万葉集 巻第七 1081〜1086番
ぬばたまの 夜渡る月を
夜空を渡る月がおもしろくて、座っている袖に露が置いてしまった。水底の玉まで見える月夜、霜曇りの月、待っても出ない月、妹のあたりに袖を振る月夜、大伴の繁栄を照らす月。月を詠んだ歌十八首のうち終わりの六首。
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題詞月を詠める(3)
- 1ぬばたまぬばたまぬばたまののの烏玉之1081
- 2夜夜よ渡渡わたるるる月月つきををを夜渡月乎
- 3おもしろみおもしろみおもしろみ何怜
- 4吾吾わががが居居おるるる袖袖そでににに吾居袖爾
- 5露露つゆぞぞぞ置置おきききにににけるけるける露曾置爾鷄類
- 6水水みな底底そこののの水底之1082
- 7玉玉たまさへさへさへ淸淸さやににに玉障清
- 8見見みつつつべくべくべくももも可見裳
- 9照照てるるる月月つく夜夜よかもかもかも照月夜鴨
- 10夜夜よののの深深ふけけけゆけゆけゆけばばば夜之深去者
- 11霜霜しもぐもりぐもりぐもり霜雲入1083
- 12爲爲すとととにににかかかあらあらあらむむん爲登爾可將有
- 13ひさかたひさかたひさかたののの久堅之
- 14夜夜よわたるわたるわたる月月つきののの夜度月乃
- 15見見みえええなくなくなく念念おもへへえばばば不見念者
- 16山山やまののの末末はににに山末爾1084
- 17いさよふいさよふいさよう月月つきををを不知夜經月乎
- 18何何い時時つとととかもかもかも何時母
- 19吾吾わががが待待まちちち居居おらららむむん吾待將座
- 20夜夜よははは深深ふけけけにににつつつつつつ夜者深去乍
- 21妹妹いもがががあたりあたりあたり妹之當1085
- 22吾吾わががが袖袖そで振振ふらららむむん吾袖將振
- 23木木こののの間間まよりよりより木間從
- 24出出いででで來來くるるる月月つきににに出來月爾
- 25雲雲くもななな棚棚たな引引びききき雲莫棚引
- 26靭靭ゆぎ懸懸かくるくるくる靫懸流1086
- 27伴伴ともののの雄雄をひろきひろきひろき伴雄廣伎
- 28大伴大伴おおともににに大伴爾
- 29國國くに榮榮さかえええむむんととと國將榮常
- 30月月つきははは照照てるるるらしらしらし月者照良思
現代語訳
〔1081〕(ぬばたまの)夜空を渡る月がおもしろいので、私が座っている袖に、露が置いてしまったことだ。
〔1082〕水底の玉までもはっきりと見えそうなほどに照る月夜だなあ。夜がふけていくと。
〔1083〕霜曇りとでもいうのだろうか、(ひさかたの)夜空を渡る月が見えないことを思うと。
〔1084〕山の端でためらっている月を、いつ出るかと私は待っていようか。夜はふけていくのに。
〔1085〕妻の家のあたりに向かって袖を振ろう。木の間から出てくる月に、雲よたなびくな。
〔1086〕靫を背負う伴の緒の多い大伴の家に、国が栄えるようにと、月は照っているらしい。
意訳
月を詠んだ歌の終わりの六首である。月に見とれて夜露に濡れる歌、夜ふけに冴えわたる月の光、霜曇りで見えない月、山の端でためらう月を待つ歌、恋人の家に向かって袖を振る夜の月と続き、最後の1086番は、武門の大伴氏の繁栄と国の栄えを月が祝福していると歌って、月の歌群を結んでいる。
語釈・文法注
文法・本文
- おもしろみ
- 趣深いので。原文「何怜」。
- 霜ぐもり
- 霜の降りる夜の曇り。
- 靭懸くる
- 矢を入れる靫を背負う。「伴」にかかる。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1081〜1086番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「月を詠める」歌十八首の終わりの六首。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 「ぬばたまの」が「夜」に、「ひさかたの」が「夜」に、「靭懸くる」が「伴」にかかる。
解説
1086番は「大伴」の名を詠みこんでおり、大伴氏の宴で詠まれた歌とみられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、260頁(コマ134)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、284頁(コマ148)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日