古典ライブラリー

蜻蛉日記 中巻 第37章

時雨の秋と中巻の結び

初瀬から帰ると兼家はすぐに訪れるが、その後はまた途絶えがちになる。九月の時雨の空に「身さへ時雨のふりも行く」と詠み、十二月の雨の日には、昔は雨にも障らず来た人を思って歌を送る。その使いと行き違いに兼家が訪れ、作者はほっとする。山籠りの後「あまがへる」とあだ名された作者は、追儺の騒ぎを静かに見聞きして年を送る。

  1. 1又また又またまたののの日ひ日ひひもももひるひるひるつつつ方かた方かたかた、、、こゝこゝここなるなるなるににに文ふみ文ふみふみありありあり。。。「「「御おほん御おほんおおん迎むかへ迎むかへむかえにににもももととと思おも思おもおもひひいしかしかしかどもどもども、、、こゝろこゝろこころののの御おほん御おほんおおんありきありきありきにににもももあらあらあらざりざりざりけれけれければばば、、、びんびんびんなくなくなく覺おぼ覺おぼおぼえええてててなむなむなん。。。例れい例れいれいののの所ところ所ところところにににかかか、、、唯ただ唯ただただ今いま今いまいま物もの物ものものににに」」」などなどなどあれあれあればばば、、、人ひと人ひとひと々びと々びとびとはやばやはやばやはやばやとととそゝのかしそゝのかしそそのかしててて渡わた渡わたわたりりりたれたれたればばば即すなは即すなはすなわちちち見み見みみえええたりたりたり。。。かうかうこうしもしもしもあるあるあるははは昔むかし昔むかしむかしのののことことことをををたとしへたとしへたとしえなくなくなく思おも思おもおもひひい出い出いいづづずらむらむらんとてとてとてなるなるなるべしべしべし、、、つとめてつとめてつとめてはははかへりかへりかえりあるじあるじあるじののの近ちか近ちかちかくくくなりなりなりたれたれたればばばなどなどなどつきづきしうつきづきしうつきづきしゅういひいひいいなしなしなしつつつ。。。あしたあしたあしたのののかごとかごとかごとがちがちがちににになりなりなりにににたるたるたるももも、、、今いま今いまいま更さら更さらさらにににととと思おも思おもおもへへえばばば悲かな悲かなかなしうしうしゅうなむなむなん。。。
  2. 2八月はちぐわつ八月はちぐわつはちがつととといふいふいうははは明日あす明日あすあすににになりなりなりにににためためためれれればばば、、、それそれそれよりよりより四日よか四日よかよか例れい例れいれいののの物もの物ものもの忌いみ忌いみいみとととかかかあきあきあきててて二ふた二ふたふた度たび度たびたびばかりばかりばかり見み見みみえええたりたりたり。。。かへりかへりかえりあるじあるじあるじははははてはてはてゝゝて、、、いといといと深ふか深ふかふかききき山やま山やまやま寺でら寺でらでらににに修す修すす行ぎやう行ぎやうぎょうせせせさすさすさすとてとてとてなどなどなどきてきてきて。。。三四日みかよか三四日みかよかみかよかににになりなりなりぬれぬれぬれどどど音おと音おとおとなくなくなくててて雨あめ雨あめあめいといといといたくいたくいたく降ふ降ふふるるる日ひ日ひひ、、、「「「心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそげげげなるなるなる山やま山やまやま住ずみ住ずみずみははは人ひと人ひとひととふとふとうものものものとととこそこそこそ聞き聞きききききしかしかしか。。。さらさらさらぬぬぬははは、、、つらきつらきつらき物もの物ものものととといふいふいう人ひと人ひとひともももありありあり」」」とととあるあるある。。。返かへ返かへかえりりりごとごとごとににに「「「聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべきものものものとととははは、、、人ひと人ひとひとよりよりより先さき先さきさきににに思おも思おもおもひひいよりよりよりながらながらながら、、、物もの物ものものととと知し知ししらららせせせむむんとてとてとてなむなむなん露つゆ露つゆつゆよりよりよりながらながらながらものものものととと知し知ししせせせむむんとてとてとてなむなむなん。。。露つゆ露つゆつゆけさけさけさはははなかりなかりなかりしししもももあらあらあらじじじととと思おも思おもおもううう給たま給たまたまふれふれうればばば、、、よそよそよそののの雲くも雲くもくもむらむらむらもももあいなくあいなくあいなくなむなむなん」」」とととものものものしししけりけりけり。。。又また又またまたももも立た立たたちちちかへりかへりかえりなどなどなどありありあり。。。