古典ライブラリー

蜻蛉日記 中巻 第36章

二度目の初瀬詣

天禄二年(971)八月、作者は多くの供を連れて二度目の初瀬詣に出る。宇治の院では、亡くなった按察使大納言の面影をしのび、鵜船の篝火を夜更けまで眺める。春日社を経て雨風の中を初瀬に着き、帰りは宇治川を舟で下り、鵜飼を間近に見て夜を明かす。

  1. 1さてさてさて七八日なぬかやうか七八日なぬかやうかなのかようかばかりばかりばかりありありありててて、、、初はつ初はつはつ瀨せ瀨せせへへへ出い出いいででで立た立たたつつつ。。。巳み巳みみののの時とき時ときときばかりばかりばかり家いへ家いへいえををを出い出いいづづず。。。人ひと人ひとひといといといと多おほ多おほおおくくく、、、きらきらしうきらきらしうきらきらしゅうててて物もの物ものものすすすめりめりめり。。。未ひつじ未ひつじひつじののの時とき時ときときばかりばかりばかりににに、、、このこのこのあぜちあぜちあぜちののの大だい大だいだい納な納なな言ごん言ごんごんののの領りやう領りやうりょうししし給たま給たまたまひひいししし、、、宇う宇うう治ぢ治ぢじののの院ゐん院ゐんいんににに至いた至いたいたりりりたりたりたり。。。人ひと人ひとひとはははかくかくかくてててのゝしれのゝしれののしれどどど、、、我わ我わわががが心こころ心こころこころははははつかはつかはつかにににててて、、、めぐらせめぐらせめぐらせばばば、、、あはれあはれあわれににに心こころ心こころこころににに入い入いいれれれてててつくろひつくろひつくろい給たま給たまたまふふうととと聞き聞きききききししし所ところ所ところところににによしよしよし。。。このこのこの月つき月つきつきにににこそこそこそははは、、、御おほん御おほんおおんはてはてはてはははしししつつつらめらめらめ、、、程ほど程ほどほどなくなくなく荒あ荒ああれれれにににたるたるたるかなかなかなととと思おも思おもおもふふう。。。こゝろこゝろこころののの預あづか預あづかあずかりりりしししけるけるけるものものものゝゝの、、、まうけまうけもうけをををしししたれたれたればばば、、、建た建たたてててたるたるたるものものものゝゝのこのこのこのなめりなめりなめりととと見み見みみるるる物もの物ものもの、、、とばりとばりとばり、、、すだれすだれすだれ、、、網あ網ああ代じろ代じろじろ屛びやう屛びやうびょう風ぶ風ぶぶ、、、黑くろ黑くろくろがいがいがいののの骨ほね骨ほねほねににに朽くち朽くちくち葉ば葉ばばのののかたびらかたびらかたびらかけかけかけたるたるたる几き几きき帳ちやう帳ちやうちょうどもどもどもゝゝも、、、いといといとつきづきしきつきづきしきつきづきしきもももあはれあはれあわれとととのみのみのみ見み見みみゆるゆるゆる。。。こうじこうじこうじにににたるたるたるこここ風かぜ風かぜかぜははは拂はら拂はらはらふふうやうやうようににに吹ふ吹ふふきききててて、、、頭かしら頭かしらかしらさへさへさへ痛いた痛いたいたきききまでまでまであれあれあればばば、、、かざかざかざかくれかくれかくれ作つく作つくつくりりりててて見み見みみ出いだ出いだいだしししたるたるたる。。。やゝやゝやや木こ木ここくらくくらくくらくなりなりなりぬれぬれぬればばば、、、鵜う鵜うう船ぶね船ぶねぶねどもどもども篝かがり篝かがりかがり火び火びびさしさしさし燈とも燈ともともしししつゝつゝつつ一ひと一ひとひと人り人りりはははさしさしさしいきいきいきたりたりたり。。。をかしくをかしくおかしく見み見みみゆるゆるゆる事こと事ことこと限かぎり限かぎりかぎりなしなしなし。。。頭かしら頭かしらかしらののの痛いた痛いたいたさささののの紛まぎ紛まぎまぎれれれぬれぬれぬればばばはしはしはしのののすすす卷ま卷ままきききあげあげあげててて、、、見み見みみ出いだ出いだいだしししててて、、、あはれあはれあわれ我わ我わわががが心こころ心こころこころとととまうでまうでもうでししし旅たび旅たびたび、、、かへさかへさかえさにににあがたあがたあがたののの院ゐん院ゐんいんにににぞぞぞゆきゆきゆきかへしかへしかえしせせせしししこゝこゝここににになりなりなりけりけりけり。。。見み見みみしししあぜちあぜちあぜち殿どの殿どのどののののおはしおはしおわしててて物もの物ものものなどなどなど仰おほ仰おほおおせせせ給たま給たまたまふふうめりめりめりしししははは哀あはれ哀あはれあわれにににもももありありありけるけるけるかなかなかな、、、いかなるいかなるいかなる世よ世よよににに、、、さささだにだにだにありありありけむけむけんととと思おも思おもおもひひい續つづ續つづつづくれくれくればばば、、、目め目めめもももあはあはあわででで夜よ夜よよ中なか中なかなか過す過すすぐるぐるぐるまでまでまでながむるながむるながむる。。。鵜う鵜うう船ぶね船ぶねぶねどもどもどもゝゝも、、、のぼりのぼりのぼりくだりくだりくだり行ゆ行ゆゆきききちがふちがふちがうををを見み見みみつゝつゝつつははは、、、「「「かへしかへしかへしたとたとたとこがるゝこがるゝこがるることことことをををたづぬれたづぬれたずぬればばば胸むね胸むねむねのののほかほかほかにににははは鵜う鵜うう船ぶね船ぶねぶねなりなりなりけりけりけり」」」
