古典ライブラリー

蜻蛉日記 下巻 第51章

卯月の約束とほととぎす

兼家が「八月ごろに」と日取りを延ばしたので、作者はほっとする。約束の四月を延ばされた遠度は腹を立てて訪れ、「契りおきし卯月はいかに」と歌を書き置く。二十二日の夜、遠度は御簾に手をかけて迫るが、作者は取り合わない。翌朝、作者がほととぎすの歌で見舞うと、遠度は「高き峰にのぼる(出家する)」とまで書いてよこす。

  1. 1さてさてさて猶なほ猶なほなおこゝこゝここにににはははいといといといちいちいちはやきはやきはやき心こころ心こころこころちちちすれすれすればばば思おも思おもおもひひいかくるかくるかくる事こと事ことこともももなきなきなきををを「「「これこれこれそそそよりよりよりかくかくかくなむなむなん仰おほ仰おほおおせせせありありありききき」」」とてとてとて「「「せむるせむるせむるととと聞きこ聞きこきこえええよよよ」」」とととのみのみのみあれあれあればばば、、、いかでいかでいかでさささはははのたまはせのたまはせのたまわせにににかかかあらあらあらむむん、、、いといといとかしかましけれかしかましけれかしかましければばば見み見みみせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりつつつべくべくべくててて御おほん御おほんおん返かへ返かへかえりりりことことこといひいひいいたれたれたればばば「「「さささははは思おも思おもおもひひいしかしかしかどどどももも、、、佐すけ佐すけすけののの急いそ急いそいそぎぎぎしししつるつるつる程ほど程ほどほどにににててて、、、いといといとはかはかはかににになむなむなんなりなりなりにににけるけるける。。。おもへおもへおもえ御み御みみ心こころ心こころこころ變かは變かはかわらららずずずばばば、、、八月はちぐわつ八月はちぐわつはちがつばかりばかりばかりににになむなむなん、、、なりなりなりにににものものものししし給たま給たまたまへへえかしかしかし」」」とととあれあれあればばば、、、いといといとめやきめやきめやき心こころ心こころこころちちちしししててて「「「かくかくかくなむなむなんはべはべはべめるめるめる。。。いちいちいちはやかりはやかりはやかりけるけるけるこよみこよみこよみははは、、、ふぢやうふぢやうふじょうなりなりなりとととははは、、、されされさればばばこそこそこそ聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせしかしかしか」」」ととと物もの物ものものしししたれたれたればばば、、、返かへ返かへかえりりり事こと事ことこともももなくなくなくててて、、、とととばかりばかりばかりありありありててて「「「みづからみづからみずからいといといと腹はら腹はらはら立だた立だただたしきしきしき事こと事ことこと聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせににになむなむなん參まゐ參まゐまいりりりつるつるつる」」」とととあれあれあればばば「「「何なに何なになに事こと事ことことにににかかか、、、いといといとおどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしく侍はべ侍はべはべらららむむん。。。さらさらさらばばばこなたこなたこなたににに」」」ととといはせいはせいわせたれたれたればばば、、、「「「よしよしよしよしよしよしかうかうこう夜よ夜よよ晝ひる晝ひるひる參まゐ參まゐまいりりりつるつるつるとととあれあれあればばば何なに何なになにごとごとごとにににかきかきかきてててはははいとゞいとゞいとど遙はるか遙はるかはるかににになりなりなりなななむむん」」」とてとてとて、、、いらへいらへいらえてててとととばかりばかりばかり佐すけ佐すけすけととと物もの物ものもの語がたり語がたりがたりしししててて、、、立た立たたちちちててて硯すずり硯すずりすずり紙かみ紙かみかみとととこひこひこいたりたりたり。。。出い出いいしししたれたれたればばば、、、かきかきかきててておしおしおしひねりひねりひねりててて入い入いいれれれててていぬいぬいぬ。。。見み見みみれれればばば、、、
