蜻蛉日記 中巻 第37章
時雨の秋と中巻の結び
初瀬から帰ると兼家はすぐに訪れるが、その後はまた途絶えがちになる。九月の時雨の空に「身さへ時雨のふりも行く」と詠み、十二月の雨の日には、昔は雨にも障らず来た人を思って歌を送る。その使いと行き違いに兼家が訪れ、作者はほっとする。山籠りの後「あまがへる」とあだ名された作者は、追儺の騒ぎを静かに見聞きして年を送る。
- 1又又またののの日日ひもももひるひるひるつつつ方方かた、、、こゝこゝここなるなるなるににに文文ふみありありあり。。。「「「御御おおん迎迎むかえにににもももととと思思おもひひいしかしかしかどもどもども、、、こゝろこゝろこころののの御御おおんありきありきありきにににもももあらあらあらざりざりざりけれけれければばば、、、びんびんびんなくなくなく覺覺おぼえええてててなむなむなん。。。例例れいののの所所ところにににかかか、、、唯唯ただ今今いま物物ものににに」」」などなどなどあれあれあればばば、、、人人ひと々々びとはやばやはやばやはやばやとととそゝのかしそゝのかしそそのかしててて渡渡わたりりりたれたれたればばば即即すなわちちち見見みえええたりたりたり。。。かうかうこうしもしもしもあるあるあるははは昔昔むかしのののことことことをををたとしへたとしへたとしえなくなくなく思思おもひひい出出いづづずらむらむらんとてとてとてなるなるなるべしべしべし、、、つとめてつとめてつとめてはははかへりかへりかえりあるじあるじあるじののの近近ちかくくくなりなりなりたれたれたればばばなどなどなどつきづきしうつきづきしうつきづきしゅういひいひいいなしなしなしつつつ。。。あしたあしたあしたのののかごとかごとかごとがちがちがちににになりなりなりにににたるたるたるももも、、、今今いま更更さらにににととと思思おもへへえばばば悲悲かなしうしうしゅうなむなむなん。。。
- 2八月八月はちがつととといふいふいうははは明日明日あすににになりなりなりにににためためためれれればばば、、、それそれそれよりよりより四日四日よか例例れいののの物物もの忌忌いみとととかかかあきあきあきててて二二ふた度度たびばかりばかりばかり見見みえええたりたりたり。。。かへりかへりかえりあるじあるじあるじははははてはてはてゝゝて、、、いといといと深深ふかききき山山やま寺寺でらににに修修す行行ぎょうせせせさすさすさすとてとてとてなどなどなどきてきてきて。。。三四日三四日みかよかににになりなりなりぬれぬれぬれどどど音音おとなくなくなくててて雨雨あめいといといといたくいたくいたく降降ふるるる日日ひ、、、「「「心心こころ細細ぼそげげげなるなるなる山山やま住住ずみははは人人ひととふとふとうものものものとととこそこそこそ聞聞ききききしかしかしか。。。さらさらさらぬぬぬははは、、、つらきつらきつらき物物ものととといふいふいう人人ひともももありありあり」」」とととあるあるある。。。返返かえりりりごとごとごとににに「「「聞聞きこゆゆゆべきべきべきものものものとととははは、、、人人ひとよりよりより先先さきににに思思おもひひいよりよりよりながらながらながら、、、物物ものととと知知しらららせせせむむんとてとてとてなむなむなん露露つゆよりよりよりながらながらながらものものものととと知知しせせせむむんとてとてとてなむなむなん。。。露露つゆけさけさけさはははなかりなかりなかりしししもももあらあらあらじじじととと思思おもううう給給たまふれふれうればばば、、、よそよそよそののの雲雲くもむらむらむらもももあいなくあいなくあいなくなむなむなん」」」とととものものものしししけりけりけり。。。又又またももも立立たちちちかへりかへりかえりなどなどなどありありあり。。。さてさてさて三日三日みつかばかりばかりばかりののの程程ほどににに、、、「「「今日今日きょうなむなむなん」」」とてとてとてようようようさりさりさり見見みえええなりなりなり。。。常常つねにににしもしもしもいかなるいかなるいかなる心心こころののの、、、えええ思思おもひひいあへあへあえずずずなりなりなりにににたれたれたればばば、、、我我われらららつれなけれつれなけれつれなければばば人人ひとはははたたた罪罪つみもももなきなきなきやうやうようにににててて七八日七八日なのかようかののの程程ほどにににぞぞぞ僅僅わずかににに通通かよひひいたるたるたる。。。
