古典ライブラリー

蜻蛉日記 下巻 第55章

臨時の祭と日記の終わり

天延二年十一月、道綱は賀茂の臨時の祭の舞人に選ばれ、兼家が装束を整えて試楽の日に付き添う。祭の日、作者は兼家の車のまわりに上達部が集まり、道綱がもてはやされるのを見て晴れがましく思う。道綱は八橋の女と、葛城や雲の梯を詠んだ歌を交わす。年の暮れ、作者は魂祭をしながら尽きない物思いに沈み、日記はここで終わる。

  1. 1臨りん臨りんりん時じ時じじののの祭まつり祭まつりまつりあさてあさてあさてとてとてとて佐すけ佐すけすけ俄にはか俄にはかにはかににに舞ま舞ままひひい人びと人びとびとにににめさめさめされれれたりたりたり。。。これこれこれにににつけつけつけてててぞぞぞ珍めづら珍めづらめずらしきしきしき文ふみ文ふみふみあるあるある。。。「「「いかゞいかゞいかがするするする」」」などなどなどゝゝとててているいるいるべきべきべきものものもの皆みな皆みなみなものものものしししたりたりたり。。。試し試しし樂がく樂がくがくののの日ひ日ひひあるあるあるやうやうよう「「「けがらひけがらひけがらいののの暇いとま暇いとまいとまなるなるなる所ところ所ところところなれなれなればばば內うち內うちうちにににもももえええ參まゐ參まゐまいるるるまじきまじきまじきををを、、、參まゐ參まゐまいりりり來き來ききててて見み見みみ出い出いいしししたてたてたてむむんとととするするするををを、、、寄よ寄よよせせせ給たま給たまたまふふうまじかまじかまじかなれなれなればばばいかゞいかゞいかがすすすつつつらむらむらん。。。いといといとおぼつかおぼつかおぼつかなきなきなき事こと事ことこと」」」とととありありあり。。。胸むね胸むねむねつぶれつぶれつぶれててて今いま今いまいまさらさらさらににになになになにせせせむむんにににかかかととと思おも思おもおもふふう事こと事ことことしげれしげれしげればばば「「「とくとくとくさうぞきさうぞきそうぞきててて、、、かしこかしこかしこへへへををを參まゐ參まゐまいれれれ」」」とてとてとていそがしいそがしいそがしやりやりやりたりたりたりけれけれければばば、、、まづまづまずぞぞぞうちうちうち泣な泣ななかかかれれれけるけるける。。。諸もろ諸もろもろ共とも共ともともににに立た立たたちちちててて舞ま舞ままひひいわたりわたりわたりならせならせならせててて參まゐ參まゐまいらせらせらせてててけりけりけり。。。祭まつり祭まつりまつりののの日ひ日ひひいかゞいかゞいかがははは見み見みみざらざらざらむむんとてとてとて出い出いいでででたれたれたればばば、、、またまたまたのののつらつらつらににになでなでなでふふふことことこともももなきなきなきびりやうびりやうびりょうせせせしししわくちわくちわくちうちうちうちおろしおろしおろしててて立た立たたてててりりり。。。口くち口くちくちののの方かた方かたかた、、、すだれすだれすだれののの下しも下しもしもよりよりより淸きよ淸きよきよげげげなるなるなるかいかいかいねりねりねりににに、、、紫むらさき紫むらさきむらさきののの織おり織おりおり物もの物ものもの重かさ重かさかさなりなりなりたるたるたる袖そで袖そでそでぞぞぞ出い出いいでででためためためるるるををを女をんな女をんなおんな車くるま車くるまくるまなりなりなりけりけりけりととと見み見みみるるる所ところ所ところところににに、、、車くるま車くるまくるまのののしりしりしりののの方かた方かたかたにににあたりあたりあたりたるたるたる人ひと人ひとひとののの家いへ家いへいえののの門かど門かどかどよりよりより六ろく六ろくろく位ゐ位ゐいなるなるなるものものものゝゝの、、、たちたちたちはきはきはきたるたるたるふるまひふるまひふるまい出い出いいででで來き來ききててて、、、前まへ前まへまえののの方かた方かたかたにににひざまづきひざまづきひざまずきててて、、、ものものものをををいふいふいうににに、、、驚おどろ驚おどろおどろきききててて目め目めめをををとゞめとゞめとどめててて見み見みみれれればばば、、、かれかれかれががが出い出いいででで來き來ききつるつるつる車くるま車くるまくるまのののもともともとにににははは、、、あかきあかきあかき人ひと人ひとひと黑くろ黑くろくろききき人ひと人ひとひと多おほ多おほおおうううててて數かず數かずかずもももしらしらしらぬぬぬほどほどほどににに立た立たたてててりりりけりけりけり。。。