さてさてさて三日みつか三日みつかみつかばかりばかりばかりののの程ほど程ほどほどににに、、、「「「今日けふ今日けふきょうなむなむなん」」」とてとてとてようようようさりさりさり見み見みみえええなりなりなり。。。常つね常つねつねにににしもしもしもいかなるいかなるいかなる心こころ心こころこころののの、、、えええ思おも思おもおもひひいあへあへあえずずずなりなりなりにににたれたれたればばば、、、我われ我われわれらららつれなけれつれなけれつれなければばば人ひと人ひとひとはははたたた罪つみ罪つみつみもももなきなきなきやうやうようにににててて七八日なぬかやうか七八日なぬかやうかなのかようかののの程ほど程ほどほどにににぞぞぞ僅わづか僅わづかわずかににに通かよ通かよかよひひいたるたるたる。。。
  3. 3長なが長ながなが月つき月つきつきのののつごもりつごもりつごもりいといといと哀あはれ哀あはれあわれなるなるなる空そら空そらそらのののけしきけしきけしきなりなりなり。。。ましてましてまして昨日きのふ昨日きのふきのう今日けふ今日けふきょう風かぜ風かぜかぜいといといと烈はげ烈はげはげしくしくしく、、、時雨しぐれ時雨しぐれしぐれうちうちうちしししつゝつゝつつ、、、いみじくいみじくいみじく物もの物ものもの哀あはれ哀あはれあわれににに覺おぼ覺おぼおぼえええたりたりたり。。。遠とほ遠とほとお山やま山やまやまををを眺なが眺ながながめめめやれやれやればばば、、、こんざうこんざうこんぞうををを塗ぬ塗ぬぬりりりたるたるたるとととやややいふいふいうやうやうようにににててて、、、霰あられ霰あられあられ降ふ降ふふるるるらしらしらしとととももも見み見みみえええたりたりたり。。。「「「野の野のののののさまさまさまいかにいかにいかにをかしからをかしからおかしからむむん。。。見み見みみがてらがてらがてら物もの物ものものににに詣まう詣まうもうでででばばばややや」」」ととといへいへいえばばば、、、前まへ前まへまえなるなるなる人ひと人ひとひと「「「げにげにげにいかにいかにいかにめでたからめでたからめでたからむむん。。。初はつ初はつはつ瀨せ瀨せせにににこのこのこの度たび度たびたびははは忍しの忍しのしのびびびたるたるたるやうやうようにににててて、、、おぼしおぼしおぼし立た立たたてててよよよかしかしかし」」」などなどなどいへいへいえばばば、、、「「「こぞこぞこぞももも試こころ試こころこころみみみむむんとてとてとていみじげいみじげいみじげにににててて詣まう詣まうもうでででたりたりたりしししににに、、、石いし石いしいし山やま山やまやまののの御み御みみ心こころ心こころこころをををまづまづまず見み見みみ果は果ははてゝてゝてて、、、春はる春はるはるつつつ方かた方かたかたさもさもさも物もの物ものものせせせむむん。。。そもそもそもそもそもそもさささまでまでまでやややははは。。。猶なほ猶なほなおうくうくうくててて命いのち命いのちいのちあらあらあらむむん」」」などなどなど、、、心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそうううててていはいはいわるるる。。。
  4. 4「「「袖そで袖そでそでひづるひづるひずる時とき時ときときをををだにだにだにこそこそこそなげきなげきなげきしかしかしか身み身みみさへさへさへ時雨しぐれ時雨しぐれしぐれのののふりふりふりももも行ゆ行ゆゆくくくかなかなかな」」」。。。
  5. 5すべてすべてすべて世よ世よよにににふるふるふる事こと事ことこと、、、かひかひかいなくなくなくあぢきなきあぢきなきあじきなき心ここ心ここここちちちいといといとするするする頃ころ頃ころころなりなりなり。。。さながらさながらさながら明あ明ああけけけ暮く暮くくれれれててて、、、廿はつか廿はつかはつかににになりなりなりにににたりたりたり。。。明あ明ああくれくれくればばば臥ふ臥ふふすすすををを事こと事ことことにににてててあるあるあるぞぞぞいといといと怪あや怪あやあやしくしくしく覺おぼ覺おぼおぼゆれゆれゆれどどどいかゞいかゞいかがせせせむむん。。。けさけさけさももも見み見みみ出いだ出いだいだしししたれたれたればばば、、、屋や屋ややののの上うへ上うへうえののの霜しも霜しもしももももいといといと白しろ白しろしろししし。。。わらはべわらはべわらわべよべよべよべののの姿すがた姿すがたすがたながらながらながらしもしもしもくちくちくちまじなはまじなはまじなわむむんとてとてとて騷さわ騷さわさわぐぐぐもももいといといと哀あはれ哀あはれあわれなりなりなり。。。