蜻蛉日記 下巻 第53章
月の光で読む手紙
遠度は道綱を通して何度も作者を呼び出し、雨の夜には中川を詠んだ歌を交わす。ある夜、遠度にせがまれた作者は、兼家とやりとりした手紙を見せる。遠度は簀子に出て、おぼろ月の光で長いあいだ読みふける。翌日、遠度からは例になく心をこめた手紙が届き、作者が返事を出しかねていると、卯の花とほととぎすの歌が贈られてくる。
- 1又又またののの日日ひもももまだしきまだしきまだしきににに、、、「「「昨昨きの日日うはははうそうそうそふかふかふかせせせ給給たまふふうことことことしげかしげかしげかんんんめりめりめりしかしかしかばばば、、、えええ物物ものももも聞聞きこえええずずずなりなりなりにににききき。。。今今いまのののあひだあひだあいだももも御御おんいとまいとまいとまあらあらあらばばばおはしませおはしませおわしませ。。。うへうへうえのののつらくつらくつらくおはしますおはしますおわしますことことことゝゝと更更さらにににいはいはいわむむんかたかたかたなしなしなし。。。さりさりさりともともとも命命いのち侍侍はべらららばばば、、、世世よののの中中なかははは見見み給給たまへへえてててむむん。。。死死しなななばばば思思おもひひい較較くらべべべてててもももいかゞいかゞいかがあらあらあらむむん。。。よしよしよしよしよしよしこれこれこれははは忍忍しのびびびごとごとごと」」」とてとてとて、、、みづからみづからみずからはははものものものせせせずずず。。。又又また二日二日ふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、「「「まだしきまだしきまだしきよりよりよりよくよくよくきせきせきせむむん。。。そなたそなたそなたにににややや參參まいりりりつつつべきべきべき」」」などなどなどあれあれあればばば「「「早早はよううう物物ものせよせよせよ。。。こゝこゝここにににははは何何なにせせせむむんににに」」」とてとてとて出出いししし立立たつつつ。。。「「「例例れいののの事事こともももなかりなかりなかりつつつ」」」とてとてとて、、、歸歸かえりりりきたりきたりきたりぬぬぬ。。。「「「今今いま二日二日ふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、とりとりとり聞聞きこゆゆゆべきべきべきことことことありありあり。。。おはしませおはしませおわしませ」」」とととのみのみのみ書書かきききててて、、、まだしきまだしきまだしきにににありありあり。。。「「「唯唯ただ今今いまさぶらふさぶらふさぶらう」」」ととといはせいはせいわせててて、、、しばししばししばしあるあるある程程ほどににに、、、雨雨あめいたういたういとう降降ふりりりぬぬぬ。。。夜夜よさへさへさへかとりかとりかとりててて止止やまままぬぬぬばばば、、、えええものものものせせせでででなさけなさけなさけなしなしなし。。。せうそこせうそこしょうそこをををだにだにだにとてとてとて、、、「「「いといといとわりなきわりなきわりなき雨雨あめににに障障さわりりりてててわびわびわび侍侍はべりりり。。。かばかりかばかりかばかり、、、
- 2「「「絕絕たえええずずず行行ゆくくくわわわがががなかなかなか河河がわののの水水みずまさりまさりまさりをちをちおちなるなるなる人人ひとぞぞぞこひしかりこひしかりこいしかりけるけるける」」」。。。
- 3かへりかへりかえりごとごとごと、、、
- 4「「「あはあはあわぬぬぬせせせををを戀戀こいしししとととおもはおもはおもわゞゞば思思おもふふうどちどちどちへむへむへむ中中なか川川がわにににわれわれわれをををすませすませすませよよよ」」」。。。
