枕草子 第52段 類聚的章段
にげなきもの
似つかわしくないものとして、髪の悪い人の白い綾の衣、下手な字を赤い紙に書いたもの、下々の家に降る雪や差し込む月の光、歯のない老女が梅を食べて酸っぱがる様子、夜中に細殿に忍び込む六位の蔵人などを挙げる。

- 1ものものもの題
- 2髪髪かみあしきあしきあしき人人ひとのののしろきしろきしろき綾綾あやのののきぬきぬきぬ着着きたるたるたる。。。しゞらかみしゞらかみしじらかみたるたるたる髪髪かみににに葵葵あおいつけつけつけたるたるたる。。。あしきあしきあしき手手てををを赤赤あかききき紙紙かみににに書書かきききたるたるたる。。。下下げすすすののの家家いえににに雪雪ゆきののの降降ふりりりたるたるたる。。。又又また月月つきのののさしさしさし入入いりりりたるたるたるもももいといといとくちをしくちをしくちおし。。。月月つきのののいといといと明明あかきききにににやかたやかたやかたなきなきなき車車くるまにににあひあひあいたるたるたる。。。又又またさるさるさる車車くるまにににあめあめあめうしうしうしかけかけかけたるたるたる。。。老老おいいいたるたるたるものものものゝゝのはらはらはらたかくたかくたかくてててあへぎあへぎあえぎありくありくありく。。。又又また若若わかききき男男おとこもちもちもちたるたるたるいといといと見見みぐるしきぐるしきぐるしきににに、、、ことことこと人人びとのののもともともとににに行行ゆくくくとてとてとてねたみねたみねたみたるたるたる。。。老老おいいいたるたるたる男男おとこのののねねね惑惑まどひひいたるたるたる。。。又又またさやうさやうさようににに髯髯ひげがちがちがちなるなるなる男男おとこののの椎椎しいつみつみつみたるたるたる。。。齒齒はもももなきなきなき女女おんなののの梅梅うめくひくひくいてててすがりすがりすがりたるたるたる。。。げすげすげすののの紅紅くれないののの袴袴はかま着着きたるたるたる。。。このこのこのごろごろごろはははそれそれそれのみのみのみこそこそこそあああめれめれめれ。。。のののすけすけすけのののやかうやかうやこう狩狩かり衣衣ぎぬすがたすがたすがたもももいといといとあやしげあやしげあやしげなりなりなり。。。又又また人人ひとにににおぢおぢおじらるゝらるゝらるるうへうへうえのののきぬきぬきぬはははたたたおどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしく、、、たちたちたちさまよふさまよふさまようももも人人ひと見見みつけつけつけばばばあなづらはしあなづらはしあなずらわし。。。けんぎけんぎけんぎのののものものものやややあるあるあるととと戯戯たわぶれにににもももとがむとがむとがむ。。。六六ろく位位い藏藏くら人人うど、、、うへうへうえのののはうぐわんはうぐわんほうがんとととうちうちうちいひいひいいててて、、、世世よににになくなくなくきらきらしききらきらしききらきらしきものものものににに覺覺おぼえええ、、、里里さと人人びとげすげすげすなどなどなどはははこのこのこの世世よののの人人ひととととだにだにだに思思おもひひいたらたらたらずずず、、、目目めをををだにだにだに見見み合合あわせせせでででおぢおぢおじわなゝくわなゝくわななく人人ひとのののうちうちうちわたりわたりわたりのののほそほそほそどのどのどのなどなどなどににに忍忍しのびびびててて入入いりりりふしふしふしたるたるたるこそこそこそいといといとつきなけれつきなけれつきなけれ。。。そらそらそらだきだきだきものものものしししたるたるたる凡凡き帳帳ちょうにににうちうちうちかけかけかけたるたるたる袴袴はかまののの、、、おもたげおもたげおもたげにににいやしういやしういやしゅうきらきらしからきらきらしからきらきらしからむむんもももとととおしおしおし量量はからるゝらるゝらるるなどなどなどよよよ。。。さかしらさかしらさかしらにににうへうへうえのののきぬきぬきぬわきわきわきあけあけあけにてにてにて、、、鼠鼠ねずみののの尾尾おのののやうやうようにてにてにてわがねわがねわがねかけかけかけたらたらたらむむん程程ほどぞぞぞ似似にげげげなきなきなきやかうやかうやこうののの人々人々ひとびとなるなるなる。。。このこのこのつかさつかさつかさのののほどほどほどははは念念ねんじじじてててとゞめとゞめとどめてててよよよかしかしかし。。。五位五位ごいののの藏藏くら人人うどももも。。。