「「「あなあなあな、、、さささももも雪ゆき雪ゆきゆきはづかしきはづかしきはずかしき霜しも霜しもしもかなかなかな」」」ととと口くち口くちくちおほしおほしおおしつゝつゝつつかゝるかゝるかかるみれみれみれ賴たの賴たのたのむむむべきべきべきもるもるもるとととどどどものものものうちうちうち聞きこ聞きこきこえええけるけるける、、、たゞたゞただならならならずずずなむなむなんおぼえおぼえおぼえけるけるける。。。神かみ神かみかみ無な無なな月づき月づきづきももも、、、せちせちせちににに別わか別わかわかしししみみみつゝつゝつつ過す過すすぎぎぎぬぬぬ。。。霜しも霜しもしも月つき月つきつきももも同おな同おなおなじじじ事こと事ことことにににててて、、、二十日はつか二十日はつかはつかににになりなりなりにににけれけれければばば、、、今日けふ今日けふきょう見み見みみえええたりたりたりししし人ひと人ひとひと、、、そのそのそのまゝまゝままににに、、、廿はつか廿はつかはつかよよよ日か日かか跡あと跡あとあとををを斷た斷たたちちちててて、、、文ふみ文ふみふみのみのみのみぞぞぞ二ふた二ふたふた度たび度たびたびばかりばかりばかり見み見みみえええけるけるける。。。かうかうこうのみのみのみ胸むね胸むねむね安やす安やすやすからからからねねねどどど思おも思おもおもひひいつきつきつきにににたれたれたればばば心こころ心こころこころ弱よわ弱よわよわききき心ここ心ここここちちちしししててて、、、ともともともかくかくかくもももおぼえおぼえおぼえででで、、、八日やうか八日やうかようかばかりばかりばかりののの物もの物ものもの忌いみ忌いみいみしきりしきりしきりつゝつゝつつなむなむなん、、、唯ただ唯ただただ今日けふ今日けふきょうだにだにだにこそこそこそ思おも思おもおもふふうなどなどなどあやしきあやしきあやしきまでまでまでこまかこまかこまかなるなるなる。。。はてはてはてののの月つき月つきつきののの十日とをか十日とをかとおか六日むゆか六日むゆかむいかばかりばかりばかりなりなりなり、、、しばししばししばしありありありててて俄にはか俄にはかにはかにににかいかいかい曇くも曇くもくもりりりててて雨あめ雨あめあめににになりなりなりぬぬぬ。。。たうるゝたうるゝとうるるかたかたかたならならならむむんかしかしかしととと思おも思おもおもひひい出い出いいでゝでゝでてながむるながむるながむるににに、、、暮く暮くくれれれ行ゆ行ゆゆくくく氣け氣けけ色しき色しきしきなりなりなり。。。いといといといたくいたくいたく降ふ降ふふれれればばばさはらさはらさわらむむんにににもももことわりことわりことわりなれなれなればばば、、、昔むかし昔むかしむかしはははとととばかりばかりばかり覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるににに、、、淚なみだ淚なみだなみだののの浮うか浮うかうかびびびててて哀あはれ哀あはれあわれににに物もの物ものもののののおぼゆれおぼゆれおぼゆればばば念ねん念ねんねんじじじ難がた難がたがたくくくててて人ひと人ひとひと出いだ出いだいだししし立た立たたつつつ。。。
  6. 6「「「かなしくかなしくかなしくももも思おも思おもおもひひい絕た絕たたゆるゆるゆるかかかいそいそいそのののかみかみかみさはらさはらさわらぬぬぬものものものとととならひならひならいしししものものものををを」」」
  7. 7ととと書か書かかきききててて、、、今いま今いまいまぞぞぞいくいくいくらむらむらんととと思おも思おもおもふふうほどほどほどににに、、、南みなみ南みなみみなみおもておもておもてののの格かう格かうこう子し子ししもももあげあげあげぬぬぬ。。。とととににに人ひと人ひとひとのののけけけおぼゆおぼゆおぼゆ。。。人ひと人ひとひとはははえええ知し知ししらららずずず、、、我われ我われわれのみのみのみぞぞぞあやしあやしあやしととと覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるににに、、、妻つま妻つまつま戶ど戶どど押お押おおししし明あ明ああけけけてててふとふとふと這は這ははひひい入い入いいりりりたりたりたり。。。いみじきいみじきいみじき雨あめ雨あめあめのののさかりさかりさかりなれなれなればばば音おと音おとおともももえええ聞きこ聞きこきこえええぬぬぬなりなりなりけりけりけり。。。とととににに「「「御み御みみ車くるま車くるまくるまとくとくとくさしさしさし入い入いいれれれよよよ」」」などなどなどのゝしるのゝしるののしるももも聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。