よくよくよく見み見みみもてもてもていけいけいけばばば、、、見み見みみししし人ひと人ひとひと々びと々びとびとのののあたりあたりあたりなりなりなりけりけりけりととと思おも思おもおもふふう。。。例れい例れいれいののの年とし年としとしよりよりよりはははことことことどうどうどうなりなりなりててて、、、上かん上かんかん達だち達だちだち部め部めめののの車くるま車くるまくるまかいかいかいつれつれつれてててくるくるくるものものもの皆みな皆みなみなかれかれかれををを見み見みみてててなななべしべしべし。。。そこそこそことととにににもももとまりとまりとまりててて、、、おほじおほじおおじ所ところ所ところところににに口くち口くちくちをををつどへつどへつどえててて立た立たたちちちたりたりたり。。。我わ我わわががが思おも思おもおもふふう人ひと人ひとひとにはかにはかにはかににに出い出いいでででたるたるたる程ほど程ほどほどよりよりよりははは、、、供とも供ともとも人びと人びとびとなどなどなどもももきらきらしうきらきらしうきらきらしゅう見み見みみえええたりたりたり。。。上かん上かんかん達だち達だちだち部め部めめ手て手てて每ごと每ごとごとににに菓くだ菓くだくだ物もの物ものものなどなどなどさしさしさし出い出いいでででつゝつゝつつものものものいひいひいいなどなどなどししし給たま給たまたまへへえばばばおもおもおもたゝしきたゝしきたたしき心こころ心こころこころちちちすすす。。。又また又またまたふるめかしきふるめかしきふるめかしき人ひと人ひとひとももも、、、例れい例れいれいのののゆるさゆるさゆるされれれぬぬぬことことことにににててて山やま山やまやま吹ぶき吹ぶきぶきのののなかなかなかにににあるあるあるををを、、、うちうちうち散ち散ちちりりりたるたるたる中なか中なかなかにににさしさしさし分わ分わわきききてててとらへとらへとらえさせさせさせててて、、、かのかのかのうちうちうちよりよりより酒さけ酒さけさけなどなどなどとりとりとり出い出いいでででたれたれたればばば、、、かはらけかはらけかわらけさしさしさしかけかけかけられられられなどなどなどするするするををを見み見みみれれればばば、、、唯ただ唯ただただそのそのそのかたかたかた時とき時ときときばかりばかりばかりややや、、、行ゆ行ゆゆくくく心こころ心こころこころもももありありありけむけむけん。。。さてさてさて佐すけ佐すけすけにににかくかくかくてててやややなどなどなどさかしらさかしらさかしらがるがるがる人ひと人ひとひとのののありありありてててものものものいひいひいい續つづ續つづつづくくく人ひと人ひとひとありありあり。。。八やつ八やつやつ橋はし橋はしはしののの程ほど程ほどほどにににやややありありありけむけむけん、、、始はじめ始はじめはじめめめめててて、、、
  2. 2「「「かづらきかづらきかずらきややや神かみ神かみかみ代よ代よよのののしるししるししるし深ふか深ふかふかからからからばばばたゞたゞただ一ひと一ひとひとことことことにににうちうちうちもももとけとけとけなななむむん」」」。。。
  3. 3かへりかへりかえりごとごとごとこたびこたびこたびはははなななめりめりめり。。。
  4. 4「「「葛かづら葛かづらかずら城き城ききののの蛛くも蛛くもくも手で手でではははいづこいづこいずこやややつはしつはしつわしのののふみふみふみ見み見みみてててけむけむけんとととたのむたのむたのむかひかひかいなくなくなく」」」。。。
  5. 5こたびこたびこたびぞぞぞかへりかへりかえりごとごとごと、、、
  6. 6「「「通かよ通かよかよふふうべきべきべき道みち道みちみちにににもももあらあらあらぬぬぬやややつはしつはしつわしのののふみふみふみ見み見みみてててきききとてとてとてなになになに賴たの賴たのたのむむむらむらむらん」」」
  7. 7ととと書か書かかきききてててしししててて書か書かかいいいたりたりたり。。。又また又またまた、、、
  8. 8「「「なになになにかかかそのそのその通かよ通かよかよははわむむん道みち道みちみちのののかたかたかたからからからむむんふみふみふみ始はじめ始はじめはじめめめめたるたるたるあとあとあとをををたのめたのめたのめるるる」」」
  9. 9又また又またまたかへりかへりかえりごとごとごと、、、
