古典ライブラリー

蜻蛉日記 中巻 第32章

鳴滝への便り

鳴滝の作者のもとに、見舞いの歌や手紙が次々に届く。兼家邸の宿直の者が侍女に寄せた歌、道綱が届けた兼家への返事、叔母の来訪と贈り物、そして妹からの長い手紙。作者は「物思ひの深さくらべに来て見れば」と返す。尚侍登子とは「西山より」「鳥羽のおほさとより」と戯れの便りを交わし、通りがかりの修行者も歌を置いていく。

  1. 1又また又またまたののの日ひ日ひひかへりかへりかえりごとごとごとありありあり、、、「「「事こと事ことことははは書か書かかきききあふあふあうべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。入いり入いりいり相あひ相あひあいににになむなむなん肝きも肝きもきも碎くだ碎くだくだくくく心ここ心ここここちちちするするする」」」とてとてとて、、、
  2. 2「「「いふいふいうよりよりよりももも聞き聞ききくくくぞぞぞ悲かな悲かなかなしきしきしき敷しき敷しきしき島しま島しましまののの世よ世よよにににふるふるふるさとさとさとののの人ひと人ひとひとやややもももににになりなりなり」」」
  3. 3とととあるあるあるをををいといといとあはれあはれあわれににに悲かな悲かなかなしくしくしくながむるながむるながむる程ほど程ほどほどににに、、、とのゐとのゐとのいののの人ひと人ひとひと數あま數あまあま多た多たたありありありしししなかなかなかににに、、、いかなるいかなるいかなる心こころ心こころこころあるあるあるにににかかかあらあらあらむむん、、、こゝこゝここにににあるあるある人ひと人ひとひとののの許もと許もともとににに、、、いるいるいるをををうせうせうせたるたるたるやうやうよう、、、「「「いづれいづれいずれもももおろかおろかおろかににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええさせさせさせざりざりざりししし御おほん御おほんおおんすまひすまひすまいなれなれなれどどど、、、まかでまかでまかでしししよりよりよりははは、、、いとゞいとゞいとど珍めづら珍めづらめずららからからかなるなるなるさまさまさまににになむなむなん思おも思おもおもひひい出い出いいででで聞きこ聞きこきこえええさするさするさする。。。いかにいかにいかにおもとおもとおもとたちたちたちももも思おぼ思おぼおぼししし見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららせせせ給たま給たまたまふふうらむらむらん。。。賤いや賤いやいやしきしきしきもももととといふいふいうなれなれなればばば、、、すべてすべてすべてすべてすべてすべて聞きこ聞きこきこえええさすさすさすべきべきべき方かた方かたかたなくなくなくなむなむなん。。。
  4. 4身み身みみををを捨す捨すすてゝてゝててうきうきうきをををももも知し知ししらららぬぬぬ旅たび旅たびたびだにだにだにももも山やま山やまやま路ぢ路ぢじにににもももふかくふかくふかく思おも思おもおもひひいこそこそこそ入い入いいれれれ」」」
  5. 5ととといひいひいいたるたるたるををを、、、もてもてもて出い出いいでゝでゝでて讀よ讀よよみみみ聞き聞ききかかかするするするににに、、、又また又またまたいといといといみじいみじいみじ。。。かばかりかばかりかばかりののの事こと事ことことももも、、、又また又またまたいといといとかくかくかく覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆる時とき時ときときあるあるあるものものものなりなりなりけりけりけり。。。「「「はやはやはや返かへり返かへりかえりごとごとごとせよせよせよ」」」とてとてとてあれあれあればばば「「「をだをだおだ卷まき卷まきまきはははかくかくかく思おも思おもおもひひい知し知ししるるる事こと事ことことももも難かた難かたかたききき事こと事ことことよよよととと思おも思おもおもひひいつるつるつるををを、、、御お御おおまへまへまえにににもももいといといとせきせきせきあへあへあえぬぬぬまでまでまでなむなむなん思おぼ思おぼおぼしししためためためるるるををを見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるももも唯ただ唯ただただ推お推おおししし量はか量はかはかりりり給たま給たまたまへへえ。。。
