古典ライブラリー

蜻蛉日記 上巻 第3章

町の小路の女と千鳥の歌

兼家は町の小路の女のもとへ公然と通うようになり、時姫も新しい邸へ移されて、作者は取り残される。真菰草・もみぢ葉・藻塩の烟と、兼家への恨みを歌に託し、同じように訪れの途絶えた時姫を見舞う。年が明けると、兼家が置き忘れた手紙を取りに使いをよこし、作者は千鳥の歌で切り返す。

  1. 1かくかくかくててて今いま今いまいまはははこのこのこのまちまちまちののの小こう小こうこう路ぢ路ぢじにににわざとわざとわざと色いろ色いろいろににに出い出いいでででにににたりたりたり。。。本もと本もともとははは人ひと人ひとひとをををだにだにだにあやしあやしあやし悔くや悔くやくやしししととと思おも思おもおもひひいげげげなるなるなる時とき時ときときがちがちがちなりなりなり。。。いふいふいう方かた方かたかたなうなうのうころころころ憂う憂ううしししととと思おも思おもおもへへえどもどもどもなになになにわざわざわざをををかかかせせせむむん。。。このこのこの今いま今いまいま一ひと一ひとひとかたかたかたのののいでいでいで入い入いいりりりするするするををを見み見みみつゝつゝつつあるあるあるににに、、、今いま今いまいまははは心こころ心こころこころ安やす安やすやすかるかるかるべきべきべき所ところ所ところところへへへとてとてとてゐゐいてててわたすわたすわたす。。。とまるとまるとまる人ひと人ひとひとましてましてまして心こころ心こころこころぼそしぼそしぼそし。。。影かげ影かげかげももも見み見みみえええがたがたがたかべいかべいかべい事こと事ことことなどなどなどまめやかまめやかまめやかににに悲かな悲かなかなしうしうしゅうなりなりなりててて、、、車くるま車くるまくるま寄よ寄よよするするするほどほどほどにににかくかくかくいひいひいいやるやるやる、、、
  2. 2「「「などなどなどかゝるかゝるかかる歎なげ歎なげなげきききはははしげさしげさしげさまさりまさりまさりつゝつゝつつ人ひと人ひとひとのののみみみかゝるかゝるかかる宿やど宿やどやどとととなるなるなるらむらむらん」」」
  3. 3かへりかへりかえりごとごとごとははは男をとこ男をとこおとこぞぞぞしししたるたるたる、、、
  4. 4「「「思おも思おもおもふふうてふてふちょう我わ我わわががが言こと言ことことののの葉は葉ははをををあだあだあだびとびとびとのののしげきしげきしげきなげきなげきなげきにににそへそへそえてててうらむうらむうらむななな」」」
  5. 5などなどなどいひいひいい置お置おおきききててて皆みな皆みなみなわたりわたりわたりぬぬぬ。。。思おも思おもおもひひいしもしもしもしるくしるくしるく只ただ只ただただひとりひとりひとり臥ふ臥ふふししし起お起おおきききずずず大おほ大おほおおひたひたいたののの世よ世よよのののうちうちうちあはあはあわぬぬぬことことことはははなけれなけれなければばば唯ただ唯ただただ人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころののの思おも思おもおもははわすすすなるなるなるををを、、、我われ我われわれのみのみのみならならならずずず、、、年とし年としとしごろごろごろののの所ところ所ところところにににももも絕た絕たたえええにににたなりたなりたなりととと聞き聞きききききててて、、、文ふみ文ふみふみなどなどなど通かよ通かよかよふふう事こと事ことことありありありけれけれければばば五月ごぐわつ五月ごぐわつごがつ三四日みかよか三四日みかよかみかよかのののほどほどほどにににかくかくかくいひいひいいやりやりやりぬぬぬ、、、