  2. 2などなどなど覺おぼ覺おぼおぼえええててて、、、猶なほ猶なほなお見み見みみれれればばば、、、曉あかつき曉あかつきあかつきがたがたがたにににははは、、、ひきひきひきかへかへかえててて、、、いさりいさりいさりととといふいふいうものものものをををぞぞぞするするする。。。又また又またまたなくなくなくをかしくをかしくおかしくあはれあはれあわれなりなりなり。。。明あ明ああけけけぬれぬれぬればばば、、、急いそ急いそいそぎぎぎ立た立たたちちちててて行ゆ行ゆゆくくくににに、、、立たつ立たつたつ野の野ののののの池いけ池いけいけ、、、泉いづみ泉いづみいずみ川がは川がはがわ、、、はじめはじめはじめ見み見みみしししにににははは違たが違たがたがははわででであるあるあるををを見み見みみるるるももも哀あはれ哀あはれあわれにににのみのみのみ覺おぼ覺おぼおぼえええたりたりたり。。。よろづよろづよろずにににおぼゆるおぼゆるおぼゆる事こと事ことこといといといと多おほ多おほおおかれかれかれどどど、、、物もの物ものもの騷さわ騷さわさわがしくがしくがしくにぎはしきにぎはしきにぎわしきににに紛まぎ紛まぎまぎれれれつゝつゝつつありありあり。。。ようようようだてだてだてののの森もり森もりもりににに車くるま車くるまくるまとゞめとゞめとどめててて、、、破わり破わりわり子ご子ごごなどなどなどものものものすすす。。。皆みな皆みなみな人ひと人ひとひとののの口くち口くちくちうまげうまげうまげなりなりなり。。。春かす春かすかす日が日ががへへへとてとてとて過す過すすぐぐぐ。。。院ゐん院ゐんいんのののいといといとむつかしげむつかしげむつかしげなるなるなるににに、、、とゞまりとゞまりとどまりぬるぬるぬる。。。あれあれあれよりよりより立た立たたつつつほどほどほどににに、、、雨あめ雨あめあめ風かぜ風かぜかぜいみじくいみじくいみじく降ふ降ふふりりりふゞくふゞくふぶく。。。三み三みみ笠かさ笠かさかさ山やま山やまやまをををさしさしさしててて行ゆ行ゆゆくくくかひかひかいもももなくなくなく濡ぬ濡ぬぬれれれ惑まど惑まどまどふふう人ひと人ひとひと多おほ多おほおおかりかりかり。。。からうじてからうじてかろうじて詣まう詣まうもうでででつきつきつきてててみてぐらみてぐらみてぐら奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて初はつ初はつはつ瀨せ瀨せせざまざまざまににに趣おもむ趣おもむおもむくくく。。。飛あす飛あすあす鳥か鳥かかにににみみみあかしあかしあかし奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりけれけれければばば、、、唯ただ唯ただただくぎくぎくぎぬきぬきぬきにににくるくるくるををを引ひ引ひひききき懸か懸かかけけけててて見み見みみれれればばば木こ木ここ立だち立だちだちいといといとをかしきをかしきおかしき所ところ所ところところなりなりなりけりけりけり。。。庭には庭にはには淸きよ淸きよきよげげげにににゐゐいもももいといといと飮の飮ののまままゝゝまほしけれほしけれほしければばば、、、うべうべうべやどりやどりやどりはははすすすべしべしべしととといふいふいうらむらむらんととと見み見みみえええたりたりたり。。。いみじきいみじきいみじきあめあめあめいやいやいやまさりまさりまさりなれなれなればばばいふいふいうかひかひかいもももなしなしなし。。。からうじてからうじてかろうじてははははいうはいうはいうにににいたりいたりいたりてててれいれいれいのののことことこととかくとかくとかくしししててて出い出いいででで立た立たたつつつほどほどほどににに日ひ日ひひももも暮く暮くくれれれはてはてはてぬぬぬ。。。雨あめ雨あめあめややや風かぜ風かぜかぜ猶なほ猶なほなおやまやまやまずずず。。。火ひ火ひひともしともしともしたれたれたれどどど、、、吹ふ吹ふふきききけちけちけちててていみじくいみじくいみじく暗くら暗くらくらけれけれければばば、、、夢ゆめ夢ゆめゆめののの道みち道みちみちののの心ここ心ここここちちちしししててていといといとゆゝしくゆゝしくゆゆしく、、、いかなるいかなるいかなるにににかかかとととまでまでまで思おも思おもおもひひい惑まど惑まどまどふふう。。。からうじてからうじてかろうじて祓はら祓はらはらへへえ殿どの殿どのどのににに至いた至いたいたりりり給たま給たまたまひひいけれけれければばば、、、雨あめ雨あめあめももも知し知ししらららずずず。。。唯ただ唯ただただ水みづ水みづみずののの聲こゑ聲こゑこえのののいといといとはげしきはげしきはげしきををを、、、うきぬうきぬうきぬなりなりなりととと聞き聞ききくくく。。。御み御みみ堂だう堂だうどうにににものものものするするする程ほど程ほどほどににに、、、こゝちこゝちここちわりなしわりなしわりなし。。。おぼろげおぼろげおぼろげににに思おも思おもおもふふう事こと事ことこと多おほ多おほおおかれかれかれどどどかくかくかくわりなきわりなきわりなきににに、、、物もの物ものもの覺おぼ覺おぼおぼえええずずずなりなりなりにににたるたるたるべしべしべし。。。何なに何なになに事ごと事ごとごとももも申まう申まうもうさささででで明あ明ああけけけぬぬぬととといへいへいえどどど、、、雨あめ雨あめあめ猶なほ猶なほなおおなじおなじおなじやうやうようなりなりなり。。。夜よ夜よよべべべににに懲こ懲ここりりりてててむげむげむげににに晝ひる晝ひるひるこなしこなしこなしつつつ。。。音おと音おとおとせせせででで渡わた渡わたわたるるる森もり森もりもりののの前まへ前まへまえををを、、、さすがさすがさすがにににあかまあかまあかまあかまあかまあかまととと唯ただ唯ただただ手て手ててををを搔か搔かかきききおもておもておもてををを振ふ振ふふりりり、、、そこらそこらそこらののの人ひと人ひとひとのののあぎとふあぎとふあぎとうやうやうようにににすれすれすればばば、、、さすがさすがさすがにににいといといとせせせむむん方かた方かたかたなくなくなくをかしくをかしくおかしく見み見みみゆゆゆ。。。
