古典ライブラリー

蜻蛉日記 上巻 第5章

町の小路の女の没落と長歌

子を産んでから兼家の寵愛を失った町の小路の女は、その子にも死なれて落ちぶれる。作者は胸のすく思いをしながらも、兼家への恨みは晴れず、口では言えない思いを、結婚以来の日々をたどる長歌に書きつけて二階棚に置く。兼家は会わずに、その文だけを持ち帰る。

  1. 1らうらうろうやうやうようなるなるなるほどほどほどににに、、、かのかのかのめでたきめでたきめでたき所ところ所ところところにににははは子こ子ここ產う產ううみみみてててしししよりよりよりすさまじげすさまじげすさまじげににになりなりなりてててたべかたべかたべかめれめれめればばば人ひと人ひとひとにくかりにくかりにくかりししし心こころ心こころこころ思おも思おもおもひひいしししやうやうようははは、、、いのちいのちいのちはははあらあらあらせせせででで我わ我わわががが思おも思おもおもふふうやうやうようにににおしおしおし返かへ返かへかえしししものものものををを思おも思おもおもははわせせせばばばやややととと思おも思おもおもひひいしししをををさやうさやうさようににになりなりなりそそそててていていていて、、、はてはてはてはははうみうみうみのゝしりのゝしりののしりししし子こ子ここさへさへさへ死し死ししぬぬぬものものものははは、、、のののひかみひかみひかみたりたりたりしししみみみ子こ子ここののの落おと落おとおとしししだねだねだねなりなりなり。。。いふいふいうかひかひかいなくなくなくわろきわろきわろき事こと事ことこと限かぎり限かぎりかぎりなしなしなし。。。唯ただ唯ただただこのこのこの頃ころ頃ころころののの知し知ししらららぬぬぬ人ひと人ひとひとのののもてもてもて騷さわ騷さわさわぎぎぎつるつるつるにににかゝりかゝりかかりてててありありありつるつるつるをををにはかにはかにはかせせせにににかくかくかくなりなりなりぬれぬれぬればばば、、、いかなるいかなるいかなるうちうちうちかかかはしはしはしけむけむけん。。。我わ我わわががが思おも思おもおもふふうにににははは今いま今いまいま少すこ少すこすこしししうちうちうちまさりまさりまさりててて歎なげ歎なげなげくくくらむらむらんととと思おも思おもおもふふうににに今いま今いまいまににに胸むね胸むねむねはははあきあきあきたるたるたる。。。
  2. 2今いま今いまいまぞぞぞ例れい例れいれいののの所ところ所ところところにににうちうちうちはらひはらひはらいてててなどなどなど聞き聞ききくくく。。。されどされどされどこゝこゝここにににははは例れい例れいれいのののほどほどほどにににぞぞぞ通かよ通かよかよふふうめれめれめればばば、、、ともともともすれすれすればばば心こころ心こころこころづきづきずきなうなうのうのみのみのみ思おも思おもおもふふうほどほどほどににに、、、こゝこゝここなるなるなる人ひと人ひとひとかたかたかたことことことなどなどなどするするするほどほどほどににになりなりなりてててぞぞぞあるあるある。。。いへいへいえとととてててははは必かならず必かならずかならず「「「今いま今いまいま來こ來ここむむむ」」」ととといふいふいうををを聞き聞きききききたりたりたりてててまねびまねびまねびありありありててて。。。かくかくかくててて又また又またまた心こころ心こころこころののの解と解ととくるくるくるににになくなくなくなけなけなけあるゝあるゝあるるみみみなななまさかしまさかしまさかしとととなどなどなどするするする人ひと人ひとひとははは、、、若わか若わかわかきききつつつそらそらそらににになどなどなどかくかくかくてててはははいふいふいう事こと事ことこともももあれあれあれどどど、、、人ひと人ひとひとはははいといといとつれなうつれなうつれのう、、、我われ我われわれやややあしきあしきあしきなどなどなどうらうらうらもももなうなうのう、、、罪つみ罪つみつみなきなきなきさまさまさまにににもてもてもてないないないたれたれたればばば、、、いかゞいかゞいかがはははすすすべきべきべきなどなどなど萬よろづ萬よろづよろずににに思おも思おもおもふふう事こと事ことことのみのみのみ繁しげ繁しげしげきききををを、、、いかでいかでいかでつぶつぶつぶつぶつぶつぶととといひいひいいしらしらしらするするするものものものにににもももがながながなととと思おも思おもおもひひい亂みだ亂みだみだるゝるゝるる時とき時ときとき、、、心こころ心こころこころづきづきずきなきなきなきややや、、、胸むね胸むねむねうちうちうちさめさめさめてててものものものいはいはいわれれれずずずのみのみのみありありあり。。。なほなほなお書か書かかきききつゞけつゞけつづけてててももも見み見みみせせせむむんととと思おも思おもおもひひいててて、、、
  3. 3「「「おもへおもへおもえたゞたゞただむかしむかしむかしもももいまいまいまもももわわわがががこゝろこゝろこころのどけからのどけからのどけからでででややや
  4. 4はてはてはてぬぬぬべきべきべきみみみそめそめそめしししあきあきあきはははことことことののの葉は葉ははのののうすうすうすいろいろいろにににややや
  5. 5うつろふうつろふうつろうとととなげきなげきなげきのののしたしたしたににになげかなげかなげかれれれきききふゆふゆふゆはははくもくもくもゐゐいににに
  6. 6わかれわかれわかれゆくゆくゆくひとひとひとをををしむしむしむとととはつはつはつしぐれしぐれしぐれくもりくもりくもりもももあへあへあえずずず
  7. 7降ふ降ふふりりりそぼちそぼちそぼちこゝろこゝろこころぼそくぼそくぼそくはははありありありしかしかしかどどどきみきみきみにににはははしもしもしもののの
  8. 8わするわするわするなななととといひいひいいおきおきおきつつつとととかかか聞き聞きききききしかしかしかばばばさりともさりともさりともととと思おも思おもおもふふう
  9. 9ほどほどほどもももなくなくなくとみとみとみにににはるけきはるけきはるけきわたりわたりわたりにににててて白しら白しらしらてててもももばかりばかりばかり
  10. 10ありありありしかしかしかばばばこゝろこゝろこころそらそらそらにににててて經へ經へへしししほどほどほどにににきみきみきみみみみももも靆たなび靆たなびたなびききき
  11. 11絕た絕たたえええにににけりけりけりまたまたまたふるふるふるさとさとさとにににかりかりかりがねがねがねののの歸かへ歸かへかえるるるつらつらつらにににやややととと
  12. 12おもひおもひおもいつゝつゝつつふれふれふれどどどかひかひかいなしなしなしかくかくかくしししつゝつゝつつ我わ我わわががが身み身みみむなしくむなしくむなしく
  13. 13せみせみせみののの羽は羽ははのののいまいまいましもしもしもひとひとひとのののうすからうすからうすからずずずなみだなみだなみだのののかはかはかはののの
  14. 14はやくはやくはやくよりよりよりかくかくかくあさましきあさましきあさましきそらそらそらゆゑゆゑゆえにににながるゝながるゝながるることことことももも
  15. 15絕た絕たたえええねねねどもどもどもいかなるいかなるいかなるつみつみつみかかかおもるおもるおもるらむらむらんゆきゆきゆきもももはなれはなれはなれずずず
  16. 16かくかくかくてててのみのみのみひとひとひとのののうきうきうき瀨せ瀨せせにににたゞよひたゞよひただよいてててつらきつらきつらきこゝろこゝろこころははは
  17. 17水みづ水みづみずのののあわあわあわののの消き消ききえええばばば消き消ききえええなむなむなんとととおもへおもへおもえどもどもどもかなしきかなしきかなしきことことことははは
