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蜻蛉日記 中巻 第28章

長精進と不思議な夢

天禄二年三月、父の家に移った作者のもとに兼家が一夜訪れるが、心は通わない。四月、作者は道綱とともに長い精進を始め、「早く死なせて菩提をかなえたまえ」と仏に祈る。修行中に見た二つの不思議な夢を書きとめ、五月の節句には菖蒲も目に入らない。兼家は門前を素通りし、六月一日には白々しい手紙をよこす。

  1. 1今いま今いまいまははは三月さむぐわつ三月さむぐわつさんがつつごもりつごもりつごもりににになりなりなりにににけりけりけり。。。いといといとつれづれつれづれつれづれなるなるなるををを忌いみ忌いみいみももも違たが違たがたがへへえがてらがてらがてら、、、しばししばししばしほかほかほかにににととと思おも思おもおもひひいててて、、、縣あがた縣あがたあがたありきありきありきののの所ところ所ところところににに渡わた渡わたわたるるる。。。思おも思おもおもひひいさはりさはりさわりししし事こと事ことことももも平たひら平たひらたいらかかかににになりなりなりにににしかしかしかばばば、、、長なが長ながながきききしやうじしやうじしょうじ始はじ始はじはじめめめむむんととと思おも思おもおもひひい立た立たたちちちててて、、、物もの物ものものなどなどなど取と取ととりりりしたゝめしたゝめしたためなどなどなどするするする程ほど程ほどほどににに、、、「「「かうじかうじこうじははは猶なほ猶なほなおややや重おも重おもおもからからからむむん。。。ゆるさゆるさゆるされれれあらあらあらばばば暮くれ暮くれくれにににいかゞいかゞいかが」」」とととありありあり。。。これこれこれかれかれかれ見み見みみ聞き聞きききききててて、、、「「「かくかくかくのみのみのみあくがらしあくがらしあくがらしはつるはつるはつるはははいといといと惡あ惡ああしきしきしきわざわざわざなりなりなり。。。猶なほ猶なほなおこここたみたみたみだにだにだに、、、御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえりりりやんごとなきやんごとなきやんごとなきにににももも」」」ととと騷さわ騷さわさわげげげばばば唯ただ唯ただただ「「「月つき月つきつきももも見み見みみなくなくなくににに、、、あやしくあやしくあやしく」」」とととばかりばかりばかりものものものしししつつつ。。。かにかにかにあらあらあらじじじととと思おも思おもおもへへえばばばいそぎいそぎいそぎ渡わた渡わたわたりりりぬぬぬ。。。つれなきつれなきつれなきはははそうそうそうににに夜よ夜よようちうちうち更ふ更ふふけけけててて見み見みみえええたりたりたり。。。例れい例れいれいのののわきわきわきたぎるたぎるたぎることことことももも多おほ多おほおおかれかれかれどどど、、、ほどほどほどせばくせばくせばく人ひと人ひとひと騷さわ騷さわさわがしきがしきがしき所ところ所ところところににに息いき息いきいきもももえええずずず、、、胸むね胸むねむねににに手て手ててををを置お置おおきききたらたらたらむむんやうやうようにににててて明あか明あかあかしししつつつ。。。心こころ心こころこころとめとめとめてててそのそのその事こと事ことことかのかのかの事こと事ことことものものものすすすべかりべかりべかりけれけれければばば急いそ急いそいそぎぎぎぬるぬるぬるをををしもしもしもあるあるあるべきべきべき心こころ心こころこころををを、、、又また又またまた今日けふ今日けふきょうややや今日けふ今日けふきょうやややととと思おも思おもおもふふうににに、、、音おと音おとおとなくなくなくててて四月しぐわつ四月しぐわつしがつににになりなりなりぬぬぬ。。。もももいといといと近ちか近ちかちかききき所ところ所ところところなるなるなるををを、、、みかどみかどみかどにににててて車くるま車くるまくるま立た立たたてててりりり。。。「「「內うち內うちうちやややおはしまさおはしまさおわしまさむむんずらずらずらむむん」」」などなどなどやすくやすくやすくもももあらあらあらずずずいふいふいう人ひと人ひとひとさへさへさへあるあるあるぞぞぞいといといと苦くる苦くるくるしきしきしき。。。ありありありしししよりよりよりももも、、、ましてましてまして心こころ心こころこころををを切き切ききりりりくだきくだきくだき心ここ心ここここちちちすすす。。。返かへ返かへかえりりり事ごと事ごとごとをををもももなほなほなおせよせよせよなほなほなおせよせよせよととといひいひいいししし人ひと人ひとひとさへさへさへ憂う憂ううくくくつらしつらしつらし。。。
  2. 2ついたちついたちついたちののの日ひ日ひひ、、、幼をさな幼をさなおさなききき人ひと人ひとひとををを呼よ呼よよびびびててて、、、長なが長ながながきききしやうじしやうじしょうじをををなむなむなん始はじ始はじはじむるむるむる。。。諸もろ諸もろもろ共とも共ともともにににせよせよせよとととありありありとてとてとて始はじ始はじはじめめめつつつ。。。我われ我われわれはははたたた始はじ始はじはじめめめつつつ。。。我われ我われわれはははたたた始はじめ始はじめはじめよりよりよりももも、、、ことごとしうことごとしうことごとしゅうはははあらあらあらずずず、、、たゞたゞただかはらけかはらけかわらけにににかうかうこううちうちうちもりもりもりててて、、、脇けふ脇けふきょう息そく息そくそくののの上うへ上うへうえににに置お置おおきききててて、、、やがてやがてやがておしおしおしかゝりかゝりかかりててて、、、佛ほとけ佛ほとけほとけををを念ねん念ねんねんじじじ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる。。。そのそのその心こころ心こころこころばへばへばえ、、、「「「唯ただ唯ただただきはめきはめきわめてててさいはひさいはひさいわいなかりなかりなかりけるけるける身み身みみなりなりなり。。。年とし年としとし頃ごろ頃ごろごろをををだにだにだに、、、世よ世よよににに心こころ心こころこころゆるびゆるびゆるびなくなくなく、、、うしうしうしととと思おも思おもおもひひいつるつるつるををを、、、ましてましてましてかくかくかくあさましくあさましくあさましくなりなりなりぬぬぬ。。。とくとくとく死し死ししなななさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて菩ぼ菩ぼぼ提だい提だいだいかなへかなへかなえ給たま給たまたまへへえ」」」とととこそこそこそ。。。行おこな行おこなおこなふふうまゝまゝままににに、、、淚なみだ淚なみだなみだぞぞぞほろほろほろほろほろほろとととこぼるゝこぼるゝこぼるる。。。あはれあはれあわれ、、、今いま今いまいま樣やう樣やうようははは女をんな女をんなおんなももも珠ず珠ずず數ず數ずず引ひ引ひひきききさげさげさげ、、、經きやう經きやうきょう引ひ引ひひきききさげさげさげぬぬぬなしなしなしととと聞き聞きききききししし時とき時ときとき、、、まさりまさりまさり顏がほ顏がほがおなさるなさるなさるものものものぞぞぞやもめやもめやもめにににははは成な成ななるるるてふてふちょうなどなどなどもももときときときししし心こころ心こころこころはははいづちいづちいずちかかか行ゆ行ゆゆきききけむけむけん。。。よよよののの明あ明ああけけけ暮く暮くくるゝるゝるるももも心こころ心こころこころもともともとなくなくなくいとまいとまいとまなきなきなきまでまでまでそこはかともそこはかともそこはかともなけれなけれなけれどどど行おこな行おこなおこなふふう。。。とそてとそてとそてまゝまゝままににに、、、あはれあはれあわれさささいひいひいいしししををを聞き聞ききくくく人ひと人ひとひといかにいかにいかにをかしをかしおかしととと思おも思おもおもひひい見み見みみるるるらむらむらん。。。