古典ライブラリー

枕草子 第24段 類聚的章段

すさまじきもの

興ざめなもの、期待はずれなものを次々に挙げる。昼に吠える犬、春の網代から、返事の来ない手紙、来ない迎えの車、効き目のない加持、除目で官職を得られなかった家の落胆まで、生活のさまざまな場面の「すさまじ」を描く。

除目で望んだ官職を得られなかった家。集まっていた人々が帰っていき、残された女房たちの間に落胆が漂う。
除目で望んだ官職を得られなかった家。集まっていた人々が帰っていき、残された女房たちの間に落胆が漂う。
  1. 1ものものもの題
  2. 2晝ひる晝ひるひるほゆるほゆるほゆる犬いぬ犬いぬいぬ、、、春はる春はるはるののの網あ網ああ、、、三さん三さんさん四し四しし月ぐわつ月ぐわつがつののの紅こう紅こうこう梅ばい梅ばいばいのののきぬきぬきぬ、、、ちごちごちごのののなくなくなくなりなりなりたるたるたる產うぶ產うぶうぶ屋や屋やや、、、火ひ火ひひおこさおこさおこさぬぬぬ火ひ火ひひ桶をけ桶をけおけすびつすびつすびつ、、、牛うし牛うしうしにくみにくみにくみたるたるたる牛うし牛うしうし飼かひ飼かひかい。。。はかせはかせはかせのののうちうちうちつゞきつゞきつづきによしによしによしうまうまうませせせたるたるたる。。。かたかたかたにににゆきゆきゆきたるたるたるにににあるじあるじあるじせせせぬぬぬ所ところ所ところところ。。。ましてましてましてせちせちせちぶんぶんぶんはははすさまじすさまじすさまじ。。。
  3. 3人ひと人ひとひとののの國くに國くにくによりよりよりおこせおこせおこせたるたるたる文ふみ文ふみふみののの物もの物ものものなきなきなき。。。京きやう京きやうきょうのののをををもももさささこそこそこそははは思おも思おもおもふふうらめらめらめどもどもども、、、されされされどどどそれそれそれはははゆかしきゆかしきゆかしき事こと事ことことをををももも書か書かかききき集あつ集あつあつめめめ、、、世よ世よよにににあるあるある事こと事ことことををを聞き聞ききけけけばばばよしよしよし。。。人ひと人ひとひとのののもともともとにににわざとわざとわざと淸きよ淸きよきよげげげににに書か書かかきききたてゝたてゝたててやりやりやりつるつるつる文ふみ文ふみふみののの返かへり返かへりかえり事ごと事ごとごと見み見みみむむん、、、今いま今いまいまはははきききぬぬぬらむらむらんかしかしかしととと、、、あやしくあやしくあやしく遲おそ遲おそおそきききととと待ま待ままつつつほどほどほどににに、、、ありつるありつるありつる文ふみ文ふみふみののの結むす結むすむすびびびたるたるたるもももたてたてたて文ぶみ文ぶみぶみももも、、、いといといときたなげきたなげきたなげにににもちもちもちなしなしなしふくだめふくだめふくだめててて、、、うへうへうえにににひきひきひきたりたりたりつるつるつる墨すみ墨すみすみさへさへさへ消き消ききえええたるたるたるをををおこせおこせおこせたりたりたりけりけりけり。。。「「「坐おは坐おはおわしまさしまさしまさゞりゞりざりけりけりけり」」」ともともとも若も若ももしはしはしは「「「物もの物ものもの忌いみ忌いみいみとてとてとて取と取ととりりり入い入いいれれれずずず」」」などなどなどいひいひいいてててもてもてもて歸かへ歸かへかえりりりたるたるたるいといといとわびしくわびしくわびしくすさまじすさまじすさまじ。。。又また又またまたかならずかならずかならず來く來くくべきべきべき人ひと人ひとひとののの許もと許もともとににに車くるま車くるまくるまををを遣や遣ややりりりててて待ま待ままつつつににに入い入いいりりり來く來くくるるる音おと音おとおとすれすれすればばば、、、さささなななめりめりめりととと人々ひとびと人々ひとびとひとびと出い出いいでゝでゝでて見み見みみるるるににに、、、車くるま車くるまくるまやどりやどりやどりににに入い入いいりりりてててながえながえながえほうほうほうとととうちうちうちおろすおろすおろすををを、、、「「「いかなるいかなるいかなるぞぞぞ」」」ととと問と問ととへへへばばば、、、「「「今日けふ今日けふきょうはははおはしまさおはしまさおわしまさずずず。。。渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまははわずずず」」」とてとてとて牛うし牛うしうしののの限かぎ限かぎかぎりりりひきひきひき出い出いいでゝでゝでていぬるいぬるいぬる。。。又また又またまた家いへ家いへいえゆすりゆすりゆすりてててとりとりとりたるたるたる聟むこ聟むこむこののの來こ來ここずずずなりなりなりぬるぬるぬるいといといとすさまじすさまじすさまじ。。。さるさるさるべきべきべき人ひと人ひとひとののの宮みや宮みやみや仕づかへ仕づかへづかえするするするがりがりがりやりやりやりててて、、、いつしかいつしかいつしかととと思おも思おもおもふふうもももいといといとほいなしほいなしほいなし。。。ちごちごちごののの乳め乳めめ母のと母のとのとののの唯ただ唯ただただあからさまあからさまあからさまととといぬるいぬるいぬるをををもとむれもとむれもとむればばば、、、とかくとかくとかくあそばしあそばしあそばし慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめててて「「「疾と疾ととくくくこここ」」」ととといひいひいい遣や遣ややりりりたるたるたるににに、、、「「「今こ今ここ宵よひ宵よひよいはははえええ參まゐ參まゐまいるるるまじまじまじ」」」とてとてとて返かへ返かへかえしししおこせおこせおこせたるたるたる、、、すさまじきすさまじきすさまじきのみのみのみにににもももあらあらあらずずず、、、にくさにくさにくさわりなしわりなしわりなし。。。女をんな女をんなおんななどなどなどむかふるむかふるむかうる男をとこ男をとこおとこましてましてましていかならいかならいかならむむん。。。待ま待ままつつつ人ひと人ひとひとあるあるある所ところ所ところところににに夜よ夜よよすこしすこしすこし更ふ更ふふけけけててて、、、忍しの忍しのしのびびびやかやかやかににに門かど門かどかどををを叩たゝ叩たゝたたけけけばばば胸むね胸むねむねすこしすこしすこしつぶれつぶれつぶれててて人ひと人ひとひと出いだ出いだいだしししてててとはとはとはするするするににに、、、あらあらあらぬぬぬよしよしよしなきなきなきものものものゝゝの名な名ななのりのりのりしししてててきききたるたるたるこそこそこそすさまじすさまじすさまじととといふいふいう中なか中なかなかにににもももかへすがへすかへすがへすかえすがえすすさまじけれすさまじけれすさまじけれ。。。
  4. 4驗げん驗げんげん者ざ者ざざのののものものものゝゝのけけけてうずてうずちょうずとてとてとていみじういみじういみじゅうしたりしたりしたりがほがほがおにににやややずゞずゞずずなどなどなどもたもたもたせせせててて、、、せみせみせみ聲ごゑ聲ごゑごえにににしぼりしぼりしぼり出いだ出いだいだししし讀よ讀よよみみみ居ゐ居ゐいたれたれたれどどど、、、いさゝかいさゝかいささかさりげさりげさりげもももなくなくなく、、、護ご護ごごもももつかつかつかねねねばばば集あつ集あつあつめめめててて念ねん念ねんねんじじじ居ゐ居ゐいたるたるたるににに、、、男をとこ男をとこおとこももも女をんな女をんなおんなもももあやしあやしあやしととと思おも思おもおもふふうににに、、、時とき時ときときのののかはるかはるかわるまでまでまで讀よ讀よよみみみこうじこうじこうじててて更さら更さらさらにににつかつかつかずずず。。。「「「たちたちたちねねね」」」とてとてとてずゞずゞずずとりとりとり返かへ返かへかえしししてててあれあれあれどどど「「「げんげんげんなしなしなしややや」」」とととうちうちうちいひいひいいててて、、、ひたひひたひひたいよりよりよりかみかみかみざまざまざまにににかしらかしらかしらさぐりさぐりさぐりあげあげあげててて、、、あくびあくびあくびをををおのれおのれおのれうちうちうちしししてててよりよりよりふしふしふしぬるぬるぬる。。。