  2. 2「「「契ちぎ契ちぎちぎりりりおきおきおきししし卯う卯うう月づき月づきずきはははいかにいかにいかに時ほとと時ほととほとと鳥ぎす鳥ぎすぎす我わ我わわががが身み身みみのののうきうきうきにににかけかけかけ離はな離はなはなれれれつゝつゝつつ。。。
  3. 3いかにいかにいかにししし侍はべ侍はべはべらららましましまし。。。くしくしくしいたくいたくいたくこそこそこそ。。。暮くれ暮くれくれにににををを」」」ととと書か書かかきききたりたりたり。。。手て手ててもももいといといとはべりはべりはべりしげしげしげなりなりなりややや。。。返かへ返かへかえりりりごとごとごとやがてやがてやがて追お追おおひひいててて書か書かかくくく、、、
  4. 4「「「なほなほなお忍しの忍しのしのべべべ花はな花はなはな橘たちばな橘たちばなたちばなののの枝えだ枝えだえだやややなきなきなきあふひあふひあうい過す過すすぎぎぎぬるぬるぬる卯う卯うう月づき月づきずきなれなれなれどもどもども」」」。。。
  5. 5さてさてさてそのそのその日ひ日ひひ頃ころ頃ころころえらびえらびえらび設まう設まうもうけけけつるつるつる、、、廿二日にじふににち廿二日にじふににちにじゅうににちののの夜よ夜よよものものものしししたりたりたり。。。こたみこたみこたみははは、、、さきざきさきざきさきざきのののさまさまさまにににもももあらあらあらずずず、、、いといといとつゞやかつゞやかつづやかににになりなりなりまさりまさりまさりたるたるたるものものものからからから、、、責せ責せせむるむるむるさまさまさまいといといとわりなしわりなしわりなし。。。「「「殿との殿とのとのののの御おほん御おほんおん許ゆる許ゆるゆるささされれれははは道みち道みちみちなくなくなくなりなりなりにににたりたりたり。。。そのそのその程ほど程ほどほどはるかはるかはるかににに覺おぼ覺おぼおぼえええ侍はべ侍はべはべるるるををを、、、御おほん御おほんおんかへりかへりかえりみみみにににててていでいでいでとととなむなむなん」」」とととあれあれあればばば「「「いかにいかにいかに思おも思おもおもしししてててかうかうこうはははのたまふのたまふのたまう。。。そのそのその遙はるか遙はるかはるかなりなりなりとととののの給たま給たまたまふふう程ほど程ほどほどにににややや、、、うひうひういごとごとごとゞゞどもももせせせむむんとととなむなむなん見み見みみゆるゆるゆる」」」ととといへいへいえばばば「「「かひかひかいなきなきなきほどほどほどももも、、、物もの物ものもの語がたり語がたりがたりはははするするするははは」」」ととといふいふいう。。。「「「これこれこれはははいといといとさささにににはははあらあらあらずずず。。。あやにくあやにくあやにくにににおもぎらひおもぎらひおもぎらいするするするほどほどほどなれなれなればばばこそこそこそ」」」などなどなどいふいふいうももも、、、聞き聞ききききき分わ分わわかかかぬぬぬやうやうようにににいといといとわびしくわびしくわびしく見み見みみえええたりたりたり。。。「「「むねむねむね走はし走はしはしるるるまでまでまで覺おぼ覺おぼおぼえええ侍はべ侍はべはべるるるををを、、、このこのこのみすみすみすののの內うち內うちうちにににだにだにだにさぶらふさぶらふさぶらうととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえてててまかでまかでまかでむむん。。。一ひと一ひとひとつつつ一ひと一ひとひとつつつをををだにだにだに、、、爲な爲ななすすすことことことにににししし侍はべ侍はべはべらららむむん。。。