  18. 18みちみちみちのののくくくのののつゞじつゞじつつじのののをかをかをかのののくまくまくまつゞじつゞじつつじくるくるくるほどほどほどをををだにだにだに
  19. 19またまたまたでででやややははははするはするはするををを絕た絕たたゆゆゆべきべきべきあふくまあふくまあぶくまのののあひあひあい見み見みみてててだにだにだにととと
  20. 20おもひおもひおもいつゝつゝつつなげくなげくなげくなみだなみだなみだのののころもころもころも手で手ででにににかゝらかゝらかからぬぬぬ世よ世よよにににももも
  21. 21經ふ經ふふべきべきべき身み身みみをををなぞなぞなぞやややととと思おも思おもおもへへえどどどあふあふあうばかりばかりばかりかけかけかけはなれはなれはなれてててははは
  22. 22しかしかしかすがにすがにすがにこひしかるこひしかるこいしかるべきべきべきからからからごろもごろもごろもうちうちうち着き着ききてててひとひとひとののの
  23. 23うらうらうらもももなくなくなくなれなれなれしししこゝろこゝろこころをををおもひおもひおもいてててはははうきうきうき世よ世よよをををされされされるるる
  24. 24かひかひかいもももなしなしなしおもひおもひおもい出い出いいでででなきなきなきわれわれわれやややせせせむむんととと思おも思おもおもひひいかくかくかく思おも思おもおもひひい
  25. 25おもふおもふおもうまままにににやまやまやまとととつもれつもれつもれるるるしきしきしきたへたへたえのののまくらまくらまくらのののちりちりちりももも
  26. 26ひとりひとりひとりねねねのののかずかずかずにににしししとらとらとらはははつきつきつきぬぬぬべしべしべしなになになにかかか絕た絕たたえええぬるぬるぬる
  27. 27たびたびたびなりなりなりとととおもふおもふおもうものものものからからからかぜかぜかぜ吹ふ吹ふふきききてててひとひとひと日ひ日ひひももも見み見みみえええじじじ
  28. 28あまあまあまぐもぐもぐもはははかへりかへりかえりしししときときときのののなぐさめなぐさめなぐさめににに今いま今いまいまこここむむんととといひいひいいししし
  29. 29ことことことののの葉は葉ははをををさもさもさもやややとととまつまつまつのののみどりみどりみどりごごごのののたえたえたえずずずまねぶまねぶまねぶももも
  30. 30聞き聞ききくくくごとごとごとにににひとひとひとわろくわろくわろくなるなるなるなみだなみだなみだのみのみのみわわわががが身み身みみをををうみうみうみととと
  31. 31たゝへたゝへたたえてててもももみるみるみるめめめもももよせよせよせぬぬぬみそみそみそののの浦うら浦うらうらはははかひかひかいもももあらあらあらじじじととと
  32. 32知し知ししりりりながらながらながらいのちいのちいのちあらあらあらばばばとととたのめたのめたのめこここしししことことことばかりばかりばかりこそこそこそ
  33. 33しらしらしらなみなみなみのののたちたちたちもももよりよりよりこここばばば問と問ととはははまほしけれまほしけれまほしけれ」」」
  34. 34ととと書か書かかきききつけつけつけててて二に二ににののの中なか中なかなかににに置お置おおきききたりたりたり。。。例れい例れいれいのののほどほどほどにににものものものしししたれたれたれどどどそなたそなたそなたにににももも出い出いいでででずずずなどなどなどあれあれあればばば、、、居ゐ居ゐいわづらひわづらひわずらいてててこのこのこの文ふみ文ふみふみばかりばかりばかりをををとりとりとりててて歸かへ歸かへかえりりりにににけりけりけり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

