古典ライブラリー

蜻蛉日記 下巻 第47章

餌袋の歌と中川への転居

天延元年五月、道綱は大和の女とほととぎすや菖蒲の歌を贈答する。兼家は、地方へ下る人への餞別の歌を餌袋に入れてほしいと作者に頼み、返歌の優劣の判定まで求める。八月、兼家の足は近江の女のもとに繁く向かい、作者は父の用意した中川の家に、兼家に告げずに移る。川霧の立つ山里で、作者は「我が中川はあせにけらしも」と歌う。年末には冬の衣の仕立てだけが届く。

  1. 1五月ごぐわつ五月ごぐわつごがつののの初はじめ初はじめはじめめめめののの日ひ日ひひににになりなりなりぬれぬれぬればばば、、、例れい例れいれいののの大たい大たいたい夫ふ夫ふふ、、、
  2. 2「「「うちうちうちとけとけとけててて今日けふ今日けふきょうだにだにだに聞き聞ききかかかむむん時ほとと時ほととほとと鳥ぎす鳥ぎすぎすしのびしのびしのびもももあへあへあえぬぬぬときときときははは來き來ききにににけりけりけり」」」。。。
  3. 3かへりかへりかえり事こと事ことこと、、、「「「時ほとと時ほととほとと鳥ぎす鳥ぎすぎすかくれかくれかくれなきなきなき音ね音ねねををを聞き聞ききかせかせかせてててはははかけかけかけはなれはなれはなれぬるぬるぬる身み身みみとととやややなるなるなるらむらむらん」」」。。。
  4. 4五日いつか五日いつかいつか、、、
  5. 5「「「物もの物ものものおもふおもふおもうににに年とし年としとし經へ經へへけりけりけりとてとてとてあやめあやめあやめ草ぐさ草ぐさぐさ今日けふ今日けふきょうにににたびたびたびたびたびたびすぐしすぐしすぐしてててぞぞぞしるしるしる」」」。。。
  6. 6かへりかへりかえり事こと事ことこと、、、
  7. 7「「「つもりつもりつもりけるけるける年とし年としとしのののあやめあやめあやめもももおもほえおもほえおもおえずずず今日けふ今日けふきょうももも過す過すすぎぎぎぬるぬるぬる心こころ心こころこころ見み見みみゆれゆれゆればばば」」」
  8. 8とととぞぞぞあるあるある。。。いかにいかにいかに恨うら恨うらうらみみみたるたるたるにににかかかあらあらあらむむんとととぞぞぞあしかりあしかりあしかりけるけるける。。。さてさてさてれいれいれいのののものものもの思おも思おもおもひひいははは、、、このこのこの月つき月つきつきももも時とき時ときとき々どき々どきどき同おな同おなおなじじじやうやうようなりなりなり。。。二十日はつか二十日はつかはつかののの程ほど程ほどほどににに「「「遠とほ遠とほとおうううものものものするするする人ひと人ひとひとにににとくとくとくせせせむむん。。。このこのこの餌ゑ餌ゑえ袋ぶくろ袋ぶくろぶくろののの內うち內うちうちににに袋ふくろ袋ふくろふくろ結むす結むすむすびびびててて」」」とととあれあれあればばば、、、結むす結むすむすぶぶぶほどほどほどににに出い出いいででで來き來ききにににたりたりたりややや。。。「「「歌うた歌うたうたををを一ひと一ひとひと重へ重へえ袋ぶくろ袋ぶくろぶくろににに入い入いいれれれ給たま給たまたまへへえ。。。こゝこゝここにににいといといとなやましうなやましうなやましゅうててて、、、えええ讀よ讀よよむむむまじまじまじ」」」とととあれあれあればばば、、、いといといとをかしうをかしうおかしゅうててて「「「のたまへのたまへのたまえるるる物もの物ものものあるあるある限かぎ限かぎかぎりりり讀よ讀よよみみみ入い入いいれれれててて奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるをををもももしもりやうしもりやうしもりょうせせせむむん。。。にににとふくるとふくるとうくるをををぞぞぞ給たま給たまたまははわましましまし」」」とととものものものしししつつつ。。。二日ふつか二日ふつかふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、心こころ心こころこころちちちのののいといといと苦くる苦くるくるしうしうしゅうてててももも、、、事こと事ことこと久ひさ久ひさひさしけれしけれしければばばなむなむなん、、、ひとへひとへひとえ袋ぶくろ袋ぶくろぶくろととといひいひいいたりたりたりしししものものものををを、、、わびわびわびてててかくかくかくなむなむなんものものものしししたりたりたりししし。。。