  3. 3つばつばつば市いち市いちいちににに歸かへ歸かへかえりりりててて、、、としみとしみとしみなどなどなどいふいふいうれれれどどど、、、我われ我われわれははは猶なほ猶なほなおしやうじしやうじしょうじなりなりなり。。。そこそこそこよりよりより始はじ始はじはじめめめてててあるじあるじあるじするするする所ところ所ところところ行ゆ行ゆゆきききもももやらやらやらずずずありありあり。。。物もの物ものものかづけかづけかずけなどなどなどするするするににに、、、手て手ててををを盡つく盡つくつくしししてててものものものすすすめりめりめり。。。「「「泉いづみ泉いづみいずみ河がは河がはがわ水みづ水みづみずまさりまさりまさりたりたりたり。。。いかにいかにいかに」」」などなどなどいふいふいうほどほどほどににに「「「宇う宇うう治ぢ治ぢじよりよりより舟ふね舟ふねふねののの上じやう上じやうじょう手ず手ずず具ぐ具ぐぐしししててて參まゐ參まゐまいれれれりりり」」」ととといふいふいうがががわづらはしわづらはしわずらわし。。。例れい例れいれいのののやうやうようにににててて、、、ふとふとふとわたりわたりわたりなどなどなど男をとこ男をとこおとこ方がた方がたがたにににははは定さだ定さださだむるむるむるををを、、、女をんな女をんなおんな方がた方がたがたににに猶なほ猶なほなお舟ふね舟ふねふねにににてててをををとととあれあれあればばば、、、「「「さらさらさらばばば」」」とてとてとて皆みな皆みなみな乘の乘ののりりりててて遙はる遙はるはる々ばる々ばるばるととと下くだ下くだくだるるる。。。心ここ心ここここちちちいといといとらうらうろうありありあり。。。楫かぢ楫かぢかじ取とり取とりとりよりよりより始はじ始はじはじめめめ歌うた歌うたうたひひいのゝしるのゝしるののしる。。。宇う宇うう治ぢ治ぢじ近ちか近ちかちかききき所ところ所ところところにににててて、、、又また又またまた車くるま車くるまくるまににに乘の乘ののりりりぬぬぬ。。。さてさてさて例れい例れいれいののの所ところ所ところところにににははは、、、方かた方かたかた惡あ惡ああしししとてとてとてとゞまりとゞまりとどまりぬぬぬ。。。さかさかさか用よう用ようよう意い意いいしししたりたりたりけれけれければばば、、、鵜う鵜うう飼かひ飼かひかい數かず數かずかずををを盡つく盡つくつくしししててて、、、一ひと一ひとひと河かは河かはかわ浮う浮ううきききててて騷さわ騷さわさわぐぐぐ。。。「「「いざいざいざ近ちか近ちかちかくくくててて見み見みみむむむ」」」とてとてとて岸きし岸きしきしづらづらずらににに物もの物ものもの建た建たたててて、、、しきしきしきなどなどなど取と取ととりりりもてもてもていきいきいきててて、、、おりおりおりたれたれたればばば、、、足あし足あしあしののの下した下したしたににに鵜う鵜うう飼かひ飼かひかいちかちかちかうううこここつしつしつしどもどもどもなどなどなどまだまだまだ見み見みみざりざりざりつるつるつる事こと事ことことなれなれなればばばいといといとをかしうをかしうおかしゅう見み見みみゆゆゆ。。。きききこここかじかじかじたるたるたる心ここ心ここここちちちなれなれなれててて夜よ夜よよののの更ふ更ふふくるくるくるももも知し知ししらららずずず、、、見み見みみ入い入いいりりりてててあれあれあればばばこれこれこれかれかれかれ「「「今いま今いまいまははは歸かへ歸かへかえらららせせせたびたびたびなむなむなん。。。これこれこれよりよりよりほかほかほかににに、、、今いま今いまいまはははなきなきなきををを」」」などなどなどいへいへいえばばば「「「さわきさわきさわき」」」とてとてとてのぼりのぼりのぼりぬぬぬ。。。さてさてさてもももあかあかあかずずず見み見みみ遣や遣ややれれればばばいいいののの夜よ夜よよ一ひと一ひとひと夜よ夜よよともしともしともしわたるわたるわたる。。。いさゝかいさゝかいささかまどろめまどろめまどろめばばばふなばたふなばたふなばたをををこほこほこほこほこほこほととと打う打ううちちち叩たた叩たたたたくくく音おと音おとおとににに我われ我われわれをををしもしもしも驚おどろ驚おどろおどろかかかすすすとととんんんやうやうようにににぞぞぞさんるさんるさんる。。。明あ明ああけけけててて見み見みみれれればばばよるよるよるののの鮎あゆ鮎あゆあゆいといといと多おほ多おほおおかりかりかり。。。それそれそれよりよりよりさべきさべきさべき所ところ所ところところ々どころ々どころどころににに、、、遣や遣ややりりりあがつあがつあがつめるめるめるももも、、、あらましきあらましきあらましきわざわざわざなりなりなり。。。ひひひよいよいよい程ほど程ほどほどにににたるたるたるしかしかしかばばば、、、暗くら暗くらくらくくくぞぞぞ京きやう京きやうきょうににに來き來きき着つき着つきつきたるたるたる。。。我われ我われわれもももやがてやがてやがていづくいづくいずくととと思おも思おもおもひひいつれつれつれどどど、、、人ひと人ひとひともももこうじこうじこうじたりたりたりとてとてとて、、、えええものものものせせせずずず。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

