古典ライブラリー

万葉集 巻第四 522〜524番

をとめ等が 珠匣なる

藤原麻呂(ふじわらのまろ)

乙女の櫛箱の玉櫛のように、私は古びてしまっただろう、あなたに逢わずにいるので。年に一度も逢えば十分という人もいるのに、いつのまにこれほど恋しくなったのか。藤原麻呂が坂上郎女に贈った歌三首。

夜の寝床で、男が柔らかな夜具をかけて横たわりながら、ひとり寒そうに身を縮めている

題詞京職藤原大夫、大伴郎女に贈れる歌三首

  1. 1ををおとととめめめ等ら等ららががが孃嬬等之522
  2. 2珠たま珠たまたま匣くしげ匣くしげくしげなるなるなる珠篋有
  3. 3玉たま玉たまたま櫛くし櫛くしくしののの玉櫛乃
  4. 4神かむ神かむかむさびさびさびけむけむけんももも神家武毛
  5. 5妹いも妹いもいもににに逢あ逢ああははわずずずあれあれあればばば妹爾阿波受有者
  6. 6よくよくよくわたるわたるわたる好渡523
  7. 7人ひと人ひとひとははは年とし年としとしにににももも人者年母
  8. 8ありありありとととふふふををを有云乎
  9. 9何い何いい時つ時つつののの間ま間ままにににぞぞぞももも何時間曾毛
  10. 10吾わ吾わわががが戀こ戀ここひひいにににけるけるける吾戀爾來
  11. 11蒸むし蒸むしむし被ぶすま被ぶすまぶすま蒸被524
  12. 12なごやなごやなごやががが下した下したしたににに奈胡也我下丹
  13. 13臥ふ臥ふふせせせれれれどもどもども雖臥
  14. 14妹いも妹いもいもとととししし宿ね宿ねねねねねばばば與妹不宿者
  15. 15肌はだ肌はだはだししし寒さむ寒さむさむしししももも肌之寒霜

引用の仕方

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現代語訳

〔522〕乙女たちの櫛箱にある玉櫛のように、私はすっかり古びてしまったことだろう。あなたに逢わずにいるので。

〔523〕よく耐えて待つ人は、一年に一度逢うのでもよいというのに、いつのまに私はこれほど恋しくなってしまったのか。

〔524〕暖かい柔らかな夜具の下に臥しているけれど、あなたと寝ないので、肌が寒いことだ。

意訳

藤原麻呂は、坂上郎女に恋をした。522番は、逢わないうちに自分は櫛箱の古い櫛のように老けこんでしまっただろうと嘆き、523番は、七夕の二星のように年に一度で我慢できる人もいるのに、自分はいつのまにこれほど恋しくなったのかと驚く。524番は、柔らかい夜具にくるまっていても、あなたがいないので肌寒いと訴えている。

語釈・文法注

文法・本文

神さびけむも
古びてしまっただろう。
なごや
柔らかいもの。
蒸被
「むしぶすま」は暖かい夜具。

和歌

作者
藤原麻呂(695–737)
藤原不比等の四男で、京家の祖。京職大夫などを務めた。坂上郎女と恋の歌を交わした。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・522〜524番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
京職大夫の藤原麻呂が、大伴坂上郎女に贈った歌三首。

修辞

序詞
522番の「をとめ等が珠匣なる玉櫛の」が「神さび」を導く。

解説

坂上郎女は穂積皇子の死後、藤原麻呂の求愛を受けた。次の525〜528番で郎女が答えている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、152頁(コマ80)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、159頁(コマ85)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日