  10. 10「「「尋たづ尋たづたずぬぬぬらむらむらんかひかひかいやややなからなからなからむむん大おほ大おほおお空そら空そらそらのののくもくもくもぢぢじははは通かよ通かよかよふふうあとあとあとはかはかはかもももあらあらあらじじじ」」」。。。
  11. 11まけまけまけじじじととと思おも思おもおもひひい顏がほ顏がほがおなめれなめれなめればばば、、、又また又またまた、、、
  12. 12「「「おほおほおお空そら空そらそらももも雲くも雲くもくものののかけかけかけはしはしはしなくなくなくばばばこそこそこそかよふかよふかようはかなきはかなきはかなき歎なげ歎なげなげきききをををもももせせせめめめ」」」。。。
  13. 13かへしかへしかへし、、、
  14. 14「「「ふみふみふみゝれゝれみれどどど雲くも雲くもくものののかけかけかけはしはしはしあやふしあやふしあやうしととと思おも思おもおもひひいしらしらしらずずずもももたのむたのむたのむなるなるなるかなかなかな」」」。。。
  15. 15又また又またまたやるやるやる、、、
  16. 16「「「なほなほなおをらをらおらむむん心こころ心こころこころたのもしたのもしたのもしあしあしあしたづたづたずのののくもくもくもぢぢじおりおりおりくるくるくるつばさつばさつばさやややはははなきなきなき」」」。。。
  17. 17こたみこたみこたみはははくらしくらしくらしとてとてとてやみやみやみぬぬぬ。。。しはすしはすしわすににになりなりなりにににたりたりたり。。。又また又またまた、、、
  18. 18「「「かたかたかたしきしきしきしししとしとしとしはははふれふれふれどもどもどもさささごろもごろもごろものののなみだなみだなみだにににしむるしむるしむる時とき時ときときはははなかりなかりなかりききき」」」。。。
  19. 19「「「ものものものへへへなむなむなん」」」とてとてとてかへりかへりかえり事こと事ことことなしなしなし。。。又また又またまたののの日ひ日ひひばかりばかりばかり返かへ返かへかえりりりごとごとごと、、、こひこひこいにににやりやりやりたれたれたればばば、、、「「「そばそばそばののの木き木ききににに見み見みみききき」」」とととのみのみのみ書か書かかきききててておこせおこせおこせたりたりたり。。。やがてやがてやがて、、、
  20. 20「「「我わ我わわがががなるなるなるはははそばそばそばのののぬるぬるぬるかかかととと思おも思おもおもふふうまでまでまで見み見みみきききとととばかりばかりばかりももも氣け氣けけ色しき色しきしきばむばむばむかなかなかな」」」。。。
  21. 21かへりかへりかえりごとごとごと、、、
  22. 22「「「天あま天あまあま雲ぐも雲ぐもぐもののの山やま山やまやまのののはるけきはるけきはるけきまろまろまろなれなれなればばばそばそばそばぬるぬるぬるいろいろいろはははときはときはときわなりなりなりけりけりけり」」」。。。
  23. 23「「「ふるふるふる年とし年としとしにににせちせちせち分ぶ分ぶぶするするするををを、、、こなたこなたこなたににに」」」などなどなどいはせいはせいわせててて、、、
  24. 24「「「いといといとせめてせめてせめて思おも思おもおもふふう心こころ心こころこころををを年とし年としとしのののうちうちうちにににはるはるはるくるくるくることことこともももしらせしらせしらせてててしがしがしがななな」」」。。。
  25. 25かへりかへりかえり事こと事ことことなしなしなし。。。又また又またまたほどほどほどなきなきなき事こと事ことことをををすくせすくせすくせなどなどなどやややありありありけむけむけん、、、
  26. 26「「「かひかひかいなくなくなくててて年とし年としとし暮く暮くくれれれはつるはつるはつる物もの物ものものならならならばばば春はる春はるはるにににもももあはあはあわぬぬぬ身み身みみととともももこそこそこそなれなれなれ」」」。。。
  27. 27こたみこたみこたみもももなしなしなし。。。いかなるいかなるいかなるにににかかかあらあらあらむむんととと思おも思おもおもふふうほどほどほどににに、、、かうかうこういふいふいう人ひと人ひとひとあまたあまたあまたあああなりなりなりととと聞き聞ききくくく。。。さてさてさてなるなるなるべしべしべし、、、
