枕草子 第215段 日記的章段
大蔵卿ばかり耳とき人なし
大蔵卿藤原正光ほど耳のよい人はいない。職の御曹司で、作者が少将とひそひそ話をしていたのを聞きつけ、「そう言うなら今日は立つまい」と言ったので驚いた。
場面イラスト(準備中)
- 1ばかりばかりばかり耳耳みみときときとき人人ひとなしなしなし。。。まことにまことにまことに蚊蚊かののの睫睫まつげののの落落おつるつるつるほどほどほどももも聞聞ききききつけつけつけ給給たまひひいつつつべくべくべくこそこそこそありありありしかしかしか。。。職職しきののの御曹司御曹司みぞうしののの西西にしおもておもておもてににに住住すみみみしししころころころ、、、大殿大殿おおとのののの四位四位しい少將少將しょうしょうととと物物ものいふいふいうににに、、、そばそばそばにににあるあるある人人ひとこのこのこの少將少將しょうしょうににに「「「扇扇おうぎののの繪繪えののの事事こといへいへいえ」」」とととさゝめけさゝめけささめけばばば「「「今今いまかのかのかの君君きみ立立たちちち給給たまひひいなななむむんにににををを」」」とととみそかみそかみそかにににいひいひいい入入いるゝるゝるるををを、、、そのそのその人人ひとだにだにだにえええ聞聞ききききつけつけつけででで、、、何何なにとととかかか何何なにとととかかかととと耳耳みみをををかたぶくるかたぶくるかたぶくるににに、、、手手てをををうちうちうちててて「「「にくしにくしにくし。。。さささのたまはゞのたまはゞのたまわば今日今日きょうはははたゝたゝたたじじじ」」」とととのたまふのたまふのたまうこそこそこそいかでいかでいかで聞聞きききき給給たまひひいつつつらむらむらんとととあさましかりあさましかりあさましかりしかしかしか。。。
現代語訳
大蔵卿ほど耳のよい人はいない。本当に、蚊のまつげの落ちる音でさえ聞きつけなさりそうなほどであった。職の御曹司の西面に住んでいたころ、大殿の四位の少将と話をしていると、そばにいる人がこの少将に「扇の絵のことを言いなさい」とささやいたので、私が「今にあの方がお立ちになるでしょうから、そのときに」とこっそり言い入れたのを、その人でさえ聞き取れず、「何ですか、何ですか」と耳を傾けているのに、大蔵卿は手を打って、「憎らしい。そうおっしゃるなら、今日は立つまい」とおっしゃったのは、どうして聞きつけなさったのだろうと、あきれてしまった。
意訳
大蔵卿の地獄耳ぶりを伝える逸話である。作者がひそひそ声で「あの方が立ったら」と言ったのを、すぐそばの人さえ聞き取れなかったのに、少し離れた大蔵卿は聞きつけて「それなら今日は帰らない」と言い返した。「蚊の睫の落つるほども」という大げさな表現が楽しい。
語釈・文法注
- 大藏卿
- 藤原正光。関白兼通の子で、大蔵卿を務めた。
文法
- 「蚊の睫の落つるほども」
- 極めて小さな音のたとえ。中国の『列子』などに見える表現に基づく。
- 「大殿の四位少將」
- 藤原道長の子とされるが、誰を指すかは諸説ある。
解説
前段とともに、耳のよい男性の逸話である。ひそひそ話が筒抜けだった驚きを、ユーモラスに描いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、319–320頁(コマ162–163)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日