- 3長長なが月月つきのののつごもりつごもりつごもりいといといと哀哀あわれなるなるなる空空そらのののけしきけしきけしきなりなりなり。。。ましてましてまして昨日昨日きのう今日今日きょう風風かぜいといといと烈烈はげしくしくしく、、、時雨時雨しぐれうちうちうちしししつゝつゝつつ、、、いみじくいみじくいみじく物物もの哀哀あわれににに覺覺おぼえええたりたりたり。。。遠遠とお山山やまををを眺眺ながめめめやれやれやればばば、、、こんざうこんざうこんぞうををを塗塗ぬりりりたるたるたるとととやややいふいふいうやうやうようにににててて、、、霰霰あられ降降ふるるるらしらしらしとととももも見見みえええたりたりたり。。。「「「野野ののののさまさまさまいかにいかにいかにをかしからをかしからおかしからむむん。。。見見みがてらがてらがてら物物ものににに詣詣もうでででばばばややや」」」ととといへいへいえばばば、、、前前まえなるなるなる人人ひと「「「げにげにげにいかにいかにいかにめでたからめでたからめでたからむむん。。。初初はつ瀨瀨せにににこのこのこの度度たびははは忍忍しのびびびたるたるたるやうやうようにににててて、、、おぼしおぼしおぼし立立たてててよよよかしかしかし」」」などなどなどいへいへいえばばば、、、「「「こぞこぞこぞももも試試こころみみみむむんとてとてとていみじげいみじげいみじげにににててて詣詣もうでででたりたりたりしししににに、、、石石いし山山やまののの御御み心心こころをををまづまづまず見見み果果はてゝてゝてて、、、春春はるつつつ方方かたさもさもさも物物ものせせせむむん。。。そもそもそもそもそもそもさささまでまでまでやややははは。。。猶猶なおうくうくうくててて命命いのちあらあらあらむむん」」」などなどなど、、、心心こころ細細ぼそうううててていはいはいわるるる。。。
- 4「「「袖袖そでひづるひづるひずる時時ときをををだにだにだにこそこそこそなげきなげきなげきしかしかしか身身みさへさへさへ時雨時雨しぐれのののふりふりふりももも行行ゆくくくかなかなかな」」」。。。
- 5すべてすべてすべて世世よにににふるふるふる事事こと、、、かひかひかいなくなくなくあぢきなきあぢきなきあじきなき心心ここちちちいといといとするするする頃頃ころなりなりなり。。。さながらさながらさながら明明あけけけ暮暮くれれれててて、、、廿廿はつかににになりなりなりにににたりたりたり。。。明明あくれくれくればばば臥臥ふすすすををを事事ことにににてててあるあるあるぞぞぞいといといと怪怪あやしくしくしく覺覺おぼゆれゆれゆれどどどいかゞいかゞいかがせせせむむん。。。けさけさけさももも見見み出出いだしししたれたれたればばば、、、屋屋やののの上上うえののの霜霜しももももいといといと白白しろししし。。。わらはべわらはべわらわべよべよべよべののの姿姿すがたながらながらながらしもしもしもくちくちくちまじなはまじなはまじなわむむんとてとてとて騷騷さわぐぐぐもももいといといと哀哀あわれなりなりなり。。。「「「あなあなあな、、、さささももも雪雪ゆきはづかしきはづかしきはずかしき霜霜しもかなかなかな」」」ととと口口くちおほしおほしおおしつゝつゝつつかゝるかゝるかかるみれみれみれ賴賴たのむむむべきべきべきもるもるもるとととどどどものものものうちうちうち聞聞きこえええけるけるける、、、たゞたゞただならならならずずずなむなむなんおぼえおぼえおぼえけるけるける。。。神神かみ無無な月月づきももも、、、せちせちせちににに別別わかしししみみみつゝつゝつつ過過すぎぎぎぬぬぬ。。。