蜻蛉日記 下巻 第50章
風の中の右馬頭
天延二年四月初め、右馬頭遠度が昼に突然訪れ、風に冠の纓を吹かれながら籬の前に立つ。その美しい姿を見ようと女房たちが出てきて、風に簾をあおられて騒ぐ。数日後の夕暮れ、遠度は道綱を口実に再び訪れ、簀子に上がって作者と言葉を交わす。作者が娘はまだ幼いと答えても、遠度は兼家の許しを盾に結婚の日取りを迫る。
- 1朔朔ついたち七八日七八日なのかようかのののほどほどほどののの晝晝ひるつつつ方方かた、、、「「「うまうまうまののの頭頭かみおはしおはしおわしたりたりたり」」」ととといふいふいう。。。「「「あなあなあなかまかまかま、、、こゝこゝここににになしなしなしととと答答こたへへえよよよ。。。ものものものいはいはいわむむんとととあらあらあらむむんににに、、、まだしきまだしきまだしきにににびなしびなしびなし」」」などなどなどいふいふいう程程ほどににに、、、入入いりりりてててあらはあらはあらわなるなるなる籬籬まがきののの前前まえににに立立たちちちやすらひやすらひやすらい、、、例例れいももも淸淸きよげげげなるなるなる人人ひとのののねはそしねはそしねわそしたるたるたるにににててて、、、なよゝかなよゝかなよよかなるなるなる直直のう衣衣し、、、太太た刀刀ちひきひきひき佩佩はききき例例れいののの事事ことなれなれなれどどどあかあかあか色色いろののの扇扇おうぎすこしすこしすこしみだれみだれみだれたるたるたるをををもてもてもてまさぐりまさぐりまさぐりててて、、、風風かぜ早早はやききき程程ほどににに纓纓えい吹吹ふきききられられられつゝつゝつつ立立たてててるるるさまさまさま、、、繪繪えににに書書かきききたるたるたるやうやうようなりなりなり。。。淸淸きよらららののの人人ひとありありありとてとてとて、、、おくまりおくまりおくまりたるたるたる女女めらららののの裳裳もなどなどなどうちうちうち解解とけけけ姿姿すがたにににててて出出いでゝでゝでて見見みるるるににに、、、時時ときしもしもしもあれあれあれ、、、このこのこの風風かぜのののすかたすかたすかたをををとととへへへ吹吹ふききき內內うちへへへ吹吹ふききき惑惑まどはせはせわせばばば、、、すだれすだれすだれをををたのみたのみたのみたるたるたるものものものどもどもども、、、我我わかかか人人ひとかかかにににててておさへおさへおさえひかへひかへひかえ騷騷さわぐぐぐまままににに、、、何何なにかかかあやしあやしあやしののの袖袖そで口口ぐちももも皆皆みな見見みつつつらむらむらんととと思思おもふふうににに、、、死死しぬぬぬばかりばかりばかりいとほしいとほしいとおし。。。よべよべよべいでいでいでゐゐいののの所所ところよりよりより、、、夜夜よ更更ふけけけててて歸歸かえりりりてててねねねふしふしふしたるたるたる人人ひとををを、、、起起おこすすす程程ほどにににかゝるかゝるかかるなりなりなりけりけりけり。。。からからからうじうじうじててて起起おききき出出いでゝでゝでて、、、こゝこゝここにににははは人人ひともももなきなきなきよしよしよしいふいふいう。。。風風かぜののの心心こころちちちありありありたゞしさたゞしさただしさににに、、、格格こう子子しみみみはははかねかねかねてててよりよりよりおろしおろしおろしたるたるたる程程ほどににになれなれなればばば、、、何何なに事事こといふいふいうももも宜宜よろしきしきしきなりなりなりけりけりけり。。。强强つよひひいててて簀簀す子子のこにににのぼりのぼりのぼりててて、、、「「「今日今日きょうよきよきよき日日ひなりなりなり、、、わらふだわらふだわらうだかひかひかい給給たまへへえ。。。ゐゐいそめそめそめむむん」」」などなどなどばかりばかりばかり語語かたらひひいててて、、、「「「いといといとかひかひかいなきなきなきわざわざわざかなかなかな」」」ととと、、、うちうちうち歎歎なげきききててて歸歸かえりりりぬぬぬ。。。二日二日ふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、唯唯ただ詞詞ことばにににててて、、、侍侍はべらららぬぬぬほどほどほどにににものものものししし給給たまへへえりりりけるけるけるかしこまりかしこまりかしこまりなどなどなどいひいひいいててて奉奉たてまつれれれててて後後のち、、、「「「いといといと覺覺おぼ束束つかなくなくなくてててまかでまかでまかでにににしししををを、、、いかでいかでいかで」」」ととと常常つねにににありありあり。。。