返かへ返かへかへしししかうかうこうかうかうこうなどなどなどあまたあまたあまた書か書かかきききつけつけつけててて、、、「「「いといといとようようようさだめさだめさだめててて給たま給たまたまへへえ」」」とてとてとて、、、雨あめ雨あめあめもよもよもよにににあれあれあればばば、、、少すこ少すこすこししし情なさけ情なさけなさけあるあるある心こころ心こころこころちちちしししててて待ま待ままちちち見み見みみるるる。。。劣おと劣おとおとりりり優すぐ優すぐすぐれれれりりり見み見みみゆれゆれゆれどどど、、、さかしうさかしうさかしゅうことわらことわらことわらむむんもももあいなくあいなくあいなくてててかうかうこうものものものしししけりけりけり、、、
  9. 9「「「うちうちうちとととのみのみのみ風かぜ風かぜかぜののの心こころ心こころこころをををよすよすよすめれめれめればばば返かへ返かへかへしししははは吹ふ吹ふふくくくももも劣おと劣おとおとるるるらむらむらんかしかしかし」」」
  10. 10とととばかりばかりばかりぞぞぞものものものしししけるけるける。。。六七月ろくしちぐわつ六七月ろくしちぐわつろくしちがつ、、、同おな同おなおなじじじ程ほど程ほどほどにににありありありつゝつゝつつはてはてはてぬぬぬ。。。つごもりつごもりつごもり二十八日にじふはちにち二十八日にじふはちにちにじゅうはちにちににに「「「すまひすまひすまいののの事こと事ことことによりによりにより內うち內うちうちににに侍さぶら侍さぶらさぶらひひいつれつれつれどどどうちうちうちものものものせせせむむんとてとてとてなむなむなん急いそ急いそいそぎぎぎ出い出いいでででぬるぬるぬるななな」」」とてとてとて見み見みみえええたりたりたりししし人ひと人ひとひと、、、そのそのそのまゝまゝままににに八月はちぐわつ八月はちぐわつはちがつ廿にじふ廿にじふにじゅう日にち日にちにち餘あまり餘あまりあまりまでまでまで見み見みみえええずずず。。。聞き聞ききけけけばばば例れい例れいれいののの所ところ所ところところににに繁しげ繁しげしげくくくなむなむなんととと聞き聞ききくくく。。。移うつ移うつうつりりりにににけりけりけりととと思おも思おもおもふふう。。。からからからうつしうつしうつし心こころ心こころこころもももなくなくなくてててのみのみのみあるあるあるににに、、、住す住すすむむむ所ところ所ところところはははいよいよいよいよいよいよ荒あ荒ああれれれ行ゆ行ゆゆくくくををを、、、とととすくなすくなすくなにににもももありありありしかしかしかばばば、、、人ひと人ひとひとにににものものものしししててて、、、我わ我わわがががすてすてすて所ところ所ところところにににあらせあらせあらせむむんととといふいふいう事こと事ことことををを、、、我わ我わわががが賴たの賴たのたのむむむ人ひと人ひとひと定さだ定さださだめめめててて、、、今日けふ今日けふきょう明日あす明日あすあすひえひえひえはたはたはた中なか中なかなか川がは川がはがわののの程ほど程ほどほどににに渡わた渡わたわたりりりぬぬぬべしべしべし、、、さささべしべしべしとととははは、、、さきざきさきざきさきざきほのめかしほのめかしほのめかしたれたれたれどどど、、、今日けふ今日けふきょうなどなどなどもももなくなくなくてててやややはははとてとてとて、、、聞きこ聞きこきこえさすえさすえさすべきべきべきことことことものものものしししたれたれたれどどど「「「つゝしむつゝしむつつしむことことことありありありてててなむなむなん」」」とてとてとてつれつれつれもももけれけれければばば、、、なになになにかかかはははとてとてとて、、、音ね音ねねもももせせせででで渡わた渡わたわたりりりぬぬぬ。。。山やま山やまやま近ちか近ちかちこううう河かは河かはかわ原ら原ららかたかたかたかきかきかきなるなるなる所ところ所ところところににに、、、今いま今いまいまははは心こころ心こころこころのののほしきほしきほしきににに入い入いいりりりたれたれたればばば、、、いといといとあはれあはれあわれなるなるなる住すま住すますまひひいととと覺おぼ覺おぼおぼゆゆゆ。。。二三日ふつかみか二三日ふつかみかふつかみかににになりなりなりぬれぬれぬれどどど、、、知し知ししりりりげげげもももなしなしなし。。。