枕草子 第203段 随想的章段
いみじう暑き頃
たいそう暑いころの夕涼みの時刻、簾を上げて走らせる車は涼しげで、琵琶や笛の音が聞こえて過ぎていくのは名残惜しい。牛の鞦の匂いや、先払いの松明の煙が車にかかるのもおもしろいという。
場面イラスト(準備中)
- 1いみじういみじういみじゅう暑暑あつききき頃頃ころ、、、夕夕ゆうすゞみすゞみすずみととといふいふいう程程ほどののの物物もののののさまさまさまなどなどなどおぼめかしきおぼめかしきおぼめかしきににに、、、男男おとこ車車ぐるまのののさきさきさきおふおふおうはははいふいふいうべきべきべき事事ことにににもももあらあらあらずずず。。。たゞたゞただののの人人ひともももしりしりしりのののすだれすだれすだれあげあげあげててて、、、二人二人ふたりももも一人一人ひとりももも乘乘のりりりててて走走はしらららせせせててていくいくいくこそこそこそいといといと涼涼すずしげしげしげなれなれなれ。。。ましてましてまして琵琶琵琶びわひきひきひきならしならしならし、、、笛笛ふえのののねねね聞聞きこゆるゆるゆるははは、、、過過すぎぎぎててていぬるいぬるいぬるももも口惜口惜くちおしくしくしく、、、さやうさやうさようなるなるなるほどほどほどににに牛牛うしののの鞦鞦しりがいのののかかかのののあやしうあやしうあやしゅうかぎかぎかぎ知知しらららぬぬぬさまさまさまなれなれなれどどど、、、うちうちうちかゞかゞかがれれれたるたるたるがががをかしきをかしきおかしきこそこそこそ物物ものぐるほしけれぐるほしけれぐるおしけれ。。。いといといと暗暗くろううう闇闇やみなるなるなるににに、、、さきさきさきにににともしともしともしたるたるたる松松まつののの煙煙けぶりのののかかかののの車車くるまにににかゝれかゝれかかれるるるもももいといといとをかしをかしおかし。。。
現代語訳
たいそう暑いころ、夕涼みという時分の、物の形などがぼんやりと見えるころに、男の車が先払いをして行くのは言うまでもない。普通の人でも、後ろの簾を上げて、二人でも一人でも乗って走らせて行くのは、たいそう涼しそうである。まして琵琶をかき鳴らしたり、笛の音が聞こえたりするのは、通り過ぎて行ってしまうのも残念で、そういうときに、牛の鞦の匂いが、妙な、嗅ぎ慣れないものであるけれど、ふと嗅がれたのがおもしろいのは、我ながらどうかしている。たいそう暗い闇夜に、先払いがともしている松明の煙の匂いが、車に漂ってくるのもたいそうおもしろい。
意訳
夏の夕暮れから夜にかけての車の情景である。簾を上げて走る車は涼しげで、楽の音が通り過ぎていくのは名残惜しい。そして、牛の鞦(革の帯)の妙な匂いや、松明の煙の匂いまでもおもしろいと言う。作者自身も「物ぐるほし」と言うように、ふつうなら不快な匂いにまで趣を見いだすところに、夏の夜の高揚した気分が表れている。
語釈・文法注
文法
- 「おぼめかしき」
- ぼんやりとして、はっきりしない。
- 「鞦」
- 牛の尻にかける組紐や革の帯。
- 「物ぐるほしけれ」
- 正気の沙汰ではない、どうかしている。
解説
前段と同じく、匂いを含む感覚的な描写が印象的な段である。夏の夜の涼しさと、闇の中を行き交う車の気配が伝わってくる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、315頁(コマ160)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日