- 5などなどなどあるあるあるほどほどほどににに、、、暮暮くれれれはてはてはてゝゝて雨雨あめやみやみやみたるたるたるにににみづからみづからみずからなりなりなり。。。例例れいののの心心こころもともともとなきなきなきすぢすぢすじをををのみのみのみあれあれあればばば「「「なになになにかかかみつみつみつとととのたまひのたまひのたまいししし。。。およびおよびおよび一一ひとつつつははは折折おりりりりあへあへあえぬぬぬほどほどほどににに、、、過過すぐぐぐめるめるめるものものものををを」」」ととといへいへいえばばば「「「それそれそれもももいかゞいかゞいかが侍侍はべらららむむん。。。ふじやうふじやうふじょうなるなるなる事事ことどもどもどもゝゝもはべはべはべめれめれめればばば、、、くじくじくじはからはからはからまたまたまたおらすおらすおらす程程ほどにににもももやややなりなりなり侍侍はべらららむむん。。。などなどなどいかでいかでいかでおとゞおとゞおとどののの御御おんことことことのみのみのみ、、、なかなかなか切切きりりりててて續續つづくくくわざわざわざもももししし侍侍はべりりりしがしがしがななな」」」とととあれあれあればばば、、、いといといとをかしうをかしうおかしゅうててて、、、「「「歸歸かえるるる雁雁かりををを鳴鳴なかかかせせせててて」」」などなどなど答答こたへへえたれたれたればばば、、、いといといとほがらかほがらかほがらかにににうちうちうち笑笑わらふふう。。。さてさてさてかのかのかの美美び々々びしうしうしゅうもてもてもてなすなすなすとととありありありしししことことことをををおもひおもひおもいててて、、、「「「いといといとまめやかまめやかまめやかにににははは心心こころ一一ひとつつつにににももも侍侍はべらららずずず。。。そゝのかしそゝのかしそそのかし侍侍はべらららむむんことことことははは難難かたききき心心こころちちちなむなむなんあるあるある」」」ととと物物ものすれすれすればばば、、、「「「いかなるいかなるいかなることことことにににかかか侍侍はべらららむむん。。。いかでいかでいかでこれこれこれをををだにだにだにうけうけうけ給給たまはらはらわらむむん」」」とてとてとて、、、あまたあまたあまたたびたびたび責責せめめめらるれらるれらるればばば、、、げにげにげにともともとも知知しらせらせらせむむん、、、詞詞ことばにににいへいへいえばばば出出いでででにくきにくきにくきをををととと思思おもひひいててて、、、「「「御御ご覽覽らんせせせさするさするさするにににももも、、、びなきびなきびなき心心こころちちちすれすれすれどどど、、、たゞたゞただこれこれこれ催催もよおししし聞聞きこえええむむんとととののの苦苦くるしきしきしきををを見見みたまへたまへたまえとてとてとてなむなむなん」」」とてとてとてかたかたかたはなつはなつはなつにににそはそはそわやりやりやりとてとてとてさしさしさし出出いでででたれたれたればばば簀簀す子子のこにににすべりすべりすべり出出いでゝでゝでて、、、おぼるおぼるおぼるなるなるなる月月つきにににあてあてあてゝゝて久久ひさしうしうしゅう見見みててて入入いりりりぬぬぬ。。。「「「紙紙かみののの色色いろにににさへさへさへまぎれまぎれまぎれててて、、、更更さらにににえええ見見み給給たまへへえずずず。。。晝晝ひる侍侍さぶらひひいててて見見み給給たまへへえむむん」」」とてとてとて、、、さしさしさしいれいれいれ。。。「「「ややや今今いまはははやりやりやりてててむむん」」」ととといへいへいえばばば「「「猶猶なおしばししばししばしやらやらやらせせせ給給たまははわむむん」」」などなどなどいひいひいいててて、、、これこれこれなるなるなるとととほのかほのかほのかにににももも見見みたりたりたり顏顏がおにににもももいはいはいわででで、、、たゞたゞただ「「「こゝこゝここにににわづらひわづらひわずらい侍侍はべりりりししし程程ほどののの力力ちからなれなれなればばば愼愼つつしむむむべきべきべき物物ものなりなりなり」」」ととと人人ひともももいへいへいえばばば、、、「「「心細心細こころぼそううう物物ものののの覺覺おぼえええ侍侍はべるるる事事こと」」」とてとてとて、、、をりをりおりをりをりおりにににそのそのそのことことことゝゝとももも聞聞きこえええぬぬぬ程程ほどににに、、、しのびしのびしのびてててうちうちうちずてずてずてするするすることことことぞぞぞあるあるある。。。