古典ライブラリー

枕草子 第27段 類聚的章段

にくきもの

腹立たしいもの、しゃくにさわるものを次々に挙げる。急ぐときの長居の客、硯の髪の毛、居眠りする験者、火鉢で手をあぶる年寄り、物知り顔の新参者、夜中の蚊の羽音、きしむ車、話に割り込む人など、日常のいらだちを容赦なく描く。

夜の寝所で、女性が眠りを妨げる蚊を気にして顔に手を寄せる。小さな羽音まで疎ましく感じるひととき。
夜の寝所で、女性が眠りを妨げる蚊を気にして顔に手を寄せる。小さな羽音まで疎ましく感じるひととき。
  1. 1ものものもの題
  2. 2急いそ急いそいそぐぐぐ事こと事ことことあるあるあるをりをりおりにににながながながごとごとごとするするするまらうどまらうどまろうど。。。あなづらはしきあなづらはしきあなずらわしき人ひと人ひとひとならならならばばばのちのちのちににになどなどなどいひいひいいてててももも追お追おおひひいやりやりやりつつつべけれべけれべけれどもどもども、、、さすがにさすがにさすがに心こころ心こころこころはづかしきはづかしきはずかしき人ひと人ひとひといといといとにくしにくしにくし。。。硯すずり硯すずりすずりににに髪かみ髪かみかみののの入い入いいりりりてててすらすらすられれれたるたるたる。。。又また又またまた墨すみ墨すみすみのののなかなかなかににに石いし石いしいしこもりこもりこもりてててきしきしきしきしきしきしととときしみきしみきしみたるたるたる。。。俄には俄にはにわかかかににに煩わづら煩わづらわずらふふう人ひと人ひとひとのののあるあるあるにににけんざけんざけんざもとむるもとむるもとむるににに、、、例れい例れいれいあるあるある所ところ所ところところにににはははあらあらあらでででほかほかほかにににあるあるある。。。尋たづ尋たづたずねねねありくありくありく程ほど程ほどほどににに待まち待まちまち遠どほ遠どほどおににに久ひさ久ひさひさしきしきしきををを辛から辛からからうじてうじてうじて待ま待ままちちちつけつけつけててて悅よろこ悅よろこよろこびびびながらながらながら加か加かか持ぢ持ぢじせせせさするさするさするににに、、、このこのこの頃ころ頃ころころものものものゝゝのけけけにににこうじこうじこうじにににけるけるけるにににややや、、、ゐるゐるいるまゝまゝままにににすなはちすなはちすなわちねぶりねぶりねぶり聲ごゑ聲ごゑごえににになりなりなりたるたるたるいといといとにくしにくしにくし。。。
  3. 3なんでふなんでふなんでうことことことなきなきなき人ひと人ひとひとのののすゞろすゞろすずろにににえええがちがちがちににに物もの物ものものいたういたういとういひいひいいたるたるたる。。。火ひ火ひひ桶をけ桶をけおけすびつすびつすびつなどなどなどににに手て手ててのののうらうらうらうちうちうちかへしかへしかえし、、、皺しわ皺しわしわおしおしおしのべのべのべなどなどなどしししてててあぶりあぶりあぶりをるをるおるものものもの。。。いついついつかかかははは若わか若わかわかやかやかやかなるなるなる人ひと人ひとひとなどなどなどのののさささはははしししたりたりたりししし。。。老お老おおいいいばみばみばみうたてうたてうたてあるあるあるものものものこそこそこそ火ひ火ひひ桶をけ桶をけおけのののはたはたはたににに足あし足あしあしをををさへさへさへもたげもたげもたげててて、、、物もの物ものものいふいふいうまゝまゝままにににおしおしおしすりすりすりなどなどなどもももするするするらめらめらめ。。。さやうさやうさようのののものものものははは人ひと人ひとひとのののもともともとににに來き來ききてててゐゐいむむんとととするするする所ところ所ところところををを、、、まづまづまず扇あふぎ扇あふぎおうぎしししてててちりちりちり拂はら拂はらはらひひいすてゝすてゝすててゐゐいももも定さだ定さださだまらまらまらずずずひろめきひろめきひろめきててて、、、狩かり狩かりかり衣ぎぬ衣ぎぬぎぬののの前まへ前まへまえ下しも下しもしもざまざまざまにににまくりまくりまくり入い入いいれれれてててもももゐるゐるいるかしかしかし。。。