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蜻蛉日記 下巻 第53章

月の光で読む手紙

遠度は道綱を通して何度も作者を呼び出し、雨の夜には中川を詠んだ歌を交わす。ある夜、遠度にせがまれた作者は、兼家とやりとりした手紙を見せる。遠度は簀子に出て、おぼろ月の光で長いあいだ読みふける。翌日、遠度からは例になく心をこめた手紙が届き、作者が返事を出しかねていると、卯の花とほととぎすの歌が贈られてくる。

  1. 1又また又またまたののの日ひ日ひひもももまだしきまだしきまだしきににに、、、「「「昨きの昨きのきの日ふ日ふうはははうそうそうそふかふかふかせせせ給たま給たまたまふふうことことことしげかしげかしげかんんんめりめりめりしかしかしかばばば、、、えええ物もの物ものものももも聞きこ聞きこきこえええずずずなりなりなりにににききき。。。今いま今いまいまのののあひだあひだあいだももも御おほん御おほんおんいとまいとまいとまあらあらあらばばばおはしませおはしませおわしませ。。。うへうへうえのののつらくつらくつらくおはしますおはしますおわしますことことことゝゝと更さら更さらさらにににいはいはいわむむんかたかたかたなしなしなし。。。さりさりさりともともとも命いのち命いのちいのち侍はべ侍はべはべらららばばば、、、世よ世よよののの中なか中なかなかははは見み見みみ給たま給たまたまへへえてててむむん。。。死し死ししなななばばば思おも思おもおもひひい較くら較くらくらべべべてててもももいかゞいかゞいかがあらあらあらむむん。。。よしよしよしよしよしよしこれこれこれははは忍しの忍しのしのびびびごとごとごと」」」とてとてとて、、、みづからみづからみずからはははものものものせせせずずず。。。又また又またまた二日ふつか二日ふつかふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、「「「まだしきまだしきまだしきよりよりよりよくよくよくきせきせきせむむん。。。そなたそなたそなたにににややや參まゐ參まゐまいりりりつつつべきべきべき」」」などなどなどあれあれあればばば「「「早はや早はやはよううう物もの物ものものせよせよせよ。。。こゝこゝここにににははは何なに何なになにせせせむむんににに」」」とてとてとて出い出いいししし立た立たたつつつ。。。「「「例れい例れいれいののの事こと事ことこともももなかりなかりなかりつつつ」」」とてとてとて、、、歸かへ歸かへかえりりりきたりきたりきたりぬぬぬ。。。「「「今いま今いまいま二日ふつか二日ふつかふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、とりとりとり聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべきことことことありありあり。。。おはしませおはしませおわしませ」」」とととのみのみのみ書か書かかきききててて、、、まだしきまだしきまだしきにににありありあり。。。「「「唯ただ唯ただただ今いま今いまいまさぶらふさぶらふさぶらう」」」ととといはせいはせいわせててて、、、しばししばししばしあるあるある程ほど程ほどほどににに、、、雨あめ雨あめあめいたういたういとう降ふ降ふふりりりぬぬぬ。。。夜よ夜よよさへさへさへかとりかとりかとりててて止や止ややまままぬぬぬばばば、、、えええものものものせせせでででなさけなさけなさけなしなしなし。。。せうそこせうそこしょうそこをををだにだにだにとてとてとて、、、「「「いといといとわりなきわりなきわりなき雨あめ雨あめあめににに障さは障さはさわりりりてててわびわびわび侍はべ侍はべはべりりり。。。かばかりかばかりかばかり、、、
  2. 2「「「絕た絕たたえええずずず行ゆ行ゆゆくくくわわわがががなかなかなか河がは河がはがわののの水みづ水みづみずまさりまさりまさりをちをちおちなるなるなる人ひと人ひとひとぞぞぞこひしかりこひしかりこいしかりけるけるける」」」。。。
  3. 3かへりかへりかえりごとごとごと、、、
