万葉集 巻第七 1111〜1115番
いにしへも 斯く聞きつつや
昔の人もこうして聞きながら賞美したのだろうか、この古い川の清らかな瀬の音を。率川の音、小川の霧、結八川。河を詠んだ歌十六首のうち終わりの五首。
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題詞河を詠める(3)
- 1いにしへいにしへいにしえももも古毛1111
- 2斯斯かくくく聞聞ききききつつつつつつややや如此聞乍哉
- 3偲偲しぬびびびけむけむけん偲兼
- 4このこのこの古古ふる河河かわののの此古河之
- 5淸淸きよききき瀨瀨せののの音音とををを清瀨之音矣
- 6葉葉は根根ね蘰蘰かずら波禰蘰1112
- 7いまいまいま爲爲するるる妹妹いもををを今爲妹乎
- 8うらうらうら若若わかみみみ浦若三
- 9いざいざいざ率率いざ川川がわののの去來率去河之
- 10音音おとののの淸淸さやけさけさけさ音之清左
- 11このこのこの小小を川川がは此小川1113
- 12霧霧きり結結むすぼほりぼほりぼおり白氣結
- 13流流ながらふらふらうややや流至八
- 14まことまことまこと井井いののの上上うえににに信井上爾
- 15言言こと擧擧あげせせせねねねどもどもども事上不爲友
- 16吾吾わががが紐紐ひもををを吾紉乎1114
- 17妹妹いもががが手手てもちもちもちててて妹手以而
- 18結八結八ゆうや川川がわ結八川
- 19またまたまた還還かえりりり見見みむむむ又還見
- 20萬萬よろず代代よまでまでまでににに萬代左右荷
- 21妹妹いもががが紐紐ひも妹之紉1115
- 22結八結八ゆうや川內川內こうちををを結八川內乎
- 23いにしへいにしへいにしえののの古之
- 24皆皆みな人人ひと見見みきききととと并人見等
- 25ここここここををを誰誰たれかかか知知しるるる此乎誰知
現代語訳
〔1111〕昔の人も、こうして聞きながら賞美したのだろうか。この古い川の清らかな瀬の音を。
〔1112〕葉根蘰を今つけたばかりの少女がうら若いので、さあと誘いたくなる率川の、音の清らかなことよ。
〔1113〕この小川は霧が立ちこめて流れていることだ。本当に走井のほとりで言挙げをしたわけでもないのに。
〔1114〕私の衣の紐を妻が手で結ぶ、その結八川を、また帰ってきて見よう。万代までも。
〔1115〕妻が紐を結う、結八川の川内を、昔の人がみな見たというが、そのことを今では誰が知っていようか。
意訳
河を詠んだ歌の終わりの五首である。古い川の瀬音に昔の人を思う歌、少女を誘う「いざ」から率川を導く歌、霧の立つ小川の歌、そして「紐を結ふ」から結八川を導く二首で、河の歌群は結ばれている。
語釈・文法注
文法・本文
- 葉根蘰
- 少女が成人のしるしにつける髪飾り。
- 結ぼほり
- 霧がかかって。
- 言擧
- 言葉に出して言い立てること。言挙げすると霧が立つと考えられた。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1111〜1115番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「河を詠める」歌十六首の終わりの五首。作者はわからない。
修辞
- 序詞
- 1112番の「葉根蘰いま爲る妹をうら若み」が「いざ」を、1114番の「吾が紐を妹が手もちて」が「結八川」を導く。
解説
率川は奈良市の春日山から流れる川。結八川の所在はわからない。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、262頁(コマ135)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、287頁(コマ149)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日