現代語訳
似つかわしくないもの。
髪の悪い人が白い綾織りの着物を着ているの。縮れた髪に葵を付けているの。下手な字を赤い紙に書いたの。身分の低い者の家に雪が降っているの。また、月の光が差し込んでいるのも、たいそう残念だ。月のたいそう明るい夜に、屋形のない車に出会ったの。また、そういう車に飴色の牛をかけているの。年老いた者が腹を大きくして、あえぎながら歩くの。また、若い夫を持っているのもたいそう見苦しいのに、夫がほかの女のもとに行くといって嫉妬しているの。年老いた男が寝ぼけているの。また、そんなふうにひげだらけの男が椎の実を食べているの。歯もない女が梅を食べて、酸っぱそうにしているの。下賤の者が紅の袴を着ているの。このごろは、そういう者ばかりのようだ。靫負の佐が夜回りをする狩衣姿も、たいそう見苦しい。また、人に恐れられる袍は、また仰々しくて、うろうろ歩き回っているのも、人が見つけたら軽蔑するだろう。「怪しい者はいないか」と、冗談にもとがめ立てる。六位の蔵人は、「上の判官」と言われて、世にまたとなくきらびやかな者と思われ、里人や下々の者などは、この世の人とさえ思わず、目さえ合わせずに恐れ震えるような人が、内裏のあたりの細殿などに忍び込んで寝ているのは、たいそう似つかわしくない。空薫物をたきしめた几帳に掛けてある袴が、重たげに、品なくきらびやかであろうことも推しはかられるのだよ。利口ぶって袍の脇をあけて着て、鼠の尾のように輪にして掛けているような有様は、似つかわしくない夜回りの人々だ。この職にある間は、我慢して忍び歩きをやめればよいのに。五位の蔵人もそうだ。
意訳
「にげなし」は、その人や物にふさわしくない、似つかわしくないこと。美しい白い衣と髪の悪さ、雪や月の光と貧しい家、若い夫に嫉妬する老女、歯のない口で梅を食べる老女。作者は、ものと場、人と振る舞いの不調和を次々に指摘する。とりわけ、ふだんは威厳を見せている六位の蔵人が、夜中に細殿へ忍んで恋をしに行く姿を「いとつきなけれ」と皮肉るくだりには、宮中の内側を知る者ならではの観察がある。
語釈・文法注
- にげなき
- 「にげなし」の連体形。似つかわしくない、ふさわしくない。
- ゆげひ
- 靫負(ゆげい)。衛門府の別称。「ゆげひのすけ」は衛門佐。夜回り(夜行)の役を務めた。
文法
- 「しゞらかみたる」
- 縮れている。
- 「下すの家に雪の降りたる」
- 雪や月の光は風流なものなので、身分の低い者の家には似つかわしくない、という見方。
- 「すがりたる」
- 酸っぱがっている。「すがる」は酸っぱさに顔をしかめること。
- 「うへのはうぐわん」
- 上の判官。六位の蔵人が兼ねる衛門尉を言う。
解説
似つかわしくないものを挙げた類聚的章段である。美しいものが場違いなところにあること、身分や年齢にふさわしくない振る舞いが、次々に挙げられる。
「下すの家に雪の降りたる」「月のさし入りたる」は、身分によって美しいものにふさわしい場所が決まっているという、宮廷人の価値観を率直に示しており、現代の読者には違和感を覚えさせる一節でもある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、207–208頁(コマ106–107)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日