  4. 4「「「あはあはあわぬぬぬせせせををを戀こひ戀こひこいしししとととおもはおもはおもわゞゞば思おも思おもおもふふうどちどちどちへむへむへむ中なか中なかなか川がは川がはがわにににわれわれわれをををすませすませすませよよよ」」」。。。
  5. 5などなどなどあるあるあるほどほどほどににに、、、暮く暮くくれれれはてはてはてゝゝて雨あめ雨あめあめやみやみやみたるたるたるにににみづからみづからみずからなりなりなり。。。例れい例れいれいののの心こころ心こころこころもともともとなきなきなきすぢすぢすじをををのみのみのみあれあれあればばば「「「なになになにかかかみつみつみつとととのたまひのたまひのたまいししし。。。およびおよびおよび一ひと一ひとひとつつつははは折をり折をりおりりりりあへあへあえぬぬぬほどほどほどににに、、、過す過すすぐぐぐめるめるめるものものものををを」」」ととといへいへいえばばば「「「それそれそれもももいかゞいかゞいかが侍はべ侍はべはべらららむむん。。。ふじやうふじやうふじょうなるなるなる事こと事ことことどもどもどもゝゝもはべはべはべめれめれめればばば、、、くじくじくじはからはからはからまたまたまたおらすおらすおらす程ほど程ほどほどにににもももやややなりなりなり侍はべ侍はべはべらららむむん。。。などなどなどいかでいかでいかでおとゞおとゞおとどののの御おほん御おほんおんことことことのみのみのみ、、、なかなかなか切き切ききりりりててて續つづ續つづつづくくくわざわざわざもももししし侍はべ侍はべはべりりりしがしがしがななな」」」とととあれあれあればばば、、、いといといとをかしうをかしうおかしゅうててて、、、「「「歸かへ歸かへかえるるる雁かり雁かりかりををを鳴な鳴ななかかかせせせててて」」」などなどなど答こた答こたこたへへえたれたれたればばば、、、いといといとほがらかほがらかほがらかにににうちうちうち笑わら笑わらわらふふう。。。さてさてさてかのかのかの美び美びび々び々びびしうしうしゅうもてもてもてなすなすなすとととありありありしししことことことをををおもひおもひおもいててて、、、「「「いといといとまめやかまめやかまめやかにににははは心こころ心こころこころ一ひと一ひとひとつつつにににももも侍はべ侍はべはべらららずずず。。。そゝのかしそゝのかしそそのかし侍はべ侍はべはべらららむむんことことことははは難かた難かたかたききき心こころ心こころこころちちちなむなむなんあるあるある」」」ととと物もの物ものものすれすれすればばば、、、「「「いかなるいかなるいかなることことことにににかかか侍はべ侍はべはべらららむむん。。。いかでいかでいかでこれこれこれをををだにだにだにうけうけうけ給たま給たまたまはらはらわらむむん」」」とてとてとて、、、あまたあまたあまたたびたびたび責せ責せせめめめらるれらるれらるればばば、、、げにげにげにともともとも知し知ししらせらせらせむむん、、、詞ことば詞ことばことばにににいへいへいえばばば出い出いいでででにくきにくきにくきをををととと思おも思おもおもひひいててて、、、「「「御ご御ごご覽らん覽らんらんせせせさするさするさするにににももも、、、びなきびなきびなき心こころ心こころこころちちちすれすれすれどどど、、、たゞたゞただこれこれこれ催もよほ催もよほもよおししし聞きこ聞きこきこえええむむんとととののの苦くる苦くるくるしきしきしきををを見み見みみたまへたまへたまえとてとてとてなむなむなん」」」とてとてとてかたかたかたはなつはなつはなつにににそはそはそわやりやりやりとてとてとてさしさしさし出い出いいでででたれたれたればばば簀す簀すす子のこ子のこのこにににすべりすべりすべり出い出いいでゝでゝでて、、、おぼるおぼるおぼるなるなるなる月つき月つきつきにににあてあてあてゝゝて久ひさ久ひさひさしうしうしゅう見み見みみててて入い入いいりりりぬぬぬ。。。「「「紙かみ紙かみかみののの色いろ色いろいろにににさへさへさへまぎれまぎれまぎれててて、、、更さら更さらさらにににえええ見み見みみ給たま給たまたまへへえずずず。。。晝ひる晝ひるひる侍さぶら侍さぶらさぶらひひいててて見み見みみ給たま給たまたまへへえむむん」」」とてとてとて、、、さしさしさしいれいれいれ。。。