かゝるかゝるかかることことことはははいひいひいいかひかひかいなきなきなきものものものゝゝのきはきはきわにににやややととと思おも思おもおもへへえどどど、、、すこしすこしすこしよろしきよろしきよろしきものものものゝゝの式しき式しきしき部ぶ部ぶぶ大たい大たいたい夫ふ夫ふふ、、、駿する駿するする河が河ががのののせんじせんじせんじなどなどなどいひいひいいしししがががさせさせさせしししなりなりなり。。。又また又またまた酒さけ酒さけさけのみのみのみててて赤あか赤あかあかききき口くち口くちくちをををさぐりさぐりさぐり髯ひげ髯ひげひげあるあるあるものものものはははそれそれそれををを撫な撫ななでゝでゝでて盃さかづき盃さかづきさかずき人ひと人ひとひとににに取と取ととらするらするらする程ほど程ほどほどのののけしきけしきけしき、、、いみじくいみじくいみじくにくしにくしにくしととと見み見みみゆゆゆ。。。又また又またまたのめのめのめなどなどなどいふいふいうなるなるなるべしべしべし。。。身み身みみぶるひぶるひぶるいをををししし、、、かしらかしらかしらふりふりふり、、、口くち口くちくちわきわきわきをををさへさへさへひきひきひきたれたれたれててて「「「わらはべわらはべわらわべのののこうどこうどこうどのののににに參まゐ參まゐまいりりりててて」」」などなどなど謠うた謠うたうたふふうやうやうようにににするするする、、、それそれそれはははしもしもしもまことまことまことににによきよきよき人ひと人ひとひとのののさしさしさし給たま給たまたまひひいしししよりよりより心こころ心こころこころづきづきずきなしなしなしととと思おも思おもおもふふうなりなりなり。。。
  4. 4物もの物ものものうらやみうらやみうらやみししし、、、身み身みみのののうへうへうえなげきなげきなげき人ひと人ひとひとのののうへうへうえいひいひいい、、、露つゆ露つゆつゆばかりばかりばかりののの事こと事ことこともももゆかしゆかしゆかしがりがりがり、、、聞き聞ききかかかまほしまほしまほしがりがりがりててていひいひいい知し知ししらららぬぬぬをををばばばえんじえんじえんじそしりそしりそしり、、、又また又またまたわづかわづかわずかににに聞き聞きききききわたるわたるわたる事こと事ことことをををばばば我われ我われわれもともともとよりよりより知し知ししりりりたるたるたる事こと事ことことのののやうやうようににに、、、ことことことびとびとびとにににももも語かた語かたかたりりりしらべしらべしらべいふいふいうもももいといといとにくしにくしにくし。。。物もの物ものもの聞き聞ききかかかむむんととと思おも思おもおもふふう程ほど程ほどほどににに泣な泣ななくくくちごちごちご、、、烏からす烏からすからすののの集あつま集あつまあつまりりりててて飛と飛ととびびびちがひちがひちがい鳴な鳴ななきききたるたるたる。。。忍しの忍しのしのびびびてててくるくるくる人ひと人ひとひと見み見みみしりしりしりててて吠ほ吠ほほゆるゆるゆる犬いぬ犬いぬいぬははは、、、うちうちうちももも殺ころ殺ころころしししつつつべしべしべし。。。さるさるさるまじうまじうまじゅうあながちあながちあながちなるなるなる所ところ所ところところににに隱かく隱かくかくししし伏ふ伏ふふせせせたるたるたる人ひと人ひとひとのののいびきいびきいびきしししたるたるたる。。。