「「「つとめてつとめてつとめてつかさつかさつかさににに物物ものすすすべきべきべきととと侍侍はべるるるももも佐佐すけののの君君きみににに聞聞きこえええにににやりやりやりてててさふらはさふらはさうらわむむん」」」とてとてとて、、、立立たちちちぬぬぬ。。。うべうべうべ見見みせせせししし文文ふみ、、、枕枕まくら上上がみにににあるあるあるををを見見みれれればばば、、、われわれわれやるやるやるととと思思おもひひいしししところところところはははことことことにににててて、、、又又またやれやれやれたるたるたる所所ところあるあるあるはははあやしあやしあやしとととににに思思おもはくはくわくののの返返かえりりり事事ことせせせしししににに、、、いかなるいかなるいかなる駒駒こまかかかとととありありありししし事事ことのののとととかくかくかく書書かききき付付つけけけたりたりたりしししををを、、、やりやりやりとりとりとりとるとるとるなななべしべしべし。。。まだしきまだしきまだしきににに、、、すけすけすけのののもともともとににに「「「みだりみだりみだり風風かぜ起起おこりりりてててなむなむなん聞聞きこえええしししやうやうようにににはははえええ參參まいらららぬぬぬ。。。こゝこゝここににに午午うま時時どきばかりばかりばかりにににおはしませおはしませおわしませ」」」とととありありあり。。。例例れいののの何何なに事事ことにににもももあらあらあらじじじとてとてとて物物ものせせせぬぬぬ程程ほどににに文文ふみありありあり。。。それそれそれにににははは「「「例例れいよりよりよりもももいそぎいそぎいそぎ聞聞きこえさせえさせえさせむむんとととしししつるつるつるををを、、、いといといとつゝみつゝみつつみ思思おもひひい給給たまふるふるうることことことありありありてててなむなむなん。。。よべよべよべののの御御おん文文ふみをををわりなくわりなくわりなく見見み給給たまへへえ難難がたくくくてててなむなむなん。。。わざわざわざととと聞聞きこえさせえさせえさせ給給たまははわむむん事事ことこそこそこそ難難かたからからからめめめ。。。をりをりおりをりをりおりにににははは、、、よろしかよろしかよろしかべいべいべいさまさまさまにににととと賴賴たのみみみ聞聞きこえさせえさせえさせながらながらながら、、、はかなきはかなきはかなき身身みのののほどほどほどをををいかにいかにいかにととと、、、あはれあはれあわれににに思思おもううう給給たまふるふるうる」」」などなどなど例例れいよりよりよりもももひきひきひきつくろひつくろひつくろいててて、、、らうたげらうたげろうたげににに書書かいいいたりたりたり。。。返返かえりりり事事ことははは、、、やうやうようなくなくなく常常つねにににしもしもしもととと思思おもひひいてててせせせずずずなりなりなりぬぬぬ。。。又又またののの日日ひ猶猶なおいとほしくいとほしくいとおしく若若わかやかやかやかなるなるなるさまさまさまにににもももありありありととと思思おもひひいててて、、、「「「昨昨きの日日うははは人人ひとののの物忌物忌ものいみ侍侍はべりりりしししににに、、、日日ひ暮暮くれれれてててなむなむなん。。。