「「「ややや今いま今いまいまはははやりやりやりてててむむん」」」ととといへいへいえばばば「「「猶なほ猶なほなおしばししばししばしやらやらやらせせせ給たま給たまたまははわむむん」」」などなどなどいひいひいいててて、、、これこれこれなるなるなるとととほのかほのかほのかにににももも見み見みみたりたりたり顏がほ顏がほがおにににもももいはいはいわででで、、、たゞたゞただ「「「こゝこゝここにににわづらひわづらひわずらい侍はべ侍はべはべりりりししし程ほど程ほどほどののの力ちから力ちからちからなれなれなればばば愼つつし愼つつしつつしむむむべきべきべき物もの物ものものなりなりなり」」」ととと人ひと人ひとひともももいへいへいえばばば、、、「「「心細こころぼそ心細こころぼそこころぼそううう物もの物ものものののの覺おぼ覺おぼおぼえええ侍はべ侍はべはべるるる事こと事ことこと」」」とてとてとて、、、をりをりおりをりをりおりにににそのそのそのことことことゝゝとももも聞きこ聞きこきこえええぬぬぬ程ほど程ほどほどににに、、、しのびしのびしのびてててうちうちうちずてずてずてするするすることことことぞぞぞあるあるある。。。「「「つとめてつとめてつとめてつかさつかさつかさににに物もの物ものものすすすべきべきべきととと侍はべ侍はべはべるるるももも佐すけ佐すけすけののの君きみ君きみきみににに聞きこ聞きこきこえええにににやりやりやりてててさふらはさふらはさうらわむむん」」」とてとてとて、、、立た立たたちちちぬぬぬ。。。うべうべうべ見み見みみせせせししし文ふみ文ふみふみ、、、枕まくら枕まくらまくら上がみ上がみがみにににあるあるあるををを見み見みみれれればばば、、、われわれわれやるやるやるととと思おも思おもおもひひいしししところところところはははことことことにににててて、、、又また又またまたやれやれやれたるたるたる所ところ所ところところあるあるあるはははあやしあやしあやしとととににに思おも思おもおもはくはくわくののの返かへ返かへかえりりり事こと事ことことせせせしししににに、、、いかなるいかなるいかなる駒こま駒こまこまかかかとととありありありししし事こと事ことことのののとととかくかくかく書か書かかききき付つ付つつけけけたりたりたりしししををを、、、やりやりやりとりとりとりとるとるとるなななべしべしべし。。。まだしきまだしきまだしきににに、、、すけすけすけのののもともともとににに「「「みだりみだりみだり風かぜ風かぜかぜ起おこ起おこおこりりりてててなむなむなん聞きこ聞きこきこえええしししやうやうようにににはははえええ參まゐ參まゐまいらららぬぬぬ。。。こゝこゝここににに午うま午うまうま時どき時どきどきばかりばかりばかりにににおはしませおはしませおわしませ」」」とととありありあり。。。例れい例れいれいののの何なに何なになに事こと事ことことにににもももあらあらあらじじじとてとてとて物もの物ものものせせせぬぬぬ程ほど程ほどほどににに文ふみ文ふみふみありありあり。。。それそれそれにににははは「「「例れい例れいれいよりよりよりもももいそぎいそぎいそぎ聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせむむんとととしししつるつるつるををを、、、いといといとつゝみつゝみつつみ思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふるふるうることことことありありありてててなむなむなん。。。よべよべよべののの御おほん御おほんおん文ふみ文ふみふみをををわりなくわりなくわりなく見み見みみ給たま給たまたまへへえ難がた難がたがたくくくてててなむなむなん。。。わざわざわざととと聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせ給たま給たまたまははわむむん事こと事ことことこそこそこそ難かた難かたかたからからからめめめ。。。