又また又またまたひそかひそかひそかににに忍しの忍しのしのびびびてててくるくるくる所ところ所ところところににに長なが長ながなが烏え烏ええ帽ぼう帽ぼうぼう子し子しししししてててさすがにさすがにさすがに人ひと人ひとひとににに見み見みみえええじじじととと惑まど惑まどまどひひい出い出いいづるづるずる程ほど程ほどほどににに、、、物もの物ものものにににつきつきつきさはりさはりさわりてててそよろそよろそよろととといはいはいわせせせたるたるたる、、、いみじういみじういみじゅうにくしにくしにくし。。。などなどなど懸か懸かかけけけたるたるたるをををうちうちうちかつぎかつぎかつぎててて、、、さらさらさらさらさらさらとととならしならしならしたるたるたるもももいといといとにくしにくしにくし。。。のののすすすはははましてましてましてこはきこはきこわき物もの物ものもののののうちうちうちおかおかおかるゝるゝるるいといといとしるししるししるし。。。それそれそれもももやをらやをらやおら引ひ引ひひきききあげあげあげててて出で出でで入いり入いりいりするするするははは更さら更さらさらにににならならならずずず。。。又また又またまたやりやりやり戶ど戶どどなどなどなど荒あら荒あらあらくくくあくるあくるあくるもももいといといとにくしにくしにくし。。。すこしすこしすこしもたぐるもたぐるもたぐるやうやうようにてにてにてあくるあくるあくるははは鳴な鳴ななりりりやはやはやはするするする。。。あしうあしうあしゅうあくれあくれあくればばばさうじさうじそうじなどなどなどもももたをめかしたをめかしたおめかし、、、ごほめくごほめくごおめくこそこそこそしるけれしるけれしるけれ。。。
  5. 5ねぶたしねぶたしねぶたしととと思おも思おもおもひひいててて臥ふ臥ふふしししたるたるたるににに蚊か蚊かかのののほそほそほそ聲ごゑ聲ごゑごえににになのりなのりなのりててて、、、かほかほかおのののもともともとににに飛と飛ととびびびありくありくありく羽は羽はは風かぜ風かぜかぜさへさへさへ身み身みみのののほどほどほどにににあるあるあるこそこそこそいといといとにくけれにくけれにくけれ。。。きしめくきしめくきしめく車くるま車くるまくるまににに乘の乘ののりりりてててありくありくありくものものもの、、、耳みみ耳みみみみももも聞き聞ききかかかぬぬぬにににやややあらあらあらむむんととといといといとにくしにくしにくし。。。我わ我わわががが乘の乘ののりりりたるたるたるはははそのそのその車くるま車くるまくるまのののぬしぬしぬしさへさへさへにくしにくしにくし。。。物もの物ものもの語がたり語がたりがたりなどなどなどするするするにににさしさしさし出い出いいでゝでゝでて我われ我われわれひとりひとりひとりさいまくるさいまくるさいまくるものものもの、、、凡すべ凡すべすべてててさしさしさし出いで出いでいでははは童わらは童わらはわらわもももおとなおとなおとなもももいといといとにくしにくしにくし。。。昔むかし昔むかしむかし物もの物ものもの語がたり語がたりがたりなどなどなどするするするににに、、、我わ我わわががが知し知ししりりりたりたりたりけるけるけるはははふとふとふと出い出いいでゝでゝでていひいひいいくたしくたしくたしなどなどなどするするするいといといとにくしにくしにくし。。。鼠ねずみ鼠ねずみねずみののの走はし走はしはしりりりありくありくありくいといといとにくしにくしにくし。。。あからさまあからさまあからさまにににきききたるたるたる子こ子ここどもどもどもわらはべわらはべわらわべををを、、、らうたがりらうたがりろうたがりててて、、、をかしきをかしきおかしきものものものなどなどなど取と取ととらするらするらするにににならひならひならいててて常つね常つねつねににに來き來ききててて居ゐ居ゐい入い入いいりりりててて、、、やややうちうちうち散ち散ちちらしらしらしぬるぬるぬるにくしにくしにくし。。。