五六日いつかむゆか五六日いつかむゆかいつかむいかばかりばかりばかり、、、「「「さりさりさりけるけるけるををを吿つ吿つつげげげざりざりざりけるけるける」」」とととばかりばかりばかりありありあり。。。かへりかへりかえりごとごとごとににに「「「さささなむなむなんとととははは吿つ吿つつげげげ聞きこ聞きこきこゆゆゆとととなむなむなんおもひおもひおもいししし。。。いといといとびなきびなきびなき所ところ所ところところにににはははたかたうたかたうたかとう覺おぼ覺おぼおぼえええしかしかしかばばばなむなむなん、、、見み見みみ給たま給たまたまひひいなれなれなれにににししし所ところ所ところところにににててて今いま今いまいま一ひと一ひとひとたびたびたび聞きこ聞きこきこゆゆゆべくべくべくははは思おも思おもおもひひいししし」」」などなどなど絕た絕たたえええたるたるたるさまさまさまにににものものものしししつつつ。。。「「「さささもももこそこそこそはははあらあらあらめめめ、、、びなかびなかびなかなれなれなればばばなむなむなん」」」とてとてとて、、、跡あと跡あとあとををを斷た斷たたちちちたりたりたり。。。
  11. 11九月くぐわつ九月くぐわつくがつににになりなりなりててて、、、まだしきまだしきまだしきににに、、、格かう格かうこう子し子ししををを上うへ上うへうえげげげててて見み見みみ出い出いいしししたれたれたればばば、、、內うち內うちうちなるなるなるにににももも、、、とととなるなるなるにににももも、、、川かは川かはかわ霧ぎり霧ぎりぎり立た立たたちちち渡わた渡わたわたりりりててて、、、麓ふもと麓ふもとふもとももも見み見みみえええぬぬぬ山やま山やまやまののの見み見みみやらやらやられれれたるたるたるもももいといといと物もの物ものもの悲かな悲かなかなしうしうしゅうててて、、、
  12. 12「「「流なが流ながながれれれてててのののとことことこ賴たの賴たのたのみみみてててこここしししかどかどかどももも我わ我わわががが中なか中なかなか川がは川がはがわはははあせあせあせにににけらしけらしけらしももも」」」
  13. 13とととぞぞぞいはいはいわれれれけるけるける。。。ひんがしひんがしひんがしのののかどかどかどののの前まへ前まへまえなるなるなる田た田たたどもどもども苅か苅かかりりりてててゆひゆひゆいわたしわたしわたしてててかけかけかけたりたりたり。。。たまさかたまさかたまさかにににももも見み見みみえええ問と問ととふふうひとひとひとにににははは、、、靑あを靑あをあお稻いね稻いねいね苅か苅かからららせせせててて馬むま馬むまうまににに飼か飼かかひひい、、、やいごめやいごめやいごめさせさせさせなどなどなどするするするわざわざわざにににおりおりおりたちたちたちてててありありあり。。。こだかこだかこだかののの人ひと人ひとひともももあれあれあればばば、、、たかたかたかどもどもどもとととににに立た立たたちちち出い出いいでゝでゝでて遊あそび遊あそびあそびぶぶぶ。。。例れい例れいれいののの所ところ所ところところににに驚おどろ驚おどろおどろかしかしかしにににやるやるやるめりめりめり。。。
  14. 14「「「さささごろもごろもごろものののつまつまつまももも結むす結むすむすばばばぬぬぬ玉たま玉たまたまののの緖を緖をおののの絕た絕たたえええみみみ絕た絕たたえええずずずみみみ世よ世よよをををややや結むす結むすむすばばばむむん」」」。。。
  15. 15かへりかへりかえり事こと事ことことなしなしなし。。。又また又またまたほどほどほど過す過すすぎぎぎててて、、、
  16. 16「「「露つゆ露つゆつゆ深ふか深ふかふかききき袖そで袖そでそでにににひえひえひえつゝつゝつつあかすあかすあかすかなかなかなたれたれたれ長なが長ながながききき夜よ夜よよのののかたきかたきかたきなるなるなるらむらむらん」」」。。。