「「「などなどなどしもしもしも月つき月つきつきのののようじようじようじなりなりなりともともとも、、、今日けふ今日けふきょうののの參まゐ參まゐまいりりりにににはははゆるさゆるさゆるされれれなむなむなんとととぞぞぞ覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるよしよしよし多おほ多おほおおししし。。。明日あす明日あすあすはははあなたあなたあなたふたがるふたがるふたがる。。。あさてあさてあさてよりよりよりははは物もの物ものもの忌いみ忌いみいみなりなりなりすすすべかべかべかめれめれめればばば」」」などなどなど、、、いといといとことことことよしよしよし。。。やりやりやりつるつるつる人ひと人ひとひとはははちがひちがひちがいぬぬぬらむらむらんととと思おも思おもおもふふうにににいといといとめやすしめやすしめやすし。。。夜よ夜よよのののまままににに雨あめ雨あめあめ止や止ややみみみにににためためためれれればばば「「「さらさらさらばばばくれくれくれににに」」」などなどなどててて歸かへ歸かへかえりりりぬぬぬ。。。
  8. 8方かた方かたかたふたがりふたがりふたがりたれたれたればばばうべうべうべもももなくなくなく待ま待ままつつつににに見み見みみえええずずずなりなりなりぬぬぬ。。。「「「夜よ夜よよべべべははは人ひと人ひとひとののの物もの物ものものしししたりたりたりししし、、、夜よ夜よよののの更ふ更ふふけけけにににしかしかしかばばば經きやう經きやうきょうなどなどなど讀よ讀よよままませせせてててなむなむなんとまりとまりとまりにににししし。。。例れい例れいれいののの如い如いい何か何かかにににおぼしおぼしおぼしけむけむけん」」」などなどなどありありあり。。。山やま山やまやま籠ごも籠ごもごもりりりののの後のち後のちのちははは、、、あまあまあまととといふいふいう名な名ななををを付つ付つつけけけられられられたりたりたりけれけれければばば、、、かくかくかくものものものしししけりけりけり、、、「「「こなたこなたこなたざまざまざまならならならでででははは、、、方かた方かたかたももも」」」などなどなどけしくけしくけしくててて、、、
  9. 9「「「大おほ大おほおおははわこのこのこの神かみ神かみかみののの助たすけ助たすけたすけやややなかりなかりなかりけむけむけんちぎりちぎりちぎりしししことことことをををおもひおもひおもいかへるかへるかえるははは」」」
  10. 10とととやうやうようにににててて、、、例れい例れいれいののの日ひ日ひひ過す過すすぎぎぎてててつごもりつごもりつごもりににになりなりなりにににたりたりたり。。。「「「忌いみ忌いみいみののの所ところ所ところところににになむなむなん夜よ夜よよ每ごと每ごとごとににに」」」ととと吿つ吿つつぐるぐるぐる人ひと人ひとひとあれあれあればばば、、、心こころ心こころこころ安やす安やすやすくくくてててありありあり經ふ經ふふるるるににに、、、月つき月つきつき日ひ日ひひはははさながらさながらさながらおおおにににやらひやらひやらい來き來ききぬるぬるぬるとととあれあれあればばば、、、あさましあさましあさましあさましあさましあさましととと思おも思おもおもひひいはつるはつるはつるもももいみじきいみじきいみじきににに、、、人ひと人ひとひとはははわらはわらはわらわおとなおとなおとなととともももいはいはいわずずず、、、なななやらふやらふやらうなななやらふやらふやらうととと騷さわ騷さわさわぎぎぎのゝしるのゝしるののしるををを、、、我われ我われわれのみのみのみのどかのどかのどかにににててて見み見みみ聞き聞ききけけけばばば、、、今年ことし今年ことしことしももも心ここ心ここここちちちよげよげよげならならならむむん所ところ所ところところののの限かぎり限かぎりかぎりせせせまほしげまほしげまほしげなるなるなるわざわざわざにににぞぞぞ見み見みみえええけるけるける。。。雪ゆき雪ゆきゆきなむなむなんいみじういみじういみじゅう降ふ降ふふるるるととといふいふいうなりなりなり。。。年とし年としとしのののをはりをはりおわりにににははは何なに何なになに事ごと事ごとごとにににつけつけつけてててももも、、、思おも思おもおもひひいのこさのこさのこさゞりゞりざりけむけむけんかしかしかし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