  6. 6「「「底そこ底そこそこにににさへさへさへよるよるよるととといふいふいうなるなるなるまこもまこもまこもいかなるいかなるいかなるさとさとさとににに根ね根ねねをををとゞむとゞむとどむらむらむらん」」」。。。
  7. 7かへしかへしかへし、、、
  8. 8「「「まこもまこもまこも草ぐさ草ぐさぐさ刈か刈かかるるるとととははは淀よど淀よどよどのののさささはなれはなれはなれややや根ね根ねねをををとゞむとゞむとどむてふてふちょう澤さは澤さはさわはははそこそこそことととかかか」」」。。。
  9. 9六月ろくぐわつ六月ろくぐわつろくがつににになりなりなりぬぬぬ。。。ついたちついたちついたちかけかけかけててて長なが長ながなが雨あめ雨あめあめいたういたういとうすすす。。。見み見みみ出いだ出いだいだしししててて獨ひとり獨ひとりひとり言ごと言ごとごとににに、、、
  10. 10「「「我わ我わわががが宿やど宿やどやどのののなげきなげきなげきのののしたしたしたははは色いろ色いろいろふかくふかくふかくうつろひうつろひうつろいにににけりけりけりながめながめながめふるふるふるまままににに」」」
  11. 11などなどなどいふいふいうほどほどほどににに七月しちぐわつ七月しちぐわつしちがつににになりなりなりぬぬぬ。。。絕た絕たたえええぬぬぬととと見み見みみましかましかましかばかりばかりばかりににに來く來くくるるるにににははは勝まさ勝まさまさりりりなましなましなましなどなどなど思おも思おもおもひひい續つづ續つづつづくるくるくるをりをりおりににに、、、物もの物ものものしししたるたるたる日ひ日ひひありありあり。。。物もの物ものものもももいはいはいわねねねばばばさうざうしげさうざうしげそうぞうしげなりなりなり。。。前まへ前まへまえなるなるなる人ひと人ひとひとありありありししし下した下したした葉ば葉ばばののの事こと事ことことををを物もの物ものものののの序ついで序ついでついでにににいひいひいい出い出いいでででたれたれたればばば聞き聞きききききてててかくかくかくいふいふいう、、、
  12. 12「「「をりをりおりならならならででで色いろ色いろいろつきつきつきにににけるけるけるもみぢもみぢもみじ葉ば葉ばばはははときときときにににあひあひあいてててぞぞぞいろいろいろまさりまさりまさりけるけるける」」」
  13. 13とととぞぞぞ書か書かかきききつくるつくるつくる書か書かかきききつくるつくるつくる。。。かくかくかくありありあり續つづ續つづつづききき絕た絕たたえええずずずはははくれくれくれどもどもども、、、心こころ心こころこころのののとくるとくるとくる夜よ夜よよなさなさなさににに、、、荒あ荒ああれれれ勝まさ勝まさまさりりりつゝつゝつつ來き來ききてててははは氣け氣けけ色しき色しきしき惡あ惡ああしけれしけれしければばば、、、たふるゝたふるゝたおるるにににたちたちたちととと立た立たたちちち歸かへ歸かへかえるるる時とき時ときときもももありありあり。。。近ちか近ちかちかききき隣となり隣となりとなりににに心こころ心こころこころばへばへばえ知し知ししれれれるるる人ひと人ひとひと出い出いいづるづるずるににに合あは合あはあわせせせてててかくかくかくいへいへいえりりり、、、
  14. 14「「「藻も藻もも鹽しほ鹽しほしおやくやくやく烟けぶり烟けぶりけぶりののの空そら空そらそらににに立た立たたちちちぬるぬるぬるはははやややしししつるつるつるくゆるくゆるくゆる思おも思おもおもひひいににに」」」