かへりかへりかえりみみみさせさせさせ給たま給たまたまへへえ」」」ととといひいひいいててて、、、すだれすだれすだれににに手て手ててをををかくれかくれかくればばば、、、いといといとけうとけれけうとけれきょうとけれどどど聞き聞きききききももも入い入いいれれれぬぬぬやうやうようにににててて、、、「「「いたういたういとう更ふ更ふふけけけぬぬぬらむらむらんををを、、、例れい例れいれいはははさしもさしもさしも覺おぼ覺おぼおぼえええ給たま給たまたまふふう夜よ夜よよににになむなむなんあるあるある」」」ととと、、、つれつれつれもももなうなうのういへいへいえばばば、、、「「「いといといとかうかうこうははは思おも思おもおもひひいきこえさせきこえさせきこえさせずずずこそこそこそありありありつれつれつれ。。。あさましうあさましうあさましゅう、、、いみじういみじういみじゅう、、、限かぎ限かぎかぎりりりなうなうのううれしうれしうれしととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふふうべしべしべし。。。御お御おお曆こよみ曆こよみこよみもちもちもちててて元もと元もともとににになりなりなりぬぬぬ。。。わるくわるくわるく聞きこ聞きこきこえさするえさするえさする御み御みみ氣け氣けけ色しき色しきしきもももかかりかかりかかり」」」などなどなどおりおりおり立た立たたちちちてててわびわびわびいりいりいりたれたれたればばば、、、いといといとなつかしさなつかしさなつかしさににに、、、「「「猶なほ猶なほなおいといといとわりなきわりなきわりなきことことことなりなりなりややや。。。院ゐん院ゐんいんにににうちうちうちににになどなどなど侍さぶら侍さぶらさぶらひひい給たま給たまたまふふうらむらむらん。。。晝ひる晝ひるひる間ま間ままのののやうやうようににに思おも思おもおもしししなせなせなせ」」」などなどなどいへいへいえばばば、、、そのそのその事こと事ことことののの心こころ心こころこころははは苦くる苦くるくるしうしうしゅうこそこそこそはははあれあれあれ。。。とととにににすわりすわりすわりてててこたふるこたふるこたうるにににいといといといふいふいうかひかひかいなしなしなし。。。いらへいらへいらえわづらひわづらひわずらいててて、、、はてはてはてははは物もの物ものものもももいはいはいわねねねばばば「「「あなあなあなかしこかしこかしこ、、、御み御みみけしきけしきけしきももも惡あ惡ああしうしうしゅうはべはべはべめりめりめり。。。さらさらさらばばば今いま今いまいまははは仰おほせ仰おほせおおせ事ごと事ごとごとなからなからなからむむんにににははは聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせじじじ。。。いといといとかしこくかしこくかしこく」」」とてとてとて、、、つまつまつまはじきはじきはじきうちうちうちしししててて、、、ものものものもももいはいはいわででで暫しば暫しばしばしししありありありててて起た起たたちちちぬぬぬ。。。出い出いいづるづるずるににに「「「まつまつまつ」」」などなどなどいはすれいはすれいわすれどどど、、、「「「更さら更さらさらにににとらせとらせとらせででで」」」なんどなんどなんど聞き聞ききくくくににに、、、いとほしくいとほしくいとおしくなりなりなりててて、、、又また又またまたつとめてつとめてつとめて、、、「「「いといといとあやにくあやにくあやにくににに、、、まつまつまつとととももものたまはせのたまはせのたまわせででで、、、歸かへ歸かへかえらせらせらせ給たま給たまたまひひいめりめりめりしししははは、、、たひらかたひらかたいらかにににややや」」」ととと聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせににになむなむなん。。。
