万葉集 巻第七 1092〜1098番
鳴る神の 音のみ聞きし
噂にばかり聞いていた巻向の檜原の山を、今日見たことだ。三室山の黄葉、三輪山と泊瀬の檜原、天の香具山、巨勢山、二上山。山を詠んだ歌七首で、初めの三首は柿本人麻呂歌集の歌。
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題詞山を詠める
- 1鳴鳴なるるる神神かみののの動神之1092
- 2音音おとのみのみのみ聞聞ききききししし音耳聞
- 3卷向卷向まきむくののの卷向之
- 4檜檜ひ原原はらののの山山やまををを檜原山乎
- 5今今け日日ふ見見みつるつるつるかもかもかも今日見鶴鴨
- 6三三み諸諸もろののの三毛侶之1093
- 7そのそのその山山やま並並なみににに其山奈美爾
- 8子子こ等等らががが手手てををを兒等手乎
- 9卷向卷向まきむく山山やまははは卷向山者
- 10繼繼つぎのののよろしよろしよろしももも繼之宜霜
- 11我我わががが衣衣ころも我衣1094
- 12色服色服いろどりににに染染しめめめむむん色服染
- 13味味うま酒酒さけ味酒
- 14三三み室室むろののの山山やまははは三室山
- 15黃黃もみ葉葉じせせせりりりけりけりけり黃葉爲在
- 16御御み室室もろ齋齋つくくく三諸就1095
- 17三輪三輪みわ山山やま見見みれれればばば三輪山見者
- 18隱隱こもり口口くののの隱口乃
- 19始瀨始瀨はつせののの檜檜ひ原原はら始瀨之檜原
- 20おもほゆるおもほゆるおもおゆるかもかもかも所念鴨
- 21いにしへいにしへいにしえののの昔者之1096
- 22事事ことははは知知しらららぬぬぬををを事波不知乎
- 23我我われ見見みてててももも我見而毛
- 24久久ひさしくしくしくなりなりなりぬぬぬ久成奴
- 25天天あめののの香具香具かぐ山山やま天之香具山
- 26吾吾わが背背せ子子こををを吾勢子乎1097
- 27乞乞こち巨勢巨勢こせ山山やまととと乞許世山登
- 28人人ひとははは云云いへへえどどど人者雖云
- 29君君きみももも來來きまさまさまさずずず君毛不來益
- 30山山やまののの名名なにににあらあらあらししし山之名爾有之
- 31紀紀き道道じにににこそこそこそ木道爾社1098
- 32妹妹いも山山やまありありありととと云云いへへえ妹山在云
- 33櫛櫛くし上上げののの櫛上
- 34二二ふた上上かみ山山やまももも二上山母
- 35妹妹いもこそこそこそありありありけれけれけれ妹許曾有來
現代語訳
〔1092〕(鳴る神の)噂にばかり聞いていた、巻向の檜原の山を、今日見たことだ。
〔1093〕三諸の山の並びに、(子等が手を)巻向山は、続きぐあいがよいことだ。
〔1094〕私の衣を色どりに染めよう。(味酒)三室の山は、黄葉したことだ。
〔1095〕神を祭る三輪山を見ると、(隠口の)泊瀬の檜原が思われることだ。
〔1096〕昔のことは知らないけれど、私が見てからでも、久しくなった。天の香具山は。
〔1097〕わが背子を「こち来せ(こちらへよこせ)」という巨勢山と人は言うが、あの方もおいでにならない。山の名だけのことらしい。
〔1098〕紀伊の道にこそ妹山があると言うけれど、櫛上の二上山にも、妹山があることだ。
意訳
山を詠んだ歌七首である。1092〜1094番は人麻呂歌集の歌で、噂に聞いていた巻向山をはじめて見た感動、三輪山に連なる巻向山の山並みのよさ、黄葉した三室山の色に衣を染めたい思いを歌う。1095番は三輪山から泊瀬の檜原を思い、1096番は天の香具山の古さを、1097番は「こちこせ」という巨勢山の名に恋人を呼び寄せる意をかけ、1098番は二上山の雄岳・雌岳に妹背山を見ている。
語釈・文法注
文法・本文
- 鳴る神の
- 雷の。「音」にかかる枕詞。
- 子等が手を
- 子らの手を巻く意で「巻向」にかかる枕詞。
- 乞巨勢山
- 「こち来せ」と「巨勢」をかける。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1092〜1098番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「山を詠める」歌七首。1092〜1094番は柿本人麻呂歌集、ほかは作者がわからない。
修辞
- 枕詞
- 「鳴る神の」が「音」に、「子等が手を」が「巻向」に、「味酒」が「三室」に、「隱口の」が「泊瀬」にかかる。
- 掛詞
- 1097番の「乞(こち)巨勢」。
解説
巻向・三輪・泊瀬・香具山・巨勢・二上山と、大和の名山が並んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、261頁(コマ134)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、285頁(コマ148)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日