  15. 15などなどなどとととなりなりなり。。。さかしらさかしらさかしらするするするさささでででふすべふすべふすべかはしかはしかわしててて、、、このこのこの頃ころ頃ころころははは殊こと殊ことことににに久ひさ久ひさひさしうしうしゅう見み見みみえええずずず、、、たゞたゞただなりなりなりししし折をり折をりおりはははさしもさしもさしもあらあらあらざりざりざりしししををを、、、かくかくかくころころころあかあかあかくがれくがれくがれててていかなるいかなるいかなるものものものとととうかうかうかにににうちうちうち置お置おおきききたるたるたるものものものととと見み見みみえええぬぬぬ癖くせ癖くせくせなむなむなんありありありけるけるける。。。かくかくかくててて止や止ややみみみぬぬぬらむらむらんそのそのそのものものものととと思おも思おもおもひひい出い出いいづづずべきべきべきたよりたよりたよりだにだにだになくなくなくぞぞぞありありありけるけるけるかしかしかしととと思おも思おもおもふふうににに、、、十日とをか十日とをかとおかばかりばかりばかりありありありててて文ふみ文ふみふみありありあり。。。なになになにくれくれくれととといひいひいいててて「「「帳ちやう帳ちやうちょうののの柱はしら柱はしらはしらにににゆひゆひゆいつけつけつけたりたりたりししし小こ小ここ弓ゆみ弓ゆみゆみののの矢や矢やや取と取ととりりりててて」」」とととあれあれあればばば、、、これこれこれぞぞぞありありありけるけるけるかしかしかしととと思おも思おもおもひひいててて解と解とときききおろしおろしおろしててて、、、
  16. 16「「「思おも思おもおもひひい出い出いいづるづるずる時とき時ときときもももあらあらあらじじじとととおもへおもへおもえどもどもどもやややととといふいふいうにににこそこそこそ驚おどろ驚おどろおどろかかかれれれぬるぬるぬる」」」
  17. 17とてとてとてやりやりやりつつつ。。。かくかくかくててて絕た絕たたえええたるたるたるほどほどほど我わ我わわががが家いへ家いへいえはははうちうちうちよりよりより參まゐ參まゐまいりりりまかづるまかづるまかずる道みち道みちみちにににしししてててあれあれあればばば、、、夜よ夜よよなかなかなか曉あかつき曉あかつきあかつきとととうちうちうちしはぶきしはぶきしわぶきてててうちうちうち渡わた渡わたわたるるるももも聞き聞ききかかかじじじととといへいへいえどもどもどもうちうちうちとけとけとけたるたるたるいいいももも寢ね寢ねねられられられずずず。。。夜よ夜よよ長なが長ながなごうううしししてててねぶるねぶるねぶる事こと事ことことなけれなけれなければばば、、、さながらさながらさながらととと見み見みみ聞き聞ききくくく心ここ心ここここちちちははは何なに何なになににににかかかははは似に似ににたるたるたる。。。今いま今いまいまはははいかでいかでいかで見み見みみさささかずかずかずだにだにだにありありありにににしがなしがなしがなととと思おも思おもおもふふうににに「「「昔むかし昔むかしむかしすきすきすきごとごとごとせせせししし人ひと人ひとひとももも今いま今いまいまはははおはせおはせおわせずずずとととかかか」」」などなどなど人ひと人ひとひとにににつきつきつきててて聞きこ聞きこきこえええごつごつごつををを聞き聞ききくくくををを、、、ものしうものしうものしゅうのみのみのみ覺おぼ覺おぼおぼゆれゆれゆればばば、、、日ひ日ひひくれくれくればばばなしうなしうなしゅうのみのみのみ覺おぼ覺おぼおぼゆゆゆ。。。