枕草子 第8段 日記的章段
姫宮の御かたのわらはべ
生昌の家でのこと。姫宮付きの童女の装束について生昌が珍妙な言い回しをして女房たちに笑われ、中宮定子がたしなめる。また生昌が兄惟仲の伝言を伝えにわざわざ作者を呼び出す。

- 1姫姫ひめののの御御おおんかたかたかたのののわらはべわらはべわらわべのののさうぞくさうぞくそうぞくせせせさすさすさすべきべきべきよしよしよし仰仰おおせせせらるゝらるゝらるるににに「「「わらはわらはわらわのののあこめあこめあこめのののうはうはうわははは何何なに色色いろににに仕仕つかうまつるうまつるうまつるべきべきべき」」」ととと申申もうすすすををを、、、又又また笑笑わらふふうもももことわりことわりことわりなりなりなり。。。「「「姫姫ひめ宮宮みやのののおまへおまへおまえのののものものものはははれいれいれいのののやうやうようにてにてにてはははにくげにくげにくげににに候候さぶらははわむむん。。。ちうせいちうせいちゅうせいをしきをしきおしき、、、ちうせいちうせいちゅうせい高高たかつきつきつきにてにてにてこそこそこそよくよくよく候候さぶらははわめめめ」」」ととと申申もうすすすををを「「「さてさてさてこそこそこそはははうはうはうわおそひおそひおそい着着きたるたるたるわらはべわらはべわらわべもももまゐりまゐりまいりよからよからよからめめめ」」」ととといふいふいうををを「「「猶猶なおれいれいれいののの人人ひとのののやうやうようにににかくかくかくななな言言いひひい笑笑わらひひいそそそ。。。いといといときすくきすくきすくなるなるなるものものものををを、、、いとほしげいとほしげいとおしげににに」」」とととせいしせいしせいし給給たまふふうもももをかしをかしおかし。。。
- 2ちゆうげんちゆうげんちゆうげんなるなるなるをりをりおりににに「「「大大だい進進じん物物もの聞聞きこえええむむんとととありありあり」」」ととと人人ひとののの告告つぐるぐるぐるををを聞聞きこしししめしめしめしててて、、、「「「又又またなでふなでふなでうことことこといひいひいいてててわらはわらはわらわれれれむむんとととならならならむむん」」」ととと仰仰おおせせせらるゝらるゝらるるもももいといといとをかしをかしおかし。。。「「「ゆきゆきゆきててて聞聞きけけけ」」」とととのたまはすれのたまはすれのたまわすればばば、、、わざとわざとわざと出出いでででたれたれたればばば「「「一一ひと夜夜よののの門門もんのののことことことををを、、、中中ちゅう納納なににに語語かたりりり侍侍はべりりりしかしかしかばばばいみじういみじういみじゅう感感かんじじじ申申もうささされれれててて、、、いかでいかでいかでさるさるさるべからべからべからむむんをりをりおりににに對對たい面面めんしししててて申申もうししし承承うけたまわらららむむんとととなむなむなん申申もうささされれれつるつるつる」」」とてとてとて又又またことことこともももなしなしなし。。。一一ひと夜夜よののの事事ことやややいはいはいわむむんととと心心こころときめきときめきときめきしししつれつれつれどどど、、、「「「今今いましづかしづかしずかににに御御み局局つぼねにににさぶらはさぶらはさぶらわむむん」」」ととと辭辭じしししててていぬれいぬれいぬればばば、、、歸歸かえりりり參參まいりりりたるたるたるににに、、、「「「さてさてさて何何なに事事ごとぞぞぞ」」」とととのたまはすれのたまはすれのたまわすればばば、、、申申もうしししつるつるつる事事ことをををさささなむなむなんとととまねびまねびまねび啓啓けいしししててて、、、「「「わざとわざとわざとせうそこせうそこしょうそこししし呼呼よびびび出出いづづずべきべきべきことことことにににもももあらあらあらぬぬぬををを、、、おのづからおのづからおのずからしづかしづかしずかににに局局つぼねなどなどなどにににあらあらあらむむんにににもももいへいへいえかしかしかし」」」とてとてとて笑笑わらへへえばばば、、、「「「おのおのおのががが心心ここちちちにににかしこしかしこしかしこしとととおもふおもふおもう人人ひとののの譽譽ほめめめたるたるたるををを嬉嬉うれしししとととややや思思おもふふうととと告告つげげげ知知しらするらするらするならならならむむん」」」とととのたまはするのたまはするのたまわする御御み氣氣け色色しきもももいといといとをかしをかしおかし。。。
