枕草子 第255段 日記的章段
御前にて人々とも
中宮の御前で、世の中がいやになって消えてしまいたいと思うときでも、白い紙やよい筆、畳の新しい筵を手に入れると、もう少し生きていられると思う、と作者が言うと、中宮は「たわいもないことで慰められるのね」とお笑いになった。後日、里にいる作者のもとに、中宮から上質の紙が二十包み届き、その後、高麗縁の畳も匿名で届けられる。作者は中宮の心遣いに感激する。
- 1御御お前前まえににに人々人々ひとびとあまたあまたあまた物物もの仰仰おおせせせらるゝらるゝらるるついでついでついでなどなどなどにににももも、、、世世よののの中中なかのののはらだゝしうはらだゝしうはらだたしゅうむつかしうむつかしうむつかしゅう片時片時かたときあるあるあるべきべきべき心心ここちちちもももせせせででで、、、いづちいづちいずちもももいづちいづちいずちもももいきいきいきうせうせうせなななばやばやばやととと思思おもふふうににに、、、たゞたゞただののの紙紙かみのののいといといと白白しろううう清清きよらららなるなるなる、、、よきよきよき筆筆ふで、、、白白しろききき色紙色紙しきし、、、みちのくにみちのくにみちのくに紙紙がみなどなどなど得得えつれつれつればばば、、、かくかくかくてててもももしばししばししばしありありありぬぬぬべかりべかりべかりけりけりけりとととなむなむなん覺覺おぼえええ侍侍はべるるる。。。又又また高麗高麗こうらい綠綠べりののの疊疊たたみののの筵筵むしろ靑靑あおうううこまかこまかこまかににに、、、へりへりへりののの紋紋もんあざやかあざやかあざやかににに黑黑くろうううしろうしろうしろう見見みえええたるたるたる、、、引引ひききき廣廣ひろげげげててて見見みれれればばば、、、「「「何何なにかかか猶猶なおさらにさらにさらにこのこのこの世世よはははえええおもひおもひおもいはなつはなつはなつまじまじまじととと、、、命命いのちさへさへさへ惜惜おしくしくしくなむなむなんなるなるなる」」」ととと申申もうせせせばばば「「「いみじくいみじくいみじくはかなきはかなきはかなき事事ことももも慰慰なぐさむむむなるなるなるかなかなかな。。。姥捨山姥捨山おばすてやまののの月月つきはははいかなるいかなるいかなる人人ひとののの見見みるるるにににかかか」」」ととと笑笑わらははわせせせ給給たまふふう。。。さぶらふさぶらふさぶらう人人ひとももも「「「いみじくいみじくいみじくやすきやすきやすき息災息災そくさいのののいのりいのりいのりかなかなかな」」」ととといふいふいう。。。さてさてさて後後のちにににほどほどほど經經へててて、、、すゞろすゞろすずろなるなるなる事事ことををを思思おもひひいててて、、、里里さとにににあるあるあるころころころめでたきめでたきめでたき紙紙かみををを二十二十はたちつゝみつゝみつつみにににつゝみつゝみつつみててて賜賜たまははわせせせたりたりたり。。。仰仰おおせせせ事事ごとにににははは「「「とくとくとく參參まいれれれ」」」などなどなどのたまはせのたまはせのたまわせててて「「「これこれこれははは聞聞きこしめししめししめし置置おきききたるたるたる事事ことありありありしかしかしかばばばなむなむなん、、、わろかわろかわろかめれめれめればばば壽命經壽命經じゅみょうきょうもももえええ書書かくくくまじげまじげまじげにににこそこそこそ」」」ととと仰仰おおせせせられられられたるたるたるいといといとをかしをかしおかし。。。むげむげむげににに思思おもひひい忘忘わすれれれたりたりたりつるつるつることことことをををおぼしおぼしおぼしおかおかおかせせせ給給たまへへえりりりけるけるけるははは猶猶なおたゞたゞただ人人びとにてにてにてだにだにだにをかしをかしおかし。。。ましてましてましておろかおろかおろかならならならぬぬぬ事事ことにににぞぞぞあるあるあるややや。。。心心こころももも亂亂みだれれれててて啓啓けいすすすべきべきべきかたかたかたもももなけれなけれなければばば、、、たゞたゞただ、、、
- 2「「「かけまくかけまくかけまくもももかしこきかしこきかしこきかみかみかみのののしるししるししるしにににははは鶴鶴つるのののよはひよはひよわいににになりなりなりぬぬぬべきべきべきかなかなかな。。。
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現代語訳
