枕草子 第94段 日記的章段
うへの御局のみすの前にて
夕暮れ、上の御局で殿上人の管絃の遊びが果てたころ、灯火に照らされた中宮定子が、紅の衣の袖を黒い琵琶にかけて、額だけをのぞかせている姿は、白居易の詩に詠まれた琵琶を抱く女よりもすばらしいと、作者がたたえる。

- 1うへうへうえののの御御み局局つぼねのののみすみすみすののの前前まえにてにてにて、、、殿上人殿上人てんじょうびと日日ひひとひとひと日日ひ、、、ことことこと、、、笛笛ふえ吹吹ふききき遊遊あそびびびくらしくらしくらしててて、、、まかでまかでまかで別別わかるゝるゝるる程程ほど、、、まだまだまだ格格こう子子しをををまゐらまゐらまいらぬぬぬににに、、、おほとなぶらおほとなぶらおおとなぶらをををさしさしさし出出いでででたれたれたればばば、、、とととのののあきあきあきたるたるたるがががあらはあらはあらわなれなれなればばば、、、琵琵び琶琶わののの御御おおんことことことをををたゞたゞただざまざまざまにににもたもたもたせせせ給給たまへへえりりり。。。紅紅くれないののの御御おおんぞぞぞのののいふいふいうもももよよよのののつねつねつねなるなるなる。。。袿袿うちき又又またはりはりはりたるたるたるもももあまたあまたあまた奉奉たてまつりりりててて、、、いといといと黑黑くろくくくつやゝかつやゝかつややかなるなるなる御御おおん琵琵び琶琶わににに、、、御御おおんぞぞぞののの袖袖そでをををうちうちうちかけかけかけててて捕捕とらへへえさせさせさせ給給たまへへえるるるめでたきめでたきめでたきににに、、、そばそばそばよりよりより御御おおんひたひひたひひたいのののほどほどほど白白しろくくくけざやかけざやかけざやかにてにてにて、、、僅僅わずかににに見見みえええさせさせさせ給給たまへへえるるるははは譬譬たとふふうべきべきべきかたかたかたなくなくなくめでたしめでたしめでたし。。。近近ちかくくく居居い給給たまへへえるるる人人ひとにににさしさしさし寄寄よりりりててて「「「なかばなかばなかば隱隱かくしししたりたりたりけむけむけんもももえええかうかうこうはははあらあらあらざりざりざりけむけむけんかしかしかし。。。それそれそれはははたゞたゞただ人人びとにににこそこそこそありありありけめけめけめ」」」ととといふいふいうををを聞聞ききききててて、、、心心ここちちちもももなきなきなきををを、、、わりなくわりなくわりなく分分わけけけ入入いりりりてててけいすれけいすれけいすればばば、、、笑笑わらははわせせせ給給たまひひいててて「「「我我われははは知知しりりりたりたりたりややや」」」とととなむなむなん仰仰おおせせせらるゝらるゝらるるととと傳傳つたふるふるうるもももをかしをかしおかし。。。
現代語訳
上の御局の御簾の前で、殿上人が一日じゅう琴や笛を吹いて遊び暮らして、退出して別れるころ、まだ格子を下ろさないうちに、灯火を差し出したので、外の戸が開いていて中が丸見えなので、中宮様は琵琶を縦にしてお持ちになっていた。紅の御衣は、言うのも月並みなほどすばらしい。袿や、また張った衣もたくさんお召しになって、たいそう黒くつややかな御琵琶に、御衣の袖をかけて抱えていらっしゃるのがすばらしいうえに、そのそばから、御額のあたりが白くくっきりと、わずかにお見えになっているのは、たとえようもなくすばらしい。近くに座っている人に寄って、「半ば顔を隠していたという女も、とてもこれほどではなかったでしょう。それはただの身分の人だったのでしょうから」と言うのを、その人が聞いて、通り道もないのに無理に人々を分けて入っていって中宮様に申し上げると、お笑いになって、「私が誰か、わかっているのかしら」とおっしゃったと伝えてくるのも、おもしろい。
意訳
管絃の遊びの後、灯火のもとで琵琶を縦に抱える定子の姿は、紅の衣と黒い琵琶、白い額とが鮮やかな対比をなして、作者には絵のように美しく見えた。作者は白居易「琵琶行」で顔を半ば隠して琵琶を抱く女を引き合いに出し、それとて定子には及ばないとたたえる。その言葉を伝え聞いた定子は「私が誰か分かっているのかしら」と笑う。主君への賛美と、それを軽く受け流す定子の機知とが響き合う段である。
語釈・文法注
文法
- 「たゞざまに」
- 縦にまっすぐに。琵琶を縦に抱えるさま。
- 「なかば隱したりけむ」
- 白居易「琵琶行」の「猶抱琵琶半遮面(なお琵琶を抱きて半ば面を遮る)」による。
- 「我は知りたりや」
- 「(琵琶行の女は)別れを告げに来た人の妻だったが、私が誰か分かっているのか」の意。琵琶行の女が商人の妻であったことを踏まえて、からかい返した言葉と解される。
解説
中宮定子の美しさをたたえた日記的章段で、灯火に照らされた定子の姿が色彩豊かに描かれている。紅、黒、白の対比が鮮やかである。
「琵琶行」を踏まえた作者の賛辞と、それに対する定子の応答には、漢詩文の教養を共有する主従の、知的で親密な関係がうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、244頁(コマ125)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日