  28. 28「「「我わ我わわならならならぬぬぬ人ひと人ひとひとまつまつまつならならならばばば待ま待ままつつつととといはいはいわでででいたくいたくいたくななな越こ越ここしししそそそ沖おき沖おきおきつつつ白しら白しらしら浪なみ浪なみなみ」」」。。。
  29. 29返かへ返かへかえりりり事こと事ことこと、、、
  30. 30「「「越こ越ここしししもももせせせずずずこさこさこさずずずもももあらあらあらずずず浪なみ浪なみなみよせよせよせののの濱はま濱はまはまはははかけかけかけつゝつゝつつ年とし年としとしをををこそこそこそ經へ經へへれれれ」」」。。。
  31. 31年とし年としとしせめてせめてせめて、、、
  32. 32「「「さささもももこそこそこそははは浪なみ浪なみなみののの心こころ心こころこころはははつらからつらからつらからめめめとしとしとしさへさへさへ越こ越ここゆるゆるゆるまつまつまつもももありありありけりけりけり」」」。。。
  33. 33かへりかへりかえりごとごとごと、、、
  34. 34「「「千ち千ちち歳とせ歳とせとせ經へ經へへるるるまつまつまつもももこそこそこそあれあれあれほどほどほどもももなくなくなく越こ越ここえええてててははは歸かへ歸かへかえるるる程ほど程ほどほどやややとととほかずほかずほかず」」」
  35. 35とととぞぞぞあるあるある。。。あやしあやしあやし、、、なでなでなでふふふ事こと事ことことぞぞぞととと思おも思おもおもふふう。。。風かぜ風かぜかぜきききあるゝあるゝあるるほどほどほどにににやるやるやる、、、
  36. 36「「「吹ふ吹ふふくくく風かぜ風かぜかぜにににつけつけつけてててもももものものものををを思おも思おもおもふふうかなかなかな大おほ大おほおお海うみ海うみうみののの浪なみ浪なみなみのののしづしづしずこゝろこゝろこころなくなくなく」」」
  37. 37とてとてとてやりやりやりたるたるたるににに、、、「「「聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべき人ひと人ひとひとははは今日けふ今日けふきょうのののことことことををを知し知ししりりりてててなむなむなん」」」ととと、、、異こと異ことこと手で手ででしししてててひとひとひと葉は葉ははついついついたるたるたる枝えだ枝えだえだにににつけつけつけたるたるたる。。。たちたちたちかへりかへりかえり「「「いとほしういとほしういとおしゅう」」」などなどなどいひいひいいててて、、、
  38. 38「「「我わ我わわががが思おも思おもおもふふう人ひと人ひとひとはははたたたそそそとととははは見み見みみなせなせなせどもどもどもなげきなげきなげきのののえだえだえだにににやすまらやすまらやすまらぬぬぬかなかなかな」」」
  39. 39などなどなどぞぞぞいふいふいうめるめるめる。。。今年ことし今年ことしことしいたういたういとうあるゝあるゝあるることことことなくなくなくててて、、、はだらはだらはだら雪ゆき雪ゆきゆきふたゝびふたゝびふたたびばかりばかりばかりぞぞぞ降ふ降ふふりりりつるつるつる。。。佐すけ佐すけすけののの朔つい朔ついつい日たち日たちたちのののものものものものものものどもどもども白あを白あをあお馬うま馬うまうまにににものものものすすすべきべきべきなどなどなどものものものしししつるつるつるほどほどほどににに、、、暮く暮くくれれれはつるはつるはつる日ひ日ひひにににはははなりなりなりにににけりけりけり。。。明日あす明日あすあすのののものものものをりをりおりまかせまかせまかせつゝつゝつつ、、、人ひと人ひとひとにににまかせまかせまかせなどなどなどしししててて思おも思おもおもへへえばばば、、、かうかうこうながらながらながらこひこひこいけふけふけうににになりなりなりにににけるけるけるもももあさましうあさましうあさましゅう、、、みみみたまたまたまなどなどなど見み見みみるるるにににももも、、、例れい例れいれいののの盡つ盡つつきききせせせぬぬぬことことことにににおぼゝれおぼゝれおぼおれてててぞぞぞはてはてはてにににけるけるける。。。年とし年としとしのののはてはてはてなれなれなればばば、、、夜よ夜よよいたういたういとう更ふ更ふふけけけてててぞぞぞたゝきたゝきたたきくくくなるなるなる。。。今いま今いまいまににに平たひら平たひらたいらににに