中宮様の御前で、女房たちが大勢いて中宮様がお話しなさるついでなどにも、私が「世の中が腹立たしく、うっとうしくて、少しの間も生きていられそうな気がせず、どこへでも行って消えてしまいたいと思うときに、普通の紙でたいそう白くきれいなもの、よい筆、白い色紙、陸奥紙などを手に入れると、こうしてでもしばらくは生きていられそうだと思われます。また、高麗縁の畳の筵が青く目が細かく、縁の模様が鮮やかに黒と白に見えているのを、引き広げて見ると、どうして、やはりこの世はとても思い捨てることはできないと、命まで惜しくなるのです」と申し上げると、「ずいぶんたわいもないことで慰められるのね。姨捨山の月は、どんな人が見たのかしら」とお笑いになる。お仕えしている人も、「たいそう手軽な息災の祈りですこと」と言う。そうしてその後、しばらくたって、わけもなく思い悩んで里に下がっていたころ、中宮様がすばらしい紙を二十包みにして下さった。仰せ言には「早く参上しなさい」などとおっしゃって、「これは、前に聞いておいたことがあったので。質の悪い紙のようだから、寿命経も書けそうにないけれど」とおっしゃったのは、たいそうすばらしい。すっかり忘れてしまっていたことを覚えていてくださったのは、普通の人であってさえうれしいのに、まして中宮様のことであるから、並一通りのことではない。心も乱れて、申し上げる言葉もないので、ただ、
もったいなくも恐れ多い神(紙)のご利益によって、鶴の寿命ほども長生きしそうでございます。
あまりに大げさでございましょうかと、中宮様に申し上げてください」と書いて差し上げた。台盤所の雑仕が使いとして来たのだった。青い単衣などを褒美として与えて。本当にこの紙を草子に作ってあれこれ騒いでいると、うっとうしいことも紛れる気持ちがして、心の中もおもしろく思われる。二日ほどたって、赤い衣を着た男が畳を持って来て、「これを」と言う。「あれは誰ですか。丸見えですよ」などと無愛想に言うと、置いて行ってしまった。「どこから来たのか」と尋ねさせると、「帰ってしまいました」と言って取り入れたところ、わざわざ御座という畳の様子で、高麗縁などがたいそうきれいである。心の中では、中宮様からではないかと思うけれど、やはりはっきりしないので、人を出して探させたけれど、消えてしまっていた。不思議がって笑ったけれど、使いがいないのでどうしようもない。届け先の間違いなどならば、自然とまた言いに来るだろう。中宮様のあたりに事情を尋ねにやりたいけれど、やはり誰がわけもなくそんなことをするだろう、中宮様の仰せなのだろうと、たいそううれしい。二日ほど何の音沙汰もないので、疑いもなく、左京の君のもとに、「こういうことがありました。そういう様子をご覧になりましたか。こっそり様子をお知らせください。もしそういうことが見えなかったら、私がこう申し上げたとも漏らさないでください」と言ってやったところ、「たいそうお隠しになっていたことです。決して私が申し上げたとは言わないで、後になっても」とあったので、やはりそうだったと思ったとおりでうれしくて、手紙を書いて、またこっそり御前の高欄に置かせたのだが、使いの者が慌てていたうちに、そのまま落としてしまい、御階のもとに落ちてしまった。
意訳
中宮と作者の心の通い合いを伝える、温かい逸話である。世の中がいやになっても、真っ白な紙や新しい畳があれば生きていられる、と作者がこぼすと、中宮は「ずいぶん安上がりな慰めね」と笑う。ところがその後、作者が気が沈んで里にこもっていると、中宮から上等の紙が届き、さらに差出人不明の畳まで届く。あのときの何気ない言葉を覚えていてくださったのだと、作者は深く感激する。作者が「紙」と「神」を掛けた歌で返したのも、紙を賜ったからこそ書ける『枕草子』そのものの由来を思わせる。
語釈・文法注
文法
- 「高麗綠」
- 高麗縁(こうらいべり)。白地に黒の紋を織り出した畳の縁。
- 「姥捨山の月」
- 『古今和歌集』の「わが心なぐさめかねつ更級や姨捨山に照る月を見て」による。月を見ても慰められないという古歌に対し、紙や畳で慰められる作者をからかった。
- 「壽命經」
- 寿命を延ばす功徳があるとされる経典。
- 「かけまくもかしこき」
- 口に出して言うのも恐れ多い。神に対する慣用的な言い回し。
和歌
かけまくもかしこき神のしるしには鶴のよはひになりぬべきかな
- 詠者
- 清少納言
- 状況
- 中宮から上質の紙を賜ったときの返歌。
修辞
- 掛詞
- 「かみ」に「神」と「紙」を掛ける。紙を賜った恩を、神のご利益にたとえた。
解説
『枕草子』執筆の背景をうかがわせる段として注目される。中宮から賜った紙が、作者の書く営みと結びついていたことがわかる。
作者が気が沈んで里にこもっていたのは、中関白家没落後の時期と考えられる。中宮が作者の何気ない言葉を覚えていて、そっと慰めの品を贈るところに、苦しい時期の主従の深い絆が表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、332–334頁(コマ175–177)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日