にげにげにげないないない事事こと故故ゆえににに、、、あやしあやしあやしののの聲聲こえさささでででやややはははなどなどなどあるあるあるははは、、、ゆるしゆるしゆるしなきなきなきををを、、、「「「佐佐すけにににものものもの聞聞きこえええむむん」」」ととといひいひいいがてらがてらがてら暮暮くれにににものものものしししたりたりたり。。。「「「いかゞいかゞいかがはははせせせむむん」」」とてとてとて格格こう子子し二二ふたまままばかりばかりばかりあげあげあげててて、、、簀簀す子子のこににに火火ひともしともしともしててて、、、廂廂ひさしにににものものものしししたりたりたり。。。佐佐すけたいめたいめたいめしししててて早早はやくくくとてとてとてえんえんえんにににのぼりのぼりのぼりぬぬぬ。。。妻妻つま戶戶どををを引引ひきききあけあけあけててて、、、「「「これこれこれよりよりより」」」ととといふいふいうめれめれめればばば、、、あゆみあゆみあゆみ寄寄よるるるものものもの、、、又又また立立たちちちのきのきのきててて、、、「「「まづまづまず御御おんせうそこせうそこしょうそこ聞聞きこえさせえさせえさせ給給たまへへえかしかしかし」」」ととと、、、忍忍しのびやかびやかびやかにににいふいふいうなれなれなればばば、、、入入いりりりてててさささなむなむなんととと物物ものするするするににに「「「思思おもしししからからからむむん所所ところににに聞聞きこえええよよよかしかしかし」」」などなどなど人人ひとははは、、、少少すこしししうちうちうち笑笑わらひひいててて、、、よきよきよき程程ほどにににうちうちうちそよめきそよめきそよめきててて入入いりりりぬぬぬ。。。佐佐すけととと物物もの語語がたり忍忍しのびやかびやかびやかにににしししててて、、、さくらさくらさくらににに扇扇おうぎのののうちうちうちあたるあたるあたる音音ねばかりばかりばかり、、、時時とき々々どきしししてててゐゐいたりたりたり。。。內內うちににに音音ねなうなうのうてててやゝやゝやや久久ひさしけれしけれしければばば、、、「「「佐佐すけににに一日一日ひといかひかひかいなくなくなくてててまかでまかでまかでにににしかしかしかばばば、、、心心こころもともともとなきなきなきににになむなむなんととと聞聞きこえええ給給たまへへえ」」」とてとてとて入入いれれれたりたりたり。。。「「「早早はよううう」」」ととといへいへいえばばば、、、ゐざりゐざりいざりよりよりよりてててあれあれあれどどど、、、とみとみとみににに物物ものもももいはいはいわずずず。。。內內うちよりよりよりはたはたはた、、、ましてましてまして音音ねなしなしなし。。。とととばかりばかりばかりありありありててて「「「覺覺おぼ束束つかなうなうのうおんおんおんふみふみふみにににやややあらあらあらむむん」」」とてとてとて、、、いさゝかいさゝかいささかしはぶきしはぶきしわぶきののの氣氣け色色しきしししたるたるたるにににつけつけつけててて「「「時時ときしもしもしもあれあれあれ、、、惡惡あしかりしかりしかりけるけるける折折おりににに侍侍さぶらひひいあひあひあい侍侍はべりりりててて」」」ととといふいふいうををを初初はじめめめめにににててて、、、思思おもひひいはじめはじめはじめけるけるけるよりよりよりののの事事こといといといと多多おおかりかりかり。。。內內うちにににははは唯唯ただいといといとまがまがしきまがまがしきまがまがしき程程ほどなれなれなればばば「「「かうかうこうのたまふのたまふのたまうももも、、、夢夢ゆめののの心心こころちちちなむなむなんするするする。。。ちひさきちひさきちいさきよりよりよりももも、、、世世よにににいふいふいうなるなるなる鼠鼠ねずみ追追おひひいののの程程ほどにににだにだにだにあらあらあらぬぬぬををを、、、いといといとわりなきわりなきわりなき事事ことににになむなむなん」」」などなどなどやうやうようにににたふたふたう。。。