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(十一月の)臨時の祭があさってというときに、助(道綱)が急に舞人に召された。これにつけて、珍しく(兼家から)手紙がある。「どうするのか」などと言って、必要な物は皆そろえてくれた。試楽の日に(兼家が)言うことには、「穢れで籠もっている所なので、内裏にも参れないが、(そちらに)参って(道綱を)送り出してやろうと思うのに、(あなたは私を)寄せつけないだろうから、どうしたものか。たいそう気がかりなことだ」とある。胸がつぶれて、今さら何のために(来るのか)と思うことが多いので、「早く装束をつけて、あちらへ参りなさい」と言って急いで送り出したところ、まず泣けてきた。(兼家は道綱と)一緒に立って、舞をひととおり習わせて(宮中に)参らせたのだった。

祭の日、どうして見ないでいられようかと思って出かけると、向かいの列に、何ということもない檳榔毛の車が、……を下ろして止まっている。前の方の簾の下から、きれいな掻練に紫の織物を重ねた袖が出ているので、女車だったのだと見ていると、車の後ろの方に当たる人の家の門から、六位ほどの者で太刀を佩いた者が、……出てきて、前の方にひざまずいて何か言うので、驚いて目をとめて見ると、その者が出てきた車のもとには、緋の袍の人や黒い袍の人が大勢、数も知れないほど立っていた。よく見ていくと、見知った人々のあたり(兼家の一行)だったのだと思う。例年よりは……で、上達部の車が連なって来る者は皆、あの(兼家の)車を見て(止まる)のだろう。そこにとまって、……所に口をそろえて立っていた。私の思う人(道綱)が急に(舞人に)出た割には、供の人なども華やかに見えた。上達部が手ごとに果物などを差し出しては話しかけたりなさるので、晴れがましい気持ちがする。また古風な人(作者の父か)も、いつもの許されないことで、山吹(の衣の人々)の中にいるのを、散らばっている中から(兼家が)特に分けて捕まえさせて、あの(車の)中から酒などを取り出して、杯を差したりするのを見ると、ただそのわずかな時間だけは、(私にも)心が晴れる思いがあったことだろう。