  6. 6思おも思おもおもひひい出い出いいづるづるずる時とき時ときときぞぞぞかなしきかなしきかなしき奧おく奧おくおく山やま山やまやまのののこのこのこのしたしたしたつゆつゆつゆのののいとゞいとゞいとどしげきしげきしげきににに」」」
  7. 7とととなむなむなんいふいふいうめるめるめる。。。大たい大たいたい夫ふ夫ふふ「「「一日ひとひ一日ひとひひとひののの御おほん御おほんおおんかへりかへりかえりいかでいかでいかで賜たま賜たまたまはらはらわらむむん。。。又また又またまたかんだうかんだうかんどうありありありなむなむなんをををもてもてもて參まゐ參まゐまいらららむむん」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「なになになにかはかはかは」」」とてとてとて、、、「「「かくかくかく即すなは即すなはすなわちちち聞きこ聞きこきこえええさすさすさすべくべくべく思おも思おもおもうううたまへたまへたまえしししををを、、、いかなるいかなるいかなるにににかかかあらあらあらむむん、、、詣まう詣まうもうででで難がた難がたがたくくくのみのみのみ思おも思おもおもひひいてててはんべはんべはんべめるめるめるたよりたよりたよりににになむなむなんまかでまかでまかでむむんことことことははは、、、いついついつともともとも思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえわかれわかれわかれねねねばばば、、、聞きこ聞きこきこえええさせさせさせむむん方かた方かたかたなくなくなく」」」などなどなど書か書かかきききててて「「「何なに何なになに事ごと事ごとごとにににかかかありありありけむけむけん、、、御おほん御おほんおおんはしはしはしがきがきがきはははいかなるいかなるいかなる事こと事ことことにににかかかありありありけむけむけんととと思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえ出い出いいでででむむんににに、、、ものものものしかしかしかんんんべけれべけれべければばば更さら更さらさらににに聞きこ聞きこきこえええさせさせさせずずず。。。あなあなあなかしこかしこかしこ」」」などなどなど書か書かかきききててて、、、出いだ出いだいだししし立た立たたてててたれたれたればばば、、、例れい例れいれいののの時とき時ときときしもしもしもあれあれあれ雨あめ雨あめあめいたくいたくいたく降ふ降ふふりりり神かみ神かみかみいといといといたくいたくいたく鳴な鳴ななるるるををを、、、胸むね胸むねむねふたがりふたがりふたがりててて歎なげ歎なげなげくくく。。。少すこ少すこすこししし靜しづま靜しづましずまりりりててて暗くら暗くらくらくくくなるなるなる程ほど程ほどほどにににぞぞぞ歸かへ歸かへかえりりりたるたるたる。。。物もの物ものもののののいといといと恐おそろ恐おそろおそろしかりしかりしかりつるつるつるありありありさまさまさまのののわたりわたりわたりなどなどなどいふいふいうにににぞぞぞ、、、いといといとぞぞぞいみじきいみじきいみじき。。。返かへ返かへかえりりり事ごと事ごとごとををを見み見みみれれればばば、、、「「「一ひと一ひとひと夜よ夜よよののの心こころ心こころこころばへばへばえよりよりよりははは、、、心こころ心こころこころよわげよわげよわげににに見み見みみゆるゆるゆるははは、、、行おこな行おこなおこなひひい弱よわ弱よわよわりりりにににけるけるけるかかかととと思おも思おもおもふふうにににもももあはれあはれあわれににになむなむなん」」」などなどなどぞぞぞあるあるある。。。