子こ子ここ供ども供どもどもあまたあまたあまたありありありととと聞き聞ききくくく所ところ所ところところもももむげむげむげににに絕た絕たたえええぬぬぬととと聞き聞ききくくくあはれあはれあわれましてましてましていかいかいかばかりばかりばかりととと思おも思おもおもひひいてててとぶらふとぶらふとぶらう。。。九月くぐわつ九月くぐわつくがつばかりばかりばかりののの事こと事ことことなりなりなりけりけりけり。。。あはれあはれあわれなどなどなどけくけくけく書か書かかきききててて、、、
  18. 18「「「吹ふ吹ふふくくく風かぜ風かぜかぜにににつけつけつけてててもももとはとはとはむむんののの通かよ通かよかよひひいしししみちみちみちははは空そら空そらそらににに絕た絕たたゆゆゆともともとも」」」。。。
  19. 19かへりかへりかえり、、、殊こと殊ことことにににこまやかこまやかこまやかににに、、、
  20. 20「「「色いろ色いろいろかはるかはるかわるこゝろこゝろこころととと見み見みみれれればばばつけつけつけてててとふとふとう風かぜ風かぜかぜゆゝしくゆゝしくゆゆしくももも思おも思おもおもはゆるはゆるわゆるかなかなかな」」」
  21. 21とととぞぞぞあるあるある。。。かくかくかくててて常つね常つねつねにににしもしもしもえええいないないななななはてはてはてゞゞで時とき時ときとき々どき々どきどき見み見みみえええててて冬ふゆ冬ふゆふゆにににもももなりなりなりぬぬぬ。。。臥ふ臥ふふししし起お起おおきききははは唯ただ唯ただただ幼をさな幼をさなおさなききき人ひと人ひとひとももももてもてもて遊あそ遊あそあそびびびててて「「「いかにいかにいかにしししててて網あ網ああ代じろ代じろじろののの氷ひ氷ひひにににことことこととはとはとわむむん」」」とととぞぞぞ心こころ心こころこころにににもももあらあらあらでででうちうちうちいはいはいわるゝるゝるる。。。
  22. 22年とし年としとしまたまたまた越こ越ここえええててて春はる春はるはるにににもももなりなりなりぬぬぬ。。。このこのこの頃ころ頃ころころ讀よ讀よよんんんとてとてとてもてもてもてありくありくありく文ふみ文ふみふみ、、、取と取ととりりり忘わす忘わすわすれれれてててんんんなななををを取と取ととりりりにににおこせおこせおこせたりたりたり。。。包つつ包つつつつみみみてててやるやるやる紙かみ紙かみかみににに、、、
  23. 23「「「ふみふみふみおきおきおきしししうらうらうらももも心こころ心こころこころもももあれあれあれたれたれたればばばあとあとあとをををとゞめとゞめとどめぬぬぬ千ち千ちち鳥どり鳥どりどりなりなりなりけりけりけり」」」。。。
  24. 24かへりかへりかえり事ごと事ごとごとをををさかしらさかしらさかしらににに立た立たたちちちかへりかへりかえり、、、
  25. 25「「「心こころ心こころこころあるあるあるとととふみふみふみかへすかへすかえすともともとも濱はま濱はまはま千ち千ちち鳥どり鳥どりどりうらうらうらにににのみのみのみこそこそこそあとあとあとはははとゞめとゞめとどめゝゝめ」」」。。。
  26. 26つかひつかひつかいあれあれあればばば、、、
  27. 27「「「濱はま濱はまはま千ち千ちち鳥どり鳥どりどりあとあとあとのののとまりとまりとまりををを尋たづ尋たづたずぬぬぬとてとてとてゆくゆくゆくへへへももも知し知ししらららぬぬぬうらみうらみうらみをををやややせせせむむん」」」