はかなかりはかなかりはかなかりけるけるける世よ世よよををを、、、などなどなどてててさささいひいひいいけむけむけんととと思おも思おもおもふふう思おも思おもおもふふう行おこな行おこなおこなへへえばばば、、、片かた片かたかた時とき時ときとき淚なみだ淚なみだなみだ浮うか浮うかうかばばばぬぬぬ時とき時ときときなしなしなし。。。人ひと人ひとひと目め目めめぞぞぞいといといとまさりまさりまさり顏がほ顏がほがおなくなくなく耻はづ耻はづはずかしけれかしけれかしければばば、、、おしおしおし隱かく隱かくかくしししつゝつゝつつ明あか明あかあかししし暮く暮くくらすらすらす。。。二十日はつか二十日はつかはつかばかりばかりばかり行おこな行おこなおこなひひいたるたるたる夢ゆめ夢ゆめゆめににに、、、我わ我わわがががかしらかしらかしらをををとりとりとりおろしおろしおろしててて、、、ひたひひたひひたいををを分わ分わわくくくととと見み見みみるるる。。。惡あ惡ああししし善よ善よよしししもももえええ知し知ししらららずずず。。。七八日なぬかやうか七八日なぬかやうかなのかようかばかりばかりばかりありありありててて、、、我わ我わわががが腹はら腹はらはらのののうちうちうちなるなるなるくちなはくちなはくちなわありきありきありきててて肝きも肝きもきもをををはむはむはむ、、、これこれこれををを治ぢ治ぢじせせせむむんやうやうようははは、、、おもておもておもてににに水みづ水みづみずなむなむなん入い入いいるるるべきべきべきととと見み見みみるるる。。。これこれこれもももあやしあやしあやし善よ善よよしししももも知し知ししらららねねねどどどかくかくかくしるししるししるし置お置おおくくくやうやうようははは、、、かゝるかゝるかかる身み身みみのののはてはてはてををを見み見みみ聞き聞ききかかかむむん人ひと人ひとひと、、、夢ゆめ夢ゆめゆめをををももも佛ほとけ佛ほとけほとけをををももも用もち用もちもちゐるゐるいるべしべしべしややや用もち用もちもちゐるゐるいるまじまじまじやややととと定さだ定さださだめめめよよよとととなりなりなり。。。
  3. 3五月ごぐわつ五月ごぐわつごがつにににもももなりなりなりぬぬぬ。。。我わ我わわががが家いへ家いへいえにににとまれとまれとまれるるる人ひと人ひとひとのののもともともとよりよりより「「「おはしまさおはしまさおわしまさずずずともともとも、、、しやうぶしやうぶしょうぶ葺ふ葺ふふかかかででではははゆゝしからゆゝしからゆゆしからむむんををを、、、いかゞいかゞいかがせせせむむんずるずるずる」」」ととといひいひいいたりたりたり。。。「「「いでいでいでなになになにかかかゆゝしからゆゝしからゆゆしからむむん。。。
  4. 4世よ世よよののの中なか中なかなかにににあるあるある我わ我わわががが身み身みみかはかはかはわびわびわびぬれぬれぬればばば更さら更さらさらにににあやめあやめあやめももも知し知ししららられれれざりざりざりけりけりけり」」」
  5. 5とととぞぞぞいひいひいいやらやらやらまほしけれまほしけれまほしけれどどど、、、さるさるさるべきべきべき人ひと人ひとひとしししなけれなけれなければばば心こころ心こころこころににに思おも思おもおもひひい暮くら暮くらくらさささるるる。。。かくかくかくててていみいみいみはてはてはてぬれぬれぬればばばれいれいれいののの所ところ所ところところにににわたりわたりわたりててて、、、ましてましてましていといといとつれづれつれづれつれづれにににてててありありあり。。。ながめながめながめににになりなりなりれれればばば草くさ草くさくさどもどもども生お生おおひひい立た立たたちちちてててあるあるあるををを、、、行おこな行おこなおこなひひいのののひまひまひまににに掘ほ掘ほほりりりあかたあかたあかたせせせなどなどなどするするする。。。あさましきあさましきあさましき人ひと人ひとひと、、、我わ我わわがががかどかどかどよりよりより、、、例れい例れいれいのののきらきらしうきらきらしうきらきらしゅう追お追おおひひい散ち散ちちらしらしらしててて渡わた渡わたわたるるる日ひ日ひひありありあり。。。行おこな行おこなおこなひひいししし居ゐ居ゐいたるたるたるほどほどほどににに、、、「「「おはしますおはしますおわしますおはしますおはしますおわします」」」とととのゝしれのゝしれののしればばば、、、例れい例れいれいののの如ごと如ごとごとくくくぞぞぞあらあらあらむむんととと思おも思おもおもふふうににに、、、胸むね胸むねむねつぶつぶつぶつぶつぶつぶとととはしるはしるはしるににに、、、ひきひきひき過す過すすぎぎぎぬれぬれぬればばば皆みな皆みなみな人ひと人ひとひとおもておもておもてをををまぼりまぼりまぼりかくしかくしかくしててて居ゐ居ゐいたりたりたり。。。我われ我われわれはははましてましてまして二ふた二ふたふた時とき時ときとき三み三みみ時とき時ときときまでまでまで物もの物ものものもももいはいはいわれれれずずず。。。人ひと人ひとひとははは「「「あなあなあな珍めづら珍めづらめずららからからか。。。いかなるいかなるいかなる御み御みみ心こころ心こころこころならならならむむん」」」とてとてとて泣な泣ななくくくもももありありあり。。。わづかわづかわずかにににためらひためらひためらいててて、、、「「「いみじういみじういみじゅう悔くや悔くやくやしうしうしゅう人ひと人ひとひとにににいひいひいい妨さまた妨さまたさまたげげげられられられててて、、、今いま今いまいままでまでまでかゝるかゝるかかる里さと里さとさと住ずみ住ずみずみをををしししててて、、、又また又またまたかゝるかゝるかかる目め目めめををを見み見みみつるつるつるかなかなかな」」」とととばかりばかりばかりいひいひいいててて胸むね胸むねむねのののこがるゝこがるゝこがるる事こと事ことことはははいふいふいう限かぎり限かぎりかぎりもももあらあらあらずずず。。。
  6. 6六月ろくぐわつ六月ろくぐわつろくがつのののついたちついたちついたちののの日ひ日ひひ、、、「「「御おほん御おほんおおん物もの物ものもの忌いみ忌いみいみなれなれなれどどど、、、みかどみかどみかどのののしたしたしたよりよりよりももも」」」とてとてとて文ふみ文ふみふみありありあり。。。怪あや怪あやあやしくしくしく珍めづら珍めづらめずららからからかなりなりなりととと思おも思おもおもひひいててて見み見みみれれればばば「「「いたみいたみいたみははは今いま今いまいまはははももも過す過すすぎぎぎぬぬぬらむらむらんをををいついついつまでまでまであるあるあるへへへにににたるたるたるすみすみすみぞぞぞ。。。いといといとびんびんびんなかなかなかめりめりめりしかしかしかばばばえええ物もの物ものものせせせずずず。。。ものものもの詣まう詣まうもうでゝでゝでてけがらひけがらひけがらい出い出いいででで來き來ききてててとゞまりとゞまりとどまりぬぬぬ」」」などなどなどぞぞぞあるあるある。。。そこらそこらそこらにににととといまだいまだいまだきりきりきりぬぬぬやうやうようもももあらあらあらじじじととと思おも思おもおもふふうににに心こころ心こころこころうううさささもももまさりまさりまさりぬれぬれぬれどどど念ねん念ねんねんじじじてててかへりかへりかえりごとごとごとかくかくかく、、、「「「いといといと珍めづら珍めづらめずらしきしきしきはははおぼめくおぼめくおぼめくまでまでまでなむなむなん。。。こゝこゝここにににはははひさしくひさしくひさしくなりなりなりぬるぬるぬるをををげにげにげにいかでいかでいかでかはかはかはおぼしおぼしおぼしよらよらよらむむん。。。さてさてさてももも見み見みみ給たま給たまたまひひいしししあたりあたりあたりとととははは、、、思おぼ思おぼおぼしししかけかけかけぬぬぬ御おほん御おほんおおんありきありきありきののの度たび度たびたび々たび々たびたびににになむなむなん。。。すべてすべてすべて今いま今いまいままでまでまで世よ世よよににに侍はべ侍はべはべるるる身み身みみののの怠おこた怠おこたおこたりりりなれなれなればばば、、、さらにさらにさらにきこえきこえきこえずずず」」」とととものものものしししつつつ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

