枕草子 第91段 随想的章段
内裏は五節のほどこそ
五節のころの内裏はなんとなく華やいで趣がある。色とりどりの飾り、歌いながら局の前を通る殿上人、帳台の試みの夜に蔵人の制止も聞かず押し入る中宮方の女房たち、童女御覧の夜の灯火に照らされた童女の顔などを描く。

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現代語訳
内裏は、五節のころこそ、なんとなく普通でない感じがして、見る人もおもしろく思われる。主殿寮の女官などが、色とりどりの細工物を、物忌みの札のようにして彩色して付けているのなども、珍しく見える。清涼殿の反り橋に、元結の斑濃をたいそう鮮やかにつけて出て座っているのも、何かにつけて趣深いばかりで、上の雑仕や童たちが、たいへんな晴れ舞台と思っているのは、もっともなことだ。山藍や日陰の葛などを柳筥に入れて、冠をかぶった男が持ち歩くのも、たいそう趣深く見える。殿上人が直衣の肩を脱いで垂らし、扇や何やで拍子をとって、「つかさまされどしきなみぞたつ」という歌を歌って局の前を通る時は、たいそう宮仕えに慣れた人でも心が騒ぐにちがいない。まして、どっと一斉に笑ったりするのは、たいそう恐ろしい。行事の蔵人の掻練襲は、ほかの物より格別に美しく見える。敷物などを敷いてあるけれど、かえって上って座ることもできない。女房たちの出ている様子をほめたりけなしたりして、このころはほかのことは何もないようだ。帳台の試みの夜、行事の蔵人がたいそう厳しく取り締まって、「介添えの女房二人と、童女のほかは入ってはならない」と押さえて、憎らしいほどに言うので、殿上人などが「せめてこの人一人だけは」などとおっしゃる。「うらやむ者が出ます。どうしてそんなことが」などと頑固に言うのに、中宮様付きの女房が二十人ほど、一団となって、仰々しく言っていた蔵人を何とも思わず、戸を押し開けてささやき合いながら入っていくので、蔵人はあきれて「これはまあ、どうしようもない世の中だ」と言って立っているのもおもしろい。それにつられて、ほかの介添えの女房たちもみな入っていく様子は、蔵人にとってたいそうしゃくなようだ。帝もいらっしゃって、たいそうおもしろいとご覧になっていらっしゃることだろう。童女御覧の夜は、たいそう趣がある。灯台に向かっている童女たちの顔は、たいそうかわいらしく、趣深かった。
意訳
五節のころの宮中は、どこもかしこも浮き立っている。色とりどりの飾り、晴れ着の童たち、歌いながら局の前を通る殿上人。帳台の試みの夜、蔵人が厳しく出入りを制限するのに、中宮付きの女房二十人ほどが平然と押し入っていく場面は、定子の後宮の女房たちの意気盛んな様子を伝えて痛快である。最後は、灯火に照らされた童女たちのかわいらしい顔で結ばれる。
語釈・文法注
文法
- 「つかさまされどしきなみぞたつ」
- 五節の夜に殿上人が歌った歌謡の一節。「つかさ」(官職)と「しき波」をかけた歌と考えられる。
- 「帳臺の夜」
- 帳台の試み。五節の舞姫が、常寧殿の帳台で天皇の前で舞を試演する儀式。
- 「わらは舞の夜」
- 童女御覧。五節の舞姫に付き添う童女を、天皇が清涼殿で御覧になる儀式。
解説
五節のころの宮中の華やぎを描いた段である。前の二段に続き、五節にまつわる情景が描かれている。
中宮付きの女房たちが蔵人の制止を無視して押し入る場面には、定子の後宮の女房たちの自信と誇りがよく表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、242–243頁(コマ124)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日