枕草子 第161段 日記的章段
宰相中将斉信、宣方の中将と
三月の末、宰相中将斉信が源宣方とともに参上した折、女房が「明日はどんな詩を」と尋ねると、斉信はすぐに「人間の四月をこそは」と答えた。過ぎた日の話題をきちんと覚えていて答える男は珍しく、すばらしいと作者は感嘆する。
場面イラスト(準備中)
- 1宰相宰相さいしょう中將中將ちゅうじょう、、、ののの中將中將ちゅうじょうととと參參まいりりり給給たまへへえるるるににに、、、人々人々ひとびと出出いでゝでゝでて物物ものなどなどなどいふいふいうににに、、、ついでついでついでもももなくなくなく「「「あすあすあすはははいかなるいかなるいかなる詩詩しをををかかか」」」ととといふいふいうににに、、、いさゝかいさゝかいささか思思おもひひいめぐらしめぐらしめぐらし、、、とゞこほりとゞこほりとどこおりもももなくなくなく「「「人間人間じんかんののの四月四月しがつをををこそこそこそははは」」」ととといらへいらへいらえ給給たまへへえるるるいみじういみじういみじゅうをかしくをかしくおかしくこそこそこそ。。。過過すぎぎぎたるたるたることことことなれなれなれどどど心心こころえええててていふいふいうはははをかしきをかしきおかしき中中なかにににももも女女にょうばうばうぼうなどなどなどこそこそこそさやうさやうさようののの物物ものわすれわすれわすれはははせせせねねね。。。男男おとこはははさささもももあらあらあらずずず、、、詠詠よみみみたるたるたる歌歌うたをををだにだにだになまなまなまおぼえおぼえおぼえなるなるなるををを誠誠まことにににをかしをかしおかし。。。內內うちなるなるなる人人ひとももも外外となるなるなる人人ひと心心こころえええずずずととと思思おもひひいたるたるたるぞぞぞことわりことわりことわりなるなるなるややや。。。
現代語訳
宰相中将斉信が、宣方の中将と一緒に参上なさったときに、女房たちが出て行って話などをしていると、何のきっかけもなく、私が「明日はどんな詩を」と言うと、少し思いめぐらして、ためらうこともなく、「人間の四月をこそは」とお答えになったのは、たいそうおもしろかった。過ぎたことでも、わかっていて言うのはおもしろいことの中でも、女房などは、そういう物忘れはしないものだ。男はそうではなく、自分の詠んだ歌さえうろ覚えなのに、本当におもしろい。御簾の内の人も外の人も、何のことかわからないと思っているのももっともだ。
意訳
作者が何の前置きもなく「明日はどんな詩を」と問いかけると、斉信は一瞬考えただけで「人間の四月をこそは」と答えた。これは、以前に二人の間で話題になった詩句を踏まえたやりとりで、周りの人々には何のことかさっぱりわからない。自分の詠んだ歌さえ忘れがちな男性の中で、過去の会話を覚えていて即座に応じた斉信の才気に、作者は大いに感心している。二人だけに通じる教養の符丁を楽しむ様子が伝わる。
語釈・文法注
- たゞのぶ
- 藤原斉信。参議で右近中将を兼ねた。容姿・才学にすぐれ、作者と親しく交流した。
- のぶかた
- 源宣方。右近中将。
文法
- 「人間の四月」
- 白居易の詩「人間四月芳菲尽、山寺桃花始盛開」(人の世では四月に花が散り尽くすが、山寺では桃の花が今盛り)を踏まえた答え。
- 「なまおぼえ」
- うろ覚え。
解説
漢詩の一句を合言葉のように用いた機知のやりとりである。周りの人がわからないのに二人だけが通じ合っていることを、作者は誇らしく書き留めている。
「男は詠みたる歌をだになまおぼえなる」という一言には、女房の記憶力に対する自負がうかがえる。
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出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、295頁(コマ150)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日