古典ライブラリー

万葉集 巻第四 505〜506番

今更に 何をか念はむ

阿倍女郎(あべのいらつめ)

今さら何を迷うことがありましょう。心はすっかりあなたに寄り添ってしまったのに。あなたは物思いをなさいますな、何かあれば火の中でも水の中でも、私がいるのですから。安倍女郎の歌二首。

恋人の手を取った女性が、決意をこめた表情でまっすぐに相手を見つめている

題詞安倍女郎の歌二首

  1. 1今いま今いまいま更さら更さらさらににに今更505
  2. 2何なに何なになにをををかかか念おも念おもおもははわむむん何乎可將念
  3. 3うちうちうち靡なび靡なびなびききき打靡
  4. 4こころこころこころははは君きみ君きみきみににに情者君爾
  5. 5縁よ縁よよりりりにににしししものものものををを緣爾之物乎
  6. 6吾わが吾わがわが背せ背せせ子こ子ここははは吾背子波506
  7. 7物もの物ものものななな念おも念おもおもほしほしおし物莫念
  8. 8事こと事ことことしししあらあらあらばばば事之有者
  9. 9火ひ火ひひにににももも水みづ水みづみずにににももも火爾毛水爾毛
  10. 10吾われ吾われわれ無な無ななけなくけなくけなくににに吾莫七國

引用の仕方

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現代語訳

〔505〕今さら何を思い迷うことがありましょう。すっかりなびいて、心はあなたに寄り添ってしまったのですから。

〔506〕あなたは物思いをなさいますな。何かあったなら、火の中にも水の中にも、私がいないわけではないのですから。

意訳

505番は、心はもうすっかりあなたのものなのだから、今さら迷うことはないと、迷いのない愛を歌う。506番は、不安がる恋人に、何かあったら火の中でも水の中でも私がついていますと励ます、力強い歌である。

語釈・文法注

文法・本文

物な念ほし
「な…そ」の「そ」がない形の禁止。物思いをなさるな。
吾無けなくに
私がいないわけではないのに。

和歌

作者
阿倍女郎(生没年未詳)
奈良時代の女性歌人。巻第三の269番の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・505〜506番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
安倍女郎の歌二首。

解説

506番の「火にも水にも吾無けなくに」は、女性の側からの力強い愛の誓いとして名高い。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、149頁(コマ78)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、156頁(コマ84)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日