枕草子 第104段 日記的章段
雨のうちはへ降るころ
長雨のころ、中宮の使いで来た式部丞信経は、敷物を遠くへ押しやり「雨の日に上がれば足形がついて汚くなる」と言う。作者が「洗足料にでもなるでしょう」と応じると、信経は自分の言葉のおかげだと得意がる。信経は字も下手で、作者に題を出されて逃げ出す。
- 1雨雨あめのののうちうちうちはへはへはえ降降ふるるるころころころ今日今日きょうもももふるふるふるににに、、、御御おおん使使つかいにてにてにて式式しき部部ぶのののじようじようじよう參參まいりりりたりたりたり。。。例例れいのののしとねしとねしとねさしさしさし出出いだしししたるたるたるををを、、、常常つねよりよりよりももも遠遠とおくくく押押おししし遣遣やりりりててて居居いたれたれたればばば、、、「「「あれあれあれははは誰誰たがががれうれうりょうぞぞぞ」」」ととといへいへいえばばば笑笑わらひひいててて、、、「「「かゝるかゝるかかる雨雨あめにににのぼりのぼりのぼり侍侍はべらららばばばあしあしあしがたがたがたつきつきつきててていといといとふびんふびんふびんにににきたなげきたなげきたなげににになりなりなり侍侍はべりりりなななむむん」」」ととと言言いへへえばばば「「「などなどなど。。。せんぞくせんぞくせんぞくれうれうりょうにににこそこそこそはははならならならめめめ」」」ととといふいふいうををを、、、「「「これこれこれははは御御おまへまへまえにににかしこうかしこうかしこう仰仰おおせせせらるゝらるゝらるるにににはははあらあらあらずずず。。。のぶつねのぶつねのぶつねがががあしあしあしがたがたがたののの事事ことををを申申もうさささゞらゞらざらましかましかましかばばば、、、えええのたまはのたまはのたまわざらざらざらましましまし」」」とてとてとてかへすがへすかへすがへすかえすがえすいひいひいいしししこそこそこそをかしかりをかしかりおかしかりしかしかしか。。。あまりあまりあまりなるなるなる御御おおん身身みぼめぼめぼめかなかなかなとととかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたく。。。はやうはやうはようおほきさいおほきさいおおきさいのののみやみやみやにににととといひいひいいててて名名な高高だかきききしもしもしもづかへづかへずかえなむなむなんありありありけるけるける。。。美美み濃濃のののの守守かみにてにてにて亡亡うせせせにににけるけるける藤藤ふじ原原はらののの時時とき柄柄から、、、藏藏くら人人うどなりなりなりけるけるける時時とき、、、下下しもづかへづかへずかえどもどもどもあるあるある所所ところににに立立たちちち寄寄よりりりててて「「「これこれこれやややこのこのこの高高こう名名みょうのののゑぬたきゑぬたきえぬたきなどなどなどさささももも見見みえええぬぬぬ」」」ととと言言いひひいけるけるける返返かえ事事りごとににに、、、「「「それそれそれはははときからときからときからもももさささももも見見みゆるゆるゆる名名ななりなりなり」」」ととといひいひいいたりたりたりけるけるけるなむなむなん、、、かたきかたきかたきにににえりえりえりてててもももいかでいかでいかでかかかさるさるさる事事ことはははあらあらあらむむん。。。殿上人殿上人てんじょうびと上上かん達達だち部部めまでまでまでももも興興きょうあるあるある事事ことにににのたまひのたまひのたまいけるけるける。。。「「「又又またさりさりさりけるけるけるなななめりめりめりととと今今いままでまでまでかくかくかく言言いひひい傳傳つたふるふるうるははは」」」ととと聞聞きこえええたりたりたり。。。「「「それそれそれ又又また時時ときからからからがががいはいはいわせせせたるたるたるなりなりなり。。。すべてすべてすべて題題だい出出いだしししかうかうこうなむなむなんふみふみふみももも歌歌うたもももかしこきかしこきかしこき」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「げにげにげにさるさるさる事事ことあるあるあることことことなりなりなり。。。さらばさらばさらば題題だい出出いださささむむん。。。歌歌うたよみよみよみ給給たまへへえ」」」ととといふいふいうににに、、、「「「いといといとよきよきよき事事こと。。。