今は三月の末になった。たいそう所在ないので、方忌みも避けがてら、しばらくよそにと思って、地方官を務める人(父)の家に移る。気がかりだったことも無事に済んだので、長い精進を始めようと思い立って、物などを片づけたりしているうちに、(兼家から)「勘事(お怒り)はまだ重いのだろうか。お許しがあれば、夕暮れにどうだろう」と言ってきた。侍女たちが見聞きして、「こんなふうに心を離れさせてばかりいるのは、たいそうよくないことです。せめて今度だけでも、お返事は丁重に」と騒ぐので、ただ「月も見ないのに、妙なことを」とだけ書いてやった。まさか(来は)すまいと思っていたので、急いで(父の家に)移った。それなのに平気な顔で、夜更けに姿を見せた。例によって心の煮えたぎることも多かったけれど、狭くて人の騒がしい所なので、息もつけず、胸に手を当てたような思いで夜を明かした。(あの人は)気をつけてあれこれしなければならないことがあったので急いで帰ったが、それならそうで(また来る)心があってもよいのに、また今日か今日かと思っているうちに、音沙汰もなくて四月になった。(あの人の家は)たいそう近い所なのに、門前に車が止まっている。「お入りになるのでしょうか」などと、心穏やかでなく言う人までいるのが、たいそう苦しい。以前よりも、いっそう心を切り刻む思いがする。返事をきちんとせよ、きちんとせよと言っていた侍女たちまで、恨めしくつらい。