  8. 8そのそのその暮く暮くくれれれててて又また又またまたののの日ひ日ひひなななましましまし。。。をばをばをばだつだつだつ人ひと人ひとひととぶらひとぶらひとぶらいににに物もの物ものものしししたりたりたり。。。破わり破わりわり子ご子ごごなどなどなどあまたあまたあまたありありあり。。。「「「まづまづまずいかでいかでいかで、、、かくかくかくははは何なに何なになに事ごと事ごとごとなどなどなどせせせさせさせさせ給たま給たまたまふふうにににかかかあらあらあらむむん。。。ことことことなきなきなきことことことあらあらあらでででははは、、、いといといとびんびんびんなきなきなきわざわざわざなりなりなり」」」ととといふいふいうににに、、、心こころ心こころこころににに思おも思おもおもふふうやうやうよう身み身みみのののあるあるある事こと事ことことををを、、、かきかきかきくづしくづしくずしいふいふいうにににぞぞぞ「「「いといといとことわりことわりことわり」」」ととといひいひいいなりなりなりててて、、、いといといといたくいたくいたく泣な泣ななくくく。。。日ひ日ひひ暮ぐら暮ぐらぐらししし語かた語かたかたらひらひらいててて、、、いといといと夕ゆふ夕ゆふゆう暮ぐれ暮ぐれぐれののの程ほど程ほどほど、、、例れい例れいれいのののいみじげいみじげいみじげなるなるなる事こと事ことことどもどもどもいひいひいいててて、、、鐘かね鐘かねかねののの聲こゑ聲こゑこえどもどもどもししし侍はべ侍はべはべるるる程ほど程ほどほどにににぞぞぞ歸かへ歸かへかえるるる。。。心こころ心こころこころ深ぶか深ぶかぶかくくく物もの物ものもの思おも思おもおもひひいしるしるしる人ひと人ひとひとにににもももあれあれあればばば、、、誠まこと誠まことまことににに哀あはれ哀あはれあわれとととももも思おも思おもおもひひいいくいくいくならならならむむんととと思おも思おもおもふふうににに、、、又また又またまたののの日ひ日ひひ、、、旅たび旅たびたびににに久ひさ久ひさひさしくしくしくもももありありありぬぬぬべきべきべきさまさまさまののの物もの物ものものどもどもどもあまたあまたあまたあるあるある。。。心こころ心こころこころにににははは、、、いひいひいい盡つく盡つくつくすすすべくべくべくもももあらあらあらずずず、、、悲かな悲かなかなしうしうしゅう哀あはれ哀あはれあわれなりなりなり。。。歸かへ歸かへかえりりりししし空そら空そらそらなかりなかりなかりししし言こと言ことことののの葉は葉ははののの中なか中なかなかににに「「「こだかきこだかきこだかきみちみちみちををを分わ分わわけけけ入い入いいりりりけむけむけんととと見み見みみしししまゝまゝままににに、、、いといといといといといといみじういみじういみじゅうなむなむなん」」」などなどなどよろづよろづよろず書か書かかきききててて、、、
  9. 9「「「世よ世よよのののなかなかなかののの世よ世よよのののなかなかなかならならならばばば夏なつ夏なつなつ草くさ草くさくさのののしげきしげきしげき山やま山やまやま邊べ邊べべもももたづねたづねたずねざらざらざらましましまし
  10. 10物もの物ものものををを、、、かくかくかくててておはしますおはしますおわしますををを見み見みみ給たま給たまたまへへえおきおきおきててて、、、歸かへ歸かへかえるるることことことゝゝと思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえしししににに、、、寢ね寢ねねぬるぬるぬる目め目めめももも皆みな皆みなみなくれくれくれ惑まど惑まどまどひひいてててなむなむなん。。。ありありありきみきみきみ深ふか深ふかふかくくく物もの物ものもの思おぼ思おぼおぼししし亂みだ亂みだみだるるるかかかめるめるめるかなかなかな。。。
  11. 11世よ世よよののの中なか中なかなかはははおもひおもひおもいののの外ほか外ほかほかににになるなるなるたきたきたきのののふかきふかきふかき山やま山やまやま路ぢ路ぢじをををたれたれたれ知し知ししらららせせせけむけむけん」」」