さて七、八日ほどして、初瀬へ出発する。巳の刻ごろに家を出る。供の人がたいそう多く、華やかに出かけるようだ。未の刻ごろに、あの按察使大納言が領有していらした宇治の院に着いた。人々はこうして騒いでいるけれど、私の心は上の空で、見回すと、しみじみと心を入れて手入れをなさっていると聞いた所なので(趣深い)。この月にこそ一周忌の法要はなさったのだろう、ほどなく荒れてしまったものだと思う。ここの管理をしていた者が支度をしてくれたので、しつらえたものがこれなのだろうと見る物、帳(とばり)、簾、網代屏風、黒柿の骨に朽葉色の帷子をかけた几帳なども、たいそうふさわしいのも、しみじみとばかり見える。疲れているところに、風は払うように吹いて、頭まで痛いので、風よけを作って外を見やる。だんだん木の下が暗くなったので、鵜船どもが篝火をともして、一人一人と漕いで行った。趣深く見えることはこの上ない。頭の痛さも紛れたので、端の簾を巻き上げて外を見やって、ああ、自分の心から参詣した旅の帰り道に、地方回りの人の院に行き帰りしたのは、ここだったのだ、ご覧になった按察使殿がいらして、何かとおっしゃったのは、しみじみとしたことだったなあ、どんな前世の縁で、それだけのことがあったのだろうと思い続けると、目も合わず、夜中過ぎまで物思いにふける。鵜船どもが上り下りして行き交うのを見ては、