霜霜しも月月つきももも同同おなじじじ事事ことにににててて、、、二十日二十日はつかににになりなりなりにににけれけれければばば、、、今日今日きょう見見みえええたりたりたりししし人人ひと、、、そのそのそのまゝまゝままににに、、、廿廿はつかよよよ日日か跡跡あとををを斷斷たちちちててて、、、文文ふみのみのみのみぞぞぞ二二ふた度度たびばかりばかりばかり見見みえええけるけるける。。。かうかうこうのみのみのみ胸胸むね安安やすからからからねねねどどど思思おもひひいつきつきつきにににたれたれたればばば心心こころ弱弱よわききき心心ここちちちしししててて、、、ともともともかくかくかくもももおぼえおぼえおぼえででで、、、八日八日ようかばかりばかりばかりののの物物もの忌忌いみしきりしきりしきりつゝつゝつつなむなむなん、、、唯唯ただ今日今日きょうだにだにだにこそこそこそ思思おもふふうなどなどなどあやしきあやしきあやしきまでまでまでこまかこまかこまかなるなるなる。。。はてはてはてののの月月つきののの十日十日とおか六日六日むいかばかりばかりばかりなりなりなり、、、しばししばししばしありありありててて俄俄にはかにににかいかいかい曇曇くもりりりててて雨雨あめににになりなりなりぬぬぬ。。。たうるゝたうるゝとうるるかたかたかたならならならむむんかしかしかしととと思思おもひひい出出いでゝでゝでてながむるながむるながむるににに、、、暮暮くれれれ行行ゆくくく氣氣け色色しきなりなりなり。。。いといといといたくいたくいたく降降ふれれればばばさはらさはらさわらむむんにににもももことわりことわりことわりなれなれなればばば、、、昔昔むかしはははとととばかりばかりばかり覺覺おぼゆるゆるゆるににに、、、淚淚なみだののの浮浮うかびびびててて哀哀あわれににに物物もののののおぼゆれおぼゆれおぼゆればばば念念ねんじじじ難難がたくくくててて人人ひと出出いだししし立立たつつつ。。。
- 6「「「かなしくかなしくかなしくももも思思おもひひい絕絕たゆるゆるゆるかかかいそいそいそのののかみかみかみさはらさはらさわらぬぬぬものものものとととならひならひならいしししものものものををを」」」
- 7ととと書書かきききててて、、、今今いまぞぞぞいくいくいくらむらむらんととと思思おもふふうほどほどほどににに、、、南南みなみおもておもておもてののの格格こう子子しもももあげあげあげぬぬぬ。。。とととににに人人ひとのののけけけおぼゆおぼゆおぼゆ。。。人人ひとはははえええ知知しらららずずず、、、我我われのみのみのみぞぞぞあやしあやしあやしととと覺覺おぼゆるゆるゆるににに、、、妻妻つま戶戶ど押押おししし明明あけけけてててふとふとふと這這はひひい入入いりりりたりたりたり。。。いみじきいみじきいみじき雨雨あめのののさかりさかりさかりなれなれなればばば音音おともももえええ聞聞きこえええぬぬぬなりなりなりけりけりけり。。。とととににに「「「御御み車車くるまとくとくとくさしさしさし入入いれれれよよよ」」」などなどなどのゝしるのゝしるののしるももも聞聞きこゆゆゆ。。。「「「などなどなどしもしもしも月月つきのののようじようじようじなりなりなりともともとも、、、今日今日きょうののの參參まいりりりにににはははゆるさゆるさゆるされれれなむなむなんとととぞぞぞ覺覺おぼゆるゆるゆるよしよしよし多多おおししし。。。明日明日あすはははあなたあなたあなたふたがるふたがるふたがる。。。あさてあさてあさてよりよりよりははは物物もの忌忌いみなりなりなりすすすべかべかべかめれめれめればばば」」」などなどなど、、、いといといとことことことよしよしよし。。。やりやりやりつるつるつる人人ひとはははちがひちがひちがいぬぬぬらむらむらんととと思思おもふふうにににいといといとめやすしめやすしめやすし。。。夜夜よのののまままににに雨雨あめ止止やみみみにににためためためれれればばば「「「さらさらさらばばばくれくれくれににに」」」などなどなどててて歸歸かえりりりぬぬぬ。。。