さて、助に、こうしてはどうかなどと世話を焼く人があって、手紙をやり取りし続ける人があった。八橋のあたりの人だったろうか、初めて、

「葛城の神代のしるしが深いのなら、ただ一言でうちとけてほしいものです」

返事は、今度は(代筆)のようだ。

「葛城の蜘蛛手(八橋)はどこにあるのでしょう。八橋の文を見ただろうと頼みにしても甲斐はないでしょう」

今度こそ(自筆の)返事として、

「通うはずの道でもない八橋を踏んで見たからといって、何を頼みにするのでしょう」

と書いて……書いてあった。また、

「どうしてその通う道が難しいことがありましょう。踏み初めた跡(文を交わし始めたこと)を頼みにしているのです」

また返事は、

「尋ねるかいもないでしょう。大空の雲の道は、通う跡も何もないでしょう」

負けまいと思う様子なので、また、

「大空にも雲の梯がないのならこそ、通うことのはかない嘆きもするでしょうが(梯はあるのです)」

返しは、

「踏んでみても雲の梯は危ないものだと思い知らずに、頼みにしていらっしゃるのですね」

また送る。

「やはり(あなたの所に)降りようという心が頼もしいのです。葦鶴が雲の道から降りてくる翼がないことがありましょうか」

今度は、暗いと言って(返事は)なかった。十二月になった。また、

「独り寝で過ごした年は経ても、衣の(袖が)涙に染みる時はなかったのに(今は涙に濡れています)」

「出かけております」と言って返事はない。翌日ごろ、返事を求めにやると、「そばの木に見ました」とだけ書いてよこした。すぐに、

「私のことは、そばの(木が)濡れているかと思うほどに(涙に濡れて)見えたとだけでも、そぶりを見せてくださるのですね」

返事は、

「天雲の山のはるかな私なので、そばの濡れる色は常磐(変わらない緑)なのでした」

「旧年のうちに節分をするので、こちらで(方違えを)」などと言わせて、

「たいそうひたすら思う心を、年のうちに晴れて(春が来る)ことも知らせたいものです」

返事はない。また、間もないことを……などがあったのだろうか、

「甲斐もなく年が暮れ果ててしまうのなら、春にも逢わない身となってしまうでしょう」

今度も(返事は)ない。どうしたのだろうと思っているうちに、こう言い寄る人が大勢いるそうだと聞く。そのためだろう、

「私でない人を待つのなら、待つと言わずに、ひどく越さないでください、沖の白波よ」

返事は、

「越しもせず越さないのでもない。波の寄せる浜は、波をかけながら年を経ているのです」

年の瀬が迫って、

「そのように波の心はつれないのでしょう。年までも越える松もあるのですね」

返事は、

「千年を経る松もありましょうが、ほどもなく越えては帰る(波の)程は、遠くはないでしょう」

とある。妙だ、どういうことだと思う。風が荒れているころに送る。

「吹く風につけても物思いをすることです。大海の波のように、落ち着く心もなく」

と送ると、「お返事申し上げるはずの人は、今日のこと(物忌み)を知っていまして」と、別の筆跡で、葉が一枚ついた枝につけてある。すぐに返して「お気の毒に」などと言って、

「私の思う人はその人だとは見なしているけれど、嘆きの枝(の一葉)に心が安まらないことです」

などと言っているようだ。

今年はひどく荒れることもなくて、はだら雪が二度ほど降った。助の元日の装束や、白馬の節会に用いる物などを用意しているうちに、年の暮れ果てる日になってしまった。明日の物は……人に任せたりなどして思うと、こうしたままで……今日になってしまったのもあきれたことで、魂祭などを見るにつけても、例の尽きない物思いにおぼれて(年が)暮れてしまった。年の終わりなので、夜がたいそう更けてから、(追儺の)門を叩く音が聞こえてくるようだ。今に平に(底本のまま)

意訳

〔臨時の祭の舞人〕十一月、道綱は急に賀茂の臨時の祭の舞人に選ばれる。兼家は装束をそろえ、試楽の日には「そちらに寄せてもらえないだろうから」と言いながら、道綱に付き添って舞を教え、宮中に送り出す。作者はその姿に涙ぐむ。

