枕草子 第216段 随想的章段
硯きたなげに
硯が塵まみれで、墨がだらしなく片減りしているのは心配になる。調度の中でも女は鏡と硯に人柄が表れる。男はなおさらで、硯箱を清らかに整えているのが好ましい。他人の硯を借りて「その筆は使わないで」と言われるのはつらく、下手な人が上手に使い込んだ筆を水びたしにするのも憎らしいと述べる。
- 1硯硯すずりきたなげきたなげきたなげににに塵塵ちりばみばみばみ、、、墨墨すみののの片片かたつかたつかたつかたにににしどけなくしどけなくしどけなくすりすりすりひらめかしひらめかしひらめかしらうらうろうおほきおほきおおきににになりなりなりたるたるたるががが、、、さゝしさゝしささしなどなどなどしししたるたるたるこそこそこそ心心こころもとなしもとなしもとなしととと覺覺おぼゆれゆれゆれ。。。よろづよろづよろずののの調度調度ちょうどはははさるさるさるものものものにてにてにて、、、女女おんなははは鏡鏡かがみ、、、硯硯すずりこそこそこそ心心こころのののほどほどほど見見みゆるゆるゆるなめれなめれなめれ。。。おきぐちおきぐちおきぐちのののはざめはざめはざめににに塵塵ちりゐゐいなどなどなどうちうちうち捨捨すてててたるたるたるさまさまさま、、、こよなしこよなしこよなしかしかしかし。。。男男おとこはははましてましてまして、、、ふふふ机机づくえ清清きよげげげにににおしおしおしのごひのごひのごいててて、、、重重かさねねねならすならすならすははは二二ふたつつつかけごかけごかけごののの硯硯すずりのののいといといとつきづきしうつきづきしうつきずきしゅう、、、蒔繪蒔繪まきえのののさまさまさまもももわざとわざとわざとならならならねねねどどどをかしうをかしうおかしゅうててて、、、墨墨すみ筆筆ふでのののさまさまさまなどなどなどももも人人ひとののの目目めとむとむとむばかりばかりばかりしししたてたてたてたるたるたるこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ。。。とととあれあれあれどどどかゝれかゝれかかれどどどおなじおなじおなじ事事こととてとてとて黑黑くろ箱箱ばこののの蓋蓋ふたもももかたしかたしかたしおちおちおちたるたるたる硯硯すずり、、、僅僅わずかかかににに墨墨すみのののゐゐいたるたるたる塵塵ちりのののこのこのこの世世よにににははは拂拂はらひひいがたげがたげがたげなるなるなるににに、、、水水みずうちうちうち流流ながしししてててあをじあをじあおじののの龜龜かめののの口口くちおちおちおちててて首首くびののの限限かぎりりりあなあなあなのののほどほどほど見見みえええててて、、、人人ひとわろきわろきわろきなどなどなどもももつれなくつれなくつれなく人人ひとののの前前まえにににさしさしさし出出いづづずかしかしかし。。。人人ひとののの硯硯すずりををを引引ひききき寄寄よせせせててて手手てならひならひならいをををももも文文ふみをををももも書書かくくくににに、、、「「「そのそのその筆筆ふでななな使使つかひひいたまひたまひたまいそそそ」」」ととと言言いははわれれれたらたらたらむむんこそこそこそいといといとわびしかるわびしかるわびしかるべけれべけれべけれ。。。うちうちうち置置おかかかむむんももも人人ひとわろしわろしわろし、、、猶猶なおつかふつかふつかうもももあやにくあやにくあやにくなりなりなり、、、さささおぼゆるおぼゆるおぼゆることことことももも知知しりりりたれたれたればばば人人ひとのののするするするもももいはいはいわででで見見みるるるににに、、、手手てなどなどなどよくよくよくもももあらあらあらぬぬぬ人人ひとののの、、、さすがさすがさすがににに物物ものかゝかゝかかまほしうまほしうまほしゅうするするするがががいといといとよくよくよくつかひつかひつかいかためかためかためたるたるたる筆筆ふでををを、、、あやしあやしあやしのののやうやうようににに水水みずがちがちがちにににさしさしさしぬらしぬらしぬらしててて、、、こここはははものものものややややりやりやりとととかなかなかなににに細櫃細櫃ほそびつののの蓋蓋ふたなどなどなどににに書書かきききちらしちらしちらしててて、、、横横よこざまざまざまににに投投なげげげ置置おきききたれたれたればばば、、、水水みずにににかしらかしらかしらはははさしさしさし入入いれれれてててふせるふせるふせるもももにくきにくきにくき事事ことぞぞぞかしかしかし。。。