枕草子 第142段 随想的章段
正月十日
正月十日、身分の低い家の裏の畑で、若木の桃の枝を童たちが切って、卯槌の材料にしようとする。木に登った童に、下にいる子どもたちが「私にたくさん」とせがみ、男が来て木を揺さぶると、童が猿のようにしがみつく様子をおもしろく描く。
- 1正月正月しょうがつ十日十日とおか、、、空空そらいといといとくらうくらうくろう雲雲くもももも厚厚あつくくく見見みえええながらながらながら、、、さすがさすがさすがににに日日ひはははいといといとけざやかけざやかけざやかににに照照てりりりたるたるたるにににえせえせえせものゝものゝものの家家いえのののうしろうしろうしろ、、、あらばたけあらばたけあらばたけなどなどなどいふいふいうものゝものゝものの土土つちもももうるはしううるはしううるわしゅうなほからなほからなおからぬぬぬににに、、、桃桃ももののの木木きわかだちわかだちわかだちててていといといとしもとしもとしもとがちがちがちにににさしさしさし出出いでででたるたるたる、、、片片かたつつつ方方かたははは靑靑あおくくく今今いま片枝片枝かたえだははは濃濃こくくくつやゝかつやゝかつややかにてにてにて蘇枋蘇枋すおうのののやうやうようににに見見みえええたるたるたるにににほそやかほそやかほそやかなるなるなる童童わらわののの狩衣狩衣かりぎぬはははかけかけかけやりやりやりなどなどなどしししててて、、、髪髪かみははは麗麗うるわしきしきしきがががのぼりのぼりのぼりたれたれたればばば、、、又又また紅梅紅梅こうばいのののきぬきぬきぬ白白しろきききなどなどなど、、、ひきひきひきはこえはこえはこえたるたるたるをのこをのこおのこ、、、はうくわはうくわほうかはきはきはきたるたるたる、、、木木きのののもともともとににに立立たちちちててて「「「我我われににによきよきよき木木き切切きりりりててていでいでいで」」」などなどなど乞乞こふふうににに、、、又又また髪髪かみをかしげをかしげおかしげなるなるなるわらはべわらはべわらわべののの袙袙あこめどもどもども綻綻ほころびびびがちがちがちにてにてにて袴袴はかまはははなえなえなえたれたれたれどどど、、、色色いろなどなどなどよきよきよき、、、うちうちうち着着きたるたるたる三四人三四人さんしにん「「「ののの木木きのののよからよからよからむむん切切きりりりててておろせおろせおろせ。。。こゝこゝここににに召召めすすすぞぞぞ」」」などなどなどいひいひいいててて、、、おろしおろしおろしたれたれたればばば、、、はしりはしりはしりがひがひがい、、、「「「とりわきとりわきとりわき我我われににに多多おおくくく」」」などなどなどいふいふいうこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ。。。黑黑くろききき袴袴はかま着着きたるたるたるをのこをのこおのこ走走はしりりり來來きててて乞乞こふふうににに「「「まてまてまて」」」などなどなどいへいへいえばばば、、、木木きのののもともともとににによりよりよりててて引引ひきききゆるがすゆるがすゆるがすににに危危あやふふうがりがりがりててて猿猿さるのののやうやうようにににかいかいかいつきつきつきててて居居いるるるもももをかしをかしおかし。。。梅梅うめなどなどなどのののなりなりなりたるたるたる折折おりもももさやうさやうさようにににぞぞぞあるあるあるかしかしかし。。。
現代語訳
正月十日ごろ、空はたいそう暗く、雲も厚く見えながら、それでも日はたいそうはっきりと照っているときに、身分の低い者の家の裏の、荒畑などというものの、土もきちんと平らになっていない所に、桃の木が若々しく伸びて、たいそう細い枝がたくさん出ているのが、片側は青く、もう片方の枝は濃くつややかで蘇芳色のように見えているところへ、ほっそりとした童で、狩衣はかぎ裂きなどができていて、髪はきれいな子が木に登っていると、また、紅梅の衣や白い衣などを着て、裾をたくし上げた男の子で、半靴をはいた子が、木の下に立って、「ぼくにいい枝を切っておくれ」などとせがむ。また、髪のかわいらしい女の子たちで、袙がほころびがちで、袴はよれよれになっているけれど、色などのよいのを着た三、四人が、「卯槌の木のよさそうなのを切っておろして。こちらでご入用なのよ」などと言って、枝をおろすと、奪い合って、「特に私にたくさん」などと言うのはおもしろい。黒い袴を着た男が走って来て枝をせがむと、童が「待って」などと言うので、男が木のもとに寄って揺さぶると、危ながって猿のようにしがみついているのもおもしろい。梅などの実がなっている時も、そんなふうであるよ。
意訳
正月の卯槌作りのために、桃の若枝を切る子どもたちの姿を、生き生きと描いた段である。木に登った童、下からせがむ男の子や女の子たち、奪い合う姿、そして木を揺さぶられて猿のようにしがみつく童。身分の低い家の荒れた畑という舞台の中に、子どもたちの元気な様子と、桃の枝の色の美しさが浮かび上がる。
語釈・文法注
- 卯槌
- 正月の上の卯の日に、邪気を払うために贈り合った槌。桃の木などで作り、五色の糸を垂らした。
文法
- 「しもと」
- 細長く伸びた若い枝。
- 「ひきはこえたる」
- 裾をたくし上げた。
- 「はしりがひ」
- 走り交ひ。先を争って奪い合うこと。
解説
作者の観察は、宮廷の外の、身分の低い人々の暮らしにまで及んでいる。子どもたちの服装や言葉づかいまで細かく書きとめているところに、作者の好奇心がうかがえる。
桃の枝の色を「片つ方は靑く今片枝は濃くつやゝかにて蘇枋のやうに」と描くなど、色彩の描写も鮮やかである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、286–287頁(コマ146)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日