聲聲こえいたういたういとうつくろひつくろひつくろいたなりたなりたなりととと聞聞きけけけばばば、、、我我わもももいといといと苦苦くるししし。。。雨雨あめうちうちうち亂亂みだるるる暮暮くれれれにににててて、、、蛙蛙かわずののの聲聲こえいといといと高高たかししし。。。夜夜よ更更ふけけけ行行ゆけけけばばば內內うちよりよりより、、、「「「いといといとかくかくかくむくつけゞむくつけゞむくつけげなるなるなるあたりあたりあたりははは內內うちなるなるなる人人ひとだにだにだにしづしづしず心心こころなくなくなく侍侍はべるるるををを」」」ととといひいひいい出出いしししたれたれたればばば、、、「「「何何なにかかか、、、これこれこれよりよりよりまろまろまろととと思思おもひひい給給たまへへえ。。。むかしむかしむかしははは怖怖おそろしきろしきろしきととと侍侍はべらららじじじ」」」ととといひいひいいつゝつゝつつ、、、いたういたういとう更更ふけけけぬれぬれぬればばば「「「佐佐すけののの君君きみののの御御おんいにきいにきいにきももも近近ちこうううなりなりなりにににたらたらたらむむんををを、、、そのそのその程程ほどののの雜雜ぞう役役やくをををだにだにだに仕仕つこうううまつらまつらまつらむむん。。。殿殿とのにににかうかうこうなむなむなん仰仰おおせせせられられられしししととと、、、御御みけしきけしきけしき給給たまはりはりわりててて、、、又又またのたまはせのたまはせのたまわせむむん事事こと聞聞きこえさせえさせえさせににに、、、あすあすあすあさてあさてあさてののの程程ほどにににももも侍侍さぶらふふうべしべしべしとととあれあれあればばば、、、立立たつつつなななゝりゝりなり」」」とてとてとて、、、几几き帳帳ちょうのののほころびほころびほころびよりよりよりかきかきかきわけわけわけててて見見み出出いせせせばばば、、、簀簀す子子のこにににともしともしともしたりたりたりつるつるつる火火ひははは、、、早早はよううう消消きえええにににけりけりけり。。。內內うちにににははは物物もののののしりへしりへしりえにににともしともしともしたれたれたればばば、、、光光ひかりありありありててて、、、とととののの消消きえええぬるぬるぬるももも知知しららられれれぬぬぬなりなりなりけりけりけり。。。影影かげもももややや見見みえええつつつらむらむらんととと思思おもふふうにににあさましうあさましうあさましゅうててて、、、「「「腹腹はら黑黑ぐろううう、、、きえきえきえぬぬぬとととももものたまはせのたまはせのたまわせででで」」」ととといへいへいえばばば「「「何何なにかかかははは、、、侍侍さぶらふふう人人ひとももも、、、答答こたへへえででで立立たちちちにににけりけりけり、、、來來きそめそめそめぬれぬれぬればばば、、、しばしばしばしばしばしばものものものしししつゝつゝつつ同同おなじじじ事事ことをををものものものすれすれすれどどど、、、こゝこゝここにににははは御御おんゆるされゆるされゆるされあらあらあらむむん所所ところよりよりよりさささぞぞぞあらあらあらむむんととときききこそこそこそははは、、、わびわびわびてててもももあああべかべかべかめれめれめれととと思思おもふふう人人ひとばばば、、、せんせんせんとととなきなきなき許許ゆるささされれれはははなりなりなりにににたるたるたるををを」」」とてとてとて、、、かしかましうかしかましうかしかましゅう責責せむむむ。。。「「「このこのこの程程ほどこそこそこそははは殿殿とのにににももも仰仰おおせせせはははししし。。。二十二十にじゅうよよよ日日かのののほどほどほどなむなむなんよきよきよき日日ひはははあああなるなるなる」」」とてとてとてせめせめせめらるれらるれらるれどどど、、、佐佐すけ、、、司司つかさにににとてとてとて祭祭まつりにににものものものすすすべけれべけれべければばばそのそのその事事ことをををのみのみのみ思思おもふふうににに、、、人人ひとはははいにきいにきいにきのののはつるはつるはつるををを待待まちちちけりけりけり。。。みそぎみそぎみそぎののの日日ひ犬犬いぬののの死死しにににたるたるたるををを見見みつけつけつけててて、、、いふいふいうかひかひかいなくなくなくとまりとまりとまりぬぬぬ。。。