  5. 5ぢもくぢもくじもくにににつかさつかさつかさ得え得ええぬぬぬ人ひと人ひとひとののの家いへ家いへいえ、、、今こ今ここ年とし年としとしはははかならずかならずかならずととと聞き聞きききききてててはやうはやうはようありありありしししものものものどもどもどもののの外ほか外ほかほか々ほか々ほかほかなりなりなりつるつるつる、、、片かた片かたかた田ゐ田ゐい舍なか舍なかなかににに住す住すすむむむものものものどもどもどもなどなどなど皆みな皆みなみな集あつま集あつまあつまりりり來き來ききててて、、、出い出いいででで入い入いいるるる車くるま車くるまくるまのののながえながえながえもももひまひまひまなくなくなく見み見みみえええ、、、物もの物ものものまうでまうでもうでするするする供とも供ともともにににももも我われ我われわれももも我われ我われわれもももととと參まゐ參まゐまいりりり仕つか仕つかつかうまつりうまつりうまつり、、、物もの物ものものくひくひくい酒さけ酒さけさけ飮の飮ののみみみのゝしりのゝしりののしりあへあへあえるるるににに、、、はつるはつるはつる曉あかつき曉あかつきあかつきまでまでまでかどかどかど叩たゝ叩たゝたたくくく音おと音おとおともももせせせずずず、、、あやしあやしあやしなどなどなど耳みみ耳みみみみ立た立たたてゝてゝてて聞き聞ききけけけばばば、、、さきさきさきおふおふおう聲こゑ聲こゑこえしししててて上かん上かんかん達だち達だちだち部め部めめなどなどなど皆みな皆みなみな出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。ものものものきゝきゝききににに宵よひ宵よひよいよりよりより寒さむ寒さむさむがりがりがりわなゝきわなゝきわななき居を居をおりりりつるつるつるげすげすげすをのこをのこおのこなどなどなどいといといと物もの物ものものうげうげうげににに步あゆ步あゆあゆみみみくるくるくるををを、、、をるをるおるものものものどもどもどもはははとひとひといだにだにだにもももえええ問と問ととはははずずず。。。外ほか外ほかほかよりよりよりきききたるたるたるものものものどもどもどもなどなどなどぞぞぞ「「「殿との殿とのとのははは何なに何なになににににかかかならならならせせせ給たま給たまたまへへえるるる」」」などなどなどとふとふとう。。。いらへいらへいらえにににははは「「「なになになにのののにににこそこそこそははは」」」とととかならずかならずかならずいらふるいらふるいらうる。。。まことまことまことににに賴たの賴たのたのみみみけるけるけるものものものはははいみじういみじういみじゅうなげかしなげかしなげかしととと思おも思おもおもひひいたりたりたり。。。つとめてつとめてつとめてににになりなりなりてててひまひまひまなくなくなく居を居をおりりりつるつるつるものものものもももやうやうやうやうようよう一ひと一ひとひと人り人りり二ふた二ふたふた人り人りりづゝづゝずつすべりすべりすべり出い出いいでででぬぬぬ。。。ふるきふるきふるきものものものゝゝのさささもももえええゆきゆきゆき離はな離はなはなるるるまじきまじきまじきははは、、、來らい來らいらい年ねん年ねんねんののの國々くにぐに國々くにぐにくにぐにををを手て手ててををを折を折をおりりりてててかぞへかぞへかぞへなどなどなどしししてててゆるぎゆるぎゆるぎありきありきありきたるたるたるももも、、、いみじういみじういみじゅういとほしういとほしういとおしゅうすさまじげすさまじげすさまじげなりなりなり。。。