されどされどされどさささいはいはいわむむんやややははは。。。人人ひとののの前前まえににに居居いたるたるたるににに「「「あなあなあなくらくらくら、、、あうあうおうよりよりより給給たまへへえ」」」ととといひいひいいたるたるたるこそこそこそ又又また侘侘わびしけれしけれしけれ。。。さしさしさしのぞきのぞきのぞきたるたるたるををを見見みつけつけつけてててははは驚驚おどろきききいはいはいわれれれたるたるたるももも、、、思思おもふふう人人ひとののの事事ことにににはははあらあらあらずずずかしかしかし。。。
現代語訳
硯が汚らしく塵まみれで、墨が片方にだらしなくすり減って平たく大きくなっているのに、筆の穂先がばさばさになったりしているのは、気がかりだと思われる。いろいろな調度はもちろんだが、女は鏡と硯にこそ心のほどが見えるようだ。硯箱の置き口の合わせ目に塵がたまったまま放ってある様子は、ひどいものだ。男はなおさらで、文机をきれいに拭いて、重ね硯でなければ、二段の懸子の硯箱がたいそう似つかわしく、蒔絵の模様もわざとらしくはないが趣があって、墨や筆の様子なども人が目をとめるほどに整えてあるのはおもしろい。どうせ同じことだといって、黒箱の蓋も片方が落ちた硯で、わずかに墨のついた所の塵が、この世では払いきれないほどこびりついているのに、水をこぼして、青磁の亀の形の水滴の口が欠けて首だけ穴のあたりが見えていて、みっともないのも平気で人の前に差し出すものだ。人の硯を引き寄せて手習いをしたり手紙を書いたりするときに、「その筆はお使いにならないで」と言われたら、たいそうつらいだろう。置くのも体裁が悪いし、そのまま使うのも気がひける。そう思うことも知っているので、人がそうしても何も言わずに見ていると、字などもあまり上手でない人が、それでも何か書きたがって、たいそうよく使い込んで穂先の固まった筆を、妙な具合に水びたしにして、「こはものや、やり」などと仮名で細櫃の蓋などに書き散らして、横向きに投げ置いたので、穂先を水に突っ込んで倒れているのも憎らしいことだよ。けれども、そうは言えようか。人の前に座っているときに、「ああ暗い、奥へお寄りなさい」と言われたのは、またつらい。のぞき込んでいるのを見つけられて、驚いて言われたのも、思う人のことではないよ。
意訳
硯や筆の扱い方から人柄を見る、作者の細かな観察である。塵まみれで墨が片減りした硯、ばらけた筆、欠けた水滴を平気で人前に出す無頓着さ。女は鏡と硯に心が表れ、男はなおさらだという。後半は、人の硯を借りて「その筆は使わないで」と言われるつらさと、逆に自分の大事な筆を下手な人に水びたしにされる憎らしさとが、両方の立場から語られる。道具を大切にする作者の感覚がよく伝わる。
語釈・文法注
文法
- 「かけご」
- 懸子。箱の中に掛けて入れる浅い箱。
- 「あをじの龜」
- 青磁の亀。亀の形をした青磁の水滴(硯に水を注ぐ器)。
- 「つかひかためたる筆」
- 使い込んで、穂先がよく整い固まった筆。
解説
身の回りの道具の手入れに、その人の品格が表れるという考えは、現代にも通じる。作者が能書を重んじ、筆や硯を大切にしていたことがよくわかる段である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、320頁(コマ163)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日