現代語訳
(四月)七、八日ごろの昼ごろ、「右馬頭がおいでになった」と言う。「しっ、静かに。ここにはいないと答えなさい。何か話そうというのだろうが、まだ早いうちでは不都合だ」などと言っているうちに、(遠度は)入ってきて、丸見えの籬の前に立ちどまり、ふだんでも美しい人が……していて、柔らかな直衣に、太刀を佩いて、いつものことだが赤い色の扇の少し乱れたのを手でもてあそんで、風が強いので冠の纓を吹かれながら立っている様子は、絵に描いたようである。美しい人がいるというので、奥にいた女たちが裳などうちとけた姿で出てきて見ていると、折も折、この風が……を外へ吹き内へ吹き乱すので、簾を頼りにしていた者たちは、無我夢中で(簾を)押さえ引っぱって騒ぐうちに、何とまあ、みっともない袖口も皆見られてしまっただろうと思うと、死ぬほど恥ずかしい。昨夜、出居の所から夜更けに帰って寝ていた人(道綱)を起こすうちに、こんなことになったのだった。やっと起き出して、ここには人もいないことを言う。風邪の気味があって慌ただしいので、格子は前々から下ろしてある時刻なので、何事を言うのも都合がよかった。(遠度は)無理に簀子に上がって、「今日はよい日です。円座を貸してください。座り初めをしましょう」などとだけ話して、「まったく甲斐のないことだ」と嘆いて帰った。
二日ほどして、ただ口上で、留守の間においでくださった恐縮などを言って差し上げた後、(遠度からは)「たいそう気がかりなまま退出してしまったのを、何とか」と、いつも言ってくる。不似合いな事なので、……などとあるのは、許しのないことなのに、(遠度は)「助(道綱)に話をしよう」と言いがてら、夕暮れにやって来た。「どうしようもない」と言って、格子を二間ほど上げて、簀子に灯をともして、廂の間に(遠度を)入れた。助が対面して、早く(どうぞ)と言って縁に上がった。妻戸を引き開けて、「こちらから」と言うようなので、歩み寄る者が、また立ち退いて、「まずお取り次ぎを申し上げてください」と、ひそやかに言うので、(道綱が)入ってきてそう言うと、「お思いになる所に申し上げなさい」などと人が(言うと、遠度は)少し笑って、ほどよく衣ずれの音をさせて入ってきた。助と話をひそやかにして、笏に扇の当たる音だけが時々して座っていた。内(作者の側)からは物音もなくてしばらくたったので、「助に、先日は甲斐もなく退出しましたので、気がかりでと申し上げてください」と言って(取り次ぎを)入れた。(道綱が)「早く」と言うので、(私は)膝行して近寄ったが、すぐには物も言わない。内からはまして音もしない。しばらくして、「気がかりで……お手紙でしょうか」と言って、少し咳払いの様子をしたのにつけて、「折も折、都合の悪い時に伺い合わせまして」と言うのを初めとして、思い始めたころからのことをたいそうたくさん(語った)。こちらはただ、たいそう縁起でもない(まだ幼い)年ごろなので、「こうおっしゃるのも夢のような気がいたします。小さいときからも、世に言う鼠追い(ほどの子ども)にさえならないのに、たいそう無理なことでして」などというふうに答える。(遠度の)声をたいそうつくろっているようだと聞くと、私もたいそう苦しい。
雨が乱れて降る夕暮れで、蛙の声がたいそう高い。夜が更けていくので、内から、「たいそうこんな気味の悪い(山里の)あたりでは、内にいる者さえ落ち着かずにおりますのに」と言い出すと、「何の、これから私を(頼りに)お思いください。昔のように恐ろしいことはございますまい」と言いながら、ひどく夜が更けたので、「助の君の賀茂祭の御用意も近くなったでしょうが、その時の雑役だけでもお仕え申しましょう。殿にこう仰せられたと、ご意向を伺って、またおっしゃることを申し上げに、明日あさってのうちにも伺いましょう」と言うので、立つようだと思って、几帳のほころびからかき分けて外を見ると、簀子にともしていた灯火は、もう消えていた。内では物の後ろに灯をともしていたので、明るくて、外の灯が消えたのもわからなかったのだった。(こちらの)影も見えただろうかと思うとあきれて、「意地悪なこと、消えたともおっしゃらないで」と言うと、「何の、お付きの人も答えないで立ってしまいました」(と言う)。