききがてがてがてぬぬぬかもかもかも去不勝可聞
- 6馬馬あ醉醉し木木びなすなすなす安志妣成1128 井
- 7榮榮さかえええししし君君きみががが榮之君之
- 8穿穿ほりりりししし井井いののの穿之井之
- 9石石いわ井井いののの水水みずははは石井之水者
- 10飮飮のめめめどどど飽飽あかかかぬぬぬかもかもかも雖飮不飽鴨
- 11琴琴こと取取とれれればばば琴取者1129 倭琴
- 12なげきなげきなげき先先さき立立だつつつ嘆先立
- 13けだしけだしけだしくもくもくも蓋毛
- 14琴琴ことののの下下した樋樋ひににに琴之下樋爾
- 15嬬嬬つまややや匿匿こもれれれるるる嬬哉匿有
現代語訳
〔1127〕落ちてたぎる走り井の水が清らかなので、ここを捨てては、私は立ち去りかねることだ。
〔1128〕馬酔木の花のように栄えたあの方が掘った石井の水は、飲んでも飲んでも飽きることがない。
〔1129〕琴を手に取ると、まず嘆きが先に立つ。もしかしたら、琴の下樋に妻が隠れているのだろうか。
意訳
1127番は、勢いよく湧き出る清らかな泉のほとりから立ち去りがたい思い、1128番は、馬酔木の花のように栄えた人が掘った石の井戸の水をたたえ、その人をしのぶ。1129番は、琴を弾こうとするとまず悲しみがこみ上げるのは、琴の胴の空洞に亡き妻が隠れているからだろうかと、亡妻を思う歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 走り井
- 勢いよく湧き出る泉。
- 去きがてぬ
- 去ることができない。
- 下樋
- 琴の胴の内部の空洞。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1127〜1129番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「井を詠める」歌二首と「倭琴を詠める」歌一首。作者はわからない。
修辞
- 比喩
- 1128番の「馬醉木なす」。
解説
1129番は、琴の空洞に人の魂が宿るという考えにもとづくともいわれる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、264頁(コマ136)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、289頁(コマ150)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日