- 8方方かたふたがりふたがりふたがりたれたれたればばばうべうべうべもももなくなくなく待待まつつつににに見見みえええずずずなりなりなりぬぬぬ。。。「「「夜夜よべべべははは人人ひとののの物物ものしししたりたりたりししし、、、夜夜よののの更更ふけけけにににしかしかしかばばば經經きょうなどなどなど讀讀よままませせせてててなむなむなんとまりとまりとまりにににししし。。。例例れいののの如如い何何かにににおぼしおぼしおぼしけむけむけん」」」などなどなどありありあり。。。山山やま籠籠ごもりりりののの後後のちははは、、、あまあまあまととといふいふいう名名なををを付付つけけけられられられたりたりたりけれけれければばば、、、かくかくかくものものものしししけりけりけり、、、「「「こなたこなたこなたざまざまざまならならならでででははは、、、方方かたももも」」」などなどなどけしくけしくけしくててて、、、
- 9「「「大大おおははわこのこのこの神神かみののの助助たすけやややなかりなかりなかりけむけむけんちぎりちぎりちぎりしししことことことをををおもひおもひおもいかへるかへるかえるははは」」」
- 10とととやうやうようにににててて、、、例例れいののの日日ひ過過すぎぎぎてててつごもりつごもりつごもりににになりなりなりにににたりたりたり。。。「「「忌忌いみののの所所ところににになむなむなん夜夜よ每每ごとににに」」」ととと吿吿つぐるぐるぐる人人ひとあれあれあればばば、、、心心こころ安安やすくくくてててありありあり經經ふるるるににに、、、月月つき日日ひはははさながらさながらさながらおおおにににやらひやらひやらい來來きぬるぬるぬるとととあれあれあればばば、、、あさましあさましあさましあさましあさましあさましととと思思おもひひいはつるはつるはつるもももいみじきいみじきいみじきににに、、、人人ひとはははわらはわらはわらわおとなおとなおとなととともももいはいはいわずずず、、、なななやらふやらふやらうなななやらふやらふやらうととと騷騷さわぎぎぎのゝしるのゝしるののしるををを、、、我我われのみのみのみのどかのどかのどかにににててて見見み聞聞きけけけばばば、、、今年今年ことしももも心心ここちちちよげよげよげならならならむむん所所ところののの限限かぎりせせせまほしげまほしげまほしげなるなるなるわざわざわざにににぞぞぞ見見みえええけるけるける。。。雪雪ゆきなむなむなんいみじういみじういみじゅう降降ふるるるととといふいふいうなりなりなり。。。年年としのののをはりをはりおわりにににははは何何なに事事ごとにににつけつけつけてててももも、、、思思おもひひいのこさのこさのこさゞりゞりざりけむけむけんかしかしかし。。。
現代語訳
翌日の昼ごろ、こちらに手紙が来た。「迎えにもと思ったけれど、あなたの心からのお出かけでもなかったので、具合が悪く思って(行かなかった)。いつもの所(もとの家)にか、すぐに(行く)」などとあるので、侍女たちが早く早くとせきたてて(もとの家に)移ると、すぐに姿を見せた。こうもするのは、昔のことをたとえようもなく思い出したからだろう、翌朝は、還饗(かえりあるじ)が近くなったのでなどと、もっともらしく言い繕った。朝の言い訳ばかりになったのも、今さらと思うと悲しい。
八月というのは明日になったようなので、それから四日、例の物忌みとかが明けて、二度ほど姿を見せた。還饗が終わって、たいそう深い山寺に修行をさせるといって……。三、四日になったけれど音沙汰がなくて、雨がひどく降る日に、「心細そうな山住まいには人が訪ねるものだと聞いたが。そうでない(訪ねない)のは、薄情な者だと言う人もいる」と言ってきた。返事に、「お便り申し上げるべきとは、人より先に思いつきながら、(つらい)ものとお知らせしようと思って。露けさ(涙)はなかったこともないと存じますので、よその雲のむらむらも、つまらなく」と書いてやった。また折り返し返事などがある。さて、三日ほどして、「今日こそ」と言って夕方に姿を見せた。いつもどうしてこうなのか、(私が)思いも寄らなくなってしまったので、私が平然としていると、あの人もまた罪もないような様子で、七、八日の間にやっと通ってくる。
