枕草子 第50段 類聚的章段
虫は
虫を挙げ、鬼の子として捨てられ「父よ父よ」と鳴くという蓑虫の哀れ、額づく虫の殊勝さ、蠅の憎らしさ、夏虫や蟻のおもしろさなどを語る。

- 1むしむしむしははは題
- 2鈴鈴すず蟲蟲むし、、、松松まつ蟲蟲むし、、、はたおりはたおりはたおり、、、きりぎりすきりぎりすきりぎりす、、、蝶蝶ちょう、、、われからわれからわれから、、、ひをひをひおむしむしむし、、、螢螢ほたる。。。みのみのみのむしむしむし、、、いといといと哀哀あわれなりなりなり。。。鬼鬼おにののの生生うみみみけれけれければばば親親おやににに似似にてててこれこれこれもももおそろしきおそろしきおそろしき心心ここちちちぞぞぞあらあらあらむむんとてとてとて、、、親親おやのののあしきあしきあしききぬきぬきぬひきひきひき着着きせせせててて「「「今今いま秋秋あき風風かぜ吹吹ふかかかむむんをりをりおりにににぞぞぞこここむずるむずるむずる。。。待待まてててよよよ」」」ととといひいひいいててて逃逃にげげげててていにいにいにけるけるけるももも知知しらららずずず、、、風風かぜののの音音おと聞聞きききき知知しりりりててて八月八月はちがつばかりばかりばかりににになれなれなればばば「「「ちゝちゝちちよよよちゝちゝちちよよよ」」」とととはかなげはかなげはかなげににになくなくなくいみじういみじういみじゅうあはれあはれあわれなりなりなり。。。ひぐらしひぐらしひぐらし。。。ぬかづきぬかづきぬかずきむしむしむし又又またあはれあはれあわれなりなりなり。。。さるさるさる心心こころににに道道どう心心しんおこしおこしおこしてててつきつきつきありくありくありくらむらむらん。。。又又またおもひおもひおもいかけかけかけずずず暗暗くらききき所所ところなどなどなどにににほとめきほとめきほとめきたるたるたる聞聞ききききつけつけつけたるたるたるこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ。。。
- 3蠅蠅はえこそこそこそにくきにくきにくきものものものゝゝのうちうちうちににに入入いれれれつつつべけれべけれべけれ。。。あいぎやうあいぎやうあいぎょうなくなくなくにくきにくきにくきものものものははは人々人々ひとびとしうしうしゅうかきかきかき出出いづづずべきべきべきものものものゝゝのやうやうようにににあらあらあらねねねどどど、、、よろづよろづよろずののの物物ものにににゐゐい、、、顏顏かおなどなどなどにににぬれぬれぬれたるたるたる足足あししししててて居居いたるたるたるなどなどなどよよよ。。。人人ひとののの名名なにににつきつきつきたるたるたるはははかならずかならずかならずかたしかたしかたし。。。夏夏なつ蟲蟲むしいといといとをかしくをかしくおかしく廊廊ろうのののうへうへうえ飛飛とびびびありくありくありくいといといとをかしをかしおかし。。。蟻蟻ありはははにくけれにくけれにくけれどどど輕輕かろびびびいみじういみじういみじゅうててて水水みずのののうへうへうえなどなどなどををを唯唯ただ步步あゆみみみありくありくありくこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ。。。
現代語訳
虫は。
鈴虫。松虫。機織虫。きりぎりす。蝶。われから。ひお虫。蛍。蓑虫はたいそう哀れだ。鬼が生んだので、親に似てこの子も恐ろしい心を持っているだろうと、親が粗末な着物を引き着せて、「もうすぐ秋風が吹くころに迎えに来るよ。待っていなさい」と言って逃げていってしまったのも知らずに、風の音を聞き分けて、八月ごろになると「父よ、父よ」と心細げに鳴くのは、たいそう哀れだ。ひぐらし。額づき虫もまた哀れだ。そんな小さな虫の心にも道心を起こして、額をついて歩き回っているのだろう。また、思いがけず暗い所などで、ことことと音を立てているのを聞きつけたのは、おもしろい。
蠅こそは、憎らしいものの中に入れるべきだ。愛嬌がなく憎らしいものは、人並みに取り立てて書くようなものではないけれど、何にでもとまり、顔などにぬれた足でとまったりするのだよ。人の名前に付いているのは、必ずいやな感じがする。夏虫はたいそうおもしろく、廊下の上を飛び回るのがたいそうおもしろい。蟻は憎らしいけれど、身軽さがたいそうで、水の上などをただ歩き回るのはおもしろい。
意訳
虫を挙げる段で、とりわけ有名なのは蓑虫の話である。鬼の子として生まれ、親に粗末な蓑を着せられて捨てられ、秋風の吹くころに「父よ、父よ」と鳴いて親を待つ。蓑虫は実際には鳴かないが、作者はこの言い伝えに深い哀れを感じている。額をついて歩く虫に道心を見る一方、蠅は顔にぬれた足でとまるので憎らしいと、作者の好悪ははっきりしている。
語釈・文法注
文法
- 「はたおり」
- 機織虫。キリギリスの古名とも。
- 「きりぎりす」
- 現在のコオロギにあたるとされる。
- 「ぬかづきむし」
- 額づき虫。コメツキムシ。頭を下げて跳ねる様子を、仏を拝む姿に見立てた。
- 「人の名につきたるはかならずかたし」
- 人の名に「蠅」の字が付いているのは、必ずいやな感じがする。
解説
虫を挙げた類聚的章段で、蓑虫の哀話がとりわけよく知られている。蓑虫は実際には鳴かないが、「ちちよ」と鳴くという言い伝えは、のちの俳諧などにも受け継がれた。
蠅についての一節は、短いながら作者の率直な嫌悪感が表れており、「にくきもの」の段とも響き合っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、207頁(コマ106)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日