枕草子 第211段 日記的章段
細殿に便なき人なむ
細殿から明け方に男が傘をさして出て行ったという噂が立ち、それが作者のことだった。中宮から、大きな傘の絵に手だけを描き「三笠山やまの端あけしあしたより」と書いた手紙が届く。作者は雨の絵に「雨ならぬ名のふりにけるかな」と書き添えて、濡れ衣だと申し上げた。
- 1「「「ほそほそほそ殿殿どのにににびんなきびんなきびんなき人人ひとなむなむなん曉曉あかつきにににかさかさかささゝさゝささせせせててて出出いでででけるけるける」」」ととといひいひいい出出いでででたるたるたるをををよくよくよく聞聞きけけけばばば我我わががが上上うえなりなりなりけりけりけり。。。地下地下じげなどなどなどいひいひいいてててもももめやすくめやすくめやすく人人ひとににに許許ゆるささされれれぬぬぬばかりばかりばかりののの人人ひとにににもももあらあらあらざざざめるめるめるををを、、、あやしあやしあやしののの事事ことやややととと思思おもふふう程程ほどににに、、、うへうへうえよりよりより御御おん文文ふみもてもてもて來來きててて「「「返返かえりりり事事ごと唯今唯今ただいま」」」ととと仰仰おおせせせられられられたりたりたり。。。何事何事なにごとにににかかかととと思思おもひひいててて見見みれれればばば、、、大大おおかさかさかさのののかたかたかたをををかきかきかきててて人人ひとははは見見みえええずずず、、、唯唯ただ手手てのののかぎりかぎりかぎりかさかさかさをををとらへとらへとらえさせさせさせててて、、、下下しもににに
- 2「「「三笠山三笠山みかさやまやまやまやまのののはははあけあけあけしししあしたあしたあしたよりよりより」」」
- 3とととかゝかゝかかせせせ給給たまへへえりりり。。。猶猶なおはかなきはかなきはかなき事事ことにてにてにてもももめでたくめでたくめでたくのみのみのみおぼえおぼえおぼえさせさせさせ給給たまふふうににに、、、耻耻はずかしくしくしく心心こころづきづきずきなきなきなき事事ことはははいかでいかでいかで御覽御覽ごらんぜぜぜられられられじじじととと思思おもふふうににに、、、さるさるさるそらごとそらごとそらごとなどなどなどののの出出いでででくるくるくるこそこそこそ苦苦くるしけれしけれしけれどどどをかしうをかしうおかしゅうてててことことこと紙紙がみににに雨雨あめをををいみじういみじういみじゅう降降ふらららせせせててて、、、しもしもしもににに、、、
- 4「「「雨雨あめならならならぬぬぬ名名なのののふりふりふりにににけるけるけるかなかなかな。。。
- 5さてさてさてやややぬれぬれぬれぎぬぎぬぎぬにににははは侍侍はべらららむむん」」」ととと啓啓けいしししたれたれたればばば、、、右近右近うこん、、、內侍內侍ないしなどなどなどにににかたらかたらかたらせせせ給給たまひひいてててわらはわらはわらわせせせ給給たまひひいけりけりけり。。。
現代語訳
「細殿に、不都合な男が明け方に傘をさして出て行った」と人が言い出したのを、よく聞くと私のことであった。地下人などといっても、見苦しくなく、人に許されないほどの者でもないようなのに、妙なことだと思っているうちに、中宮様からお手紙を持って来て、「返事を今すぐ」とおっしゃった。何事かと思って見ると、大きな傘の絵を描いて、人の姿は見えず、ただ手だけで傘を持たせて、その下に、
三笠山の山の端が明けた朝から(傘をさして出て行ったという噂が立ったのね)
とお書きになっている。やはり、ちょっとしたことでも、すばらしいとばかり思われなさる中宮様に、恥ずかしく気に入らないようなことはどうかお目にかけまいと思っているのに、そんな作り話などが出てくるのはつらいけれど、おもしろくて、別の紙に雨をたくさん降らせた絵を描き、その下に、
雨ではない、根も葉もない噂の名が降ってしまったことです。
それでは、これは濡れ衣というものでございましょう」と申し上げたところ、中宮様は右近や内侍などに話してお笑いになった。
意訳
作者のもとから明け方に男が傘をさして帰っていった、という噂が立った。それを知った中宮は、傘の絵に手だけを描き、「三笠山」に「傘」を掛けた上の句を添えて送ってくる。作者は困りながらも、雨の絵を描いて「雨ならぬ名の降りにけるかな」と下の句をつけ、「ぬれぎぬ(濡れ衣)でございます」と返した。傘と雨と濡れ衣を掛けた、中宮と作者の息の合った絵と歌のやりとりである。
語釈・文法注
文法
- 「三笠山」
- 大和国の歌枕。「笠」に「傘」を掛ける。
- 「ふりにける」
- 「降り」に「古り」を掛け、噂が広まったことをいう。
- 「ぬれぎぬ」
- 濡れ衣。無実の罪。雨に濡れた衣を掛ける。
和歌
三笠山やまの端あけしあしたより(中宮定子)/雨ならぬ名のふりにけるかな(清少納言)
- 詠者
- 中宮定子と清少納言の連歌
- 状況
- 作者の局から男が傘をさして出て行ったという噂に、中宮が傘の絵とともに上の句を送り、作者が雨の絵とともに下の句を返した。
修辞
- 掛詞
- 「三笠」に「傘」、「ふり」に「降り」と「古り(噂が広まる)」を掛ける。
解説
噂をからかう中宮と、それに機知で応える作者との関係がほほえましい。絵と歌を組み合わせたやりとりに、二人の遊び心がうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、318頁(コマ162)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日