  17. 17返かへ返かへかえりりりごとごとごとありありありともともとも、、、よしよしよしかゝかゝかかじじじ。。。さてさてさて二十にじふ二十にじふにじゅう餘よ餘よよ日にち日にちにちにににこのこのこの月つき月つきつきもももなりなりなりぬれぬれぬれどどど、、、跡あと跡あとあと絕た絕たたえええたりたりたり。。。あさましさあさましさあさましさははは「「「これこれこれしししててて」」」とてとてとて冬ふゆ冬ふゆふゆののの物もの物ものものありありあり。。。「「「御おほん御おほんおん文ふみ文ふみふみありありありつるつるつるははは、、、はやはやはや落おと落おとおとちちちにににけりけりけり」」」ととといへいへいえばばば愚おろか愚おろかおろかなるなるなるやうやうようなりなりなり。。。返かへり返かへりかえり事ごと事ごとごとせせせぬぬぬにににてててあらあらあらむむんとてとてとて、、、何なに何なになに事こと事ことこととととももも知し知ししらららでででやみやみやみぬぬぬ。。。ありありありしししものものものどもどもどもははは、、、してしてしてふみふみふみもももなくなくなくてててものものものしししつつつ。。。そのそのその後のち後のちのちははは夢ゆめ夢ゆめゆめののの通かよ通かよかよひひい路ぢ路ぢじ絕た絕たたえええててて年とし年としとし暮く暮くくれれれはてはてはてぬぬぬ。。。晦つごもり晦つごもりつごもりににに又また又またまた「「「これこれこれしししてててとととなむなむなん」」」とてとてとてはてはてはてははは文ふみ文ふみふみだにだにだにもももなうなうのうてててぞぞぞ下した下したした襲がさね襲がさねがさねあるあるある。。。いかにいかにいかにせせせましましましととと思おも思おもおもひひいやすらひやすらひやすらいててて、、、これこれこれかれかれかれにににいひいひいい合あは合あはあわすすすれれればばば、、、猶なほ猶なほなお「「「このこのこの度たび度たびたびばかりばかりばかり試こころみ試こころみこころみにににせよせよせよ。。。いといといと忌い忌いいみみみたるたるたるやうやうようにににのみのみのみあれあれあればばばかかか」」」ととと定さだ定さださだむるむるむる事こと事ことことありありありててて、、、留とど留とどとどめめめてててききき。。。さるさるさるけけけなくなくなくしししててて、、、朔ついたち朔ついたちついたちののの日ひ日ひひ大たい大たいたい夫ふ夫ふふににに持もた持もたもたせせせてててものものものしししたれたれたればばば、、、「「「いといといと淸きよ淸きよきよくくくなりなりなりぬぬぬとてとてとてなむなむなんありありありつるつるつる」」」とてとてとてやみやみやみぬぬぬ。。。あさましあさましあさましととといへいへいえばばばおろかおろかおろかなりなりなり。。。さてさてさてこのこのこの霜しも霜しもしも月つき月つきつきににに縣あがた縣あがたあがたありきありきありきののの所ところ所ところところににに、、、うぶやうぶやうぶやののの事こと事ことことありありありしししををを、、、えええ問と問ととはははででで過す過すすしししてててしししををを、、、いかにいかにいかになりなりなりにににけむけむけん。。。これこれこれにににだにだにだにととと思おも思おもおもひひいしかしかしかどどど、、、ことごとしきことごとしきことごとしきわざわざわざはははえええものものものせせせずずず、、、ことはたことはたことわたをををぞぞぞさまざまさまざまさまざまにににしししたるたるたる、、、例れい例れいれいののの事こと事ことことなりなりなり。。。白しろ白しろしろううう調てう調てうちょうじじじたるたるたるこここ梅うめ梅うめうめののの枝えだ枝えだえだにににつけつけつけたるたるたるににに、、、
  18. 18「「「冬ふゆ冬ふゆふゆごもりごもりごもり雪ゆき雪ゆきゆきにににまどひまどひまどいしししをりをりおり過す過すすぎぎぎててて今日けふ今日けふきょうぞぞぞ垣かき垣かきかき根ね根ねねのののうめうめうめををを尋たづ尋たづたずぬるぬるぬる」」」
  19. 19とてとてとて、、、たちはきたちはきたちわきのののをををそれがしそれがしそれがしなどなどなどいふいふいう人ひと人ひとひと、、、使つかひ使つかひつかいにににててて夜よ夜よよににに入い入いいりりりてててものものものしししけりけりけり。。。使つかひ使つかひつかいつとめてつとめてつとめてぞぞぞ歸かへ歸かへかえりりりたるたるたる。。。薄うす薄うすうす色いろ色いろいろのののうちきうちきうちきひとひとひとかさねかさねかさねかづけかづけかずけたりたりたり。。。
  20. 20「「「枝えだ枝えだえだ若わか若わかわかみみみ雪ゆき雪ゆきゆきまままににに咲さ咲ささけけけるるる初はつ初はつはつ花はな花はなはなはははいかにいかにいかにとととゝふゝふとうににに匂にほひ匂にほひにおいひひいますますますかなかなかな」」」