一日、幼い子を呼んで、「長い精進を始めるのです。一緒にしなさい」と言って始めた。私も始めた。私も、初めから大げさにはせず、ただ土器に香を盛って、脇息の上に置いて、そのまま寄りかかって仏を念じ申し上げる。その心は、「ただもう、この上なく幸いのなかった身です。長年でさえ、世に心の休まることもなく、つらいと思っていたのに、まして今はこんなにあきれたことになってしまいました。早く死なせていただいて、菩提をかなえてください」というものである。勤行するにつれて、涙がほろほろとこぼれる。ああ、今どきは女も数珠を下げ、経を下げない者はないと聞いた時、「得意顔をする人ほど、やもめになるそうよ」などと非難した心は、どこへ行ったのだろう。夜の明けるのも暮れるのも待ちかねるほど、暇もないくらいに、何ということもなく勤行する。そうするにつけて、ああ、あんなことを言ったのを聞いた人は、どんなにおかしいと思って見ていることだろう。はかないこの世なのに、どうしてあんなことを言ったのだろうと思いながら勤行すると、片時も涙の浮かばない時はない。人目もたいそう得意顔どころではなく恥ずかしいので、隠しながら日を明かし暮らす。二十日ほど勤行した夜の夢に、私が髪を下ろして、額を分ける(尼になる)と見た。吉凶もわからない。七、八日ほどして、私の腹の中にいる蛇が動きまわって肝を食む、これを治すには、顔に水を注ぐのがよいと見た。これも吉凶はわからないけれど、こうして書きとめておくわけは、このような身の行く末を見聞きする人に、夢も仏も信じるべきか信じるべきでないかを、判断してほしいからである。