  12. 12などなどなど、、、すべてすべてすべてさしさしさし向むか向むかむかひひいたらたらたらむむんやうやうようににに、、、こまやかこまやかこまやかににに書か書かかきききたりたりたり。。。鳴なる鳴なるなる瀧たき瀧たきたきととといふいふいうぞぞぞこのこのこの前まへ前まへまえよりよりより行ゆ行ゆゆくくく水みづ水みづみずなりなりなりけるけるける。。。返かへ返かへかえりりりごとごとごとももも思おも思おもおもひひいゐゐいたるたるたるかぎりかぎりかぎり物もの物ものものしししててて、、、「「「たづねたづねたずねたまへたまへたまえりりりしししももも、、、げにげにげにいかでいかでいかでととと思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえりりりししし」」」とてとてとて、、、
  13. 13「「「物もの物ものものおもひおもひおもいののの深ふか深ふかふかさささくらべくらべくらべににに來き來ききててて見み見みみれれればばば夏なつ夏なつなつのののしげりしげりしげりももも物もの物ものものならならならなくなくなくににに。。。
  14. 14まかでまかでまかでむむん事こと事ことことははは、、、いついついつともともともなけれなけれなけれどどど、、、かくかくかくのたまふのたまふのたまう事こと事ことことなむなむなん、、、思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえ煩わづら煩わづらわずらひひいぬぬぬべけれべけれべければばば、、、
  15. 15身み身みみひとつひとつひとつのののかくかくかくなるなるなる瀧たき瀧たきたきををを尋たづ尋たづたずぬれぬれぬればばばさらにさらにさらにかへらかへらかえらぬぬぬ水みづ水みづみずもももすみすみすみけりけりけり
  16. 16ととと見み見みみれれればばばためしためしためしあるあるある心ここ心ここここちちちしししてててなむなむなん」」」などなどなどものものものしししつつつ。。。又また又またまたないしないしないしのののかんかんかんののの殿との殿とのとのよりよりよりとてとてとて賜たま賜たまたまへへえるるる御おほん御おほんおおんかへりかへりかえりににに、、、心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそくくくかきかきかきかきかきかきててて、、、うはうはうわぶみぶみぶみににに「「「西にし西にしにし山やま山やまやまよりよりより」」」ととといるいるいるたるたるたるををを、、、いかゞいかゞいかが思おぼ思おぼおぼしししけむけむけん、、、又また又またまたあるあるある御おほん御おほんおおんかへりかへりかえりににに、、、「「「鳥と鳥とと羽ば羽ばばのののおほおほおおさとさとさとよりよりより」」」とととあるあるあるををを、、、いといといとをかしをかしおかしととと思おも思おもおもひひいけむけむけんももも、、、いかなるいかなるいかなる心こころ心こころこころ々ごころ々ごころごころににに持も持ももたるたるたるにににかかかありありありけむけむけん。。。かくかくかくしししつゝつゝつつ日ひ日ひひ頃ごろ頃ごろごろににになりなりなり、、、詠なが詠ながながめめめまさるまさるまさるににに、、、あるあるある修す修すす行ぎやう行ぎやうぎょう者じや者じやじゃ、、、御み御みみ嶽たけ嶽たけたけよりよりより熊くま熊くまくま野の野ののへへへ大おほ大おほおお峯みね峯みねみね通どほ通どほどおりりりににに越こ越ここえええけるけるけるがががごとごとごとなるなるなるべしべしべし、、、
  17. 17「「「外と外とと山やま山やまやまだにだにだにかゝりかゝりかかりけるけるけるをををとととしらしらしら雲くも雲くもくものののふかきふかきふかき心こころ心こころこころははは知し知ししるるるももも知し知ししらららぬぬぬももも」」」
  18. 18とてとてとて落おと落おとおとしししたりたりたりけりけりけり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