心心こころあるあるあるとととやややととといふいふいうらむらむらんやうやうようににに、、、おきおきおき給給たまへへえしししをりをりおりをりをりおりにににはははいかでいかでいかでととと思思おもひひい給給たまふるふるうるををを、、、ついでついでついでなきなきなき身身みににになりなりなり侍侍はべりりりてててこそこそこそ、、、心心こころしげしげしげなるなるなる御御おんはしはしわしがきがきがきをををなむなむなんげにげにげにととと思思おもひひい聞聞きこえさせえさせえさせそそそややや、、、紙紙かみののの色色いろははは晝晝ひるもももやややおぼつかおぼつかおぼつかなうなうのう思思おもさささるらるらるらめめめ」」」とてとてとて、、、これこれこれよりよりよりぞぞぞものものものしししたりたりたりけるけるけるをりをりおりににに、、、法師法師ほうしばらばらばらあまたあまたあまたありありありてててさわがしげさわがしげさわがしげなりなりなりけれけれければばばさしさしさしおきおきおきててて來來きにににけりけりけり。。。まだしきまだしきまだしきにににこれこれこれよりよりより、、、さまさまさまかはりかはりかわりたるたるたる人人ひと々々びとものものものししし侍侍はべりりりしししににに、、、日日ひももも暮暮くれれれてててなむなむなん使使つかいもももまゐりまゐりまいりにににけるけるける。。。
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- 7いかにいかにいかにししし侍侍はべらららむむん。。。今宵今宵こよいはははかしこまりかしこまりかしこまり」」」とととさへさへさへありありあり。。。返返かえりりり事事ことははは「「「昨昨きの日日うのののかへりかへりかえりにににこそこそこそ歸歸かえりりりけめけめけめ。。。何何なにかかかさささまでまでまではははとととあやしあやしあやし。。。
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- 9とてとてとて、、、うへうへうえ書書かいいいけちけちけちてててはしはしはしににに「「「かたかたかたはなるはなるはなる心心こころちちちししし侍侍はべりりりややや」」」ととと書書かいいいたりたりたり。。。
現代語訳
翌日もまだ早いうちに、(遠度から道綱に)「昨日はうそぶいていらっしゃることが多かったようなので、何も申し上げられずに終わってしまいました。今の間でもお暇があればおいでください。母上がつれなくていらっしゃることは、まったく言いようもありません。それでも命がありましたら、(行く末の)世の中は見届けましょう。死んだら、思い比べても(何の甲斐が)ありましょうか。いやいや、これは内緒事です」と言って、(遠度)自身は来ない。また二日ほどして、「朝早くから……をしよう。そちらへ参ろうか」などと言ってくるので、「早く行きなさい。ここへは何のために(来るのか)」と言って(道綱を)出してやる。(道綱は)「例の(話の)こともなかった」と言って帰ってきた。「もう二日ほどして、取り立てて申し上げたいことがある。おいでください」とだけ書いて、まだ早いうちに(手紙が)来た。「すぐに伺います」と言わせて、しばらくしていると、雨がひどく降ってきた。夜までも……止まないので、行けなくて情けない。せめて手紙だけでもと思って、(道綱が)「たいそうひどい雨に妨げられて困っております。これだけ(申し上げます)、
「絶えず流れていく中川の水かさが増して、向こう岸にいる人が恋しく思われることです」
返事は、
「逢えない瀬を恋しいとお思いなら、思う者同士で住む中川に、私を住まわせてください」
などとあるうちに、すっかり暮れて雨がやんだので、(遠度)自身がやって来た。例の待ち遠しい話ばかりなので、「どうして(指)三本などとおっしゃったのですか。指一本も折り終わらないうちに、過ぎていくようなのに」と言うと、「それもどうでございましょう。不定なことどももございますので、……ほどにもなりましょうか。どうにかして大臣(兼家)のお言葉だけを、間を切って続けるようなこともしたいものです」と言うので、たいそうおかしくて、「帰る雁を鳴かせて」などと答えると、たいそう朗らかに笑う。