をりをりおりをりをりおりにににははは、、、よろしかよろしかよろしかべいべいべいさまさまさまにににととと賴たの賴たのたのみみみ聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせながらながらながら、、、はかなきはかなきはかなき身み身みみのののほどほどほどをををいかにいかにいかにととと、、、あはれあはれあわれににに思おも思おもおもううう給たま給たまたまふるふるうる」」」などなどなど例れい例れいれいよりよりよりもももひきひきひきつくろひつくろひつくろいててて、、、らうたげらうたげろうたげににに書か書かかいいいたりたりたり。。。返かへ返かへかえりりり事こと事ことことははは、、、やうやうようなくなくなく常つね常つねつねにににしもしもしもととと思おも思おもおもひひいてててせせせずずずなりなりなりぬぬぬ。。。又また又またまたののの日ひ日ひひ猶なほ猶なほなおいとほしくいとほしくいとおしく若わか若わかわかやかやかやかなるなるなるさまさまさまにににもももありありありととと思おも思おもおもひひいててて、、、「「「昨きの昨きのきの日ふ日ふうははは人ひと人ひとひとののの物忌ものいみ物忌ものいみものいみ侍はべ侍はべはべりりりしししににに、、、日ひ日ひひ暮く暮くくれれれてててなむなむなん。。。心こころ心こころこころあるあるあるとととやややととといふいふいうらむらむらんやうやうようににに、、、おきおきおき給たま給たまたまへへえしししをりをりおりをりをりおりにににはははいかでいかでいかでととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふるふるうるををを、、、ついでついでついでなきなきなき身み身みみににになりなりなり侍はべ侍はべはべりりりてててこそこそこそ、、、心こころ心こころこころしげしげしげなるなるなる御おほん御おほんおんはしはしわしがきがきがきをををなむなむなんげにげにげにととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせそそそややや、、、紙かみ紙かみかみののの色いろ色いろいろははは晝ひる晝ひるひるもももやややおぼつかおぼつかおぼつかなうなうのう思おも思おもおもさささるらるらるらめめめ」」」とてとてとて、、、これこれこれよりよりよりぞぞぞものものものしししたりたりたりけるけるけるをりをりおりににに、、、法師ほふし法師ほふしほうしばらばらばらあまたあまたあまたありありありてててさわがしげさわがしげさわがしげなりなりなりけれけれければばばさしさしさしおきおきおきててて來き來ききにににけりけりけり。。。まだしきまだしきまだしきにににこれこれこれよりよりより、、、さまさまさまかはりかはりかわりたるたるたる人ひと人ひとひと々びと々びとびとものものものししし侍はべ侍はべはべりりりしししににに、、、日ひ日ひひももも暮く暮くくれれれてててなむなむなん使つかひ使つかひつかいもももまゐりまゐりまいりにににけるけるける。。。
  6. 6「「「なげきなげきなげきつゝつゝつつあかしあかしあかしくらせくらせくらせばばば郭ほとと郭ほととほとと公ぎす公ぎすぎすこのこのこの卯う卯ううのののはなはなはなのののかげかげかげににに鳴な鳴ななきききつゝつゝつつ。。。
  7. 7いかにいかにいかにししし侍はべ侍はべはべらららむむん。。。今宵こよひ今宵こよひこよいはははかしこまりかしこまりかしこまり」」」とととさへさへさへありありあり。。。返かへ返かへかえりりり事こと事ことことははは「「「昨きの昨きのきの日ふ日ふうのののかへりかへりかえりにににこそこそこそ歸かへ歸かへかえりりりけめけめけめ。。。何なに何なになにかかかさささまでまでまではははとととあやしあやしあやし。。。
  8. 8かげかげかげにににしもしもしもなどなどなどかかか鳴な鳴ななくくくらむらむらん卯う卯ううののの花はな花はなはなのののえだえだえだにににしのぶしのぶしのぶののの心こころ心こころこころとととぞぞぞ聞き聞ききくくく」」」
  9. 9とてとてとて、、、うへうへうえ書か書かかいいいけちけちけちてててはしはしはしににに「「「かたかたかたはなるはなるはなる心こころ心こころこころちちちししし侍はべ侍はべはべりりりややや」」」ととと書か書かかいいいたりたりたり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