堪えがたいほどに思っていたところ、あの今をときめく所(町の小路の女)では、子を産んでからというもの、あの人の寵愛が冷めてしまったようなので、憎らしいと思っていた私の心では、命は長らえさせておいて、私が苦しんだように、思い知らせてやりたいと思っていたのだが、そのとおりになって、しまいには、大騒ぎして産んだ子まで死んでしまったのである。あの女は、孫王で、ひねくれ者だった皇子の落とし胤であった。言いようもなく卑しいことこの上ない。ただ、この頃の事情を知らない人(兼家)がもてはやしたのに頼って暮らしていたのを、急にこうなってしまったのだから、どんな気持ちでいることだろう。私が思うに、私が嘆いたよりも、もう少しまさって嘆いているだろうと思うと、今こそ胸がすっとした。

今では、あの人はいつもの所(時姫)に戻って落ち着いた、などと聞く。けれども、こちらへは相変わらずの間隔で通ってくるだけなので、ともすれば不愉快にばかり思っているうちに、ここにいる子(道綱)が片言などを話すほどになっていた。あの人が帰るときには必ず「すぐ来るよ」と言うのを聞き覚えて、まねをしている。こうして、また私の心が解けないのを、「なぜそんなに」と、わかったようなことを言う侍女たちは、若い者の分際で、どうしてそんなふうでいるのかなどと言うこともあるけれど、あの人はまったく平気な顔で、「私が悪いのか」などと屈託もなく、罪のない様子にふるまっているので、どうしたらよいのかなどと、あれこれ思うことばかりが多いのを、何とかしてこまごまと言い知らせる方法があればよいのにと思い乱れる時、気に入らないことに、胸がつかえて何も言えないでばかりいる。やはり書き連ねてでも見せようと思って、

「考えてもみてください、昔も今も、私の心は、穏やかでないまま

終わってしまうのでしょうか。初めて見そめた秋は、あなたの言葉の薄い色に、

もう心変わりしたかと、嘆きの木の下で嘆かれたものでした。冬には、遠い空へと

別れて行く人(父)を惜しむと、初時雨が、空も曇りきらないうちに

降りそそぐように涙にくれて、心細くはありましたが、あなたには、霜のように置く

「忘れるな」と父が言い置いたとか聞いたので、それでもと思って頼みにしていました。

ところがほどもなく、はるかに遠いあたり(父の任国)にいて、白雲ばかりを眺める

日々でしたので、心も上の空で過ごしているうちに、あなたの訪れも、雲がたなびくように

途絶えてしまいました。また古里に帰る雁の列のように、あなたも帰って来るかと

思い続けて、日を過ごしてもかいがありません。こうしているうちに、わが身はむなしく、

蝉の羽のように薄い今の人(町の小路の女)ではなく、あなたの心は薄くないと思いますが、涙の川は

ずっと前から、このようなあきれた空模様のために、流れることも

絶えないけれど、どんな罪が重いのでしょう、雪が身から離れないように、

こうしてばかり、つらい瀬にただよって、つれない心は

水の泡のように消えるなら消えてしまおうと思うけれど、悲しいことには、

陸奥のつつじの岡の熊つつじ(父)が、帰って来るまでの間さえ

待たないで、宿縁を絶ってしまってよいものか。逢隈ではないが、せめて逢ってからと

思いながら、嘆く涙が袖に

かからない日はないこの世に、それでも生きていくべき身をどうしてと思うけれど、逢うことが

すっかり途絶えてしまっては、さすがに恋しいことでしょう。唐衣を着て、あなたが

何の隔てもなく馴れ親しんだ心を思うと、つらいこの世を逃れても

かいもない、思い出もない私になってしまうでしょうか。ああ思い、こう思い

思っているうちに、山と積もった敷妙の枕の塵も、

独り寝の数に数えたら、尽きてしまうでしょう。どうして縁の絶えた

旅だと思いましょう、とは思うものの、風が吹いても一日も姿を見せず、

空の雲のように、帰った時の慰めに「すぐ来るよ」と言った

あなたの言葉を、そうかと待つ幼子(道綱)が、絶えずまねるのも

聞くたびに、みっともないほど涙ばかりがあふれ、わが身を憂しと、海と

湛えても、みるめ(海松布・逢う機会)も寄せない、みその浦では、かいもあるまいと

知りながら、命があればと、あなたが頼みにさせた言葉ばかりこそ、

白波が立ち寄るように、もし寄って来てくださるなら、問いただしたいものです」

と書きつけて、二階棚の中に置いておいた。あの人がいつものころにやって来たけれど、私がそちらにも出て行かないなどしているので、居づらくなって、この手紙だけを取って帰って行った。

意訳

〔町の小路の女の没落〕子を産んだのを境に、町の小路の女への兼家の寵愛は冷め、その子も死んでしまう。作者は女の素性を「孫王のひがんだ皇子の落とし胤」と容赦なく書き、「今こそ胸がすっとした」とまで言い切る。自分を苦しめた相手の不幸を喜ぶ心を、作者は隠そうともしない。率直すぎるほどの告白である。