さて、あの「華やかにもてなしている」と(兼家が)言ってきたことを思い出して、「本当のところは、私の心ひとつでもありません。(殿に)お勧めすることは難しい気がします」と言うと、「どういうことでございましょう。せめてそれだけでも承りたい」と言って、何度も責められるので、本当だと知らせよう、口で言えば言い出しにくいのでと思って、「お見せするのも不都合な気がしますが、ただ、これを(殿に)催促申し上げようとする苦しさをご覧くださいと思って」と言って、……差し出したところ、(遠度は)簀子にすべり出て、おぼろな月の光に当てて長いあいだ見て、入ってきた。「紙の色にまで紛れて、まったく読めません。昼に伺って拝見しましょう」と言って、差し入れた。「さあ、もう破ってしまいましょう」と言うと、「やはりしばらく破らないでおいてください」などと言って、ここに書いてあることを、少しでも見たという顔もしないで、ただ「こちらで(以前)病気をしておりましたときの力(の名残)なので、慎むべきものなのです」と人も言うので、(遠度は)「心細く物思いがされますことで」と言って、時々そのことを申し上げないうちに、そっとため息をつくことがある。「翌朝、役所に行かねばならないことがありますので、助の君にもお知らせしてお伺いしましょう」と言って、立った。
なるほど、見せた手紙が枕元にあるのを見ると、私が破ったと思った所とは別に、また破れた所があるのは妙だと……、(兼家への)返事をしたときに、「いかなる駒か」とあったことのあれこれ書きつけてあったのを、破り取ったのだろう。
まだ早いうちに、(遠度から)助のもとに、「風邪をひいて、申し上げたようには伺えません。こちらに昼ごろおいでください」と言ってきた。いつものように何でもないことだろうと思って行かないでいると、(私に)手紙がある。それには、「いつもより急いで申し上げようとしたのですが、たいそう遠慮することがありまして。昨夜のお手紙をどうしても拝見しにくくて。わざわざ申し上げてくださることこそ難しいでしょうが、時々は、よいようにとお頼み申し上げながら、はかない身の程をどうなることかと、しみじみ思っております」などと、いつもより取り繕って、いじらしく書いてあった。返事は、わけもなくいつもいつもと思って、出さずに終わった。翌日、やはり気の毒で、若々しい様子でもあると思って、「昨日は人の物忌みがございまして、日が暮れてしまって。……と言うように、(お手紙を)置いていらっしゃった折々には、何とかしてと思っておりますが、ついでのない身になりまして、心のこもった端書きを、本当にと思い申し上げて……、紙の色は昼でもはっきりしないとお思いでしょう」と書いて、こちらから送ったときに、法師たちが大勢いて騒がしそうだったので、(使いは手紙を)置いて帰ってきた。まだ早いうちに、こちら(遠度)から、「様子の変わった人々(法師たち)が来ておりましたので、日も暮れてしまって、使いも参上したのでした。
嘆きながら夜を明かし日を暮らしていると、ほととぎすがこの卯の花の陰で鳴いております(私も泣いております)。
どうしたらよいでしょう。今夜は恐縮して(伺いません)」とまで書いてある。返事は「昨日の返り(使い)でこそ帰ったのでしょう。どうしてそこまで(恐縮なさるのか)と妙に思います。
陰でばかりどうして鳴くのでしょう。卯の花の枝に、忍ぶ心があるからだと聞いております」
と書いて、上の方を書き消して、端に「みっともない気がいたしますね」と書いた。
意訳
〔道綱への呼び出し〕遠度は道綱を通して、作者のつれなさを恨み、何度も呼び出す。雨の夜、道綱は行けない代わりに「中川」を詠んだ歌を送り、遠度も「中川に私を住まわせてほしい」と返す。
〔指を折る〕雨のやんだ夜、遠度が訪れる。作者が「指三本(三か月)と言ったのに、一本も折らないうちに過ぎていく」とからかうと、遠度は朗らかに笑う。
〔月の光で読む手紙〕兼家の冷やかしの手紙を見せてほしいとせがまれ、作者はそれを差し出す。遠度は簀子に出て、おぼろ月の光で長いあいだ読み、「暗くて読めない」と言いながらも、手紙の一部を破り取っていった。そこには作者の「いかなる駒か」の歌が書かれていた。
