万葉集 巻第七 1075〜1080番
海原の 道遠みかも
海原の道が遠いからか、月の光が乏しいまま夜がふけていく。大宮人の遊ぶ夜の月、西の山辺に関がほしいと願う心、妹が待つ月、雲に隠れた月、神代から若返る月。月を詠んだ歌十八首のうち二つめの六首。
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題詞月を詠める(2)
- 1海海うな原原ばらののの海原之1075
- 2道道みち遠遠とおみみみかもかもかも道遠鴨
- 3月月つく讀讀よみののの月讀
- 4明明あかりすくなきすくなきすくなき明少
- 5夜夜よははは更更くたちちちつつつつつつ夜者更下乍
- 6百百もも磯磯し城城きののの百師木之1076
- 7大大おお宮宮みや人人びとののの大宮人之
- 8退退まかりりり出出でててて退出而
- 9あそぶあそぶあそぶ今今こ夜夜よいののの遊今夜之
- 10月月つきののの淸淸さやけさけさけさ月清左
- 11ぬばたまぬばたまぬばたまののの夜干玉之1077
- 12夜夜よ渡渡わたるるる月月つきををを夜渡月乎
- 13とどめとどめとどめむむんににに將留爾
- 14西西にしののの山山やま邊邊べににに西山邊爾
- 15關關せきもももあらあらあらぬぬぬかもかもかも塞毛有粳毛
- 16このこのこの月月つきののの此月之1078
- 17此間此間ここににに來來くれれればばば此間來者
- 18今今いまとととかもかもかも且今跡香毛
- 19妹妹いもががが出出いででで立立たちちち妹之出立
- 20待待まちちちつつつつつつあらあらあらむむん待乍將有
- 21眞眞ま十十そ鏡鏡かがみ眞十鏡1079
- 22照照てるるるべきべきべき月月つきををを可照月乎
- 23白白しろ妙妙たえののの白妙乃
- 24雲雲くもかかか隱隱かくせせせるるる雲香隱流
- 25天天あまつつつ霧霧きりかもかもかも天津霧鴨
- 26ひさかたひさかたひさかたののの久方乃1080
- 27天天あま照照てるるる月月つきははは天照月者
- 28神神かみ代代よにににかかか神代爾加
- 29出出いでででかへるかへるかえるらむらむらん出反等六
- 30年年としははは經經へにににつつつつつつ年者經去乍
現代語訳
〔1075〕海原の道が遠いからだろうか、月の光が乏しいまま、夜はふけていく。
〔1076〕(百磯城の)大宮人たちが退出して遊ぶ今夜の、月の清らかなことよ。
〔1077〕(ぬばたまの)夜空を渡っていく月をとどめようとするのに、西の山辺に関所でもないものだろうか。
〔1078〕この月がここまで来たので、今ごろは、妻が門に出て立ち、待ち続けているだろうか。
〔1079〕(まそ鏡)照るはずの月を、白い雲が隠したのか、それとも天の霧なのか。
〔1080〕(ひさかたの)天に照る月は、神代に若返って出てくるのだろうか。年は過ぎていくけれども。
意訳
月を詠んだ歌の続きである。海から昇ったばかりで光の乏しい月、宮仕えを終えた官人たちが遊ぶ夜の月、沈んでいく月を西の山の関所でとどめたいと願う歌、月の傾きで時刻を知り恋人の待つ姿を思う歌、雲に隠れた月、年が経っても変わらず照る月と、さまざまな月の姿が歌われている。
語釈・文法注
文法・本文
- 月讀
- 月の神。月のこと。
- 今とかも
- 今ごろかと。
- 出でかへるらむ
- 若返って出てくるのだろうか。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1075〜1080番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「月を詠める」歌十八首の二つめの六首。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 「百磯城の」が「大宮人」に、「ぬばたまの」が「夜」に、「眞十鏡」が「照る」に、「ひさかたの」が「天」にかかる。
解説
1077番の、沈む月を関所でとどめたいという発想は、のちの平安時代の和歌にも受け継がれた。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、259頁(コマ133)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、284頁(コマ148)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日