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

五月の初めの日になったので、例によって大夫(道綱)が、

「うちとけて、せめて今日だけでも(あなたの声を)聞きたいものです。ほととぎすが忍びきれずに鳴く時が来たのですから」

返事は、「ほととぎすが隠れもない声を聞かせては、(かえって)遠く離れてしまう身となるのでしょうか」

五日に、

「物思いをするうちに年を経てしまったと、菖蒲草を見て、今日(の節句)を何度も過ごしてきたことで知ります」

返事は、

「積もった年の菖蒲(の数)も思われません。今日も過ぎてしまう(あなたの)心が見えるので」

とある。どうして恨んでいるのだろうかと、(作者には)不快に思われた。

さて、例の(私の)物思いは、この月も時々同じようである。二十日ごろに、(あの人が)「遠くへ下る人に早く(餞別を)しよう。この餌袋の中に袋を結んで(入れてくれ)」と言ってきたので、結んでいるうちに出来上がっただろうか、「歌を一重の袋に入れてください。私はたいそう気分が悪くて、詠めそうにない」と言ってくるので、たいそうおかしくて、「おっしゃる物がある限り(歌を)詠み入れて差し上げましょう……。……をいただきたいものです」と言ってやった。二日ほどして、(あの人は)気分がたいそう苦しいけれども、事が長引いたので、一重袋と言っていたものを、困ってこのように(歌を)入れたのだった。返歌をこれこれとたくさん書きつけて、「よくよく(優劣を)判定してください」と言ってきて、雨もようなので、少し情のある気持ちがして待って見る。劣っているもの優れているものが見えるけれど、利口ぶって判定するのもつまらなくて、こう言ってやった。

「内と外とにばかり風の心を寄せるようなので、返し(の風)は、吹くのも劣るのでしょう」

とだけ言ってやった。

六月、七月は同じような状態で過ぎた。(七月)末の二十八日に、「相撲の事で内裏に伺候していたが、こちらに来ようと思って急いで退出したのだ」と言って来た人が、そのまま八月二十日過ぎまで来ない。聞くと、例の所(近江)に繁く通っていると聞く。心が移ってしまったのだと思う。正気もない気持ちでばかりいると、住む所はいよいよ荒れていくし、……人も少なかったので、人に話して、私の住まいを手放してしまおうということを、私の頼みとする人(父)が決めて、今日明日にも広幡の中川のあたりに移るのがよい、そうすべきだとは、前々からほのめかしていたけれど、今日なども(知らせ)ないままでよいものかと、申し上げるべきことを言ってやったが、「慎むことがあって」と言って素っ気なかったので、それならと、知らせもしないで移った。山が近く、川原の……ある所で、今は心の望むままに入ったので、たいそうしみじみとした住まいだと思われる。二、三日になったけれど、(あの人は)知った様子もない。五、六日ほどして、「そうだったのに知らせなかったとは」とだけある。返事に、「そうとはお知らせしようと思いました。たいそう不都合な所なので……と思われましたので、見慣れていらっしゃった所でもう一度申し上げようと思っておりました」などと、関係の絶えたような様子で言ってやった。「そうであろう。不都合な所だから(行くまい)」と言って、すっかり足が途絶えた。

九月になって、まだ早いうちに、格子を上げて外を眺めると、家の内でも外でも、川霧が一面に立ちこめて、麓も見えない山が見やられるのもたいそうもの悲しくて、

「流れのように末長く、床(寝所)を頼みにしてやって来たけれど、私たちの仲は、この中川のように浅くなってしまったらしい」

と口に出てしまった。東の門の前にある田を刈って、結い渡して掛けてある。たまに訪ねてくる人には、青稲を刈らせて馬に食べさせ、焼米を作らせなどする仕事に、(家の者が)おり立ってやっている。鷹飼いの人もいるので、鷹どもを(連れて)外に出て遊ぶ。(道綱は)例の所に驚かせに送ったようだ。