  6. 6よろしうよろしうよろしゅう詠よ詠よよみみみたりたりたりととと思おも思おもおもふふう歌うた歌うたうたををを人ひと人ひとひとのののもともともとににに遣や遣ややりりりたるたるたるににに返かへ返かへかえしししせせせぬぬぬ。。。けさうけさうけそう文ぶみ文ぶみぶみはははいかゞいかゞいかがせせせむむん。。。それそれそれだにだにだにをりをりおりをかしうをかしうおかしゅうなどなどなどあるあるある返かへ返かへかえりりり事ごと事ごとごとせせせぬぬぬははは心こころ心こころこころおとりおとりおとりすすす。。。又また又またまたさわがしうさわがしうさわがしゅう時とき時ときときめかしきめかしきめかしき處ところ處ところところにににうちうちうちふるめきふるめきふるめきたるたるたる人ひと人ひとひとののの、、、おのおのおのがががつれづれつれづれつれづれととといとまいとまいとまあるあるあるまゝまゝままににに、、、昔むかし昔むかしむかし覺おぼ覺おぼおぼえええててて殊こと殊ことことなるなるなる事こと事ことことなきなきなき歌うた歌うたうたよみよみよみしししててておこせおこせおこせたるたるたる物もの物ものもののののをりをりおりののの扇あふぎ扇あふぎおうぎいみじいみじいみじととと思おも思おもおもひひいててて、、、心こころ心こころこころありありありととと知し知ししりりりたるたるたる人ひと人ひとひとにににいひいひいいつけつけつけたるたるたるににに、、、そのそのその日ひ日ひひににになりなりなりててて思おも思おもおもははわずずずなるなるなる繪ゑ繪ゑえなどなどなど書か書かかきききてててえええたるたるたる。。。うぶうぶうぶ、、、うまうまうまのののはなむけはなむけはなむけなどなどなどののの使つかひ使つかひつかいににに祿ろく祿ろくろくなどなどなどとらとらとらせせせぬぬぬ。。。はかなきはかなきはかなきくすだまくすだまくすだま、、、うづちうづちうずちなどなどなどもてもてもてありくありくありくものものものなどなどなどにににももも猶なほ猶なほなおかならずかならずかならずとらすとらすとらすべしべしべし。。。思おも思おもおもひひいかけかけかけぬぬぬ事こと事ことことにににえええたるたるたるをををばばばいといといと興きよう興きようきょうありありありととと思おも思おもおもふふうべしべしべし。。。これこれこれはははさるさるさるべきべきべき使つかひ使つかひつかいぞぞぞととと心こころ心こころこころときめきときめきときめきしししてててきききたるたるたるににに、、、たゞたゞただなるなるなるはははまことまことまことにににすさまじきすさまじきすさまじきぞぞぞかしかしかし。。。
  7. 7むこむこむことりとりとりててて四し四しし五ご五ごご年ねん年ねんねんまでまでまでうぶやうぶやうぶやのののさわぎさわぎさわぎせせせぬぬぬ所ところ所ところところ。。。おとなおとなおとななるなるなる子こ子ここどもどもどもあまたあまたあまた、、、ようせようせようせずずずはははうまごうまごうまごなどなどなどもももはひはひはいありきありきありきぬぬぬべきべきべき人ひと人ひとひとののの親おや親おやおやどちどちどちのののひるひるひるねねねしししたるたるたる。。。傍かたはら傍かたはらかたわらなるなるなる子こ子ここどもどもどもののの心ここ心ここここちちちにににももも、、、親おや親おやおやのののひるひるひるねねねしししたるたるたるはははよりよりよりどころどころどころなくなくなくすさまじくすさまじくすさまじくぞぞぞありありありししし。。。ねねねおきおきおきてててあぶるあぶるあぶる湯ゆ湯ゆゆははは腹はら腹はらはらだゝしくだゝしくだたしくさへさへさへこそこそこそ覺おぼ覺おぼおぼゆれゆれゆれ。。。しはすしはすしわすのののつごもりつごもりつごもりのののながながなが雨あめ雨あめあめ。。。一ひ一ひひ日ひ日ひひばかりばかりばかりののの精さう精さうそう進じ進じじののの懈け懈けけ怠たい怠たいたいとととやややいふいふいうべからべからべからむむん。。。八月はちぐわつ八月はちぐわつはちがつのののしらしらしらがさねがさねがさね。。。ちちちあえあえあえずずずなりなりなりぬるぬるぬる乳め乳めめ母のと母のとのと。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