  6. 6「「「ほとゝぎすほとゝぎすほととぎすまたまたまた問と問ととふふうべくべくべくももも語かた語かたかたらはらはらわでででかへるかへるかえる山やま山やまやま路ぢ路ぢじのののこここぐらかりぐらかりぐらかりけむけむけん
  7. 7こそこそこそいとほしういとほしういとおしゅう」」」ととと書か書かかきききててて物もの物ものものしししたりたりたり。。。さしさしさし置お置おおきききてててなれなれなればばば、、、かれかれかれよりよりより、、、
  8. 8「「「問と問ととふふうこゑこゑこえはははいついついつとととなけれなけれなけれどどど郭ほとと郭ほととほとと公ぎす公ぎすぎすあけあけあけてててくやしきくやしきくやしきものものものをををこそこそこそ思おも思おもおもへへえ
  9. 9ととといたういたういとうかしこまりかしこまりかしこまりうけうけうけ給たま給たまたまはりはりわりぬぬぬ」」」とととのみのみのみありありあり。。。さゝねりさゝねりささねりてててももも、、、又また又またまたののの日ひ日ひひ、、、「「「佐すけ佐すけすけののの君きみ君きみきみ今日けふ今日けふきょう人ひと人ひとひと々びと々びとびとのののがりがりがりものものものせせせむむんとととするするするををを、、、もろもろもろともともともにににつかさつかさつかさにににととと聞きこ聞きこきこえええににになむなむなん」」」とととしとししとししとしごとごとごとにににものものものしししたりたりたり。。。例れい例れいれいののの硯すずり硯すずりすずりこへこへこえばばば紙かみ紙かみかみおきおきおきててて出い出いいしししたりたりたり。。。入い入いいれれれてててたるたるたるををを見み見みみれれればばば、、、恠あや恠あやあやしうしうしゅうわなゝきわなゝきわななきたるたるたる手て手ててにににててて「「「昔むかし昔むかしむかしののの世よ世よよににに如何いか如何いかいかなるなるなる罪つみ罪つみつみををを作つ作つつくりくりくり侍はべ侍はべはべりりりててて、、、かうかうこう妨さまた妨さまたさまたげげげさせさせさせ給たま給たまたまふふう身み身みみとととなりなりなり侍はべ侍はべはべりりりけむけむけん。。。あやしきあやしきあやしきさまさまさまにににのみのみのみなりなりなりまどひまどひまどい侍はべ侍はべはべるるるははは、、、なりなりなり侍はべ侍はべはべらららむむんことことことももも、、、いといといと難かた難かたかたししし。。。さらにさらにさらにさらにさらにさらに聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせじじじ。。。今いま今いまいまははは高たか高たかたかききき峰みね峰みねみねににになむなむなんのぼりのぼりのぼり侍はべ侍はべはべるるるべきべきべき」」」などなどなどふさふさふさににに書か書かかきききたりたりたり。。。かへりかへりかえりごとごとごと「「「あなあなあな怖おそ怖おそおそろしろしろしややや。。。などなどなどかうかうこうはははのたまはすのたまはすのたまわすらむらむらん。。。恨うら恨うらうらみみみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうべきべきべき人ひと人ひとひとはははことことことにににこそこそこそはははべべべめれめれめれ。。。峰みね峰みねみねははは知し知ししりりり侍はべ侍はべはべらららずずず。。。谷たに谷たにたにのののしるべしるべしるべはははしもしもしも」」」ととと書か書かかきききててて出い出いいしししたれたれたればばば、、、佐すけ佐すけすけ、、、一ひと一ひとひとつつつににに乘の乘ののりりりててて物もの物ものものしししぬぬぬ。。。佐すけ佐すけすけののの賜たま賜たまたまはりはりわり馬むま馬むまうま、、、いといといと美うつ美うつうつくしげくしげくしげなるなるなるををを、、、とりとりとりててて歸かへ歸かへかえりりりたりたりたり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