家いへ家いへいえにてにてにてももも宮みや宮みやみや仕づか仕づかずかひひい所どころ所どころどころにてにてにてももも逢あ逢ああははわでででありありありなななむむんととと思おも思おもおもふふう人ひと人ひとひとのののきききたるたるたるににに、、、そらそらそらねねねをををしししたるたるたるををを我わ我わわががが許もと許もともとにににあるあるあるものものものどもどもどものののおこしおこしおこしよりよりよりきききてててははは、、、いぎたなしいぎたなしいぎたなしととと思おも思おもおもひひい顏がほ顏がほがおにににひきひきひきゆるがしゆるがしゆるがしたるたるたるいといといとにくしにくしにくし。。。今いま今いまいまのののさしさしさしこえこえこえててて物もの物ものものしりしりしり顏がほ顏がほがおににに、、、をしへをしへをしへやうやうようなるなるなる事こと事ことこといひいひいいうしろみうしろみうしろみたるたるたるいといといとにくしにくしにくし。。。わわわががが知し知ししるるる人ひと人ひとひとにてにてにてあるあるあるほどほどほどはははやうやうよう見み見みみししし女をんな女をんなおんなののの事こと事ことこと譽ほ譽ほほめめめいひいひいい出い出いいだしだしだしなどなどなどするするするももも、、、過す過すすぎぎぎてててほどほどほどへへへにににけれけれけれどどど猶なほ猶なほなおにくしにくしにくし。。。ましてましてましてさしさしさしあたりあたりあたりたらたらたらむむんこそこそこそ思おも思おもおもひひいやらやらやらるれるれるれ。。。されされされどどどそれそれそれはははさしもさしもさしもあらあらあらぬぬぬやうやうようもももありありありかしかしかし。。。
  6. 6はなひはなひはないててて誦ず誦ずず文もん文もんもんするするする人ひと人ひとひと。。。大おほ大おほおおかたかたかた家いへ家いへいえののの男をとこ男をとこおとこしうしうしゅうならならならでででははは高たか高たかたかくくくはなひはなひはないたるたるたるものものものいといといとにくしにくしにくし。。。のみのみのみもももいといといとにくしにくしにくし。。。きぬきぬきぬののの下した下したしたにににをどりをどりおどりありきありきありきてててもたぐるもたぐるもたぐるやうやうようにににするするするももも。。。又また又またまた犬いぬ犬いぬいぬのののもろもろもろ聲ごゑ聲ごゑごえににに長々ながなが長々ながながながながとととなきなきなきあげあげあげたるたるたる、、、まがまがしくまがまがしくまがまがしくにくしにくしにくし。。。
  7. 7乳め乳めめ母のと母のとのとののの男をとこ男をとこおとここそこそこそあれあれあれ、、、女をんな女をんなおんなはははされされされどどど近ちか近ちかちかくくくももも寄よ寄よよらららねねねばばばよしよしよし。。。をのこゞをのこゞおのこごをををばばば唯ただ唯ただただ我わ我わわががが物もの物ものものにににしししててて、、、立た立たたちちちそひそひそいりやうじりやうじりょうじてててうしろみうしろみうしろみ、、、いさゝかいさゝかいささかもももこのこのこの御おん御おんおん事こと事ことことにににたがふたがふたがうものものものをををばばばざんしざんしざんし、、、人ひと人ひとひとをををばばば人ひと人ひとひとともともとも思おも思おもおもひひいたらたらたらずずず、、、あやしけれあやしけれあやしけれどどどこれこれこれがががとがとがとがををを心こころ心こころこころににに任まか任まかまかせせせててていふいふいう人ひと人ひとひともももなけれなけれなければばば、、、所ところ所ところところえええいみじきいみじきいみじきおもゝちおもゝちおももちしししててて事こと事ことことををを行おこな行おこなおこなひひいなどなどなどするするするににに。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