翌日、返事が来て、「言葉では書き尽くせません。入相の鐘の頃には、肝が砕ける思いがします」と言って、

「(あなたが)言うよりも、聞く私のほうが悲しいことです。この世に、古里の人(京に残された者)は喪に服しているようです」

とあるのを、たいそうしみじみと悲しく思いながめていると、宿直の人が大勢いた中に、どういう心があったのだろうか、ここにいる侍女のもとに、矢を射るように(さっと)送ってきた。「どなたもおろそかには思い申し上げなかったお住まいですが、(あなた方が)退出なさってからは、いっそう珍しい有様に思い出し申し上げております。あなた方もどんなに(ご主人を)お気の毒にお思いでいらっしゃるでしょう。身分の低い者でも(心はある)と言いますから、何もかも申し上げようもございません。

身を捨てて、つらさも知らない旅でさえ、山路には深く思い入るものですのに(まして)」

と言ってきたのを、(侍女が)持ってきて読み聞かせるので、またひどく悲しい。これほどのことでも、またひどくこう感じる時があるものなのだった。「早く返事をしなさい」と言うと、(侍女は)「このように物の情けを知る人はめったにいないと思っていましたのに、ご主人様も涙をこらえきれないほどお思いのようなのを拝見するのも、ただお察しください。

思い出す時こそ悲しいのです、奥山の木の下露がいっそう茂っている(涙にくれている)ので」

と言ってやったようだ。大夫が「先日(の父上へ)のお返事を、何とかいただきたい。また(父上の)お咎めがありそうなので、持って参りましょう」と言うので、「仕方がない」と思って、「すぐにお返事申し上げようと思っておりましたのに、どうしたことでしょうか、(山を)出にくくばかり思っておりますので、退出することは、いつとも決めかねておりますので、申し上げようもなく」などと書いて、「何事でしたのでしょう、お端書きはどういうことでございましたのかと思い出すにつけても、気分が悪くなりそうなので、もう申し上げません。あなかしこ」などと書いて送り出すと、例によって折悪しく雨がひどく降り、雷がひどく鳴るのを、胸がふさがって嘆く。少し静まって暗くなる頃に帰ってきた。ひどく恐ろしかった様子を話すにつけても、ひどくつらい。返事を見ると、「先夜の心持ちよりは、気弱そうに見えるのは、勤行で弱ったのかと思うにつけてもかわいそうに」などとある。

その日が暮れて、翌日も……。叔母のような人が見舞いに来た。破子などがたくさんある。「まずどうして、こんなことをなさるのでしょう。何でもないのにこんなことをしては、たいそう具合の悪いことです」と言うので、心に思っていることや、わが身の有様を、くどくどと話すと、「まことにもっとも」と言って、たいそうひどく泣く。一日中話して、たいそう夕暮れのころ、例によって悲しいことを言って、鐘の音が鳴る頃に帰った。心深く物の情けを知る人でもあるので、本当にかわいそうだと思って帰って行くのだろうと思っていると、翌日、旅に長くいられるような物をたくさん(届けてくれた)。心には、言い尽くせないほど、悲しくしみじみとする。帰って行った空もない(悲しみの)言葉の中に、「木高い道を分け入ったのだろうと見るにつけても、ほんとうにひどく悲しくて」などと、何かと書いて、

「世の中が当たり前の世の中であるならば、夏草の茂る山辺を訪ねることもなかったでしょうに

あなたがこうしていらっしゃるのを見申し上げて、帰ることと思いましたが、寝る目も皆涙にくれて。このように来てみると、深く物思いに乱れていらっしゃるようですね。

世の中は思いもかけないことになる鳴滝の、深い山路を、誰が(あなたに)知らせたのでしょう」

などと、何もかも向かい合っているように、こまやかに書いてあった。鳴滝というのは、この寺の前を流れる川なのだった。返事にも、思っていることを全部書いて、「訪ねてくださったのも、ほんとうにどうしてと思いました」と書いて、