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

こうして今では、あの人はこの町の小路の女のもとへ、これ見よがしに通うようになった。以前は私のことさえ、気の毒で悔やまれると思っているような時が多かった。言いようもなく心からつらいと思うけれど、どうすることができよう。もう一方の人(時姫)の家にあの人が出入りするのを見ていたが、今度はあの人が「安心して住める所へ」と言って、その人を新しい邸に連れて移らせる。残る私は、いっそう心細い。もう姿も見えにくくなるだろうことなどを、しみじみ悲しく思って、車を寄せる時に、こう言ってやった。

「どうしてこんな嘆きばかりが茂りまさって、私だけがこのような(取り残される)宿になるのでしょう」

返事は、あの人(兼家)が書いてきた。

「あなたを思うという私の言葉を、浮気な人への茂る嘆きに添えて、恨まないでほしい」

などと言い置いて、みな移って行った。思ったとおり、ただ一人で寝起きしながら、暮らしの上で不自由なことはないけれど、ただあの人の心が思いがけないものになったのを、私だけでなく、長年の妻の所にも通いが途絶えたと聞いて、手紙などをやりとりすることがあったので、五月三、四日ごろにこう言ってやった。

「水の底にまで寄るという真菰草のように、あの人はいったいどこの里に根を下ろしているのでしょう(どこに泊まっているのでしょう)」。

返し(時姫から)、

「真菰草を刈るのは淀の沢だというのに、根を下ろしている沢はそちらだと聞きますよ」。

六月になった。月初めから長雨がひどく降る。外を見やって、独り言に、

「わが家の嘆きの木の下葉は、色深く変わってしまった、長雨が降り、物思いにふけっているうちに」

などと言っているうちに、七月になった。いっそ縁が切れたと思えるならば、たまに来るよりはましだろうなどと思い続けていた折に、あの人がやって来た日があった。私が何も言わないので、物足りなさそうである。そばにいた侍女が、先日の下葉の歌のことを話のついでに言い出すと、それを聞いてこう詠む。

「時節でもないのに色づいた紅葉の葉は、時にあって(秋になって)いっそう色が深まるものだ」

と書きつける、書きつける。こうして来続け、通いが途絶えることはないけれど、私の心が解ける夜もないので、ますます気まずくなっていき、来ても私の機嫌が悪いので、倒れそうな山のように立ち帰る時もある。近所に事情を知っている人がいて、あの人が出て行くのに合わせて、こう言った。

「藻塩を焼く煙が空に立ちのぼったのは、くすぶる思いにいぶしたのでしょうか(嫉妬して追い返したのですね)」

などと隣から言ってきた。利口ぶるほどに嫉妬し合って、この頃は特に長く姿を見せない。普通の時はそれほどでもなかったのに、こうなると心も離れて、どうでもいいものとして、うち捨てておいたもののように、目もくれない癖があったのだった。こうして縁も終わってしまうのだろう、あの人を思い出すよすがさえないのだと思っていると、十日ほどして手紙が来た。あれこれと書いて、「帳台の柱に結びつけておいた小弓の矢を取って(よこしてほしい)」とあるので、これがあったのだったと思って、ほどいて下ろして、

「私を思い出す時などあるまいと思っていたのに、「矢」と言われて、はっと驚いたことです」

と言って送った。こうして訪れが途絶えている間、わが家はあの人が宮中へ参内し退出する道筋にあたるので、夜中や明け方に咳払いをして通り過ぎるのも、聞くまいと思うけれど、気を許して眠ることもできない。夜は長く、眠ることもないので、そのまま見聞きする気持ちは何にたとえられよう。今はどうにかして、その姿を見聞きしないでいたいものだと思っていると、「昔、恋のあった人も、今はお通いにならないとか」などと、侍女たちが人を介して聞こえよがしに言うのを聞くにつけても、不愉快にばかり思われるので、日が暮れると悲しくばかり思われる。子どもが大勢いると聞く所(時姫)も、すっかり通いが途絶えたと聞き、ましてどれほどつらいだろうと思って見舞う。九月ごろのことであった。しみじみとした様子で書いて、

「吹く風につけて、お見舞い申しましょう。蜘蛛の糸のように通っていたあの人の道は、空で絶えてしまっても」。

返事は、たいそう心をこめて、

「心変わりをしたあの人だと思うので、その風につけてのお見舞いも、恐ろしいほどに思われることです」

とあった。こうしてあの人は、ずっと来ないというわけでもなく、時々姿を見せて、冬にもなった。寝ても起きても、ただ幼い子を相手に遊んで、「どうしたら網代の氷魚に尋ねられよう(なぜ来ないのかと)」と、思わず口ずさんでしまう。

