枕草子 第282段 日記的章段
清水に籠りたる頃
清水寺に参籠していたころ、ひぐらしがしきりに鳴くのをしみじみと聞いていると、中宮がわざわざ使いをよこして「山近き入相の鐘の声ごとに恋ふる心の数や知るらむ」と詠んでくださった。作者は紙を持ってこなかったので、紫の蓮の花びらに返事を書いて差し上げた。
場面イラスト(準備中)
- 1清水清水きよみずににに籠籠こもりりりたるたるたるころころころ蜩蜩ひぐらしのののいみじういみじういみじゅう鳴鳴なくくくををを、、、あはれあはれあわれととと聞聞きくくくにににわざとわざとわざと御御おん使使つかいしししてててのたまはせのたまはせのたまわせたりたりたりししし、、、
- 2「「「山山やまちかきちかきちかき入入いりあひあひあいののの鐘鐘かねのののこゑこゑこえごとごとごとににに戀戀こふるふるうるこゝろこゝろこころのののかずかずかずややや知知しるるるらむらむらん。。。
- 3ものものものをををこよなこよなこよなのののながゐながゐながいややや」」」ととと書書かかかかせせせ給給たまへへえるるる。。。紙紙かみなどなどなどのののなめげなめげなめげならならならぬぬぬももも、、、取取とりりり忘忘わすれれれたるたるたるたびたびたびにてにてにて、、、紫紫むらさきなるなるなるはちすはちすはちすののの花花はなびらびらびらににに書書かきききてててまゐらするまゐらするまいらする。。。
現代語訳
清水寺にこもっていたころ、ひぐらしがひどく鳴くのを、しみじみと聞いていると、中宮様がわざわざお使いをよこしておっしゃった、
山に近い寺の入相の鐘の音が一つ鳴るごとに、私があなたを恋しく思う心の数を知っているでしょうか。
ずいぶん長い参籠ですこと」とお書きになっている。失礼でない紙なども、取り忘れてきた旅だったので、紫の蓮の花びらに書いて差し上げる。
意訳
清水寺に参籠した作者のもとに、中宮から「入相の鐘が鳴るたびに、あなたを恋しく思っている」という歌が届く。夕暮れの鐘とひぐらしの声が重なる情景の中で、中宮の深い思いが伝わる。作者は手元に紙がなく、仏前に供える紫の蓮の花びらに返事を書いた。いかにも寺にふさわしい、風雅な返し方である。
語釈・文法注
文法
- 「入あひの鐘」
- 日没のころに寺で撞く鐘。
- 「こよなのながゐ」
- ずいぶん長い滞在。参籠が長引いていることをとがめた言葉。
- 「はちすの花びら」
- 仏前に供える造花の蓮の花びら。
和歌
山近き入相の鐘の声ごとに恋ふる心の数や知るらむ
- 詠者
- 中宮定子
- 状況
- 清水寺に参籠している作者に、使いをよこして贈った歌。
修辞
- 縁語
- 「鐘」の「数」と、恋しく思う心の「数」を重ねる。
解説
中宮の深い愛情と、作者の風雅な応答が印象的な段である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、353頁(コマ188)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日