ひとつひとつひとつはははなになになにせせせむむん。。。同同おなじうじうじゅうはははあまたあまたあまたをををつかうまつらつかうまつらつこうまつらむむん」」」などなどなどいふいふいうほどほどほどににに、、、御御おおん題題だいははは出出いでででぬれぬれぬればばば、、、「「「あなあなあなおそろしおそろしおそろし。。。まかりまかりまかりいでいでいでぬぬぬ」」」とてとてとて立立たちちちぬぬぬ。。。手手てもももいみじういみじういみじゅう、、、まなまなまなもももかんなかんなかんなもももあしうあしうあしゅう書書かくくくををを、、、人人ひとももも笑笑わらひひいなどなどなどすれすれすればばば「「「かくしかくしかくしてててなむなむなんあるあるある」」」ととといふいふいうもももをかしをかしおかし。。。
現代語訳
雨がずっと降り続くころ、今日も降っているところに、中宮様のお使いとして式部丞信経が参上した。いつものように敷物を差し出したのを、いつもより遠くに押しやって座っているので、「あれは誰のための敷物かしら」と言うと、笑って、「こんな雨の日に上がりましたら、足形がついて、たいそう不都合に汚くなってしまうでしょう」と言うので、「どうして。洗足料にでもなるでしょうに」と言うのを、「これは、あなたがうまくおっしゃったのではありません。信経が足形のことを申し上げなかったら、おっしゃれなかったでしょう」と言って、何度も繰り返したのは、おもしろかった。あまりにひどい自画自賛だと、聞いていていたたまれない。昔、大后の宮に、えぬたきという名で有名な下仕えがいた。美濃守で亡くなった藤原時柄が蔵人だった時、下仕えたちがいる所に立ち寄って、「これがあの名高いえぬたきか。そうも見えない」と言った返事に、「それは、ときから(時柄、時節がら)もそう見える名なのです」と言ったというのは、わざわざ敵を選んでも、どうしてそんなにうまくいこうか。殿上人や上達部までも、おもしろいこととしておっしゃったそうだ。「また、そうだったのだろうと、今までこう言い伝えているのは」と信経が申し上げた。「それもまた、時柄が言わせたのです。何事も、題の出し方によって、文も歌も上手になるのです」と私が言うと、「本当にそういうことはあるものです。それでは題を出しましょう。歌をお詠みください」と言うので、「たいそうよいこと。一つだけでは何になりましょう。同じことなら、たくさんお詠みしましょう」などと言っているうちに、中宮様から御題が出たので、「ああ恐ろしい。退散いたします」と言って立ち去った。字もひどく、漢字も仮名も下手に書くので、人々も笑ったりすると、「隠しているのです」と言うのもおもしろい。
意訳
雨の日に使いに来た信経は、敷物を遠ざけて「足形で汚してしまう」と言う。作者が「洗足料になるでしょう」と応じると、信経は「私が足形と言ったからこそ、あなたも言えたのだ」と得意になる。さらに、時柄とえぬたきの古い逸話を引き合いに出して、題の出し方次第で歌もうまくなる、と作者が言うと、信経は「では題を出しましょう」と言いながら、中宮から本当に題が出ると逃げ出してしまう。字も下手な信経の憎めない人柄が、ユーモラスに描かれている。
語釈・文法注
- のぶつね
- 藤原信経。式部丞。
- ゑぬたき
- 大后の宮(藤原穏子)に仕えた下仕えの名。「犬抱き」の意か。
文法
- 「せんぞくれう」
- 洗足料。足を洗うための料。「千束(せんぞく)」にかけた洒落とする説もある。
- 「ときからもさも見ゆる名」
- 「時柄(時節がら)」と、相手の名「時柄」とをかけた機知の返答。
- 「まなもかんなも」
- 真名(漢字)も仮名も。
解説
信経をめぐるユーモラスな逸話を描いた日記的章段である。作者の機知に便乗して自分の手柄を主張する信経の姿は、前段の隆家の「隆家がことにしてむ」とも響き合っている。
時柄とえぬたきの古い逸話は、題の出し方によって機知の返答が生まれることの例として引かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、254–255頁(コマ130)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日