年がまた改まって、春になった。この頃、あの人が読もうとして持ち歩いていた手紙を置き忘れて、それを取りに使いをよこした。包んで渡す紙に、

「踏んで置いた浦も、私の心も荒れてしまったので、跡もとどめない千鳥(のようなあなた)でした」。

返事を、利口ぶってすぐに返してきた。

「心があるからこそ、あなたが文を返してきても、浜千鳥はその浦(あなたの所)にだけ跡をとどめるのだよ」。

使いが待っていたので、

「浜千鳥(あなた)の跡の泊まり先を尋ねようとしても、行方も知れない浦見(恨み)をすることでしょう」

意訳

〔取り残される妻たち〕町の小路の女への通いは公然のものとなった。兼家は時姫を新しい邸へ移し、作者だけが古い家に残される。兼家は「思ふてふ我が言の葉」をあだ人への嘆きに添えて恨むなと返すが、その言葉には何の重みもない。やがて時姫のもとへも足が遠のいたと聞いた作者は、ライバルであるはずの時姫と歌を交わし、ともに兼家の行方を問う。

〔すれ違う夫婦〕たまに兼家が訪れても、作者は口をきかず、機嫌の悪さに兼家は早々に帰ってしまう。隣人にまで「ふすべ(嫉妬)」をからかわれる始末である。夫が自宅の前を素通りして参内する咳払いを、作者は眠れない夜にじっと聞いている。小弓の矢、置き忘れた手紙と、兼家からの用件はいつも物のことばかりで、作者はそれを口実の手紙に、皮肉をこめた歌を返すしかない。

語釈・文法注

まこも草
真菰。水辺に生えるイネ科の草。根を深く張ることから、男が女のもとに居ついて泊まることのたとえとなる。
たち山
底本の注記に「ひたぶる」「たふるゝ」の異文がある。倒れかかる山のように、そそくさと立ち帰るさまと解される。通行本文は「たふるゝに立山と」。
ふすべ
燻べ。いぶすこと。嫉妬すること(ふすぶ)に掛ける。
さゝがに
蜘蛛の古名。蜘蛛の糸が「通ひ路」の縁語となる。
氷魚
鮎の稚魚。秋から冬に、宇治川などで網代を仕掛けてとった。「ひを」に「日を(日々の訪れ)」を掛ける。

文法

「わざと色に出でにたり」
「わざと」は、これ見よがしに。「色に出づ」は、表立つ。町の小路の女への通いが、隠しだてのないものになった。
「いふ方なうころ憂し」
底本どおり。注記に「ころ」は「心」の誤りかとある。言いようもなく心からつらい。
「ゐてわたす」
「率て渡す」。時姫を連れて新しい邸へ移す。
「見えがたかべい事」
「見えがたかるべき事」の撥音便「見えがたかんべい」の撥音を表記しない形。
「大ひたの世のうちあはぬこと」
底本どおり。暮らし向きの不自由。通行本文は「おほかたの世のうちあはぬことはなければ」。
「書きつくる書きつくる」
底本の注記に「五字衍歟」とあり、重複と見られる。
「かくころあかくがれて」
底本どおりで意味がとりにくい。注記に「ころ」は「心」かとあり、「かく心あくがれて」(こう心が離れて)と解される。
「見さかず」
底本の注記に「き」の異文がある。見聞きしない、の意に解する。
「あはれなどけく書きて」
底本の注記に「し」の脱字かとある。しみじみとした様子で書いて。
「いかにして網代の氷魚にこととはむ」
『拾遺和歌集』の「いかでなほ網代の氷魚にこととはむ何によりてか我をとはぬと」(修理)の上の句を口ずさむ。
「讀んとて」「取り忘れてんな」
底本どおり。注記に「む」「を」かとある。読もうとして、取り忘れてしまったのを、と解する。