さて、やはりこちらではたいそう早すぎる気がするので、(結婚など)考えることもないのに、(遠度は)「これ、そちらから(兼家に)このように仰せがあった」と言って、「(私が)責め立てていると申し上げてください」とばかり言うので、どうしてそうおっしゃったのだろう、たいそううるさいので、(兼家に)お見せしようと思って、お返事を申し上げると、(兼家は)「そうは思ったが、助(道綱)の(祭の)準備をしている時なので、たいそう……になってしまった。思えば、(遠度の)お心が変わらないなら、八月ごろにでも、(そう)なさい」と言ってきたので、たいそう安心した気持ちがして、(遠度に)「このように(兼家が)申しているようです。早手回しの暦は、不定なものだと、だからこそ申し上げたのです」と言ってやると、返事もなくて、しばらくして、「自分で、たいそう腹立たしいことを申し上げに参りました」と言うので、「何事でしょうか。たいそう大げさでございましょう。それならこちらへ」と言わせると、「いやいや、こう夜昼参上したとあっては、何事に(つけても)……、いっそう(結婚が)遠くなってしまうだろう」と言って、答えてしばらく助と話をして、立ち上がって硯と紙を求めた。出してやると、書いてひねり結んで(こちらに)入れて帰っていった。見ると、

「約束しておいた卯月(四月)はどうなったのでしょう。ほととぎすが(鳴かずに)、私の身のつらさに遠く離れてしまって。

どうしたらよいのでしょう。ひどく気がふさいでおります。夕暮れに(伺います)」と書いてあった。筆跡もたいそう……そうである。返事をすぐに追いかけて書く。

「やはりお忍びなさい。花橘の枝がないでしょうか。葵(逢う日)の過ぎてしまった卯月ではありますが」

さて、その日ごろ選んで準備していた、二十二日の夜に(遠度が)来た。今度は、以前の様子とも違い、たいそう慎み深くなりまさったものの、責める様子はたいそうむちゃである。「殿のお許しは、(もう頼る)道もなくなってしまいました。その(八月という)時期がはるかに思われますので、あなたのお心遣いで、どうか(と思って)」と言うので、「どう思ってそうおっしゃるのですか。その遠いとおっしゃる時期にこそ、初めての(結婚の)事をもしようと思われます」と言うと、「甲斐のない時でも、話はするものですよ」と言う。「これはまったくそうではありません。あいにく(娘が)人見知りをする年ごろなので」などと言うのも、聞き分けないようで、たいそうつらそうに見えた。「胸が騒ぐほどに思われますので、せめてこの御簾の内に伺候していると思って退出しましょう。一つ一つ(のお願い)だけでも、かなえることにいたしましょう。お目をかけてください」と言って、簾に手をかけるので、たいそう気味が悪いけれど、聞き入れないふりをして、「ひどく夜が更けたでしょうに、いつもはそうも思われなさらない夜ですのね」と、そっけなく言うと、「まったくこうは思い申し上げておりませんでした。あきれたことに、ひどく、この上なくうれしいとお思いになるでしょう。暦を持って(いたのに)元に戻ってしまいました。悪く申し上げるご様子もこのとおりで」などと、すっかりしょげこんでいるので、たいそう気の毒で、「やはりたいそう無理なことですよ。院に内裏になどお仕えなさっているでしょう。昼間のようにお考えなさい」などと言うと、その事の心は苦しいことだろう。外に座って答えるので、たいそう甲斐がない。答えあぐねて、しまいには物も言わないので、「ああ恐れ多い、ご機嫌も悪いようです。それでは今は、(殿の)仰せがない限りは申し上げますまい。たいそう恐縮です」と言って、爪弾きをして、何も言わずにしばらくしてから立った。出るときに、「松明(を)」などと言わせたけれど、「決して受け取らないで」などと聞くと、気の毒になって、また翌朝、「たいそうあいにく、松明もお受けにならないでお帰りになったようですが、無事でしたか」とお便りして、

「ほととぎす(のあなた)は、また訪ねてくるようにも語らわずに帰っていく山路が、木暗かったことでしょう

それがお気の毒で」と書いて送った。(使いが手紙を)置いてきたので、あちらから、

「(ほととぎすが)問う声はいつということもありませんが、夜が明けて(戸を開けて)悔しい物思いをしております

と、たいそう恐縮して承りました」とだけある。……ても、翌日、「助の君は今日、人々の所に出かけようとしているが、一緒に役所に(行こう)と申し上げに(来ました)」と、……やって来た。いつものように硯を求めるので、紙を添えて出した。書いて入れてきたのを見ると、妙に震えた筆跡で、「前世にどんな罪を作りまして、こうお妨げになる身となったのでしょう。妙な有様にばかりなって迷っておりますのは、(思いを)遂げますことも、たいそう難しい。もう決して申し上げますまい。今は高い峰に登りましょう(出家しましょう)」などと、たくさん書いてある。返事に、「ああ恐ろしい。どうしてこうおっしゃるのでしょう。お恨み申し上げるべき人は、別にいるでしょう。峰のことは存じません。谷の道案内なら(いたしましょう)」と書いて出すと、助は(遠度と)同じ車に乗って出かけた。助は、(遠度から)いただいた馬の、たいそう美しいのを受け取って帰ってきた。

意訳

〔延びた日取り〕作者が兼家に遠度のことを伝えると、兼家は「八月ごろにでも」と答える。作者はほっとして遠度にそう伝える。

〔契りおきし卯月〕約束の四月を延ばされた遠度は腹を立てて訪れ、「約束した卯月はどうなったのか」という歌を書き置いて帰る。作者は「葵の日が過ぎても、花橘の枝はあるでしょう」と、なだめる歌を返す。