「物思いの深さを比べに来てみると、夏の茂りも物の数ではありません。

山を出ることは、いつともわかりませんが、こうおっしゃることには、思い悩んでしまいそうなので、

わが身一つがこうなった滝を尋ねてみると、二度と帰らない水も、(ここに)澄んで住んでいるのでした

と見ると、前例のある気がいたします」などと書いてやった。また、尚侍の殿からといって賜ったお返事に、心細い様子を書き書きして、上書きに「西山より」と書いたのを、どうお思いになったのだろうか、また別のお返事に、「鳥羽の大里より」とあったのを、たいそうおもしろいと思ったのも、どんな心で、それぞれが持っていたのだろうか。こうしているうちに日がたち、物思いがつのる頃に、ある修行者が、御嶽から熊野へ、大峯通りに越えて行く途中なのだろう、

「外山でさえこんなふうなのに、白雲の深い心は、知る人も知らない人も(わかるまい)」

と(歌を)置いていった。

意訳

〔さまざまな便り〕鳴滝の作者のもとには、次々に便りが届く。兼家邸の宿直の者は、侍女にあてて「身を捨てた旅でさえ山路には深く思い入る」と詠んできた。兼家への返事は、雷雨の中を道綱が届け、兼家は「勤行で心弱りしたか」と返してくる。

〔叔母と妹〕叔母は見舞いに来て作者の話を聞き、ともに泣いて、旅に長くいられるだけの品を届けてくれた。妹からの長い手紙には「世の中は思ひの外になる滝の」とあり、作者は「物思ひの深さくらべに来て見れば夏のしげりも物ならなくに」と返す。鳴滝とは、寺の前を流れる川の名だった。

〔登子と修行者〕尚侍登子とは、「西山より」「鳥羽の大里より」と、所書きにも趣向をこらした便りを交わす。山を通る修行者までが歌を置いていく。山寺に籠もっても、作者は多くの人とのつながりの中にいた。

語釈・文法注

文法

「人やもになり」
底本どおり。「喪になり」と解される。
「いるをうせたるやう」
底本どおりで意味がとりにくい。矢を射るようにさっと、の意に解する。
「をだ卷はかく」
底本どおり。「をだまき(繰り返し)」をかけた言い方か。
「もの しかんべければ」
「ものしかるべければ」の撥音便。不愉快になりそうなので。
「又の日なまし」
底本どおり。注記に「一字る」とあり、意味がとりにくい。
「ありきみ深く物思し亂るかめるかな」
底本の本文は「ありきみ」で、注記に「が」の異文がある。注記の「べ」の脱字もあわせて「ありがきみ深く物思し乱るべかめるかな」と解する。
「鳥羽のおほさと」
鳥羽(京の南)の大里。登子が「西山より」に戯れて返した所書き。

和歌

物おもひの深さくらべに來て見れば夏のしげりも物ならなくに

詠者
道綱母(作者)
状況
鳴滝の作者を気づかう妹の手紙への返歌。

修辞

比較
夏草の茂る深い山と、自分の物思いの深さとを比べ、山の深さも物の数ではないと詠む。

身ひとつのかくなる瀧を尋ぬればさらにかへらぬ水もすみけり

詠者
道綱母(作者)
状況
同じ返事の中で、山を出る時は知れないと言い添えた歌。

修辞

掛詞
「なる瀧」に「鳴滝」と「成る」、「すみ」に水が「澄み」と「住み」を掛ける。

世のなかは思ひの外になるたきのふかき山路をたれ知らせけむ

詠者
作者の妹
状況
鳴滝の姉を見舞った後に送った手紙の歌。

修辞

掛詞
「なるたき」に「成る」と「鳴滝」を掛ける。

解説

鳴滝籠りの間、作者のもとには多くの便りが届いた。兼家邸の宿直の者までが歌を寄せたことは、作者の籠居が兼家の周辺でも大きな話題になっていたことを示している。

妹との贈答は、姉妹の深い情愛を伝えている。鳴滝が寺の前を流れる川の名であることを作者がわざわざ書き添えたのは、地名と心情とが重なり合う歌のおもしろさを伝えるためであろう。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、100–102頁(コマ53–54)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日