万葉集 巻第七 1106〜1110番
蝦鳴く 淸き川原を
かじかの鳴く清らかな川原を今日見たら、いつまた越えて来て見ようか。泊瀬川の白い木綿花のような滝、井堰を越す波の音、檜隈川の早瀬、新しく開いた田の川瀬。河を詠んだ歌十六首のうち二つめの五首。
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題詞河を詠める(2)
- 1蝦蝦かわず鳴鳴なくくく河豆鳴1106
- 2淸淸きよききき川川かわ原原はらををを清川原乎
- 3今今け日日ふ見見みてててははは今日見而者
- 4何何い時時つかかか越越こえええ來來きててて何時可越來而
- 5見見みつつつつつつ偲偲しぬばばばむむん見乍偲食
- 6泊瀨泊瀨はつせ川川がわ泊瀨川1107
- 7白白しら木木ゆ綿綿ふ花花ばなににに白木綿花爾
- 8落落おちちちたぎつたぎつたぎつ墮多藝都
- 9瀨瀨せををを淸淸さやけみけみけみととと瀨清跡
- 10見見みににに來來こししし吾吾われををを見爾來之吾乎
- 11泊瀨泊瀨はつせ川川がわ泊瀨川1108
- 12ながるるながるるながるる水水み脉脉おののの流水尾之
- 13瀨瀨せををを早早はやみみみ湍乎早
- 14井井い提提で越越こすすす浪浪なみののの井提越浪之
- 15音音おとののの淸淸さやけくけくけく音之清久
- 16さささ檜檜ひののの隈隈くま佐檜乃能1109
- 17檜檜ひののの隈隈くま川川がわののの檜隈川之
- 18瀨瀨せををを早早はやみみみ瀨乎早
- 19君君きみががが手手て取取とらららばばば君之手取者
- 20緣緣よらららむむん言言ことかもかもかも將緣言毳
- 21齋齋ゆ種種だね蒔蒔まくくく湯種蒔1110
- 22新新あら墾墾きののの小小お田田だををを荒木之小田矣
- 23求求もとめめめむむんととと求跡
- 24足足あ結結ゆい出出いででで沾沾ぬれれれぬぬぬ足結出所沾
- 25このこのこの川川かはののの瀨瀨せににに此水之湍爾
現代語訳
〔1106〕かじかの鳴く清らかな川原を今日見てしまったら、いつまた越えて来て、見ながら賞美しようか。
〔1107〕泊瀬川の、白い木綿花のように落ちてたぎる瀬が清らかだと、見に来た私なのに。
〔1108〕泊瀬川を流れる水の筋の瀬が速いので、井堰を越す波の音が清らかだ。
〔1109〕(さ檜の隈)檜隈川の瀬が速いので、あなたの手を取ったら、人は言い寄ったと噂するだろうか。
〔1110〕神聖な種を蒔く新しく開いた田を探そうとして、足結が濡れてしまった。この川の瀬で。
意訳
河を詠んだ歌の二つめの五首である。かじかの鳴く清い川原との別れを惜しむ歌、白い木綿花のように泡立つ泊瀬川の滝や、井堰を越す波の音をたたえる歌、早瀬を渡るときに手を取れば噂になるだろうかと恋心を含ませた檜隈川の歌、新しい田を求めて川を渡り足結を濡らした歌が並んでいる。
語釈・文法注
文法・本文
- 白木綿花
- 白い木綿で作った造花。白く泡立つ水のたとえ。
- 井提
- 「ゐで」。水をせき止める堰。
- 足結
- 「あゆひ」。袴の膝の下を結ぶ紐。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1106〜1110番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「河を詠める」歌十六首の二つめの五首。作者はわからない。
修辞
- 比喩
- 1107番で、たぎる瀬を白木綿花にたとえる。
- 枕詞
- 1109番の「さ檜の隈」が「檜の隈」にかかる。
解説
檜隈川は奈良県明日香村の檜隈を流れる川。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、262頁(コマ135)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、287頁(コマ149)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日