五月にもなった。わが家(もとの家)に残っている人のもとから、「(殿が)おいでにならなくても、菖蒲を葺かないのは縁起が悪いでしょうに、どうしましょう」と言ってきた。「いや、何が縁起が悪いことがあろう。

世の中にある私の身だろうか(もう世に生きている身ではない)、わびしく思っているので、まったく菖蒲(文目=物の道理)もわからなくなってしまった」

と言ってやりたいけれど、言ってやるのにふさわしい人もいないので、心の中で思って日を暮らす。こうして物忌みも明けたので、いつもの家に戻って、ますます所在なく過ごしている。長雨になったので、草々が生い茂っているのを、勤行の合間に掘り分けさせたりする。あきれた人(兼家)が、わが家の門前から、例のように華やかに先払いをして通る日があった。勤行をしていると、「おいでになります、おいでになります」と騒ぐので、いつものように(素通り)だろうと思うものの、胸がどきどきと騒ぐのに、通り過ぎてしまったので、皆、顔を見合わせて隠しあって座っている。私はまして二、三時間も口がきけない。侍女たちは「まあ珍しい。どんなお心なのでしょう」と言って泣く者もいる。わずかに気を落ち着けて、「ひどく悔しいことに、人に言い止められて、今までこんな里住まいをして、またこんな目を見たことよ」とだけ言って、胸の焦げることは言いようもない。

六月一日、「物忌みだけれど、門の下からでも(届けよ)」と言って手紙が来た。妙に珍しいことだと思って見ると、「(あなたの)お怒りは今はもう過ぎたろうに、いつまで籠もっている墨染めの身なのか。たいそう具合が悪そうだったので行けなかった。物詣でをして、穢れが生じて(家に)とどまっていたのだ」などとある。そんなことがあったはずもないと思うと、いっそう情けなくなったけれど、こらえて返事を書く。「たいそう珍しいお手紙は、どなたからかと思うほどで。こちらは久しくご無沙汰になりましたので、なるほどどうしてお思いつきになりましょう。それにしても、昔ご覧になったあたりとは、お思いにもならないお出かけがたびたびで。すべて今まで世に生きている私の身の怠りですので、何も申し上げません」と書いてやった。