〔祭の日〕祭の日、作者は見物の車の中から、兼家の車のまわりに上達部たちが集まり、道綱にも果物を差し出すのを見て、晴れがましく思う。兼家は父倫寧をも見つけて、酒をすすめる。作者は、ほんのひとときだけ心が晴れる。

〔八橋の女〕道綱は八橋のあたりの女と歌を交わす。葛城の神、八橋の蜘蛛手、雲の梯、沖つ白波などをふまえた歌を次々に贈るが、女には多くの求婚者があるらしく、なかなか応じない。

〔年の暮れ〕年の暮れ、作者は道綱の元日の装束や白馬の節会の支度に追われる。魂祭をしながら、例の尽きない物思いにおぼれて大晦日の夜を迎え、追儺の音が聞こえるところで、日記の本文は終わる。

語釈・文法注

文法

「臨時の祭」
賀茂の臨時の祭。十一月の下の酉の日に行われる。
「舞ひ人」
東遊(あずまあそび)を舞う人。
「などゝているべきもの」
底本どおり。「など」と「て」の間に注記がある。
「試樂」
祭の数日前に、宮中で舞楽を予行すること。
「けがらひの暇」
穢れのために出仕を控えている間。
「見出したてむ」
送り出してやろう。
「寄せ給ふまじかなれば」
あなたは私を寄せつけないだろうから。
「舞ひわたりならせて」
舞をひととおり習わせて。
「またのつら」
向かいの列。
「びりやう」
檳榔毛(びろうげ)の車。
「せしわくち」
底本どおり。意味がとりにくい。
「かいねり」
掻練。練って柔らかくした絹。
「あかき人黑:くろ+き人」
緋の袍(五位)の人と、黒の袍(四位以上)の人。
「ことどうなりて」
底本どおり。意味がとりにくい。
「おほじ所」
底本どおり。注記に「お」の異文がある。
「ふるめかしき人」
古風な人。作者の父、藤原倫寧をさすか。
「山吹のなか」
山吹色の衣を着た人々の中。
「行く心」
心が晴れること。
「八橋の程」
三河の八橋の辺り(出身の人)か。女の素性ははっきりしない。
「かづらき」
葛城山。一言主の神の伝説をふまえる。
「蛛手」
蜘蛛の足のように、水の流れが八方に分かれる所。八橋の名の由来(『伊勢物語』第九段)。
「ふみ見てけむと」
「文」と「踏み」を掛ける。
「と書きてして書いたり」
底本どおり。「して」の脇に注記がある。
「雲のかけはし」
雲の梯。雲に架けたはしご。
「あしたづ」
葦鶴。鶴。
「そばの木」
そば(そばの木、かなめもち)。「側」を掛ける。
「せち分」
節分。立春の前日。
「我ならぬ人まつならば」
「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ」(『古今和歌集』東歌)をふまえる。
「ほかず」
底本どおり。注記に異文がある。
「風きあるゝ」
底本どおり。注記に異文があり、「風吹き荒るる」の意と解する。
「異手」
別の人の筆跡。
「白馬」
白馬の節会。正月七日に宮中で白馬(あおうま)を見る行事。
「ものをりまかせつゝ」
底本どおり。意味がとりにくい。
「こひけふ」
底本どおり。注記に「に」の異文がある。
「みたま」
御魂祭。大晦日に祖霊を祭る行事。
「たゝきくなる」
大晦日の夜の追儺の門を叩く音が聞こえてくる。
「今に平に」
底本どおり。注記に「流布本有本ノマヽ四字」とあり、写本にもとからある意味不明の四字である。