九月の末は、たいそうしみじみとした空の様子である。まして昨日今日は風がひどく激しく、時雨が降ったりして、ひどくもの悲しく思われた。遠い山を眺めやると、紺青を塗ったとかいうようで、霰が降るらしいとも見えた。「野の様子はどんなに趣深いだろう。見物がてら参詣したいものだ」と言うと、そばにいる侍女が「本当にどんなにすばらしいでしょう。初瀬に今度は人目を忍ぶようにして、お思い立ちなさいませ」などと言うので、「去年も試してみようと思って、ひどい様子で参詣したけれど、石山の仏のお心をまず見届けてから、春ごろにでもそうしよう。そもそもそこまで(生きていられよう)か。やはりつらいまま命はあるのだろうか」などと、心細く口にしてしまう。
「袖が涙で濡れる時でさえ嘆いたのに、今は身までが時雨のように降り(古り)ゆくことだ」。
すべて世に生きていることが、かいもなく、つまらない気持ちがひどくする頃である。そのまま明け暮れて、二十日になった。夜が明けると臥しているのを常としているのは、ひどく妙だと思うけれど、どうしようもない。今朝も外を見やると、屋根の上の霜もたいそう白い。子どもたちが昨夜の姿のまま、霜を口にまじなおうと騒いでいるのもたいそうしみじみとする。「まあ、雪も恥ずかしくなるような霜だこと」と口をおおいながら、こんなふうに頼むべき人もないと(言う声が)聞こえたのは、ただならず思われた。十月も、ひどく別れを惜しむようにして過ぎた。十一月も同じことで、二十日になったが、その日に姿を見せた人が、そのまま二十日余り跡を絶って、手紙だけが二度ほど来た。こうしてばかりで胸が安まらないけれど、思い慣れてしまったので、気弱な気持ちがして、何とも思わないで(いると)、「八日ほどの物忌みが続いて、今日こそはと思う」などと、妙なほどこまやかだ。最後の月(十二月)の十六日ごろである。しばらくして急に曇って雨になった。(あの人も)来るのに困っているのだろうと思い出して物思いにふけっていると、日が暮れていく様子だ。たいそうひどく降るので、差し支えるのももっともだから、昔は(雨にも障らず来たのに)とばかり思われて、涙が浮かんで、しみじみと物思いがされるので、こらえきれずに使いを出す。
「悲しくも思い絶えてしまうことよ。昔は(雨にも)差し支えないものと慣れていましたのに」
と書いて、今ごろ(使いは)行っているだろうと思っているうちに、南面の格子も上げてあった。外に人の気配がする。人々は気づかず、私だけが妙だと思っていると、妻戸を押し開けて、ふと(あの人が)這い入ってきた。ひどい雨の盛りなので、音も聞こえなかったのだった。外で「お車を早く入れよ」などと騒ぐのも聞こえる。「たとえ月の用事(物忌み)であっても、今日の参上は許されるだろうと思われることが多くてね。明日はあちらの方角がふさがる。明後日からは物忌みになりそうなので」などと、たいそう言い分は立派だ。(私が)やった使いは行き違ったのだろうと思うと、たいそう安心だ。夜のうちに雨がやんだので、「それでは、夕暮れに(また)」などと言って帰った。
方角がふさがっていたので、案の定、待っていても来なくなった。「昨夜は人が来ていて、夜が更けてしまったので、経などを読ませて泊まってしまった。例によって、どうお思いだっただろう」などとある。山籠りの後は、「あまがえる」というあだ名をつけられていたので、こう書いてやった。「こちらの方角でなくては、方違えも」などと気色ばんで、
「大葉子の神(雨蛙)の助けがなかったのでしょうか、約束したことを思い返す(帰る)のは」
というふうにして、例の日(物忌み)が過ぎて月末になった。「忌みの所に毎夜(通っている)」と告げる人がいるので、かえって気楽に過ごしているうちに、月日はそのままに追儺(ついな)の日が来たというので、あきれた、あきれたと思い果てるのもつらいのに、人々は子どもも大人も区別なく、「鬼やらう、鬼やらう」と騒ぎ立てるのを、私だけがのんびりと見聞きしていると、今年も、気持ちよさそうな所だけがしたいらしい行事に見えた。雪がひどく降るという。年の終わりには、何事につけても、思い残すことはなかったのだろうよ。
意訳