現代語訳
姫宮の御方の童女の装束を用意させるようにと仰せがあったときに、生昌が「童女の衵の上おそいは何色にお仕立て申し上げましょうか」と申し上げるのを、女房たちがまた笑うのも無理はない。「姫宮のお膳の物は、普通のものでは見苦しゅうございましょう。小さな折敷、小さな高坏でこそよろしゅうございましょう」と申し上げるのを、「それでこそ、上おそいを着た童女も参上しやすいでしょう」と女房が言うのを、中宮様は「やはり普通の人のように、そんなふうに言って笑ってはいけません。たいそう生まじめな人なのに、かわいそうに」と制止なさるのも、おもしろい。
用事の合間に、「大進が何か申し上げたいとのことです」と人が取り次ぐのをお聞きになって、中宮様が「また何を言って笑われようというのでしょう」とおっしゃるのも、たいそうおもしろい。「行って聞いてきなさい」とおっしゃるので、わざわざ出て行くと、「先夜の門のことを兄の中納言に話しましたところ、たいそう感心申しまして、何とかしかるべき折にお目にかかってお話を承りたいと申しておりました」と言って、ほかには何もない。先夜のことを言い出すのかと胸がどきどきしたけれど、「今度ゆっくりお局に伺いましょう」と言って去ったので、御前に帰参すると、「それで何の話だったの」とおっしゃるので、申したことをこれこれとそのまま申し上げて、「わざわざ呼び出すほどのことでもないのに、そのうち静かに局にでもいる時に言えばよいのに」と言って笑うと、中宮様は「自分の心の中で立派だと思っている人がほめたのを、あなたがうれしいと思うだろうと思って知らせたのでしょう」とおっしゃるご様子も、たいそうすばらしい。
意訳
生昌は、子ども用の衣装を「上おそい」、小さな食器を「ちうせい」と、聞きなれない言い回しをするので、女房たちは笑いがとまらない。けれども定子は、まじめな人を笑うものではないとたしなめる。さらに生昌が「兄があなたの話に感心していた」とわざわざ伝えに来たのを作者が笑うと、定子は、尊敬する兄にほめられたことを早く知らせて喜ばせたかったのでしょうと、生昌の気持ちを汲んでみせる。からかう作者と、それをやわらかく受けとめる定子との対比が鮮やかである。
語釈・文法注
- 姫宮
- 中宮定子の第一皇女、脩子内親王。長徳二年(996)の生まれで、このころ三、四歳。
- うはおそひ
- 上襲(うわおそい)。上に重ねて着る衣のことだが、童女の衵(あこめ)について言うのは普通でない言い方で、女房たちに笑われた。
- 中納言
- 生昌の兄、平惟仲(これなか)。学識のある人物として知られた。
文法
- 「ちうせいをしき、ちうせい高つき」
- 「ちうせい」は小ぶりの意か。小さな折敷、小さな高坏。生昌の独特な言い方として笑いの種になっている。
- 「かくな言ひ笑ひそ」
- 「な…そ」で禁止を表す。そのように言って笑ってはいけない。
- 「きすくなるものを」
- 「きすくなり」は、きまじめで融通のきかないさま。
- 「なでふこと」
- 「なにといふこと」の縮約。どんなこと。
解説
前段に続き、生昌の家での出来事である。生昌の言葉づかいは、漢学を学んだ実務官人らしい硬い言い回しで、宮廷の女房たちの洗練された言葉の感覚とはかみ合わず、笑いを誘う。
一方で定子は、生昌を笑う女房たちをたしなめ、最後には生昌の行動の裏にある気持ちまで言い当ててみせる。作者は自分が笑う側にいながら、その定子の言葉を「いとをかし」とたたえて段を結んでいる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(枕草紙) 板倉屋書房、明治36年(1903)、174–175頁(コマ90)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日