憎らしいもの。

急ぐ用事のあるときに来て長話をする客。軽く扱ってよい人なら「あとで」などと言って追い返すこともできるけれど、さすがにこちらが気後れするような立派な人だと、たいそう憎らしい。硯に髪の毛が入ったまま墨をすってしまったの。また、墨の中に石が混じっていて、きしきしときしんだの。急に病気になった人がいるので修験者を探すと、いつもいる所にはいなくて、よそに行っている。あちこち探し回る間、待ち遠しく長い時間を、やっと待ち受けて喜んで加持をさせると、このごろ物の怪の調伏に疲れているのだろうか、座るとすぐに眠り声になってしまうのは、たいそう憎らしい。

たいしたこともない人が、むやみに笑顔を浮かべてぺらぺらとしゃべりたてているの。火桶や炭櫃などに、手のひらを裏返し裏返し、しわを伸ばしたりしてあぶっている者。いつ若々しい人がそんなことをしたことがあっただろうか。年寄りじみて見苦しい者に限って、火桶のふちに足までのせて、物を言いながら足をこすったりもするのだろう。そういう者は、人の所に来て座ろうとする場所を、まず扇であちこちあおいでちりを払い捨てて、座っても落ち着かずにふらふらして、狩衣の前を下の方にまくり込んで座ったりもする。こんなことは、取るに足りない身分の者のすることかと思うけれど、少しはましな身分の者で、式部の大夫や駿河の前司などといった人がしたのである。また、酒を飲んで赤い口を探り、ひげのある者はそれをなでて、杯を人に渡すときの様子は、たいそう憎らしく見える。「もっと飲め」などと言うのだろう。身ぶるいをし、頭を振り、口の端まで下げて、「童べの小殿に参りて」などと謡うようにするのは、それこそ本当に身分の高い人がそうなさったのを見て以来、いやなものだと思うのである。

人をうらやみ、自分の身の上を嘆き、人のうわさをし、ほんの少しのことでも知りたがり、聞きたがって、話してくれないと恨んで悪口を言い、また、わずかに聞きかじったことを、自分がもともと知っていたことのように、ほかの人にも得意げに語って聞かせるのも、たいそう憎らしい。話を聞こうと思うときに泣く赤ん坊。烏が集まって飛び交って鳴いているの。人目を忍んでやって来る人を見つけて吠える犬は、打ち殺してしまいたいほどだ。とんでもない無理な場所に隠して寝かせた人が、いびきをかいているの。また、ひそかに忍んで来た所で、長烏帽子をかぶって、さすがに人に見られまいとあわてて出て行くときに、物に突き当たってがさっと音を立てるのは、たいそう憎らしい。伊予簾などが掛けてあるのをくぐって、さらさらと鳴らすのも、たいそう憎らしい。帽額の簾は、まして固いところが下に置かれる音がはっきりする。それもそっと引き上げて出入りすれば、少しも鳴らない。また、遣戸などを乱暴に開けるのもたいそう憎らしい。少し持ち上げるようにして開ければ、鳴るものか。下手に開けると、障子などもがたがたさせて、ごとごといわせるのがはっきり聞こえる。