興ざめなもの。

昼間に吠える犬。春の網代。三月、四月の紅梅襲の衣。赤ん坊の亡くなった産屋。火をおこしていない火桶や炭櫃。牛を嫌っている牛飼い。博士の家で、続けて女の子を生ませたこと。方違えに出かけたのに、もてなしをしない家。まして節分の方違えの場合は、なおさら興ざめだ。

地方から寄こした手紙で、贈り物の添えていないもの。京からの手紙も、地方の人はそう思うだろうけれど、京からのものは知りたいことを書き集め、世間の出来事を知ることができるのでよい。人のもとに、わざわざきれいに書いて送った手紙の返事を見よう、今ごろはもう届いただろうと、妙に遅いと待っているうちに、さっきの結び文も立て文も、ひどく汚らしく扱ってけば立たせ、上に引いてあった封の墨まで消えたのを持ち帰ってきた。「お留守でございました」とか、あるいは「物忌みだといって受け取りません」などと言って持ち帰ってきたのは、たいそうやりきれなく興ざめだ。また、必ず来るはずの人のもとへ迎えの車をやって待っていると、門に入ってくる音がするので、来たようだと人々が出て見ると、車を車宿りに入れて、轅をぽんと下ろすので、「どうしたの」と尋ねると、「今日はお出かけになりません。こちらへはお渡りになりません」と言って、牛だけを引き出して行ってしまう。また、家じゅう大騒ぎして迎えた婿が来なくなってしまうのは、たいそう興ざめだ。しかるべき人で宮仕えをしている女のもとに婿を取られて、いつ帰ってくるかと思っているのも、たいそう不本意だ。赤ん坊の乳母が、ほんのちょっとと言って出かけたので、赤ん坊が乳母を探すのを、あれこれあやしなだめて、「早く来て」と言いにやったところ、「今夜は参上できません」と使いを返してよこしたのは、興ざめなばかりでなく、憎らしいことこの上ない。女を迎える男なら、まして、どんな気持ちだろう。待つ人のいる家で、夜が少しふけて、そっと門をたたくので、胸が少しどきどきして人を出して尋ねさせると、別の、どうでもよい者が名乗って来たのは、興ざめなものの中でもかえすがえす興ざめだ。

修験者が物の怪を調伏するといって、たいそう得意顔で独鈷や数珠などを持たせて、蝉の鳴くような声を絞り出して経を読んでいるけれど、少しも物の怪が去る様子もなく、護法童子も憑かないので、家の者を集めて祈っていると、男も女も不思議に思ううちに、時刻が変わるまで読み疲れてしまっても、一向に憑かない。「立ちなさい」と言って、よりましから数珠を取り返して、「ああ、効き目がない」とつぶやいて、額から頭の上の方へ髪をなで上げて、あくびを自分からして、物に寄りかかって寝てしまうの。

除目に官職を得られない人の家。今年は必ず任官するだろうと聞いて、以前仕えていた者たちで、よそに散っていた者や、片田舎に住む者たちなどが、みな集まって来て、出入りする車の轅も隙間なく見え、主人の物詣でのお供にも我も我もと参上してお仕えし、物を食べ酒を飲んで騒ぎ合っているのに、除目の終わる明け方まで門をたたく音もせず、おかしいなどと耳をすまして聞いていると、先払いの声がして、上達部などがみな内裏から退出なさる。様子を聞きに、宵から寒がって震えていた下男などが、たいそうつらそうに歩いて来るのを、家の者たちは問いかけることさえできない。よそから来た者たちなどが「殿は何におなりになりましたか」などと尋ねる。答えには「どこそこの前司ですよ」と決まって答える。本当に頼りにしていた者は、たいそう嘆かわしいと思っている。翌朝になって、隙間なく詰めていた者も、だんだん一人二人ずつそっと抜け出していく。古くからの者で、そう簡単には離れて行けない者は、来年欠員になる国々を指折り数えたりして、体をゆすって歩き回っているのも、たいそう気の毒で興ざめな様子だ。