〔卯の花の歌〕遠度からは、例になく心をこめた手紙が届く。作者が返事を出しかねていると、「卯の花の陰に鳴くほととぎす」の歌が贈られてくる。作者は「卯の花の枝に忍ぶ心があるのでしょう」と返し、上の句を書き消して「みっともない」と書き添える。
語釈・文法注
文法
- 「うそふかせ給ふ」
- うそぶいていらっしゃる。そっぽを向いて口笛を吹くような、とりあわない態度。
- 「うへ」
- 母上。作者のこと。
- 「よくきせむ」
- 底本どおり。意味がとりにくい。
- 「夜さへかとりて」
- 底本どおり。意味がとりにくい。
- 「止まぬば」
- 底本どおり。注記に「ね」の異文があり、「止まねば」と解する。
- 「なか河」
- 「中川」と「仲」を掛ける。作者の住む中川をさす。
- 「をちなる人」
- 川の向こう岸にいる人。
- 「みつ」
- 三つ。前章で遠度が「および三つばかり」と言ったことをさす。
- 「くじはからまたおらす」
- 底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
- 「歸る雁を鳴かせて」
- 古歌の一節か。
- 「かたはなつにそはやりとて」
- 底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
- 「おぼるなる月」
- 朧なる月。
- 「さしいれ」
- 底本どおり。注記に「つ」の異文がある。
- 「や今はやりてむ」
- 底本どおり。「や」の脇に「何」の異文の注記がある。「やる」は「破る」。
- 「うちずて」
- 底本どおり。ため息、の意に解する。
- 「いかなる駒か」
- 前章の作者の歌「今更にいかなるこまかなつくべき」をさす。
- 「やりとりとるなべし」
- 底本どおり。注記に「た」の異文がある。破り取ったのだろう。
- 「みだり風」
- 風邪。
- 「よろしかべいさま」
- よいようなさま。
- 「心あるとやといふらむやうに」
- 古歌の一節をふまえるか。
- 「心しげなる」
- 底本どおり。注記に異文がある。
和歌
絕えず行くわがなか河の水まさりをちなる人ぞこひしかりける
- 詠者
- 藤原道綱
- 状況
- 雨に妨げられて遠度のもとに行けず、送った歌。
修辞
- 掛詞
- 「なか河」に地名の「中川」と「仲」を掛ける。
あはぬせを戀しとおもはゞ思ふどちへむ中川にわれをすませよ
- 詠者
- 藤原遠度
- 状況
- 道綱への返歌。
修辞
- 掛詞
- 「すませ」に川が「澄む」と「住む」を掛ける。
- 縁語
- 「せ(瀬)」「中川」「すむ(澄む)」は川の縁語。
なげきつゝあかしくらせば郭公この卯のはなのかげに鳴きつゝ
- 詠者
- 藤原遠度
- 状況
- 作者の手紙を受け取りそこねたことをわびて贈った歌。
修辞
- 掛詞
- 「鳴き」に「泣き」を掛ける。
かげにしもなどか鳴くらむ卯の花のえだにしのぶの心とぞ聞く
- 詠者
- 道綱母(作者)
- 状況
- 遠度への返歌。
修辞
- 掛詞
- 「しのぶ」に「忍ぶ」と植物の「しのぶ(忍草)」を掛ける。
解説
遠度は兼家と作者のやりとりの手紙を見たいとせがみ、おぼろ月の光で読みふけった。そして作者の「いかなる駒か」の歌の部分を、ひそかに破り取っていった。作者はそれに気づいて「あやし」と書くだけだが、遠度の作者への関心が、養女への求婚とは別のところにも向いていることをうかがわせる場面である。
下巻のこのあたりでは、遠度との贈答が細かく記録されている。作者は遠度を「若やかなるさま」と見て、ときに同情し、ときにからかいながら、求婚者を巧みにあしらっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、150–153頁(コマ78–79)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日