翌日の昼ごろ、こちらに手紙が来た。「迎えにもと思ったけれど、あなたの心からのお出かけでもなかったので、具合が悪く思って(行かなかった)。いつもの所(もとの家)にか、すぐに(行く)」などとあるので、侍女たちが早く早くとせきたてて(もとの家に)移ると、すぐに姿を見せた。こうもするのは、昔のことをたとえようもなく思い出したからだろう、翌朝は、還饗(かえりあるじ)が近くなったのでなどと、もっともらしく言い繕った。朝の言い訳ばかりになったのも、今さらと思うと悲しい。

八月というのは明日になったようなので、それから四日、例の物忌みとかが明けて、二度ほど姿を見せた。還饗が終わって、たいそう深い山寺に修行をさせるといって……。三、四日になったけれど音沙汰がなくて、雨がひどく降る日に、「心細そうな山住まいには人が訪ねるものだと聞いたが。そうでない(訪ねない)のは、薄情な者だと言う人もいる」と言ってきた。返事に、「お便り申し上げるべきとは、人より先に思いつきながら、(つらい)ものとお知らせしようと思って。露けさ(涙)はなかったこともないと存じますので、よその雲のむらむらも、つまらなく」と書いてやった。また折り返し返事などがある。さて、三日ほどして、「今日こそ」と言って夕方に姿を見せた。いつもどうしてこうなのか、(私が)思いも寄らなくなってしまったので、私が平然としていると、あの人もまた罪もないような様子で、七、八日の間にやっと通ってくる。