〔初瀬から帰って〕初瀬から戻った翌日、兼家はすぐに訪れる。昔を思い出したのだろうが、翌朝には還饗の準備があるからと、もっともらしい言い訳をして帰っていく。
〔時雨の秋〕九月末、時雨の空に、作者は「身さへ時雨のふりも行く」と、年老いていく身を嘆く。侍女に初瀬詣を勧められても、「そこまで生きていられようか」と心細い。
〔雨の日の歌〕十二月十六日、ひどい雨の日、昔は雨にも障らず来た人を思って「かなしくも思ひ絶ゆるか」と歌を送る。ところが、その使いと行き違いに兼家が妻戸を押し開けて入ってきた。作者の安堵がにじむ場面である。
〔あまがへる〕山籠りの後、作者は「あまがへる(尼帰る)」とあだ名されていた。作者はそれを逆手にとって、兼家に歌を送る。年の暮れ、人々が「鬼やらう」と追儺に騒ぐのを、作者は一人静かに見聞きして、中巻を結ぶ。
語釈・文法注
- あまがへる
- 雨蛙。「尼帰る」を掛けたあだ名。作者が出家を思って山に籠もりながら、結局家に帰ってきたことをからかったもの。
文法
- 「こゝろの御ありき」
- 底本どおり。「心からのお出かけ」の意に解する。
- 「かへりあるじ」
- 還饗。賭弓や相撲の節会の後に、勝った方の大将が開く宴。
- 「など きて」
- 底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
- 「物と知らせむとてなむ露よりながらものと知せむとてなむ」
- 底本の注記に「十六字衍歟」とあり、重複と見られる。
- 「こんざう」
- 紺青。
- 「しもくちまじなはむ」
- 霜を口にまじなう、子どもの遊びか。
- 「かゝるみれ賴むべきもるとども」
- 底本どおりで意味がとりにくい。
- 「せちに別しみつゝ」
- 底本どおり。注記に「を」の異文がある。
- 「たうるゝかた」
- 底本どおり。注記に「二字いたる」などとある。来るのに困っている、の意に解する。
- 「いそのかみ」
- 「古(ふる)」にかかる枕詞。ここでは「昔」の意。
- 「しも月のようじ」
- 底本どおり。注記に「霜月」とも。
- 「大はこの神」
- 底本どおり。「おおばこ」は雨蛙が生き返るという言い伝えのある草で、あまがえるの縁語。
- 「おにやらひ」
- 鬼遣らい。追儺。大晦日の夜に鬼を追い払う行事。
和歌
袖ひづる時をだにこそなげきしか身さへ時雨のふりも行くかな
- 詠者
- 道綱母(作者)
- 状況
- 九月末、時雨の空を見て詠んだ歌。
修辞
- 掛詞
- 「ふり」に時雨が「降り」と身が「古り(年老いる)」を掛ける。
かなしくも思ひ絕ゆるかいそのかみさはらぬものとならひしものを
- 詠者
- 道綱母(作者)
- 状況
- 十二月十六日、ひどい雨の日に兼家に送った歌。
修辞
- 枕詞
- 「いそのかみ」は「古(ふる)」にかかる枕詞で、昔の意を表し、雨の「降る」をも響かせる。
大はこの神の助やなかりけむちぎりしことをおもひかへるは
- 詠者
- 道綱母(作者)
- 状況
- 方塞がりで来なかった兼家に、「あまがへる」のあだ名を逆手にとって送った歌。
修辞
- 掛詞
- 「かへる」に「蛙」と「返る」を掛け、約束を思い返して来なかった兼家を皮肉る。
解説
天禄二年(971)の秋から冬は、兼家の訪れが途絶えがちになりながらも、時折の訪問が続いた。十二月の雨の日に、作者の歌の使いと行き違いに兼家が現れる場面は、上巻・中巻を通じて繰り返されてきた「雨の夜」の主題の結びでもある。
「あまがへる」というあだ名は、作者の鳴滝籠りが周囲に知れわたっていたことを示している。作者はそれを恥じるのでなく、歌の材料にして兼家に送り返している。
中巻は、追儺の騒ぎを一人静かに見聞きする作者の姿で終わる。下巻では、養女を迎え、道綱の成長を見守りながら、兼家との縁がしだいに絶えていくさまが描かれる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、110–113頁(コマ58–59)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日