和歌

かづらきや神代のしるし深からばたゞ一ことにうちもとけなむ

詠者
藤原道綱
状況
八橋のあたりの女に初めて贈った歌。

修辞

本説
葛城山の一言主の神の伝説をふまえ、一言でいいから返事がほしいと詠む。

葛城の蛛手はいづこやつはしのふみ見てけむとたのむかひなく

詠者
八橋の女
状況
道綱への返歌。代筆と見られる。

修辞

掛詞
「ふみ」に「踏み」と「文」を掛ける。

通ふべき道にもあらぬやつはしのふみ見てきとてなに賴むらむ

詠者
八橋の女
状況
同じく道綱への返歌。

修辞

掛詞
「ふみ」に「踏み」と「文」を掛ける。

なにかその通はむ道のかたからむふみ始めたるあとをたのめる

詠者
藤原道綱
状況
女への歌。

修辞

掛詞
「ふみ」に「踏み」と「文」を掛ける。

尋ぬらむかひやなからむ大空のくもぢは通ふあとはかもあらじ

詠者
八橋の女
状況
道綱への返歌。

おほ空も雲のかけはしなくばこそかよふはかなき歎きをもせめ

詠者
藤原道綱
状況
負けまいとして贈った歌。

ふみゝれど雲のかけはしあやふしと思ひしらずもたのむなるかな

詠者
八橋の女
状況
道綱への返歌。

なほをらむ心たのもしあしたづのくもぢおりくるつばさやはなき

詠者
藤原道綱
状況
女への歌。

かたしきしとしはふれどもさごろものなみだにしむる時はなかりき

詠者
藤原道綱
状況
十二月に女に贈った歌。

我がなるはそばのぬるかと思ふまで見きとばかりも氣色ばむかな

詠者
藤原道綱
状況
女が「そばの木に見き」とだけ返してきたのに対する歌。

天雲の山のはるけきまろなればそばぬるいろはときはなりけり

詠者
八橋の女
状況
道綱への返歌。

いとせめて思ふ心を年のうちにはるくることもしらせてしがな

詠者
藤原道綱
状況
年内の節分にことよせて贈った歌。

修辞

掛詞
「はる」に「春」と心が「晴る」を掛ける。

かひなくて年暮れはつる物ならば春にもあはぬ身ともこそなれ

詠者
藤原道綱
状況
返事のない女に重ねて贈った歌。

我ならぬ人まつならば待つといはでいたくな越しそ沖つ白浪

詠者
藤原道綱
状況
女に多くの求婚者がいると聞いて贈った歌。

修辞

本歌
「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ」(『古今和歌集』東歌)をふまえる。
掛詞
「まつ」に「松」と「待つ」を掛ける。

越しもせずこさずもあらず浪よせの濱はかけつゝ年をこそ經れ

詠者
八橋の女
状況
道綱への返歌。

さもこそは浪の心はつらからめとしさへ越ゆるまつもありけり

詠者
藤原道綱
状況
年の瀬に贈った歌。

修辞

掛詞
「まつ」に「松」と「待つ」を掛ける。

千歳經るまつもこそあれほどもなく越えては歸る程やとほかず

詠者
八橋の女
状況
道綱への返歌。

吹く風につけてもものを思ふかな大海の浪のしづこゝろなく

詠者
藤原道綱
状況
風の荒れる日に女に贈った歌。

我が思ふ人はたそとは見なせどもなげきのえだにやすまらぬかな

詠者
藤原道綱
状況
別の筆跡で、葉の一枚ついた枝につけた返事が来たのに答えた歌。

修辞

掛詞
「なげき」に「嘆き」と「投げ木」を掛ける。

解説

天延二年(974)十一月の賀茂の臨時の祭で、道綱は舞人に選ばれた。兼家は穢れを理由に作者の家を訪れることを遠慮しながらも、装束をそろえ、息子に舞を教えて送り出す。祭の日、上達部が兼家の車に集まり、道綱をもてはやす様子を見て、作者は「おもたゝしき心ちす」と書く。夫婦の関係は絶えても、道綱を通して兼家とのつながりは続いている。

道綱と八橋の女との贈答は、技巧的な歌が続き、作者が代作したものと考えられる。下巻の後半には、こうした道綱の恋の歌の記録が多い。

日記の本文は、天延二年の大晦日、魂祭をしながら物思いにおぼれる作者の姿で終わる。末尾の「今に平に」の四字は意味がとれず、底本の注記も、写本にもとからあると記すだけである。作者の物思いは、最後まで「例の盡きせぬこと」として書きとめられている。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、156–160頁(コマ81–83)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日