九月の末は、たいそうしみじみとした空の様子である。まして昨日今日は風がひどく激しく、時雨が降ったりして、ひどくもの悲しく思われた。遠い山を眺めやると、紺青を塗ったとかいうようで、霰が降るらしいとも見えた。「野の様子はどんなに趣深いだろう。見物がてら参詣したいものだ」と言うと、そばにいる侍女が「本当にどんなにすばらしいでしょう。初瀬に今度は人目を忍ぶようにして、お思い立ちなさいませ」などと言うので、「去年も試してみようと思って、ひどい様子で参詣したけれど、石山の仏のお心をまず見届けてから、春ごろにでもそうしよう。そもそもそこまで(生きていられよう)か。やはりつらいまま命はあるのだろうか」などと、心細く口にしてしまう。

「袖が涙で濡れる時でさえ嘆いたのに、今は身までが時雨のように降り(古り)ゆくことだ」。

すべて世に生きていることが、かいもなく、つまらない気持ちがひどくする頃である。そのまま明け暮れて、二十日になった。夜が明けると臥しているのを常としているのは、ひどく妙だと思うけれど、どうしようもない。今朝も外を見やると、屋根の上の霜もたいそう白い。子どもたちが昨夜の姿のまま、霜を口にまじなおうと騒いでいるのもたいそうしみじみとする。「まあ、雪も恥ずかしくなるような霜だこと」と口をおおいながら、こんなふうに頼むべき人もないと(言う声が)聞こえたのは、ただならず思われた。十月も、ひどく別れを惜しむようにして過ぎた。十一月も同じことで、二十日になったが、その日に姿を見せた人が、そのまま二十日余り跡を絶って、手紙だけが二度ほど来た。こうしてばかりで胸が安まらないけれど、思い慣れてしまったので、気弱な気持ちがして、何とも思わないで(いると)、「八日ほどの物忌みが続いて、今日こそはと思う」などと、妙なほどこまやかだ。最後の月(十二月)の十六日ごろである。しばらくして急に曇って雨になった。(あの人も)来るのに困っているのだろうと思い出して物思いにふけっていると、日が暮れていく様子だ。たいそうひどく降るので、差し支えるのももっともだから、昔は(雨にも障らず来たのに)とばかり思われて、涙が浮かんで、しみじみと物思いがされるので、こらえきれずに使いを出す。

「悲しくも思い絶えてしまうことよ。昔は(雨にも)差し支えないものと慣れていましたのに」

と書いて、今ごろ(使いは)行っているだろうと思っているうちに、南面の格子も上げてあった。外に人の気配がする。人々は気づかず、私だけが妙だと思っていると、妻戸を押し開けて、ふと(あの人が)這い入ってきた。ひどい雨の盛りなので、音も聞こえなかったのだった。外で「お車を早く入れよ」などと騒ぐのも聞こえる。「たとえ月の用事(物忌み)であっても、今日の参上は許されるだろうと思われることが多くてね。明日はあちらの方角がふさがる。明後日からは物忌みになりそうなので」などと、たいそう言い分は立派だ。(私が)やった使いは行き違ったのだろうと思うと、たいそう安心だ。夜のうちに雨がやんだので、「それでは、夕暮れに(また)」などと言って帰った。

方角がふさがっていたので、案の定、待っていても来なくなった。「昨夜は人が来ていて、夜が更けてしまったので、経などを読ませて泊まってしまった。例によって、どうお思いだっただろう」などとある。山籠りの後は、「あまがえる」というあだ名をつけられていたので、こう書いてやった。「こちらの方角でなくては、方違えも」などと気色ばんで、

「大葉子の神(雨蛙)の助けがなかったのでしょうか、約束したことを思い返す(帰る)のは」

というふうにして、例の日(物忌み)が過ぎて月末になった。「忌みの所に毎夜(通っている)」と告げる人がいるので、かえって気楽に過ごしているうちに、月日はそのままに追儺(ついな)の日が来たというので、あきれた、あきれたと思い果てるのもつらいのに、人々は子どもも大人も区別なく、「鬼やらう、鬼やらう」と騒ぎ立てるのを、私だけがのんびりと見聞きしていると、今年も、気持ちよさそうな所だけがしたいらしい行事に見えた。雪がひどく降るという。年の終わりには、何事につけても、思い残すことはなかったのだろうよ。