(遠度は)来始めたので、しばしばやって来ては同じことを言うけれど、こちらでは、お許しのある所(兼家)から、そうあってよいという時こそは、困っても(従う)べきだろうと思う人で、……許しはもう出ているのに」と言って、うるさく責める。「この時こそは殿にも仰せがあった。二十日過ぎごろがよい日だそうだ」と言って責められるが、助は役所の用で祭に出なければならないので、そのことばかり思っていると、(遠度は)祭の準備が終わるのを待っていた。御禊の日に犬が死んでいるのを見つけて(穢れに触れ)、どうしようもなく(求婚は)沙汰やみになった。
意訳
〔風の中の遠度〕四月の昼、右馬頭遠度が突然訪れる。強い風に冠の纓をなびかせ、赤い扇をもてあそぶ姿は絵のように美しい。それを見ようと女房たちがうちとけた姿で出てきたところへ、風が簾を吹き上げ、作者は皆の袖口まで見られたと恥じ入る。
〔夕暮れの訪問〕数日後の夕暮れ、遠度は道綱に用があると言って訪れ、簀子から廂に通される。作者は几帳の内から、ようやく言葉を交わす。遠度は思い始めたころからの思いを語るが、作者は「娘はまだ鼠追いほどの年でもない」と答える。
〔消えた灯〕夜更け、遠度が帰ろうとするので外を見ると、簀子の灯はとうに消えていた。こちらの影が見えていたかと思って作者は慌て、遠度に「意地悪な」と言う。遠度は兼家の許しを盾に、「二十日過ぎがよい日だ」と結婚を迫る。
〔延びる日取り〕道綱は賀茂祭の役目で忙しく、遠度はそれが終わるのを待つことにするが、御禊の日に犬の死骸に触れて穢れを受け、話は先送りになる。
語釈・文法注
文法
- 「朔七八日」
- 底本どおり。四月の七、八日ごろ。
- 「あなかま」
- しっ、静かに。
- 「ねはそしたるにて」
- 底本どおり。注記に「二字け」の異文があり、意味がとりにくい。
- 「直衣」
- 貴族の平服。
- 「纓」
- 冠の後ろに垂らす細長い布。
- 「すかたをとへ吹き」
- 底本どおり。注記に「三字だれ」などとあり、「すだれを外へ吹き」と解する。
- 「我か人かにて」
- 無我夢中で。
- 「ありたゞしさ」
- 底本どおり。注記に「わ」の異文があり、「あわただしさ」と解する。
- 「格子みは」
- 底本どおり。注記に「なか」の異文がある。
- 「わらふだ」
- 円座。わらや藺で編んだ丸い敷物。
- 「ゐそめむ」
- 座り初めをしよう。結婚に向けての最初の訪問であることをいう。
- 「あやしの聲さでやは」
- 底本どおり。注記に異文がある。
- 「さくらに扇の」
- 底本どおり。注記に異文があり、「笏(さく)に扇の」と解する。
- 「おんふみにやあらむ」
- 底本どおり。「おん」の脇に注記がある。
- 「鼠追ひの程」
- 鼠を追い払うほどの年ごろ。まだ幼いことのたとえ。
- 「むくつけゞなる」
- 気味が悪い。
- 「怖ろしきと侍らじ」
- 底本どおり。「と」は「こと」の意か。
- 「御いにき」
- 底本どおり。注記に「二字そぎ」などとあり、祭の準備のことと解する。
- 「腹黑う」
- 意地悪く。
- 「思ふ人ば、せんとなき」
- 底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
- 「みそぎの日」
- 賀茂祭の前の斎院の御禊の日。
- 「犬の死にたるを見つけて」
- 犬の死骸を見て死穢に触れたので、一定期間の謹慎が必要になった。
解説
風に纓をなびかせて籬の前に立つ遠度の姿は、『蜻蛉日記』の中でも絵画的な描写として知られる。作者は遠度を「繪に書きたるやうなり」と讃えるが、一方で女房たちのうちとけた姿が見られたことを「死ぬばかりいとほし」と恥じている。
遠度は兼家の許しを盾に結婚の日取りを迫るが、作者は娘がまだ幼いことを理由に慎重な態度を崩さない。作者が養女の保護者として、兼家の弟と対等にわたり合う様子が描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、143–145頁(コマ74–75)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日