翌日もまだ早いうちに、(遠度から道綱に)「昨日はうそぶいていらっしゃることが多かったようなので、何も申し上げられずに終わってしまいました。今の間でもお暇があればおいでください。母上がつれなくていらっしゃることは、まったく言いようもありません。それでも命がありましたら、(行く末の)世の中は見届けましょう。死んだら、思い比べても(何の甲斐が)ありましょうか。いやいや、これは内緒事です」と言って、(遠度)自身は来ない。また二日ほどして、「朝早くから……をしよう。そちらへ参ろうか」などと言ってくるので、「早く行きなさい。ここへは何のために(来るのか)」と言って(道綱を)出してやる。(道綱は)「例の(話の)こともなかった」と言って帰ってきた。「もう二日ほどして、取り立てて申し上げたいことがある。おいでください」とだけ書いて、まだ早いうちに(手紙が)来た。「すぐに伺います」と言わせて、しばらくしていると、雨がひどく降ってきた。夜までも……止まないので、行けなくて情けない。せめて手紙だけでもと思って、(道綱が)「たいそうひどい雨に妨げられて困っております。これだけ(申し上げます)、

「絶えず流れていく中川の水かさが増して、向こう岸にいる人が恋しく思われることです」

返事は、

「逢えない瀬を恋しいとお思いなら、思う者同士で住む中川に、私を住まわせてください」

などとあるうちに、すっかり暮れて雨がやんだので、(遠度)自身がやって来た。例の待ち遠しい話ばかりなので、「どうして(指)三本などとおっしゃったのですか。指一本も折り終わらないうちに、過ぎていくようなのに」と言うと、「それもどうでございましょう。不定なことどももございますので、……ほどにもなりましょうか。どうにかして大臣(兼家)のお言葉だけを、間を切って続けるようなこともしたいものです」と言うので、たいそうおかしくて、「帰る雁を鳴かせて」などと答えると、たいそう朗らかに笑う。

さて、あの「華やかにもてなしている」と(兼家が)言ってきたことを思い出して、「本当のところは、私の心ひとつでもありません。(殿に)お勧めすることは難しい気がします」と言うと、「どういうことでございましょう。せめてそれだけでも承りたい」と言って、何度も責められるので、本当だと知らせよう、口で言えば言い出しにくいのでと思って、「お見せするのも不都合な気がしますが、ただ、これを(殿に)催促申し上げようとする苦しさをご覧くださいと思って」と言って、……差し出したところ、(遠度は)簀子にすべり出て、おぼろな月の光に当てて長いあいだ見て、入ってきた。「紙の色にまで紛れて、まったく読めません。昼に伺って拝見しましょう」と言って、差し入れた。「さあ、もう破ってしまいましょう」と言うと、「やはりしばらく破らないでおいてください」などと言って、ここに書いてあることを、少しでも見たという顔もしないで、ただ「こちらで(以前)病気をしておりましたときの力(の名残)なので、慎むべきものなのです」と人も言うので、(遠度は)「心細く物思いがされますことで」と言って、時々そのことを申し上げないうちに、そっとため息をつくことがある。「翌朝、役所に行かねばならないことがありますので、助の君にもお知らせしてお伺いしましょう」と言って、立った。

なるほど、見せた手紙が枕元にあるのを見ると、私が破ったと思った所とは別に、また破れた所があるのは妙だと……、(兼家への)返事をしたときに、「いかなる駒か」とあったことのあれこれ書きつけてあったのを、破り取ったのだろう。

まだ早いうちに、(遠度から)助のもとに、「風邪をひいて、申し上げたようには伺えません。こちらに昼ごろおいでください」と言ってきた。いつものように何でもないことだろうと思って行かないでいると、(私に)手紙がある。それには、「いつもより急いで申し上げようとしたのですが、たいそう遠慮することがありまして。昨夜のお手紙をどうしても拝見しにくくて。わざわざ申し上げてくださることこそ難しいでしょうが、時々は、よいようにとお頼み申し上げながら、はかない身の程をどうなることかと、しみじみ思っております」などと、いつもより取り繕って、いじらしく書いてあった。返事は、わけもなくいつもいつもと思って、出さずに終わった。翌日、やはり気の毒で、若々しい様子でもあると思って、「昨日は人の物忌みがございまして、日が暮れてしまって。……と言うように、(お手紙を)置いていらっしゃった折々には、何とかしてと思っておりますが、ついでのない身になりまして、心のこもった端書きを、本当にと思い申し上げて……、紙の色は昼でもはっきりしないとお思いでしょう」と書いて、こちらから送ったときに、法師たちが大勢いて騒がしそうだったので、(使いは手紙を)置いて帰ってきた。まだ早いうちに、こちら(遠度)から、「様子の変わった人々(法師たち)が来ておりましたので、日も暮れてしまって、使いも参上したのでした。

嘆きながら夜を明かし日を暮らしていると、ほととぎすがこの卯の花の陰で鳴いております(私も泣いております)。

どうしたらよいでしょう。今夜は恐縮して(伺いません)」とまで書いてある。返事は「昨日の返り(使い)でこそ帰ったのでしょう。どうしてそこまで(恐縮なさるのか)と妙に思います。