〔御簾に手をかける〕二十二日の夜、遠度は再び訪れ、せめて御簾の内に入れてほしいと簾に手をかけて迫る。作者は気味悪く思いながらも、そっけなくかわし、「昼間のようにお考えなさい」とたしなめる。遠度は爪弾きをして、松明も受け取らずに帰っていく。

〔高き峰〕翌朝、作者がほととぎすの歌で見舞うと、遠度は震える筆跡で「前世でどんな罪を作ったのか。高い峰に登ろう(出家しよう)」と書いてよこす。作者は「恨むべき人は別にいるでしょう」と兼家を暗にさし、軽く受け流す。

語釈・文法注

文法

「これそより」
底本どおり。注記に異文があり、「これ、そこより」の意か。
「いとはかになむ」
底本どおり。注記に異文がある。
「おもへ」
底本どおり。注記に「三字も」とある。
「なりにものし給へかし」
底本どおり。注記に「二字に」とある。
「めやき心ち」
安心な気持ち。
「ふぢやう」
不定。定まらないこと。
「何ごとにかきては」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「くしいたくこそ」
ひどく気がふさいで。「屈し」。
「手もいとはべりしげなりや」
底本どおり。注記に「三字にっかはイ」とあり、意味がとりにくい。
「花橘」
「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(『古今和歌集』夏)にちなみ、五月以降にも望みがあることをいう。
「あふひ」
「葵」と「逢ふ日」を掛ける。
「つゞやか」
慎み深いさま。
「いで」
底本どおり。注記に「いかイ」とある。
「うひごと」
初事。初めての事。結婚をいう。
「おもぎらひ」
人見知り。
「御曆もちて元になりぬ」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「とにすわりて」
外に座って。簾の外にいることをいう。
「つまはじき」
爪弾き。不満や嫌悪を表すしぐさ。
「まつ」
松明。
「さゝねりても」
底本どおり。注記に「三字き」とあり、意味がとりにくい。
「しとしごとに」
底本どおり。注記に「四字とてかイ」とある。
「高き峰になむのぼり侍るべき」
山に入って出家しよう、の意。
「谷のしるべ」
峰に対して谷を言い、軽く受け流す。
「佐の賜はり馬」
遠度が道綱に贈った馬。

和歌

契りおきし卯月はいかに時鳥我が身のうきにかけ離れつゝ

詠者
藤原遠度
状況
約束の四月の結婚を延ばされて、硯と紙を求めて書き置いた歌。

修辞

掛詞
「うき」に「憂き」と、ほととぎすの鳴く「卯木(うつぎ)」をひびかせる。

なほ忍べ花橘の枝やなきあふひ過ぎぬる卯月なれども

詠者
道綱母(作者)
状況
遠度の歌に、すぐに追いかけて返した歌。

修辞

掛詞
「あふひ」に「葵」と「逢ふ日」を掛ける。
本歌
「五月待つ花橘の香をかげば」(『古今和歌集』)をふまえ、五月以降に望みをつなぐ。

ほとゝぎすまた問ふべくも語らはでかへる山路のこぐらかりけむ

詠者
道綱母(作者)
状況
松明も受け取らずに帰った遠度を、翌朝見舞った歌。

修辞

見立て
遠度を、夜の山路を帰るほととぎすに見立てる。

問ふこゑはいつとなけれど郭公あけてくやしきものをこそ思へ

詠者
藤原遠度
状況
作者の見舞いの歌への返歌。

修辞

掛詞
「あけて」に夜が「明けて」と戸を「開けて」を掛ける。

解説

兼家が「八月ごろに」と言ったことで、遠度の求婚は先送りになった。遠度は焦りを募らせ、御簾に手をかけるという強引なふるまいにまで及ぶ。作者はそれを「いとけうとけれど」と受け止めつつ、礼儀を失わずにかわしていく。

「高き峰にのぼる」と出家をほのめかす遠度に対して、作者は「谷のしるべはしも」と軽く受け流す。求婚者を手玉にとるような作者の応対には、養女の保護者としての落ち着きと、ほのかなユーモアが感じられる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、145–148頁(コマ75–77)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日