意訳

〔通じない心〕三月末、父の家に移った作者のもとに、兼家は夜更けに訪れる。けれども狭い家の騒がしさの中で、作者は胸に手を当てるような思いで一夜を明かすだけ。四月になると、兼家の車は作者の家の前に止まっても、中には入らない。

〔長精進〕四月一日、作者は道綱とともに長い精進を始める。祈りは「早く死なせて菩提をかなえたまえ」。かつて数珠や経を持ち歩く女たちを笑った自分が、今はひたすら勤行に打ちこんでいる。作者は自嘲をこめてそれを書く。

〔二つの夢〕精進の間に見た夢は、髪を下ろして尼となる夢と、腹の中の蛇が肝を食み、顔に水を注げば治るという夢だった。作者は吉凶もわからないまま、夢や仏を信じるべきかどうかを、後の世の読者に判断してほしいと書き残す。日記を読む他者を意識した、注目すべき一文である。

〔白々しい手紙〕五月、菖蒲を葺くことさえ「あやめも知られず」と思う作者の家の前を、兼家は先払いを響かせて素通りする。六月一日に届いた手紙は「物詣でで穢れたから行けなかった」という見え透いた言い訳で、作者は皮肉をこめて返事を書く。

語釈・文法注

文法

「縣ありきの所」
地方官として地方を回る人(父倫寧)の家。
「かうじは猶や重からむ」
「勘事(かうじ)」は、とがめ、お怒り。作者の怒りをいう。
「あくがらしはつる」
すっかり心を離れさせてしまう。
「かにあらじ」
底本どおり。注記に「よも」の脱字かとあり、「よもかくはあらじ」と解する。
「つれなきはそうに」
底本どおり。注記に「さ」の異文がある。平然と、の意に解する。
「もいと近き所なるを」
底本どおり。注記に「り」の脱字かとあり、「いと近き所なるを」と解する。
「我はた始めつ。我はた始よりも」
底本どおり。注記に「四字衍歟」とあり、重複と見られる。
「かはらけにかう」
土器に香を(盛って)。
「まさり顏なさるものぞやもめには成るてふ」
得意顔をする女ほどやもめになる、という言いぐさ。
「とそてまゝに」
底本どおり。注記に「三字さするイ」とあり、意味がとりにくい。
「くちなは」
蛇。
「ながめになりれば」
底本の注記に「ぬ」の脱字かとあり、「長雨になりぬれば」と解する。
「掘りあかたせ」
底本どおり。「掘り分かたせ」の意に解する。
「まぼりかくして」
見つめ合って隠し合う。顔を見合わせる。
「ある へにたるすみぞ」
底本どおり。注記に「三字すみぞめ」などとあり、墨染めの(尼のような)身、の意に解する。
「そこらにといまだきりぬやうも」
底本どおりで意味がとりにくい。そんなことがあったはずもない、の意に解する。

和歌

世の中にある我が身かはわびぬれば更にあやめも知られざりけり

詠者
道綱母(作者)
状況
五月の節句に、菖蒲を葺かないのは縁起が悪いと言ってきた留守の者に、言ってやりたかった歌。実際には送らなかった。

修辞

掛詞
「あやめ」に「菖蒲」と「文目(物の道理)」を掛ける。

解説

天禄二年(971)四月、作者は長い精進を始めた。精進は肉食を断ち、身を清めて仏道に励むことで、出家への準備でもあった。作者は道綱にも一緒に精進させている。

精進中の二つの夢を記した後、作者は「夢をも仏をも用ゐるべしや用ゐるまじやと定めよ」と書く。これは、後にこの日記を読む人に向けた言葉であり、作者が自分の日記を他者に読まれるものとして書いていたことを示している。

兼家の言い訳の手紙に対する作者の返事は、皮肉に満ちている。「見給ひしあたりとは思しかけぬ御ありき」とは、昔通った家の前を素通りすることへの痛烈な当てこすりである。この後、作者は鳴滝の般若寺に籠もる決意を固める。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、89–92頁(コマ47–49)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日