和歌

などかゝる歎きはしげさまさりつゝ人のみかゝる宿となるらむ

詠者
道綱母(作者)
状況
兼家が時姫を新しい邸へ移すとき、車を寄せる兼家に言いやった歌。

修辞

掛詞
「歎き」に「木」を響かせ、「しげさ」「宿(宿木)」と木の縁語でつなぐ。「かゝる」に「掛かる」と「斯かる」を掛ける。

底にさへよるといふなるまこも草いかなるさとに根をとゞむらむ

詠者
道綱母(作者)
状況
訪れの途絶えた時姫に、兼家の行方を尋ねた歌。

修辞

掛詞
「よる」に「寄る」と「夜」、「根」に「寝」を掛け、兼家がどこで夜を過ごしているかを問う。

我が宿のなげきのしたは色ふかくうつろひにけりながめふるまに

詠者
道綱母(作者)
状況
六月の長雨のころの独り言。

修辞

掛詞
「なげき」に「木」、「ながめ」に「長雨」と「眺め(物思い)」、「ふる」に「降る」と「経る」を掛ける。小野小町の「花の色は」の歌をふまえる。

藻鹽やく烟の空に立ちぬるはふすべやしつるくゆる思ひに

詠者
隣人
状況
作者の機嫌が悪く、兼家がすぐ帰ってしまったのを見て、隣の人がからかった歌。

修辞

掛詞・縁語
「ふすべ」に燻べると嫉妬、「くゆる」に燻ると悔ゆる、「思ひ」に「火」を掛け、藻塩焼く煙の縁語でまとめる。

思ひ出づる時もあらじとおもへどもやといふにこそ驚かれぬる

詠者
道綱母(作者)
状況
兼家が帳台の柱に結びつけておいた小弓の矢を取りによこしたとき、矢に添えた歌。

修辞

掛詞
「や」に「矢」と、呼びかけの「や」を掛ける。

吹く風につけてもとはむさゝがにの通ひしみちは空に絕ゆとも

詠者
道綱母(作者)
状況
兼家の通いが途絶えた時姫を見舞った歌。

修辞

縁語
「さゝがに(蜘蛛)」「通ひ」「絶ゆ」は蜘蛛の糸の縁語。

ふみおきしうらも心もあれたればあとをとゞめぬ千鳥なりけり

詠者
道綱母(作者)
状況
兼家が置き忘れた手紙を取りによこしたとき、包み紙に書いた歌。

修辞

掛詞・縁語
「ふみ」に「踏み」と「文」、「うら」に「浦」と「心(うら)」を掛ける。「浦」「跡」「千鳥」は縁語。第1章の兼家の「濱千鳥」の歌を受けている。

解説

天暦十年(956)ごろ、兼家は町の小路の女のもとへ通いつめるようになった。この女の素性は日記の中で、のちに「そんわう(孫王)のひがみたりし皇子の落としだね」と書かれる(第5章)。作者は、身分の低い女に夫を奪われた屈辱を、隠すことなく書きとめている。

この時期の作者の歌は、「なげき」「ながめ」「ふる」など、掛詞を重ねた技巧的なものが多い。それは、夫と直接ことばを交わせない妻にとって、歌が唯一の抗議の手段だったことを示している。一方で、兼家の歌はどこか軽く、作者の恨みを受け流してしまう。

注目されるのは、作者が時姫とのあいだで歌を交わしていることである。同じ夫をもつ二人の妻は本来ライバルだが、兼家の通いが途絶えた時には、互いに慰め合う関係にもなる。作者の筆は、時姫に対しても一方的な敵意だけでなく、同じ立場の女性への共感をのぞかせている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(蜻蛉日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、29–32頁(コマ17–19)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日