「かへりみて焦がれることを尋ねれば、胸のほかには鵜船(の篝火)なのだった」

などと思われて、なおも見ていると、明け方には打って変わって、漁(いさり)というものをする。たとえようもなくおもしろく、しみじみとする。夜が明けたので、急いで出発して行くと、立野の池、泉川が、初めて見た時と変わらないでいるのを見るのも、しみじみとばかり思われる。何かにつけて思われることはたいそう多いけれど、騒がしくにぎやかなのに紛れている。よう立ての森で車をとめて、破子などを食べる。皆の口がおいしそうだ。春日へといって過ぎる。院(宿所)がたいそう見苦しかったが、そこに泊まった。そこから出発する頃に、雨風がひどく降り吹きつける。三笠山を目指して行くかいもなく、濡れて困る人が多かった。やっとのことで参詣し着いて幣を奉り、初瀬の方へ向かう。飛鳥(寺)に灯明を奉ったので、ただ釘貫に車を引きかけて見ると、木立のたいそう趣深い所だった。庭も清らかで、井戸の水もたいそう飲みたくなるので、「宿りはすべし」と言うのももっともだと見えた。ひどい雨がいよいよ激しくなるので、どうしようもない。やっとのことで椿市に着いて、いつもの(作法の)ことをあれこれして出発するうちに、日も暮れてしまった。雨や風はなおもやまない。灯をともしたけれど、吹き消されてひどく暗いので、夢の中の道のような気がしてたいそう恐ろしく、どうなることかとまで思い惑う。やっとのことで祓殿に着きなさったので、雨もわからない。ただ水の音がたいそう激しいのを、浮かんでいるのだと聞く。御堂に参る時には、気分がひどく悪い。並々ならず思うことが多いけれど、こう苦しいので、何もわからなくなってしまったのだろう。何も申し上げないで夜が明けたというけれど、雨はなおも同じようである。昨夜に懲りて、すっかり昼に移動することにした。音もさせずに渡る森の前を、さすがに「あかま、あかま」とただ手を振り顔を振って、大勢の人が口をぱくぱくさせるようにするので、さすがにたいそうどうしようもなくおかしく見える。