陰でばかりどうして鳴くのでしょう。卯の花の枝に、忍ぶ心があるからだと聞いております」

と書いて、上の方を書き消して、端に「みっともない気がいたしますね」と書いた。

意訳

〔道綱への呼び出し〕遠度は道綱を通して、作者のつれなさを恨み、何度も呼び出す。雨の夜、道綱は行けない代わりに「中川」を詠んだ歌を送り、遠度も「中川に私を住まわせてほしい」と返す。

〔指を折る〕雨のやんだ夜、遠度が訪れる。作者が「指三本(三か月)と言ったのに、一本も折らないうちに過ぎていく」とからかうと、遠度は朗らかに笑う。

〔月の光で読む手紙〕兼家の冷やかしの手紙を見せてほしいとせがまれ、作者はそれを差し出す。遠度は簀子に出て、おぼろ月の光で長いあいだ読み、「暗くて読めない」と言いながらも、手紙の一部を破り取っていった。そこには作者の「いかなる駒か」の歌が書かれていた。

〔卯の花の歌〕遠度からは、例になく心をこめた手紙が届く。作者が返事を出しかねていると、「卯の花の陰に鳴くほととぎす」の歌が贈られてくる。作者は「卯の花の枝に忍ぶ心があるのでしょう」と返し、上の句を書き消して「みっともない」と書き添える。

語釈・文法注

文法

「うそふかせ給ふ」
うそぶいていらっしゃる。そっぽを向いて口笛を吹くような、とりあわない態度。
「うへ」
母上。作者のこと。
「よくきせむ」
底本どおり。意味がとりにくい。
「夜さへかとりて」
底本どおり。意味がとりにくい。
「止まぬば」
底本どおり。注記に「ね」の異文があり、「止まねば」と解する。
「なか河」
「中川」と「仲」を掛ける。作者の住む中川をさす。
「をちなる人」
川の向こう岸にいる人。
「みつ」
三つ。前章で遠度が「および三つばかり」と言ったことをさす。
「くじはからまたおらす」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「歸る雁を鳴かせて」
古歌の一節か。
「かたはなつにそはやりとて」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「おぼるなる月」
朧なる月。
「さしいれ」
底本どおり。注記に「つ」の異文がある。
「や今はやりてむ」
底本どおり。「や」の脇に「何」の異文の注記がある。「やる」は「破る」。
「うちずて」
底本どおり。ため息、の意に解する。
「いかなる駒か」
前章の作者の歌「今更にいかなるこまかなつくべき」をさす。
「やりとりとるなべし」
底本どおり。注記に「た」の異文がある。破り取ったのだろう。
「みだり風」
風邪。
「よろしかべいさま」
よいようなさま。
「心あるとやといふらむやうに」
古歌の一節をふまえるか。
「心しげなる」
底本どおり。注記に異文がある。

和歌

絕えず行くわがなか河の水まさりをちなる人ぞこひしかりける

詠者
藤原道綱
状況
雨に妨げられて遠度のもとに行けず、送った歌。

修辞

掛詞
「なか河」に地名の「中川」と「仲」を掛ける。

あはぬせを戀しとおもはゞ思ふどちへむ中川にわれをすませよ

詠者
藤原遠度
状況
道綱への返歌。

修辞

掛詞
「すませ」に川が「澄む」と「住む」を掛ける。
縁語
「せ(瀬)」「中川」「すむ(澄む)」は川の縁語。

なげきつゝあかしくらせば郭公この卯のはなのかげに鳴きつゝ

詠者
藤原遠度
状況
作者の手紙を受け取りそこねたことをわびて贈った歌。

修辞

掛詞
「鳴き」に「泣き」を掛ける。

かげにしもなどか鳴くらむ卯の花のえだにしのぶの心とぞ聞く

詠者
道綱母(作者)
状況
遠度への返歌。

修辞

掛詞
「しのぶ」に「忍ぶ」と植物の「しのぶ(忍草)」を掛ける。

解説

遠度は兼家と作者のやりとりの手紙を見たいとせがみ、おぼろ月の光で読みふけった。そして作者の「いかなる駒か」の歌の部分を、ひそかに破り取っていった。作者はそれに気づいて「あやし」と書くだけだが、遠度の作者への関心が、養女への求婚とは別のところにも向いていることをうかがわせる場面である。

下巻のこのあたりでは、遠度との贈答が細かく記録されている。作者は遠度を「若やかなるさま」と見て、ときに同情し、ときにからかいながら、求婚者を巧みにあしらっている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、150–153頁(コマ78–79)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日