「衣の褄も結:むす+ばない玉の緒のように、絶えたり絶えなかったりしながら、二人の仲を結べないものでしょうか」

返事はない。また少しして、

「露の深い袖に冷えながら夜を明かすことです。誰が長い夜の(つらい)敵なのでしょうか」

返事はあったとしても、もう書くまい。さて、二十日余りにこの月もなったけれど、(兼家の)跡は絶えた。あきれたことには「これを(仕立てて)」と言って冬の物がある。(使いが)「お手紙があったのは、もう落としてしまいました」と言うので、愚かなようである。返事をしないでおこうと思って、何事とも知らないまま終わった。届いた物は、仕立てて手紙もなしに送った。その後は夢の通い路も絶えて、年もすっかり暮れた。月末に、また「これを仕立ててと(の仰せ)」と言って、しまいには手紙さえなしで下襲(の布)がある。どうしようかとためらって、あれこれの人に相談すると、やはり「今度だけは試しにしなさい。ひどく嫌がっているようにばかり(見えるのでは)」と決めることがあって、引き受けた。何気ないふうにして、一日に大夫に持たせて届けると、「たいそうきれいに出来たと言っていた」と言って終わった。あきれたと言っても言い足りない。

さて、この十一月に、地方回りの人(父)の所で、お産があったのを、見舞うこともできずに過ごしてしまったが、どうなっただろう。せめてこれ(年の初めのお祝い)だけでもと思ったけれど、大げさなことはできず、……をいろいろとした。例年のことである。白く仕立てた(産着を)小梅の枝につけたものに、

「冬ごもりで雪に迷っていた時期も過ぎて、今日こそ垣根の梅(生まれた子)を訪ねることです」

と書いて、帯刀の何某という人を使いにして、夜になってから届けた。使いは翌朝帰ってきた。薄紫色の袿を一襲、褒美にもらっていた。(返歌は)

「枝が若いので、雪の間に咲いた初花は、いかがかとお尋ねくださって、いっそう匂いが増すことです」

意訳

〔道綱の贈答〕五月、道綱は大和の女にほととぎすや菖蒲の歌を贈る。女の返事は相変わらずつれなく、作者はその恨みがましさを不快に思う。

〔餌袋の歌〕兼家は、地方へ下る人への餞別の歌を作者に頼み、さらに返歌の優劣の判定まで求めてくる。作者は判定をせず、「内と外とに風を寄せるようなので、返しの風は劣るでしょう」と軽くかわす。夫婦の間に残っているのは、こうした和歌の才をめぐるやりとりだけである。

〔中川への転居〕八月、兼家は近江の女のもとへ通い詰める。荒れた家に住む作者を見かねて、父が広幡の中川の家に移るよう計らう。作者は兼家に知らせを送るが、そっけない返事しかないので、黙って移る。兼家は「不都合な所だから」と言って、それきり訪れなくなる。

〔中川の秋〕九月、川霧の立つ山里の家で、作者は「我が中川はあせにけらしも」と、川の名に夫婦の仲の浅さを重ねて歌う。田の稲刈りや鷹飼いの姿など、山里の暮らしが描かれる。

〔冬の衣〕訪れは絶えたのに、兼家から冬の衣の仕立てを頼む布だけが届く。手紙もなく下襲の布が届いたときには、作者は人に勧められてしぶしぶ仕立てる。「きれいに出来た」という言葉だけが返ってくる。

