古典ライブラリー

万葉集 巻第四 537〜542番

言清く 甚もな言ひそ

高田女王(たかたのおおきみ)

冷たい言葉をそんなに言わないで、一日でもあなたがいなければ耐えられないのだから。うわさがうるさくて逢わずにいたけれど、心変わりしたなどと思わないで。高田女王が今城王に贈った恋の歌六首。

屋敷の奥の部屋で、女性が文を書きながら、ためらうように筆を止めている

題詞高田女王の今城王に贈れる歌六首

  1. 1言こと言ことこと清きよ清きよきよくくく事清537
  2. 2甚いた甚いたいたもももななな言い言いいひひいそそそ甚毛莫言
  3. 3一ひと一ひとひと日ひ日ひひだにだにだに一日太爾
  4. 4君きみ君きみきみいいいししし無な無ななくくくばばば君伊之哭者
  5. 5忍しの忍しのしのびびび敢あ敢ああへへえぬぬぬものものもの痛寸取物
  6. 6他ひと他ひとひと辭ごと辭ごとごとををを他辭乎538
  7. 7繁しげ繁しげしげみみみ言こち言こちこち痛た痛たたみみみ繁言痛
  8. 8逢あ逢ああははわざりざりざりききき不相有寸
  9. 9心こころ心こころこころあるあるある如ごと如ごとごと心在如
  10. 10ななな思おも思おもおもひひい吾わが吾わがわが背せ背せせ子こ子ここ莫思吾背子
  11. 11吾わ吾わわががが背せ背せせ子こ子ここししし吾背子師539
  12. 12遂と遂ととげげげむむんととといはいはいわばばば遂常云者
  13. 13人ひと人ひとひと言ごと言ごとごとははは人事者
  14. 14繁しげ繁しげしげくくくありありありともともとも繁有登毛
  15. 15出い出いいでででててて逢あ逢ああははわましましましををを出而相麻志呼
  16. 16吾わが吾わがわが背せ背せせ子こ子ここににに吾背子爾540
  17. 17復また復またまたははは逢あ逢ああははわじじじかかかととと復者不相香常
  18. 18思おも思おもおもへへえばばばかかか思墓
  19. 19今朝けさ今朝けさけさののの別わかれ別わかれわかれののの今朝別之
  20. 20すべすべすべなかりなかりなかりつるつるつる爲便無有都流
  21. 21現この現このこの世よ世よよにににははは現世爾波541
  22. 22人ひと人ひとひと言ごと言ごとごと繁しげ繁しげしげししし人事繁
  23. 23來こ來ここむむむ生よ生よよにににももも來生爾毛
  24. 24逢あ逢ああははわむむん吾わが吾わがわが背せ背せせ子こ子ここ將相吾背子
  25. 25今いま今いまいまならならならずずずともともとも今不有十方
  26. 26常つね常つねつね止や止ややまままずずず常不止542
  27. 27通かよ通かよかよひひいししし君きみ君きみきみががが通之君我
  28. 28使つかひ使つかひつかい來こ來ここずずず使不來
  29. 29今いま今いまいまははは逢あ逢ああははわじじじととと今者不相跡
  30. 30たゆたひたゆたひたゆたいぬぬぬらしらしらし絕多比奴良思

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔537〕きっぱりとした言葉を、そうひどくおっしゃらないで。一日だってあなたがいなかったら、耐えられないのですから。

〔538〕人のうわさがうるさく、わずらわしいので、逢わずにいたのです。心変わりしたように思わないでください、あなた。

〔539〕あなたが恋を遂げようとおっしゃるなら、人のうわさがうるさくても、出て行ってお逢いしましょうに。

〔540〕あなたにもう逢えないのではないかと思うからか、今朝の別れはどうしようもなくつらかった。

〔541〕この世では人のうわさがうるさい。来世にでもお逢いしましょう、あなた。今でなくても。

〔542〕いつも絶えずに通ってきたあなたの使いが来ない。もう逢うまいと、心が揺れているらしい。

意訳

高田女王は今城王と恋をしていたが、人のうわさに悩まされていた。逢わずにいるのはうわさのためで心変わりではないと訴え、あなたが決心してくれるなら人目など気にせず逢いに行くと言う。しかし今朝の別れはもう逢えない予感がしてつらく、この世がだめなら来世で逢いましょうとまで歌う。最後の542番では、使いが来なくなったことに、相手の心のためらいを感じ取っている。

語釈・文法注

文法・本文

言清く
きっぱりと、遠慮のない言葉で。
言痛み
「こちたし」はうわさがうるさい。
たゆたひぬらし
心が揺れ動いているらしい。

和歌

作者
高田女王(生没年未詳)
高安王の娘とされる。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・537〜542番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
高田女王が今城王に贈った歌六首。

解説

六首を通して、うわさに苦しみながら揺れ動く恋の心の移り変わりが、細やかに描かれている。541番の「來む生にも逢はむ」は、仏教の来世の考えをふまえた表現である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、155頁(コマ81)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、162頁(コマ87)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日