古典ライブラリー

古今和歌集 巻第一 春歌上 53番

世の中に

在原業平(ありわらのなりひら)

もしこの世の中に、まったく桜というものがなかったなら、春の人の心はどんなにのどかであっただろうに。

渚の院で桜を見上げ、花に心を乱される春を思う在原業平。咲く喜びと散る不安が交わる情景。
渚の院で桜を見上げ、花に心を乱される春を思う在原業平。咲く喜びと散る不安が交わる情景。
作者
在原業平朝臣(在原業平)
  1. 1渚なぎさ渚なぎさなぎさののの院ゐん院ゐんいんにてにてにて櫻さくら櫻さくらさくらををを見み見みみてよめるてよめるてよめる詞書
  2. 2世よ世よよののの中なか中なかなかににに初句
  3. 3たえてたえてたえて櫻さくら櫻さくらさくらののの二句
  4. 4なかりせばなかりせばなかりせば三句
  5. 5春はる春はるはるのこころはのこころはのこころわ四句
  6. 6のどけからましのどけからましのどけからまし結句

引用の仕方

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現代語訳

〔詞書〕渚の院で桜を見て詠んだ歌。

もしこの世の中に、まったく桜というものがなかったなら、春の人の心はどんなにのどかであっただろうに。

意訳

桜が咲くのを待ちわび、咲けば散るのを心配する。桜があるからこそ春の心は落ち着かない、と逆説的に桜への深い愛着を表した。

語釈・文法注

渚の院
惟喬親王の別荘。河内国交野(大阪府枚方市)にあった。
たえて
(打消・仮定を伴って)まったく。
なかりせば…まし
反実仮想。

和歌

作者
在原業平(ありわらのなりひら) 825–880
平城天皇の皇子阿保親王の子。右近衛権中将などを務め、「在五中将」と呼ばれた。仮名序は「その心餘りて詞たらず」と評する。『伊勢物語』の主人公「昔男」のモデルとされる。六歌仙・三十六歌仙の一人。
出典
『古今和歌集』巻第一・春歌上・53番
歌体
短歌
状況
詞書「渚の院にて櫻を見てよめる」(渚の院で桜を見て詠んだ歌)。

修辞

反実仮想
「…せば…まし」。

解説

在原業平の代表歌。『伊勢物語』第八十二段では、惟喬親王の交野の狩りの折、渚の院で詠まれたとして語られる。これに対して「散ればこそいとど桜はめでたけれ」と返した人の歌も伝わる。

関連

出典

底本
有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、10頁(コマ18)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
更新日