枕草子 第56段 随想的章段
殿上の名対面こそ
夜の宿直の点呼である殿上の名対面のおもしろさを描く。名乗りを聞いて胸がときめく女房たち、滝口の武士の点呼、蔵人の作法、点呼をしくじって笑われる蔵人雅平の失敗談などが語られる。

- 1殿殿てん上上じょうのののこそこそこそ猶猶なおをかしけれをかしけれおかしけれ。。。御御お前前まえににに人人ひと侍侍さぶらふふうをりをりおりはははやがてやがてやがて問問とふふうもももをかしをかしおかし。。。足足あし音音おとどもどもどもしししてててくづれくづれくずれ出出いづるづるずるををを、、、うへうへうえののの御御み局局つぼねのののひんがしひんがしひんがしおもておもておもてににに耳耳みみおとなへおとなへおとなえててて聞聞きくくくににに、、、知知しるるる人人ひとののの名名なのりのりのりにににはははふとふとふと胸胸むねつぶるつぶるつぶるらむらむらんかしかしかし。。。又又またありありありともともともよくよくよく聞聞きかかかぬぬぬ人人ひとをををもももこのこのこの折折おりににに聞聞ききききつけつけつけたらたらたらむむんはははいかゞいかゞいかが覺覺おぼゆゆゆらむらむらん。。。名名なのりのりのりよしよしよしあしあしあし聞聞ききききにくゝにくゝにくく定定さだむるむるむるもももをかしをかしおかし。。。はてはてはてぬるぬるぬるなりなりなりととと聞聞きくくく程程ほどににに、、、瀧瀧たき口口ぐちののの弓弓ゆみならしならしならし、、、くつくつくつののの音音おとそゝめきそゝめきそそめき出出いづるづるずるににに、、、藏藏くら人人うどのののいといといと高高たかくくくふみふみふみこぼめかしこぼめかしこぼめかしててて、、、うしとらうしとらうしとらののの隅隅すみののの高高こう欄欄らんにににたかたかたかひざまづきひざまづきひざまずきとかとかとかやややいふいふいうゐずまひゐずまひいずまいににに、、、御御お前前まえのののかたかたかたににに向向むかひひいててて、、、「「「うしろうしろうしろざまざまざまににに、、、誰々誰々たれたれががが侍侍はべるるる」」」ととととふとふとう程程ほどこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ。。。細細ほそううう高高たこううう名名なのりのりのり、、、「「「まだまだまだ人々人々ひとびとさふらはさふらはさうらわねねねばばばにににややや、、、なだいめんなだいめんなだいめん仕仕つかうまつらうまつらうまつらぬぬぬよしよしよし奏奏そうするするするももも、、、いかにいかにいかに」」」ととと問問とへへへばばば、、、さはるさはるさわる事事ことどもどもども申申もうすすすににに、、、さささ聞聞ききききててて歸歸かえるるるををを、、、まさひろまさひろまさひろはははきかきかきかずずずとてとてとて君君きん達達だちののの敎敎おしへへへけれけれければばば、、、いみじういみじういみじゅう腹腹はらだちだちだちしかりしかりしかりててて、、、かんがへかんがへかんがえててて瀧瀧たき口口ぐちにににさへさへさへ笑笑わらははわるるる。。。みづしみづしみずし所所どころのののおおお物物もの棚棚だなととといふいふいうものものものににに沓沓くつおきおきおきててて拂拂はらへへえいひいひいいのゝしるのゝしるののしるをををいとほしいとほしいとおしがりがりがりててて「「「たがたがたが沓沓くつにににかかかあらあらあらむむんえええ知知しらららずずず」」」ととととのもりとのもりとのもりつかさつかさつかさ人々人々ひとびとのののいひいひいいけるけるけるををを「「「やゝやゝややまさひろまさひろまさひろがががきたなききたなききたなき物物ものぞぞぞややや」」」。。。とりとりとりににに來來きてててもももいといといとさわがしさわがしさわがし。。。
現代語訳
殿上の名対面は、やはりおもしろい。帝の御前に人が控えているときは、そのまま問うのもおもしろい。足音をさせてどやどやと出てくるのを、弘徽殿の上の御局の東側で耳をすまして聞いていると、知っている人の名乗りには、ふと胸がどきりとするだろう。また、宮中にいるとも聞かない人の名を、この折に聞きつけたとしたら、どんな気持ちがするだろう。名乗りがよいの悪いのと、聞きにくいほど品定めをするのもおもしろい。名対面が終わったようだと聞いているうちに、滝口の武士が弓を鳴らし、沓の音がざわざわと出てくると、蔵人がたいそう高く足音を鳴らして、丑寅の隅の高欄に、「高ひざまずき」とかいう座り方で、御前の方に向かって、背中を見せたまま「誰々が控えているか」と問うのは、おもしろい。滝口が細く高く名乗り、「まだ人々がそろっておりませんので、名対面をいたしません旨を奏上いたしますが、いかがでしょう」と蔵人が問うと、滝口が差し支えのあることなどを申し上げるので、蔵人がそのまま聞いて帰ろうとするのを、雅平は聞かなかったといって、君達が教えたところ、雅平はひどく腹を立てて滝口をしかり、取り調べて、滝口にまで笑われた。御厨子所の御膳棚というものに沓を置いて、雅平がそれを片づけろと言い騒いだのを、気の毒がって「誰の沓だろう、分かりません」と主殿司の人々が言ったのを、「おやまあ、雅平の汚い物だよ」。取りに来てもたいそうやかましい。
意訳
名対面は、夜の宿直の殿上人たちが名を名乗る点呼の儀式。女房たちは御簾の内で耳をすまし、恋人の声に胸を高鳴らせ、名乗りの声のよしあしを品評する。続く滝口の点呼では、蔵人雅平が手順を知らずに失敗し、滝口の武士にまで笑われ、さらに自分の沓を御膳棚に置き忘れて恥をかく。儀式の荘重さと、その周りで起こる滑稽な失敗とを対比させた、作者らしい観察である。
語釈・文法注
- なだいめん
- 名対面。毎夜亥の刻(午後十時ごろ)に、宿直の殿上人が名を名乗る点呼。続いて滝口の武士の点呼も行われた。
文法
- 「耳おとなへて」
- 耳を澄まして。
- 「たかひざまづき」
- 片ひざを立ててひざまずく座り方。
- 「まさひろ」
- 蔵人源雅平(まさひら)か。
- 「みづし所」
- 御厨子所。天皇の食事を調える所。
解説
夜の宮中の儀式である名対面を描いた段である。御簾の内の女房たちにとって、名対面は恋人や知人の声を聞くことのできる、ひそかな楽しみの時間でもあった。
後半の雅平の失敗談は、儀式の作法に疎い人物が笑い者になるという、宮廷社会の厳しさとおかしみを伝えている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、212頁(コマ109)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日