よく詠めたと思う歌を人のもとに送ったのに、返歌をしないの。恋文の場合はどうしようもない。それでさえ、季節の風情などを詠んだ手紙に返事をしないのは、相手を見下げたくなる。また、にぎやかで時めいている所に、古風な人が自分の暇にまかせて、昔を思い出して、たいしたこともない歌を詠んで寄こしたの。何かの行事の折の扇を大切に思って、絵心があると知っている人に描くよう頼んだのに、その当日になって、思いもよらない絵を描いてよこしたの。出産祝いや旅立ちのはなむけなどの使いに、祝儀を与えないの。ちょっとした薬玉や卯槌などを持ってくる者にも、やはり必ず祝儀は与えるべきだ。思いがけない時にもらうのは、たいそううれしいと思うに違いない。これはご祝儀のもらえる使いだと、期待して胸をどきどきさせて来たのに、何もないのは本当に興ざめなことだ。

婿を迎えて四、五年たっても、お産の騒ぎのない家。大人になった子どもがたくさんいて、悪くすると孫なども這い回っていそうな年配の親たちが、そろって昼寝をしているの。そばにいる子どもの気持ちとしても、親が昼寝をしているのは、頼りなく興ざめなものだった。寝起きに浴びる湯は、腹立たしくさえ思われる。十二月の末の長雨。一日だけの精進の怠け、とでも言えようか。八月の白襲。乳の出なくなった乳母。

意訳

「すさまじ」は、その時その場にそぐわず、期待が裏切られて白けてしまう感じを言う。季節はずれのもの、効き目のないもの、待っていたのに来ないもの。とりわけ除目の夜、任官を当てこんで集まった人々が、朝になって一人また一人と去っていく場面は、人生の悲哀を鋭く描いた名文として知られる。作者は、日常のささいな期待はずれから人間の悲喜劇までを、同じ「すさまじ」の一語でくくってみせる。

語釈・文法注

すさまじ
時期や場にそぐわず、興ざめである。期待はずれで白ける。現代語の「すさまじい(恐ろしいほど激しい)」とは意味が異なる。
網代
冬に川で氷魚(ひお)をとるための仕掛け。春にはもう用がない。
かたたがへ
方違え。外出の方角が悪いとき、前夜に別の家に泊まって方角を変えること。泊めた家はもてなすのが礼儀だった。
とこ
独鈷(とっこ)。密教の法具で、両端のとがった金属の棒。
護法
護法童子。加持祈祷のとき、よりまし(霊を乗り移らせる人)に憑いて物の怪を追い払うとされた神霊。
ぜんじ
前司。前任の国司。官職を得られなかったことを、遠回しに答える決まり文句。
うぶやしなひ
産養い。出産後、三日・五日・七日・九日の夜に行う祝宴。

文法

「さこそは思ふらめども」
地方の人も(京からの手紙を)そのように思うだろうけれど。
「がりやりて」
「がり」は、…のもとへ。宮仕えをしている女のもとへ婿をやってしまって、の意と解される。
「ようせずは」
「よくせずは」の音便。悪くすると、ひょっとすると。
「一日ばかりの精進の懈怠」
一日だけの精進の怠け。長く続けたものならともかく、一日だけの精進を怠るのはなおさら興ざめだ、の意。

解説

「にくきもの」と並んで、枕草子の類聚的章段を代表する段である。「すさまじ」は、その場にふさわしくないものに出会ったときの、白けた、がっかりした気持ちを表す。冒頭の「昼ほゆる犬」「春の網代」「三四月の紅梅のきぬ」は、いずれも時季はずれのものの例である。

中ほどの除目の場面は、とりわけよく知られている。任官を見込んで旧臣たちが集まり、前祝いに飲み食いしているのに、朝になって何の知らせもない。「なにのぜんじにこそは」という答え、指を折って来年の国々を数える古参の家来の姿には、受領層の悲哀が凝縮されている。作者自身も受領の家の娘であり、その痛みを身近に知っていたと思われる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、184–186頁(コマ95–96)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日