〔梅の産着〕父の家に子が生まれ、作者は白い産着を小梅の枝につけて祝いの歌を贈る。

語釈・文法注

文法

「しのびもあへぬとき」
ほととぎすが忍びきれずに鳴く時。陰暦四月は忍び音、五月になると盛んに鳴くとされた。
「あしかりける」
不快に思われた。
「遠うものする人」
遠くへ赴任する人。受領として地方へ下る人への餞別。
「餌袋」
鷹の餌などを入れて持ち歩く袋。旅の携帯用にも使った。
「しもりやうせむ。にとふくる」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「ことわらむ」
判定しよう。
「すまひの事」
相撲の節会のこと。
「例の所」
兼家が通う女の所。近江と呼ばれる女(藤原国章の娘)をさすと考えられる。
「からうつし心」
底本どおり。注記に「ら」の異文がある。正気、の意に解する。
「とすくなにも」
底本どおり。注記に「人」の異文があり、「人ずくなにも」と解する。
「我が賴む人」
作者の父、藤原倫寧。
「ひえはた中川」
底本どおり。注記に異文があり、「広幡中川」と解する。京の東北、賀茂川の近く。
「つれもければ」
底本どおり。「つれもなければ」の意に解する。
「河原かたかきなる所」
底本どおり。注記に異文がある。
「たかたう」
底本どおり。注記に「四字あまりびなく」などとある。
「中川」
地名の「中川」に、二人の「仲」を掛ける。
「やいごめ」
焼米。新米を炒って作る。
「こだかの人」
小鷹(はいたか)を使う鷹飼いの人。
「さるけなくして」
底本どおり。何気ないふうにして、の意に解する。
「うぶやの事」
産屋の事。出産。
「ことはた」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「たちはき」
帯刀。東宮坊の護衛の武官。
「薄色のうちき」
薄紫色の袿。使者への褒美(かづけ物)。

和歌

うちとけて今日だに聞かむ時鳥しのびもあへぬときは來にけり

詠者
藤原道綱
状況
五月の初めに大和の女に贈った歌。

時鳥かくれなき音を聞かせてはかけはなれぬる身とやなるらむ

詠者
大和の女
状況
道綱への返歌。

物おもふに年經けりとてあやめ草今日にたびたびすぐしてぞしる

詠者
藤原道綱
状況
五月五日に贈った歌。

修辞

掛詞
「あやめ」に「菖蒲」と「文目(物の道理)」をひびかせる。

つもりける年のあやめもおもほえず今日も過ぎぬる心見ゆれば

詠者
大和の女
状況
道綱への返歌。

うちとのみ風の心をよすめれば返しは吹くも劣るらむかし

詠者
道綱母(作者)
状況
兼家が餞別の歌の返歌を多く書きつけ、優劣の判定を求めてきたのに答えた歌。

修辞

掛詞
「返し」に「返歌」と「吹き返しの風」を掛ける。

流れてのとこ賴みてこしかども我が中川はあせにけらしも

詠者
道綱母(作者)
状況
中川の家に移った九月、川霧に包まれた山を眺めて詠んだ歌。

修辞

掛詞
「とこ」に「床」と「常」、「中川」に地名と「仲」を掛ける。
縁語
「流れ」「中川」「あせ(浅せ)」は川の縁語。

さごろものつまも結:むす+ばぬ玉の緖の絕えみ絕えずみ世をや結:むす+ばむ

詠者
藤原道綱
状況
大和の女に驚かしに贈った歌。

修辞

縁語
「つま」「結:むす+ぶ」「玉の緒」「絶え」は糸の縁語。

露深き袖にひえつゝあかすかなたれ長き夜のかたきなるらむ

詠者
藤原道綱
状況
返事のない女に重ねて贈った歌。

冬ごもり雪にまどひしをり過ぎて今日ぞ垣根のうめを尋ぬる

詠者
道綱母(作者)
状況
父の家に生まれた子の祝いに、白い産着を小梅の枝につけて贈った歌。

修辞

見立て
生まれた子を垣根の梅の初花に見立てる。

枝若み雪まに咲ける初花はいかにとゝふに匂ひますかな

詠者
父の家の人
状況
作者の祝いの歌への返歌。

解説

天延元年(973)、兼家の足は近江と呼ばれる女のもとへ繁く向かうようになった。作者は父倫寧の計らいで、兼家の邸に近い一条西洞院の家を出て、広幡中川の家に移る。兼家はこれを機に訪れを絶ち、二人の夫婦関係は事実上の終わりを迎える。

「我が中川はあせにけらしも」の歌は、新しい住まいの地名「中川」に二人の「仲」を重ね、それが浅くなった(あせた)と詠んだもので、下巻を代表する一首である。

訪れは絶えても、兼家は冬の衣の仕立てを作者に頼み続けた。仕立て物は妻の重要な役割であり、兼家にとって作者はなお「家」の妻の一人だったことがわかる。作者はそれを「あさましといへばおろかなり」と書きとめている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、135–138頁(コマ70–72)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日