眠いと思って横になっていると、蚊がか細い声で名乗るように鳴いて、顔のまわりを飛び回る羽風までが、体の大きさ相応に感じられるのは、たいそう憎らしい。きしむ車に乗って歩き回る人は、耳も聞こえないのかと、たいそう憎らしい。自分が乗っているときは、その車の持ち主までが憎らしい。人が話をしているところに出しゃばって、自分ひとりで先回りして話す人。総じて出しゃばりは、子どもでも大人でも、たいそう憎らしい。昔の話などをしていると、自分が知っていたことだと、ふと口をはさんで話の腰を折ったりするのは、たいそう憎らしい。鼠が走り回るのは、たいそう憎らしい。ちょっと遊びに来た子どもたちをかわいがって、おもしろい物などを与えたのに味をしめて、いつもやって来ては奥まで入り込んで、調度類を散らかしてしまうのは憎らしい。自宅でも宮仕えの局でも、会わずにすませたいと思う人が来たので、寝たふりをしているのに、自分のところにいる者たちが起こしに寄って来て、寝坊だと思っている顔つきで揺り動かすのは、たいそう憎らしい。新参者が古参を差し置いて物知り顔に、教えるようなことを言って世話を焼くのは、たいそう憎らしい。自分の恋人である男が、以前つきあっていた女のことをほめて話題にしたりするのも、過ぎたことで時がたっているけれど、やはり憎らしい。まして今の話ならどんなに憎らしいだろうと、思いやられる。けれども、それはそれほどでもない場合もあるものだ。

くしゃみをして呪文を唱える人。だいたい、一家の主人でもないのに、大きな音でくしゃみをする者は、たいそう憎らしい。蚤もたいそう憎らしい。着物の下で跳ね回って、持ち上げるようにするのも。また、犬が声をそろえて長々と鳴き立てているのは、縁起でもなく憎らしい。

乳母の夫というものは憎らしい。女の子の乳母の夫なら、それでも近くに寄らないのでよい。男の子の乳母の夫は、その子をただ自分のもののようにして、付き添って思うままに世話を焼き、少しでもこの若君の意向に逆らう者を告げ口し、人を人とも思わず、けしからぬことだけれど、この者の非を思いのままに言う人もいないので、我が物顔でえらそうな顔つきをして、物事を取り仕切ったりするので。

意訳

「にくし」は、腹立たしい、しゃくにさわる、という強い不快感を表す。作者は、急いでいるときの長居の客から、居眠りする修験者、火鉢で手足をあぶる年寄り、物知り顔の新参者、夜中に耳元で鳴く蚊、恋人の昔の女の話まで、思いつくままに書き連ねる。どれも誰もが一度は経験する小さないらだちで、作者の毒舌が最も冴えた段のひとつとして知られる。蚊の羽音を「身のほどにある」と言うユーモアや、自分の恋人の昔話への嫉妬をのぞかせる率直さが、読む者の共感を誘う。

語釈・文法注

にくき
「にくし」の連体形。気にくわない、しゃくにさわる、腹立たしい。現代語の「憎い」より軽い、日常的な不快感を広く表す。
いよす
伊予簾。伊予国産の篠竹で編んだすだれ。
もかう
帽額(もこう)。簾の上部に横に張る布。帽額の簾は下端に固い竹が付いていて、置くと音がする。
てうど
調度。手回りの道具類。
今まゐり
新しく宮仕えに上がった女房。新参者。

文法

「心はづかしき人」
こちらが気後れするほど立派な人。
「いつかは若やかなる人などのさはしたりし」
反語。いつ若々しい人がそんなことをしたか、いやしたことはない。
「鳴りやはする」
反語。鳴るだろうか、いや鳴らない。
「身のほどにある」
蚊の小さな体の大きさ相応に(羽風が感じられる)。小さな蚊の羽風さえ気にさわる、という誇張したおかしみ。
「はなひて誦文する人」
くしゃみは不吉とされ、くしゃみをしたら「休息万命急々如律令」などの呪文を唱えた。

解説

枕草子の類聚的章段の中でも、とりわけよく知られた段である。作品トップの「管理人より」にもあるように、この段の容赦のない描写が、清少納言の「毒舌」という評判のもとになった。

挙げられた例は、身分の低い者の振る舞いから、宮廷の人間関係、夜の寝所の蚊や蚤に至るまで多岐にわたる。そこには当時の貴族社会の礼儀や美意識がよく表れていると同時に、千年後の私たちにも思わず笑ってしまうほど身近な、人間のいらだちの普遍性がある。

末尾の乳母の夫の話は、次の段(底本では改行して続く)へとつながる書き方になっている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、187–189頁(コマ96–97)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日