椿市に帰って、精進落としなどと言うけれど、私はなおも精進である。そこから始めて、もてなしをしてくれる所が、行き過ぎることもできないほどある。褒美の品を与えたりするのに、手を尽くしているようだ。「泉川の水が増しました。どうしましょう」などと言っているうちに、「宇治から舟の上手を連れて参りました」と言うのがわずらわしい。いつものように、さっと(陸路を)渡るなどと男たちは決めているが、女たちはやはり舟でということなので、「それなら」と言って皆乗ってはるばると下る。気持ちがたいそうのびのびとする。楫取をはじめとして歌って騒ぐ。宇治の近くで、また車に乗った。さて、いつもの所には方角が悪いといって泊まった。そういう用意をしてあったので、鵜飼が数を尽くして、川一面に浮かんで騒ぐ。「さあ近くで見よう」と言って、岸辺に物を建て、敷物などを持って行って降りると、足の下に鵜飼が近く、こつし(鵜を操る者)なども、まだ見たことのないことなので、たいそうおもしろく見える。疲れていた気分も慣れて、夜の更けるのも知らずに見入っていると、人々が「もうお帰りください。これより他には、今はもうありませんから」などと言うので、「それなら」と言って上った。それでも飽きずに見やると、一晩中(篝火を)ともし続けている。少しまどろむと、船端をこつこつと叩く音に、私を起こそうとするかのようである。夜が明けて見ると、夜の鮎がたいそう多い。それをしかるべき所々に配っているようなのも、ふさわしいことである。日が良い頃になったので、暗くなってから京に着いた。私もすぐにどこか(あの人の所)へと思ったけれど、人々も疲れたというので、行くことができない。

意訳

〔宇治の院〕天禄二年八月、作者は大勢の供を連れて二度目の初瀬詣に出る。三年前の初瀬詣の帰りに泊まった宇治の院は、その後亡くなった按察使大納言の山荘で、作者は故人の面影をしのぶ。鵜船の篝火が行き交う夜の宇治川を、作者は夜中過ぎまで眺めつづける。

〔雨の初瀬〕春日社に詣で、雨風の中を初瀬へ向かう。暗闇の山道は「夢の道」のようで、着いた時には気分が悪く、何も祈れずに夜が明けた。三年前の初瀬詣と比べると、作者の心は重い。

〔宇治の鵜飼〕帰りは宇治川を舟で下り、宇治で鵜飼を間近に見る。初めて見る鵜飼のおもしろさに、作者は夜の更けるのも忘れて見入った。旅の終わりのこの場面は、中巻の中でも珍しく明るい。

語釈・文法注

文法

「我が心ははつかにて」
底本どおり。注記に「か」の異文がある。上の空で、の意に解する。
「心に入れてつくろひ給ふと聞きし所によし」
底本どおり。注記に「二字ぞかし」とある。
「こゝろの預り」
底本どおり。注記に「二字ころ」とあり、「ここの預り」(ここの管理人)と解する。
「建てたるものゝこのなめり」
底本どおり。注記に「これ」の異文がある。
「黑がい」
黒柿。
「こうじにたるこ風は」
底本どおり。注記に「に」の異文がある。
「かへさにあがたの院にぞゆきかへしせし」
前の初瀬詣(第15章)の帰りに宇治の院に寄ったことをいう。
「かへしたとこがるゝ」
底本どおり。注記に「かへりみて」などの異文がある。
「ようだての森」
底本どおり。注記に「かう」の異文がある。
「くぎぬき」
釘貫。柵の一種。
「ゐもいと飮まゝほしければ」
底本どおり。注記に「四字ひも」などとある。井戸の水も飲みたいので、の意に解する。
「ははいう」
底本の注記に「四字つばいち」とあり、椿市と解する。
「あかまあかま」
底本の注記に「な」の脱字かとある。
「あぎとふ」
口をぱくぱくさせる。
「心ちいとらうあり」
底本どおり。注記に異文がある。
「こつし」
底本の注記に「こつち」とも。鵜匠の一種か。
「きこかじたる」
底本どおり。注記に「かう」とあり、「疲(こう)じたる」と解する。
「さわき」
底本の注記に「二字ばれ」とあり、「さばれ」(それなら)と解する。

和歌

かへしたとこがるゝことをたづぬれば胸のほかには鵜船なりけり

詠者
道綱母(作者)
状況
宇治の院で、夜中過ぎまで鵜船の篝火を眺めて思った歌。

修辞

掛詞
「こがるる」に、胸が焦がれると、鵜船の篝火が燃える意を掛ける。

解説

天禄二年(971)八月、作者は二度目の初瀬詣に出た。三年前の初瀬詣(第14〜15章)が人目を忍ぶ旅だったのに対し、今回は大勢の供を連れた華やかな旅であった。兼家が手配したものとも考えられる。

宇治の院は、按察使大納言藤原師氏の山荘で、前の初瀬詣の帰りにも立ち寄った所である。師氏は天禄元年に亡くなっており、作者はかつての主の不在に世の無常を感じている。

宇治の鵜飼の場面は、平安時代の鵜飼を伝える貴重な記録でもある。篝火をたいて夜通し行われる鵜飼に、作者は初めて間近に接し、旅の疲れも忘れて見入っている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、108–110頁(コマ57–58)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日