枕草子 第13段 類聚的章段
山は
趣のある山の名を次々に挙げ、ところどころに和歌や名前の響きにちなんだ短い感想を添える、物づくしの段。

- 1山山やまははは題
- 2小小お倉倉ぐら山山やま、、、三三み笠笠かさ山山やま、、、このこのこのくれくれくれ山山やま、、、わすれわすれわすれ山山やま、、、いりたちいりたちいりたち山山やま、、、かせかせかせ山山やま、、、ひはひはひわののの山山やま。。。かたさりかたさりかたさりこそこそこそ誰誰たれににに所所ところおきおきおきけるけるけるにににかかかとととをかしけれをかしけれおかしけれ。。。いつはたいつはたいつはた山山やま、、、のちせのちせのちせののの山山やま、、、笠笠かさ取取とり山山やま、、、ひらひらひらののの山山やま。。。とことことこのののははは「「「わわわががが名名なもらすもらすもらすななな」」」とととみかどみかどみかどのののよまよまよませせせ給給たまひひいけむけむけんいといといとをかしをかしおかし。。。伊伊い吹吹ぶき山山やま。。。朝朝あさ倉倉くら山山やま、、、よそよそよそににに見見みるるるらむらむらんいといといとをかしをかしおかし。。。岩岩いわ田田た山山やま。。。大大おお比比ひ禮禮れ山山やまもももをかしをかしおかし。。。臨臨りん時時じののの祭祭まつりののの使使つかいなどなどなど思思おもひひい出出いでででらるらるらるべしべしべし。。。たむけたむけたむけ山山やま。。。三三み輪輪わののの山山やまいといといとをかしをかしおかし。。。音音おと羽羽わ山山やま、、、待待まちかねかねかね山山やま、、、玉玉たま坂坂さか山山やま、、、耳耳みみ無無なし山山やま、、、末末すえののの松松まつ山山やま、、、葛葛かずら城城き山山やま、、、美美み濃濃ののののおおお山山やま、、、はゝそはゝそははそ山山やま、、、位位くらい山山やま、、、吉吉き備備びののの中中なか山山やま、、、嵐嵐あらし山山やま、、、さらしなさらしなさらしな山山やま、、、姨姨おば捨捨すて山山やま、、、小小お鹽鹽しお山山やま、、、淺淺あさ間間ま山山やま、、、かたゝめかたゝめかたため山山やま、、、かへるかへるかえる山山やま、、、妹妹いも背背せ山山やま。。。
現代語訳
山は。
小倉山、三笠山、このくれ山、わすれ山、いりたち山、かせ山、ひはの山。かたさり山(片去り山)は、誰に場所を譲ったのだろうかと思うとおもしろい。いつはた山、のちせの山、笠取山、ひらの山。とこの山は、「わが名もらすな」と帝がお詠みになったというのがたいそうおもしろい。伊吹山。朝倉山は、「よそに見るらむ」と歌に詠まれたのがたいそうおもしろい。岩田山。大比礼山もおもしろい。臨時の祭の勅使などが思い出される。たむけ山。三輪の山はたいそう趣がある。音羽山、待かね山、玉坂山、耳無山、末の松山、葛城山、美濃のお山、ははそ山、位山、吉備の中山、嵐山、さらしな山、姨捨山、小塩山、浅間山、かたため山、かへる山、妹背山。
意訳
作者は、名前の響きや、その山が詠まれた和歌を思い浮かべながら、山の名を書き連ねていく。「片去り」という名から誰かに場所を譲ったのかと想像したり、帝の歌や神楽の舞を思い出したり。実際に見た山の景色よりも、言葉と歌の記憶がつくる「名所」の世界を楽しんでいる。
語釈・文法注
- かたさり山
- 「片去る」は、わきへ寄って場所をゆずる意。山の名からその意味を連想して興じている。
- とこの山
- 鳥籠(とこ)の山。近江国の歌枕。「犬上のとこの山なるいさや川いさと答へよわが名もらすな」(古今集・墨滅歌)を帝の歌として引く。
文法
- 「誰に所おきけるにか」
- 誰に場所を残しておいたのだろうか。「にか」の後に「あらむ」が省略されている。
- 「よそに見るらむ」
- 朝倉山を詠んだ古歌の一節を引いたものと考えられる。
- 「臨時の祭の使など思ひ出でらるべし」
- 大比礼山は神楽歌に歌われる山で、賀茂・石清水の臨時の祭で奏される神楽から、祭の勅使の姿が思い出される、の意。
解説
「山は」から始まる、地名を挙げる類聚的章段の最初である。挙げられた山の多くは和歌に詠まれた歌枕で、作者は実景よりも、名前の響きやそれにまつわる歌を手がかりに興じている。
以下「峰は」「原は」「市は」「淵は」「海は」と、同じ形の短い段が続く。教科書でよく読まれる段ではないが、平安時代の人々がどのような地名に心ひかれたかを知る手がかりになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、178頁(コマ92)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日