意訳

〔初瀬から帰って〕初瀬から戻った翌日、兼家はすぐに訪れる。昔を思い出したのだろうが、翌朝には還饗の準備があるからと、もっともらしい言い訳をして帰っていく。

〔時雨の秋〕九月末、時雨の空に、作者は「身さへ時雨のふりも行く」と、年老いていく身を嘆く。侍女に初瀬詣を勧められても、「そこまで生きていられようか」と心細い。

〔雨の日の歌〕十二月十六日、ひどい雨の日、昔は雨にも障らず来た人を思って「かなしくも思ひ絶ゆるか」と歌を送る。ところが、その使いと行き違いに兼家が妻戸を押し開けて入ってきた。作者の安堵がにじむ場面である。

〔あまがへる〕山籠りの後、作者は「あまがへる(尼帰る)」とあだ名されていた。作者はそれを逆手にとって、兼家に歌を送る。年の暮れ、人々が「鬼やらう」と追儺に騒ぐのを、作者は一人静かに見聞きして、中巻を結ぶ。

語釈・文法注

あまがへる
雨蛙。「尼帰る」を掛けたあだ名。作者が出家を思って山に籠もりながら、結局家に帰ってきたことをからかったもの。

文法

「こゝろの御ありき」
底本どおり。「心からのお出かけ」の意に解する。
「かへりあるじ」
還饗。賭弓や相撲の節会の後に、勝った方の大将が開く宴。
「など きて」
底本どおり。注記に異文があり、意味がとりにくい。
「物と知らせむとてなむ露よりながらものと知せむとてなむ」
底本の注記に「十六字衍歟」とあり、重複と見られる。
「こんざう」
紺青。
「しもくちまじなはむ」
霜を口にまじなう、子どもの遊びか。
「かゝるみれ賴むべきもるとども」
底本どおりで意味がとりにくい。
「せちに別しみつゝ」
底本どおり。注記に「を」の異文がある。
「たうるゝかた」
底本どおり。注記に「二字いたる」などとある。来るのに困っている、の意に解する。
「いそのかみ」
「古(ふる)」にかかる枕詞。ここでは「昔」の意。
「しも月のようじ」
底本どおり。注記に「霜月」とも。
「大はこの神」
底本どおり。「おおばこ」は雨蛙が生き返るという言い伝えのある草で、あまがえるの縁語。
「おにやらひ」
鬼遣らい。追儺。大晦日の夜に鬼を追い払う行事。

和歌

袖ひづる時をだにこそなげきしか身さへ時雨のふりも行くかな

詠者
道綱母(作者)
状況
九月末、時雨の空を見て詠んだ歌。

修辞

掛詞
「ふり」に時雨が「降り」と身が「古り(年老いる)」を掛ける。

かなしくも思ひ絕ゆるかいそのかみさはらぬものとならひしものを

詠者
道綱母(作者)
状況
十二月十六日、ひどい雨の日に兼家に送った歌。

修辞

枕詞
「いそのかみ」は「古(ふる)」にかかる枕詞で、昔の意を表し、雨の「降る」をも響かせる。

大はこの神の助やなかりけむちぎりしことをおもひかへるは

詠者
道綱母(作者)
状況
方塞がりで来なかった兼家に、「あまがへる」のあだ名を逆手にとって送った歌。

修辞

掛詞
「かへる」に「蛙」と「返る」を掛け、約束を思い返して来なかった兼家を皮肉る。

解説

天禄二年(971)の秋から冬は、兼家の訪れが途絶えがちになりながらも、時折の訪問が続いた。十二月の雨の日に、作者の歌の使いと行き違いに兼家が現れる場面は、上巻・中巻を通じて繰り返されてきた「雨の夜」の主題の結びでもある。

「あまがへる」というあだ名は、作者の鳴滝籠りが周囲に知れわたっていたことを示している。作者はそれを恥じるのでなく、歌の材料にして兼家に送り返している。

中巻は、追儺の騒ぎを一人静かに見聞きする作者の姿で終わる。下巻では、養女を迎え、道綱の成長を見守りながら、兼家との縁がしだいに絶えていくさまが描かれる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、110–113頁(コマ58–59)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日