〔長歌〕それでも兼家は時姫のもとへ戻り、作者への訪れは相変わらず間遠である。幼い道綱は、兼家の口癖「今来む」をまねるようになった。面と向かうと胸がつかえて何も言えない作者は、結婚してからの日々――はじめの秋のときめきと不安、父の旅立ち、途絶えがちな訪れ、出家を考えながらも思いとどまる心、独り寝の夜、「今来む」をまねる子の声――を、長歌にしてぶつける。最後に「命あらば」と頼ませた言葉の真意を問いたいと結ぶこの歌は、作者の結婚生活の総決算であり、日記の上巻を代表する一編である。

語釈・文法注

そんわう
孫王。天皇の孫。ここでは、町の小路の女が、天皇の孫にあたる皇子の落とし胤(正式でない子)であったことをいう。
二階
二階棚。上下二段になった棚。手回りの品や文箱を置いた。

文法

「らうやうなるほどに」
底本どおり。注記に「かう」の異文があり、意味がとりにくい。通行本文は「さて、よう(様)なるほどに」とも「らうがはしき」とも解される。
「たべかめれば」
「絶えぬべかめれば」の意に解する。通行本文は「たえぬべかめれば」。
「なりそていて」
底本どおり。注記に「ゆ」の異文があり、「なりゆきて」と解される。
「そんわうのひかみたりしみ子」
「孫王の、ひがみたりし皇子」。ひねくれていた皇子。
「にはかせに」
底本どおり。注記に「せ」は衍字かとあり、「にはかに」の意に解する。
「今に胸はあきたる」
今こそ胸のつかえがおりた。「あく」は、晴れる、すっきりする。
「かくて又心の解くるになく」
底本どおり。注記に「な」の異文があり、心の解けることがない、の意に解する。
「なけあるゝみなまさかしと」
底本どおりで意味がとりにくい。注記に「かる」「なカ」などがある。通行本文は「なげかるるを、なまさかしらなどする人は」とし、わかったふうな口をきく侍女は、と解される。
「ひとをしむと」
底本の本文は「ひとをしむと」で、小字の注記で「を」の脱字を示す。人を惜しむと。
「はするを絕ゆべき」
底本どおり。「宿世(すくせ)を絶ゆべき」の誤りかとする説がある。

和歌

おもへたゞむかしもいまもわがこゝろのどけからでやはてぬべき…しらなみのたちもよりこば問はまほしけれ

詠者
道綱母(作者)
状況
心の解けない作者が、口では言えない思いを書き連ね、二階棚に置いて兼家に見せた長歌。結婚以来の歳月をふりかえる。

修辞

構成
「みそめしあき」の求婚から、父の旅立ち(冬)、訪れの途絶え、出家への迷い、独り寝、子の口まね、と時の順に結婚生活をたどる。
掛詞・縁語
「なげき」に「木」、「ふる」に「降る」と「経る」、「うみ」に「海」と「憂み」、「みるめ」に「海松布」と「見る目(逢う機会)」、「かひ」に「貝」と「甲斐」を掛け、海と浦の縁語で結ぶ。
歌枕
陸奥の「つつじの岡」「あふくま(阿武隈)」、駿河の「みその浦」など、父の任国を思わせる地名を織りこむ。

解説

天徳二年(958)ごろ、町の小路の女は兼家の寵愛を失い、生まれた子も亡くなった。作者はその女の出自を「そんわうのひかみたりしみ子の落しだね」と書く。皇族の血を引くとはいえ、正式な子でない女を見下す作者の筆には、受領の娘でありながら名門の妻となった自負がのぞいている。それにしても、相手の子の死まで「胸はあきたる」と書く率直さは、王朝の女性の文章としては驚くべきものである。

長歌は、和歌の一形式で、五七を繰り返して最後を五七七で結ぶ。『万葉集』の時代に盛んだったが、平安時代にはあまり詠まれなくなっていた。作者が短歌では収まりきらない思いを長歌にしたのは、夫との対話が成り立たない中で、自分の結婚生活をまとめて訴えるためであった。歌は、求婚の秋から始まって、季節と出来事を追いながら、独り寝の寂しさ、子の口まねに涙する場面へと進む。

兼家はこの長歌を読むと、自分も長歌で返す(第6章)。夫婦が長歌で応酬するという珍しいやりとりは、互いに言葉のやりとりでしか心を通わせられない二人の関係をよく表している。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、35–38頁(コマ20–22)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日